工場における粉塵対策とは?基本原則から法規制・運用まで解説
目次
工場における粉塵対策の必要性
工場では、切削・研磨・溶接・破砕などさまざまな作業工程で粉塵が発生します。粉塵とは、空気中に浮遊する微細な粒子状物質の総称です。
適切な対策を講じなければ、従業員の健康被害や製品の品質低下、設備故障など、工場運営に深刻な影響を及ぼします。
従業員の健康被害を防ぐ
粉塵を長期間吸い込むと「じん肺」を発症するリスクがあります。じん肺とは、肺に粉塵が蓄積して繊維化が進み、呼吸機能が低下する疾病です。
現在も根本的な治療法がなく、予防が最も重要な対処法となります。症状が進行すると、肺結核や気管支炎などの合併症を引き起こすこともあります。
また、有機粉塵によるアレルギー反応や職業性喘息も報告されています。
製品品質の維持
粉塵が製品に付着・混入すると、外観や機能に悪影響を及ぼします。食品工場や医薬品工場では異物混入による衛生問題、精密機器の製造現場では製品の欠陥につながります。
不良品の発生率上昇や返品・クレーム対応など、事後的なコスト増加も無視できません。
生産効率の確保
粉塵が機械設備に堆積すると、摩耗の進行や動作不良を引き起こします。特に精密機械では、制御系統の誤作動や回転部品の劣化が顕著です。
設備故障による生産ラインの停止は、メンテナンスコストの増加だけでなく、機会損失にもつながります。
粉塵対策の3つの基本原則
粉塵対策は、「発生させない」「拡散させない」「吸入させない」という3つの原則に基づいて実施します。これらを単独ではなく組み合わせて行うことが重要です。
粉塵を発生させない対策
最も根本的な対策は、粉塵の発生そのものを抑えることです。具体的には以下の方法があります。
| 湿式化 | 切削・研磨時に水や油を注ぎ、粉塵の飛散を抑制する |
|---|---|
| 原材料の変更 | 粉塵が発生しにくい素材に切り替える |
| 工程の自動化・遠隔化 | 作業者が発生源から離れて作業できる環境を整備する |
| 発生源の密閉 | 粉塵が発生する機械にカバーやシールドを取り付ける |
粉塵の拡散を防ぐ対策
発生した粉塵が作業エリア全体に広がることを防ぐ対策です。代表的な方法として、局所排気装置や集塵機の設置があります。
発生源のすぐ近くにフードを設置し、粉塵を吸引・捕集することで拡散を防ぎます。また、ビニールブースや間仕切りで作業場を区切り、他のエリアへの飛散を防止する方法も有効です。
定期的な清掃により、床や設備に堆積した粉塵の二次飛散を防ぐことも大切です。
粉塵の吸入を防止する対策
発生・拡散対策を講じても、粉塵をゼロにすることは困難です。作業者が粉塵を吸い込まないための対策も必要になります。
防塵マスクの着用が基本的な対策です。国家検定に合格した製品を使用し、顔との間に隙間がないよう正しく装着することが重要です。粉塵の種類や濃度に応じて、使い捨て式またはフィルター取り替え式を選択します。
このほか、保護メガネやゴーグルの着用により、目への粉塵付着を防ぐことも推奨されます。
集塵機による粉塵対策
集塵機は、工場における粉塵対策の中核を担う設備です。粉塵の種類や発生量に応じた適切な機種を選定し、正しく運用することで、作業環境を大幅に改善できます。
集塵機の役割と仕組み
集塵機は、粉塵を含んだ空気を吸引し、粉塵と清浄な空気を分離する装置です。局所排気装置の除じん装置として活用され、発生源の近くで粉塵を捕集します。
基本的な構成要素は、フード(吸込み口)、ダクト(配管)、集塵本体(分離装置)、ファン(送風機)です。フードで吸い込んだ粉塵混じりの空気を、集塵本体で粉塵と清浄空気に分離し、清浄空気のみを排出します。
集塵機の主な種類
集塵機は、粉塵を分離する方式によっていくつかの種類に分かれます。
| 重力集塵機 |
|
|---|---|
| 慣性集塵機 |
|
| 遠心力(サイクロン) 集塵機 |
|
| ろ過集塵機 |
|
| 湿式(スクラバー) 集塵機 |
|
| 電気集塵機 |
|
ろ過集塵機は汎用性が高く、産業用集塵機として広く普及しています。重力集塵機や遠心力(サイクロン)集塵機は、ろ過集塵機などの前段処理として組み合わせて使用されることが多いです。
集塵機の選定ポイント
集塵機を選定する際は、以下の点を確認します。
粉塵の性状(種類・粒径・発生量)、作業内容、設置スペースを把握したうえで、適切な風量と静圧を算出します。粉じん障害防止規則では、フードの型式に応じた制御風速が定められており、この基準をもとに必要風量を計算します。
フードの形状・設置位置も重要です。発生源をできるだけ囲い込む形状にし、粉塵の飛散方向を考慮して設置することで、集塵効率が向上します。
集塵機以外の粉塵対策手法
集塵機の導入だけでなく、さまざまな手法を組み合わせることで、より効果的な粉塵対策が実現します。ここでは、代表的な対策手法を紹介します。
湿式加工による飛散抑制
湿式加工とは、切削や研磨などの作業時に水や油を噴射し、粉塵の飛散を防ぐ方法です。水分によって粉塵の重量が増し、空気中に浮遊しにくくなります。
湿式ドリルや湿式グラインダーなどの機器を使用すれば、乾式加工と比較して粉塵の発生を大幅に抑制できます。また、床や作業エリアへの散水、粉塵防止剤のミスト噴霧も有効な対策です。
集塵機と比べて導入コストが低く、比較的容易に実施できる点がメリットです。
ビニールブース・間仕切りによるゾーニング
粉塵が発生する作業エリアをビニールブースや間仕切りで区切ることで、他のエリアへの飛散を防止できます。この方法はゾーニング(エリア分け)と呼ばれます。
透明なビニールシートを使えば、作業状況を確認しながら粉塵を遮断できます。設置・撤去が容易で、レイアウト変更にも柔軟に対応できる点が特徴です。
また、精密機械をブースで覆うことで、逆に外部からの粉塵の侵入を防ぐ用途にも活用できます。
防塵マスク・保護具の着用
発生・拡散対策を講じても粉塵をゼロにすることは困難なため、作業者自身を守る対策も欠かせません。
防塵マスクは国家検定に合格した製品を使用します。形状により使い捨て式(DS)と取替式(RS)に分類され、粒子捕集効率により区分1(80%以上)から区分3(99.9%以上)まで分類されています。作業内容に応じて選定します。
| 区分 | 粒子捕集効率 | 主な用途 |
|---|---|---|
| DS1・RS1 | 80%以上 | 一般粉じん作業 |
| DS2・RS2 | 95%以上 | 金属ヒューム・溶接作業など |
| DS3・RS3 | 99.9%以上 | 高濃度粉塵・有害物質作業 |
マスクは顔に隙間なくフィットさせることが重要です。保護メガネやゴーグルの併用も推奨されます。
換気設備の整備
局所排気装置に加えて、作業場全体の換気も粉塵濃度を下げるために有効です。全体換気によって新鮮な空気を取り込み、作業場内の粉塵を希釈します。
ただし、大量の粉塵が発生している場合は、希釈だけでは不十分です。局所排気装置や集塵機との併用が基本となります。
また、床や設備に堆積した粉塵は二次飛散の原因になるため、定期的な清掃も重要です。清掃時はエアブロー(圧縮空気で吹き飛ばす方法)を避け、真空掃除機や水拭きで対応します。
粉塵対策に関する法規制
工場における粉塵対策は、労働安全衛生法をはじめとする法令で規定されています。事業者はこれらの法規制を遵守し、従業員の健康を守る義務があります。
労働安全衛生法と粉じん障害防止規則
粉塵対策に関する主な法令は、労働安全衛生法に基づく「粉じん障害防止規則」です。この規則は、粉塵にさらされる労働者の健康障害を防止するために必要な措置を定めています。
粉じん障害防止規則では、「粉じん作業」と「特定粉じん作業」を区分しています。特定粉じん作業は、屋内や坑内で固定した機械・設備を使用する粉塵発生源での作業が該当します。
事業者に求められる主な措置は以下のとおりです。
| 発散抑制措置 | 特定粉じん発生源への局所排気装置・換気装置の設置 |
|---|---|
| 作業環境測定 | 常時特定粉じん作業を行う屋内作業場での測定実施 |
| 清掃 | 粉じん作業を行う屋内作業場所の毎日1回以上の清掃、月1回以上の真空掃除機等による清掃 |
| 特別教育 | 特定粉じん作業に従事する労働者への教育実施 |
| 定期自主検査 | 局所排気装置・除じん装置等の年1回以上の点検 |
また、じん肺法と連携し、厚生労働省は「粉じん障害防止総合対策」を策定しています。
定期健康診断の実施義務
事業者は、じん肺法に基づき、粉じん作業に従事する労働者に対してじん肺健康診断を実施する義務があります。
じん肺健康診断は、就業時・定期・定期外・離職時の4つのタイミングで実施します。定期健康診断の頻度は、じん肺管理区分によって異なります。
| 対象者 | 管理区分 | 実施頻度 |
|---|---|---|
| 常時粉じん作業に従事する労働者 | 管理1 | 3年以内に1回 |
| 常時粉じん作業に従事する労働者 | 管理2・3 | 1年以内に1回 |
| 過去に粉じん作業に従事した労働者 | 管理2 | 3年以内に1回 |
| 過去に粉じん作業に従事した労働者 | 管理3 | 1年以内に1回 |
健康診断の結果、じん肺の所見があると診断された場合は、労働基準監督署へ届け出て管理区分の決定を受けます。管理区分に応じて、作業転換や労働時間の短縮などの措置が必要です。
粉塵対策の運用とメンテナンス
粉塵対策設備は、導入後の適切な運用とメンテナンスが重要です。定期的な点検や測定を行い、設備の性能を維持することで、効果的な粉塵対策を継続できます。
集塵機の定期メンテナンス
集塵機・局所排気装置は、労働安全衛生法により年1回以上の定期自主検査が義務付けられています。検査記録は3年間の保存が必要です。主な点検項目は以下のとおりです。
| フード | 制御風速・風量、摩耗・損傷の有無 |
|---|---|
| ダクト | 粉じんの堆積、接続部の緩み・破損 |
| フィルター | 目詰まり、破損・劣化、取付状態 |
| ファン・モーター | 回転数、振動・騒音、ベルトの状態 |
| 制御盤 | 電流値、絶縁抵抗 |
フィルターは、清掃しても吸引力が回復しない場合や、差圧が規定値(一般的には1,000~2,000Pa程度、機種により異なる)に達した場合に交換を検討します。具体的な交換時期はメーカーの仕様書を確認してください。目詰まりを放置すると圧力損失が増大し、エネルギー消費の増加や設備故障の原因となります。
定期自主検査は「局所排気装置等定期自主検査者研修」を修了した者が行うことが望ましいとされています。
作業環境測定の実施
常時特定粉じん作業を行う屋内作業場では、6か月以内ごとに1回、作業環境測定を実施する必要があります。測定記録は7年間の保存が求められます。
測定結果は、管理濃度との比較により3つの管理区分に評価されます。
| 状態 | 必要な措置 | |
|---|---|---|
| 第一管理区分 | 作業場のほとんど(95%以上)で管理濃度以下。作業環境管理が適切な状態 | 現状維持に努める |
| 第二管理区分 | 平均濃度は管理濃度以下だが、改善の余地がある状態 | 設備・作業方法の点検、改善措置の努力義務 |
| 第三管理区分 | 平均濃度が管理濃度を超える。作業環境管理が適切でない状態 | 直ちに点検・改善措置を実施し、再測定が必要。呼吸用保護具の使用も義務化 |
工場の粉塵対策 関連製品・サービスのご紹介
GDEシリーズ 長期間フィルター交換不要な集塵機

アピステの集塵機「GDEシリーズ」は、粉じんの目詰まりを抑制する特殊なフィルター技術と、フィルターの詰まりを検知して自動で粉じんを払い落とす機能を搭載した高性能集塵機です。フィルター交換にかかるコスト削減に大きく貢献します。ヒュームボックスを装着することで、溶接・レーザー加工などのヒュームも捕集でき、高い吸引力を持続します。
GDEシリーズ 長期間フィルター交換不要な集塵機 について詳しく見る
まとめ
- 粉塵対策は従業員の健康保護、製品品質の維持、生産効率の確保のために必要である
- 粉塵対策の基本原則は「発生させない」「拡散させない」「吸入させない」の3つである
- 集塵機は粉塵の種類・粒径・発生量に応じて適切な方式を選定する
- 粉じん障害防止規則やじん肺法に基づく法令遵守が事業者に求められる
- 集塵機の定期自主検査(年1回)と作業環境測定(6か月に1回)を継続的に実施する
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