計測機器の温湿度管理の方法とは?熱膨張による誤差を防ぐ基礎知識

測定精度に影響を与える要因はさまざまですが、中でも見落とされがちなのが測定環境の温湿度です。温度が数℃変化するだけで、熱膨張によってμm単位の誤差が発生し、測定結果の信頼性が損なわれる可能性があります。

本記事では、計測機器の温湿度管理がなぜ重要なのか、どのような基準で管理すべきか、そして実際の測定室・恒温室をどのように構築すればよいのかについて、詳しく解説します。

計測機器における温湿度管理の重要性

製造業において、計測機器を使用した正確な測定は品質管理の基盤です。三次元測定機やノギス、マイクロメータなどの計測機器は、温度や湿度の変化によって測定精度が大きく左右されます。

特に温度変化は、測定機器本体と測定対象物の両方に熱膨張を引き起こし、測定結果に誤差を生じさせます。わずか数℃の温度変化であっても、高精度な測定ではμm単位の誤差につながることがあります。

このような誤差を防ぎ、信頼性の高い測定データを得るためには、測定環境の温湿度を適切に管理することが不可欠です。

温湿度管理が測定精度に与える影響

温度や湿度が変化すると、原材料や製品の機械的・物理的・化学的物性が変化します。金属をはじめとする多くの物質は、温度が上昇すると膨張し、下降すると収縮する性質を持っています。

この熱膨張は、計測機器の構成部品と測定対象物の両方で発生します。測定機器のスケールやフレームが膨張すれば、測定基準そのものがずれてしまいます。同様に、測定対象物が膨張・収縮すれば、本来の寸法と異なる値が測定されます。

また、湿度が高すぎると結露やサビの発生につながり、低すぎると静電気が発生しやすくなります。精密機器では湿度40~50%の範囲を維持することが推奨されています。

測定の再現性と品質保証

再現性とは、同じ環境条件であれば常に同じ結果が得られることを指します。再現性の高い測定は信頼性が高く、測定結果に基づいた判断や分析も正確になります。

温度や湿度が変化すると、再現性のあるデータが得られなくなります。異なる日時に同じ測定を行っても、環境条件が異なれば測定結果にばらつきが生じます。

製品の品質を保証するためには、材料の調達から加工、検品、出荷まで各工程で同一の基準で測定を行う必要があります。そのためには、測定環境の温湿度を一定に保つことが前提条件となります。

ISO9001とトレーサビリティの要求事項

製造業の多くはISO9001の品質マネジメントシステムに準拠しています。ISO9001の7.1.5.2項「測定のトレーサビリティ」では、測定機器について以下の対応が求められています。

定期的な校正 国際計量標準または国家計量標準にトレーサブルな計量標準に照らして校正・検証を行う
識別 校正の状態を明確にするための識別を行う
保護 校正の状態や測定結果を無効にする調整・損傷・劣化から保護する

トレーサビリティとは、測定機器がどのような頻度で点検・校正されたか、その記録が追跡可能な状態になっていることを意味します。測定環境の温湿度管理も、このトレーサビリティを確保するための重要な要素です。

校正証明書の取得だけでなく、測定時の環境条件を記録・管理することで、測定結果の信頼性を客観的に証明できるようになります。

測定環境の標準状態と基準値

JIS Z 8703による温度・湿度の規定

計測機器を正しく使用するためには、測定環境の標準状態を理解することが重要です。日本ではJIS Z 8703「試験場所の標準状態」が基準として広く用いられています。

この規格では、標準温度として20℃、23℃、25℃の3種類が定められています。標準湿度は50%または65%、気圧は86kPaから106kPaの範囲と規定されています。

JIS Z 8703は1983年の改正で国際規格(ISO 554、IEC)に準拠した内容となりました。旧規格では温度20℃・湿度65%が一般的でしたが、新規格では23℃・50%が標準となっています。ただし、繊維業界など一部の分野では旧規格の条件が引き続き使用されています。

測定作業においては、自社の業界や製品特性に応じた温湿度条件を選択することが大切です。

標準状態の許容差と級別

JIS Z 8703では、温度と湿度それぞれに許容差の等級が設けられています。求められる精度に応じて適切な級を選ぶことが、正確な測定につながります。

温度の許容差は5段階に分かれています。最も厳しい0.5級は±0.5℃、一般的な作業に用いられる2級は±2℃です。5級は±5℃、10級は±10℃、そして15級は±15℃で「常温」(5~35℃)として扱われます。
湿度の許容差は4段階です。最も厳しい2級は±2%、5級は±5%、10級は±10%、20級は±20%で「常湿」(45~85%)に相当します。

湿度管理は温度管理よりも技術的に難しいとされています。湿度センサの精度は高くても±1%程度であり、±2%の管理が実質的な最高精度となります。精密測定室では、温度だけでなく湿度の管理等級も事前に検討しておくとよいでしょう。

長さ測定における標準温度

長さ測定の分野では、標準温度として20℃が国際的に採用されています。この基準温度は1931年に国際度量衡委員会(CIPM)で承認され、その後ISOの第1号規格(ISO 1)として採用されました。

20℃が選ばれた理由として、作業場や検査室で実用的な温度であること、および摂氏と華氏の両方で整数値(20℃=68°F)となり計算が容易な点が挙げられます。

金属は温度によって膨張・収縮するため、測定基準となる温度を統一しておかないと、同じ寸法でも測定値が異なってしまいます。ブロックゲージやマイクロメータなどの精密測定器は、20℃を基準として校正されています。

実際の測定では、測定器と測定対象物の両方を20℃に近づけることが求められます。測定前には1時間以上の温度慣らしを行い、機器と対象物の温度を安定させることが推奨されます。

温度変化が測定結果に与える影響

熱膨張と線膨張係数の基礎知識

物体は温度が上がると膨張し、下がると収縮します。この現象を熱膨張といい、寸法測定では避けて通れない要素です。

長さ方向の膨張を表す指標が「線膨張係数」です。これは温度が1℃変化したときに、元の長さに対してどれだけ伸縮するかを示す値で、単位は「/℃」または「/K」で表されます。線膨張係数は材質によって異なり、温度によらずほぼ一定とみなせます。

寸法の変化量は「線膨張係数×元の長さ×温度変化量」で計算できます。たとえば線膨張係数が11.7×10⁻⁶/℃の鉄(長さ1m)が10℃上昇すると、約117μm(0.117mm)伸びる計算になります。μm単位の精度が求められる精密測定では、この変化量は決して無視できません。

測定器別の温度影響

測定器の種類によって、温度変化の影響は異なります。ここでは代表的な計測機器について整理します。
三次元測定機は、温度の影響を最も受けやすい精密機器のひとつです。機械構造にはガラス製のスケールや石材、金属部品が組み合わされており、それぞれの熱膨張率が異なります。多くの三次元測定機は20℃±2℃の環境での使用が推奨されており、温度補正機能を備えた機種もあります。

ノギスやマイクロメータなどのハンドツールでは、測定者の手の温度による影響に注意が必要です。人の体温(約36℃)で測定器や測定物を持ち続けると、0.01mm単位の測定に影響が出ることがあります。マイクロメータには防熱板(フレームの樹脂部分)が設けられており、ここを持つことで熱の影響を抑えられます。

ブロックゲージやステップゲージなどの基準器も金属製のため熱膨張します。スチール製基準器の熱膨張係数は約10〜11×10⁻⁶/℃であり、1℃の温度誤差が1mあたり10〜11μmの測定誤差として現れます。

測定物の温度慣らし

正確な測定を行うためには、測定器だけでなく測定対象物も室温に慣らしておく必要があります。この作業を「温度慣らし」または「温度ならし」と呼びます。

加工直後の製品は切削熱で温まっている場合があり、そのまま測定すると実際の寸法よりも大きな値が出てしまいます。一般的には測定室に1時間以上置いて温度を安定させることが推奨されています。大型の測定物や肉厚のある部品では、さらに長い時間(数時間)が必要になることもあります。

温度慣らしの方法は製品の形状によっても変わります。中空の部品より中実の部品のほうが、温度が均一になるまでに時間がかかる傾向があります。急ぎの場合は、加工液や冷却液に測定物を浸して温度差を縮める方法も用いられます。

測定室内でも場所によって温度差が生じることがあります。測定機と測定物、基準器を同じ場所に置き、同じ温度環境に慣らしておくことが大切です。

測定室・恒温室の環境構築方法

全体空調による温湿度管理

測定室の温湿度管理で最も一般的な方法が、全体空調(セントラル方式)による管理です。建物や部屋全体を対象に、一定の温度・湿度を維持する方式です。

全体空調のメリットは、空間全体を均一な環境に保てる点にあります。測定室内のどこに測定機を設置しても、同じ環境条件で測定できるという安心感があります。また、作業者の快適性も同時に確保できます。

一方で、いくつかの課題もあります。導入には大規模な工事が必要となり、建設費や設置工期がかかります。また、外気の影響を受けやすく、季節や天候によって室内温度が変動する場合もあります。さらに、測定機周辺だけを高精度に管理したい場合でも、空間全体を空調するためエネルギー効率が下がることがあります。

全体空調で高精度な温度管理を行うには、外気導入率の調整や、季節ごとのダンパー設定の見直しなどの運用面での工夫が求められます。

局所精密空調による効率的な管理

全体空調に代わる方法として注目されているのが、局所精密空調です。これは、測定機を設置する対象空間だけを限定して空調する方式です。

局所精密空調の代表的な構成は、クリーンブースと精密空調機の組み合わせです。測定機をクリーンブースで囲い、精密空調機をダクトで接続することで、必要な空間だけを高精度に管理できます。温度制御精度±0.1℃、湿度制御精度±1.0%といった高い精度を実現できる製品もあります。

この方式のメリットは、導入コストと運用コストの両面で全体空調より有利な点です。大がかりな工事が不要で、既存の建屋にも後付けで設置できます。また、対象空間を限定するため、エネルギー消費も抑えられます。

クリーンブースには、ビニールカーテン式と断熱パネル式があります。高精度な温湿度管理が必要な場合は、外部からの熱の影響を受けにくい断熱パネル式が適しています。

温湿度のモニタリングと記録管理

測定環境の品質を維持するためには、温湿度の継続的なモニタリングと記録が欠かせません。ISO9001やJCSSなどの品質マネジメントシステムでも、測定環境の管理と記録が求められています。

モニタリングに使用される機器の代表がデータロガー(温湿度記録計)です。一定の間隔で自動的に温度と湿度を測定し、データを記録します。記録されたデータはパソコンに転送でき、グラフ化や傾向分析が可能です。最近では、無線通信やクラウド連携に対応した製品も増えています。

温湿度のモニタリングで注意したいポイントは、測定室内の複数箇所でデータを取得することです。空調を20℃に設定していても、室内の場所によって温度差が生じることがあります。サーキュレータで空気を循環させる対策も有効ですが、測定機に直接風が当たらないよう配慮が必要です。

記録したデータは、測定結果の信頼性を裏付ける証拠資料として保管します。異常が発生した場合の原因追究や、空調設備の定期メンテナンスの判断材料としても活用できます。

計測機器の温湿度管理 関連製品・サービスのご紹介

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まとめ

  • 計測機器の測定精度は温度・湿度の変化に大きく左右され、わずか数℃の温度変化でもμm単位の誤差につながるため、測定環境の適切な管理が不可欠
  • 測定の再現性と品質保証を確保するためには、ISO9001のトレーサビリティ要求に対応し、測定時の環境条件を記録・管理することが重要
  • 測定室の温湿度管理には全体空調と局所精密空調があり、高精度かつ効率的な管理にはクリーンブースと精密空調機を組み合わせた局所精密空調が有効