井上企画の木材ペレット・木質フィラメント
木材の質感と色合いが活きる3Dプリンター用木質素材
井上企画は、長年培ってきた木材加工のノウハウを活かし、環境負荷を抑えた3Dプリンター用材料を開発・提供しています。
家具製造で発生する木材端材を回収し、ペレットやフィラメントとして再資源化。木材本来の質感や経年による色の変化を活かせる点が特長で、従来の木工技術では難しい複雑な形状の造形にも対応します。
井上企画の木質3Dプリンター材料は、ものづくりに新たな可能性をもたらします。
目次
木材ペレット・木質フィラメントとは?
木材加工から素材開発へと至った経緯
井上企画は、もともと製材業から事業をスタートしました。海外から木材を輸入し家具用の材料を販売する一方で、15〜20年前からは自社での家具製造も手がけ、特にテーブル天板の製作に注力してきました。
その製造過程では「耳材」と呼ばれる端材が多く発生し、この資源を無駄にせず活用することが長年の課題でした。小物の製作やバイオマス発電などにも取り組みましたが、消費量や採算面で実用化には至らず、最終的に「材料屋」としての原点に立ち返ることを決断しました。
3Dプリンター材料への着目
このような経緯から、木材を3Dプリンターの材料として再利用できないかという発想に至りました。海外でオレンジの皮を使った3Dプリンター材料の商品化を知り、木材でも応用できるのではないかと考えたのがきっかけです。
3Dプリンター業界の関係者へのヒアリングを重ねて可能性を検証し、「木材を材料に戻す」という視点で素材開発事業を本格的に開始しました。
製品の形態
井上企画では、3Dプリンター用の材料として、主に2種類の形態の素材を製造しています。ひとつは、射出成形にも使用される粒状の「ペレット」、もうひとつは、家庭用の小型3Dプリンターで広く利用されている糸状の「フィラメント」です。
いずれの素材にも着色剤を使用しておらず、木材本来の色味がそのまま製品の色合いとして表れます。使用する木材の種類によって色調が大きく異なるため、自然な風合いを活かした表現が可能です。人工的な着色を行っていないため、環境にも配慮された素材となっています。
木材ペレット | 家具製造時に出る端材を粉砕した木粉とプラスチックを混錬し、粒子状に混錬成型したものです。ペレットの種類は、木材の種類と木粉の粒子サイズに分けて製造しています。 |
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木質フィラメント | ペレットにプラスチック材(リサイクルPLAやバージン樹脂)を配合して製造される糸状の材料です。主に家庭用や小型の3Dプリンター向けに設計されており、小物製作など幅広い用途に対応可能です。 |
3Dプリンターによる実造形と家具産地技術との融合
井上企画では、ペレット式の大型3Dプリンターを活用した製作事例を多数展開しています。
3Dプリンターの導入課題としては、単に3Dプリント技術を導入することではなく、家具産地・大川で培われた既存の木工技術とどのように融合させ、新たな製品価値を生み出すかという点にありました。
例えば、同じ家具産地でも岐阜県・飛騨高山は「曲げ木」技術に長けていますが、大川ではそうした加工技術の発展は限られてきました。そこで井上企画は、3Dプリントを通じて地域の技術的課題を補完し、製造の可能性を広げることに取り組んでいます。
木材とデジタル成形技術の掛け合わせにより、家具製造における新たな応用と付加価値の創出を目指しています。
木材ペレット・木質フィラメントの特長
3Dプリンター向け広葉樹ペレット
井上企画では、ペレット式3Dプリンターに対応した広葉樹由来のペレット材料・marui pellet(マルイ ペレット)を製造・販売しています。一般に「ペレット」とは、射出成形などにも使用される粒状の樹脂材料を指しますが、井上企画ではこれを直接3Dプリンターで使用可能な仕様で提供しています。
ペレットは、使用する木材の樹種と木粉の粒子サイズ(粒度)によって種類を分類しており、用途や出力条件に応じたカスタマイズも可能です。
樹種ラインナップ:
ホワイトオーク、チェリー、ウォールナット
※間伐材や針葉樹など、その他樹種についても対応可能です。
リサイクルPLA×広葉樹の木質フィラメント
marui filament(マルイ フィラメント)は、リサイクルPLA×広葉樹の木質フィラメントです。PLA(ポリ乳酸:トウモロコシやサトウキビなどの植物由来のデンプンを原料としたバイオプラスチック)にもリサイクル材を使用し、製品全体のリサイクル率を95%まで高めています。
木粉含有率は20%で、試験を繰り返し、造形時の詰まりやフィラメントの安定具合などを考慮した含有率を決定しています。リサイクルPLA単体では安定した製造が難しい場合でも、木材を混ぜることで製造プロセスを安定させる補助的な役割も果たしています。
リサイクルPLA+
広葉樹木粉
木材の特徴を活かしたエコ素材の
木質フィラメント
木質フィラメントの特性と海外製品との違い
日本企業が「木質」や「木材入り」と表記する場合、多くは実際に木材が配合された製品を指します。一方で、海外製品の中には「木質フィラメント」と書かれていても、木材の質感を模しただけで実際には木材を含まないものもあり、これは実際には木材風の見た目を再現した製品です。
井上企画のフィラメントは、本物の木材を配合しているため、着色剤を使わず自然な色合いが出せるほか、時間とともに変化する木材特有の風合いも再現できます。また、社内で多数の造形テストを重ねており、安定した造形が可能なフィラメントに仕上がっています。
広葉樹を活用した材料
井上企画の木材ペレットと木質フィラメントは、家具材としてよく使われる硬質な広葉樹の端材を原料としています。広葉樹は実をつける種類が多く、繊維が緻密で硬いことが特徴です。また、針葉樹とは異なる細胞構造を持ち、はっきりとした木目や多彩な色合いを活かせる素材として重宝されています。
現在はホワイトオーク、チェリー、ウォールナットの3種類を展開し、それぞれの木材本来の色味をできるだけ再現するため、着色せず自然な風合いを損なわないように開発を行っています。
木材特有の経年変化を再現
井上企画の木材ペレット・木質フィラメントは、本物の木材と同様に時間の経過による経年変化が現れる点が大きな特徴です。例えば、チェリー材は約1か月で赤みが増し、ウォールナット材は明るい色合いに、ホワイトオーク材は黄色みを帯びるといった変化が確認できます。これはプラスチックだけでは再現できない、木材ならではの自然な特性です。今後は、香りや木目など木材固有の魅力も活かせるよう、さらに研究を進める予定です。
射出成型用の木材ペレット
井上企画では、射出成形用の木材ペレットの開発も行っています。使用している木粉の含有率は30%で、着色剤は使用していません。そのため、木材本来の色味がそのまま製品の色合いとして表れます。
使用する木材の種類を変えることで、自然な色調のバリエーションを表現することが可能です。人工的な着色を行わないことで、環境にも配慮した素材となっています。
射出成型用広葉樹ペレット
(バージン)
左から、
ホワイトオーク、チェリー、
ウォールナット
射出成型用広葉樹ペレット
(再生プラスチック)
左から、
ホワイトオーク、ウォールナット、
チェリー
再生プラスチックを使用したものについては、リサイクル率は95%以上になり、再生プラスチックの白色を反映し、バージンプラスチックを使用したペレットよりも明るく白を混ぜたような色になるのが特徴です。
井上企画の独自技術
木材の専門性に基づく素材開発
井上企画の最大の強みは、木材屋としての深い知識と経験です。プラスチックに木材を混ぜることで、プラスチックでありながらも、より木材に近づけることをコンセプトに材料開発を進めています。着色剤を使用せず、木材の種類や木粉の色合いで豊かな色彩を表現できるのが特長です。
高度な技術力
本物の木材を安定的にフィラメントへ配合し、3Dプリンターで出力可能にするためには、0.4mm以下の微細な木粉の粒度を正確に制御する技術や、詰まりなく糸状に加工し安定出力を実現する高度な技術が求められます。こうしたハードルをクリアし、高品質な木質フィラメントを安定供給できる企業は国内ではごくわずかですが、井上企画はこれらの技術を確立し、安定した供給体制を実現しています。
一貫生産体制による品質管理
井上企画では、木材の粉砕からプラスチックとの混練、さらに3Dプリンターでの造形までを自社で一貫して行っています。これは業界でも珍しく、製品開発の大きな強みとなっています。
この体制により、問題が発生した際に「材料の品質なのか」「造形工程なのか」を切り分けやすく、両方の視点から原因を検証できます。その結果、材料と造形技術の両面で継続的な改良が可能となり、高品質な製品を安定して提供できる体制を実現しています。
造形サイズに対応した設備
井上企画では、木材ペレット・木質フィラメントを使用した試作造形や量産のご依頼を承っています。
- 家具のような強度がいるもの:サイズが大きいもの
→ペレット式3Dプリンター - 細かな造形や人が座るような強度が不要なもの
→フィラメント式3Dプリンター
どちらも試作、量産の依頼を受けております。
木粉の自然な色味と質感を活かした製品づくりをご検討の方は、お気軽にお問い合わせください。
・ペレット熱溶解積層方式3Dプリンター「茶室」
造形サイズ(出力可能サイズ)
X2500mm × Y1500mm × Z1500mm
ノズル径:3mm〜8mm
・粉砕装置
木粉を端材から小径の丸太までを投入でき、微粉砕する設備
・ペレット製造装置
木粉などの素材と樹脂を混合し、材料を製造する設備
・フィラメント巻取製造装置
・フィラメント式3Dプリンター「senju」
造形最大サイズ X380mm×Y350mm×Z400mm
主な加工事例・用途例
3Dプリンターと木工技術の融合
3Dプリンターで椅子らしい椅子を作りたい。という思いから始まった、モリタインテリア工業株式会社との共同プロジェクトでは、「コロノチェア」が誕生しました。3Dプリンターによる新しい素材を用い、生活に馴染むデザインの中で3Dプリントと木工の魅力を組み合わせた製品です。
椅子の製造工程で発生する加工屑を3Dプリント用の材料として再利用し、製品内で素材の循環を実現しています。通常の3Dプリント製椅子と比べて価格も大幅に抑えられており、使用する木材の歩留まり100%を目指す取り組みとして注目されています。
環境配慮型ドラム開発プロジェクト
環境に配慮したドラム開発プロジェクトでは、ドラムの胴(シェル)に3Dプリント技術を採用しています。
パール楽器製造株式会社との共同プロジェクトで、環境問題への取り組みを進める中で、3Dプリンターを使った新しい楽器づくりの可能性を追求するために始まりました。
木育への取り組み
子供たちが本物の素材に触れる機会を提供し、豊かな緑を次世代に残すことを目指す、ひのきを使った木のおもちゃブランド「IKONIH(アイコニー)」を展開しています。
山林管理から伐採、加工、販売、植林までを一貫して自社で行い、安心・安全なおもちゃを提供しています。
多種多様な造形実績
木材以外の紙粉や竹炭、街路樹、石膏ボード、植物剪定枝などを利用したペレット造形や、テーブル、椅子、展示物、など多岐にわたる実績があります。また、デパートの什器や万博パビリオンへの納品実績もあります。
ペレット造形物
プラスレイテンニ:HIRA
装飾(展示会)
ペレット式造形物
石膏ボード加工屑 × PP × ゴム
(株)エレガントウッド様
PC、HIPS造形
FSC認証材
クヌギペレット造形
植物剪定枝の活用
(ユーカリ、アカシア、メラレウカ(ティーツリー)+PP)
企画開発:TOMORROW様
素材提供・販売:SNATA ANA GARDEN様
井上企画について
事業内容
井上企画は、木材の販売・加工、家具や什器の製品企画、OEM対応のコントラクト事業とともに、端材やチップを活用した循環型素材開発(木質ペレットや3Dプリンター用フィラメント等)を行うなど、木材資源を最大限に活かしながら文脈に応じた素材と製品を提供する総合木材企業です。
沿革
井上企画は、大正元年創業の製材所を母体とし、福岡県大川市を拠点に木材専門の事業を展開してきました。家具材料の販売や自社での製造を経て、2021年頃には大型3Dプリンターを導入し、従来の木材加工技術と組み合わせた素材開発事業を開始するなど、木材の新たな可能性を追求する取り組みを進めています。
会社概要
会社名 | 株式会社井上企画 |
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所在地 | 〒831-0005 福岡県大川市大字向島1998番4 |
設立 | 1912年 |
URL | https://www.inouetimber.co.jp/ |