光の波長を精密に制御
光学フィルターは、特定の光の波長を選択的に透過させることで、画像の質を高めたり、精密な光学測定を可能にするフィルターであり、光学製品をはじめとした様々な分野・業種において活用されています。
今回は、光学フィルターの原理や製造方式、種流についてご紹介します。おすすめの関連製品も併せてご紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
光学フィルターは、特定の波長の光を選択的に透過または反射するための光学素子です。画像の明るさやコントラストの調整、特定の波長の光を強調するなどの目的で使用されます。
光の波長を精密に制御することができる特性によって、カメラ・ビデオカメラ、顕微鏡等の製品や、レーザー技術、通信等の科学技術分野において重要な役割を担っています。
光学フィルターは主に「干渉タイプ」と「吸収タイプ」に大別されます。
干渉タイプのフィルターは、薄膜干渉を応用した光学フィルターで、任意の光学特性を特注可能で、透過しない波長帯の光は基本的に反射され、入射角度に依存する特性を持ちます。
透過率や阻止率に優れている一方で、広帯域の特性設計が難しく、比較的高価であることが特長です。
■干渉フィルターの成膜方法
・真空蒸着法
真空蒸着法は、真空チャンバー内で蒸着材料を加熱して蒸発させ、基板上に膜を形成する方法です。この方法では、精密な成膜制御が難しく、光学特性や耐久性に劣る場合があります。
しかし、薄膜を比較的均一に形成し、製造プロセスが比較的安価であるため、大量生産に適しています。また、蒸着材料の種類が豊富であり、多様な材料を用いて膜を成膜することができます。そのため、ある程度の用途においては有用な手法と言えます。
・イオンビームアシスト法
イオンビームアシスト法は、蒸着プロセスにおいて電子ビームを用いて蒸発させた蒸着材料にイオンビームを照射することで、膜の成長を補助する方法です。この手法により、膜の成分や結晶構造を制御しやすくなり、膜設計の柔軟性が向上します。
一方で、正確な膜厚制御が難しく、また膜の緻密性においてはマグネトロンスパッタリング法やイオンビームスパッタリング法に劣ることがあります。
・マグネトロンスパッタリング法
マグネトロンスパッタリング法は、プラズマ生成ベースの成膜技術で、比較的高い光学性能と大量生産時のスループットのバランスが良い成膜法です。
高性能・高価格なイオンビームスパッタリング法とイオンビームアシスト法などの経済的成膜法の中間に位置づけられ、相対的に高性能でスループットが高い特徴を持っています。
・イオンビームスパッタリング法
イオンビームスパッタリング法は、非常に高い光学品質と耐久性を持つ膜を形成する高度に再現可能な成膜技術で、緻密で硬く、滑らかな膜を作り出します。
しかし、成膜レートが遅く、チャンバーサイズが小さくなる傾向があるため、他の成膜法に比べて相対的にコストが高くなるという特徴があります。
■「ソフトコート」と「ハードコート」について
真空蒸着法で成膜された伝統的な干渉フィルターは通常「ソフトコート・フィルター」と呼ばれ、一方でイオンビームスパッタリング法やマグネトロンスパッタリング法で成膜された干渉フィルターは「ハードコート・フィルター」として区別されます。
これらのフィルターは、光学特性において大きな性能差がありますが、その他の面でも異なる点があり、例えばフィルターの構造や製品寿命についても相違があります。
・光学特性
ソフトコートでは光学特性が緩やかで透過率も相対的に低いが、ハードコートでは高い透過率で狭帯域のバンドパスフィルターや急峻な立ち上がりのエッジフィルターも製作できる。
・フィルター構造
ソフトコートでは薄膜層数が制限されるため複数のガラス基板に成膜され、接着剤で一体化された構造を持つ。一方、ハードコートでは1枚のガラス基板に成膜されるのが主流。
吸収タイプの光学フィルターは、フィルター材料自体が特定の波長の光を吸収することで機能します。不要な波長の光を除去し、目的の波長帯のみを透過させることが可能です。
その特性から、広角での使用や、厳密な波長選択性が要求されない用途に適しています。また、コスト面でも有利なため、多くの一般的な光学機器や計測機器で使用されています。
光学フィルターには様々な種類があり、それぞれ異なる用途に使用されます。以下は代表的なフィルターの種類です。
特定の中心波長とバンド幅を持ち、選択的に特定波長のみを透過する光学フィルターは、白色光源から特定波長を取り出す際などに使用されます。
特定波長以上の光を透過し、それ以下の光を遮断する光学フィルターは、ラマン分光計測などでラマン散乱光を選択的に透過させる際に使用されます。
バンドパスフィルターとは逆で、特定の中心波長、バンド幅で選択的に特定波長のみを透過しない(反射する)光学フィルターです。
入射角度45°で使用され、特定波長帯域を反射、特定波長帯域を透過する光学フィルターです。蛍光顕微鏡などで励起光を反射、蛍光を透過する際などに使用されます。
カラーフィルターは、光を吸収する物質を混ぜて製造され、入射角度の依存性が比較的小さいが、干渉フィルターに比べて透過率や阻止率などの光学特性が劣りますが、透過特性や吸収特性が広帯域であり、比較的安価であることが特長です。
NDフィルターは、全ての波長の光を均等に減少させるフィルターです。光の強度を調整することができ、色調やコントラストに影響を与えることなく、光量を制御することができます。写真撮影やビデオ撮影、その他の光学機器において幅広く使用されています。
分析機器 | バンドパスフィルターが使用され、特定の波長帯のみを透過させることで、目的の物質の分析精度を向上させます。 |
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医療 | エッジフィルターやバンドパスフィルターが使用され、蛍光測定や顕微鏡観察などに活用されます。 |
天文学 | バンドパスフィルターが使用され、特定の波長の光のみを観測することで、天体の詳細な観測が可能になります。 |
光通信 | バンドパスフィルターが使用され、特定の波長の光信号のみを選択的に透過させることで、通信品質を向上させます。 |
レーザー関連 | エッジフィルターやノッチフィルターが使用され、レーザー励起や不要な波長の除去に活用されます。 |
照明 | バンドパスフィルターやカラーフィルターが使用され、特定の色や波長の光を作り出します。 |
イメージング | ダイクロイックフィルターがCCDイメージングに使用され、特定の波長帯の光のみを検出します。 |
プロジェクター | ダイクロイックフィルターが使用され、色の分離や合成に活用されます。 |
センサー技術 | ダイクロイックフィルターが赤外線センサやToFセンサに使用され、特定の波長の光のみを検出します。 |
映像機器 | NDフィルターやカラーフィルターが使用され、光量の調整や色調の変更に活用されます。 |
ディスプレイ | カラーフィルターが使用され、色再現性の向上に貢献します。 |
光学特性で光学フィルターを選定する場合、透過特性だけでなく、阻止帯域(ブロッキング帯域)や光学濃度などの阻止特性も重要な項目です。
例えば蛍光観察の場合、蛍光強度は励起光と比べて非常に微弱で10^-3 ~10^-6程度ですので、蛍光を受光する側のバンドパスフィルターは励起光を10^-6=OD6レベルで阻止する特性が望ましいです。
また、ラマン分光用途の場合、レイリー散乱光にごく近いストークス光を検出するため高い透過率、OD6以上の高い光学濃度(OD値)、エッジの急峻度が要求されます。
光学フィルターを大量生産する装置に組み込んで使用する際は、光学特性の再現性も重要な項目となります。光学特性の再現性は、干渉フィルターの成膜方法に大きく依存します。
ソフトコートの光学フィルターは通常数年で経年劣化してしまうため消耗品で、定期的な交換が必要です。ご購入の際には保証内容をしっかり確認することをおすすめいたします。
光学フィルターを大量生産する装置に組み込んで使用する際は、装置の小型化や光学フィルターのコストダウンのため、極小寸法に加工することが要求されることがあります。コーティング後に外形寸法の変更など、柔軟な加工が可能なものをおすすめいたします。
光学装置を開発する際は、試作機に使用する光学素子の入手性も重要な項目です。干渉フィルターは、成膜装置で製造されるため、特別仕様で手配すると一般的に1カ月~数カ月の納期を要し、必要数量が数枚でも多額の費用が発生することがあります。検討の際は、納期もしっかり確認することをおすすめいたします。
SemrockのBrightLine®シリーズは、従来の一般的な構造のフィルターに比べ、単一基板にコーティングすることで発生する散乱、吸収、反射ロスを防ぎます。スパッタリング式ハードコートを使用し、これにより世界最高水準の高透過率、波長精度、優れたS/N比、急峻なカットオン・オフ特性を実現しています。
Semrock社の光学フィルターは、通常条件下で使用される限り、購入日から10年間、規定された性能を維持することが保証されています。特許取得済みのシンプルな構造は、単一基板上にコーティングするBrightLineシリーズ向けに米国で特許を取得しており、湿度や温度の影響で劣化することは事実上ありません。
Semrock社の光学フィルターのレーザー耐性については、「レーザー損傷閾値計算ツール」を使用してシミュレーションすることができます。
Semrock社の光学フィルターは、コーティング後に外形寸法の加工が可能なので、少量の試作時でも比較的低コスト、短納期で対応できます。
Semrockの高度に自動化された製造システムは、プロセスの各段階を厳密にモニタリングしているため、1週間前に製作したフィルターも、1年前に製造したフィルターも光学特性は常に均一です。
お客様は新たに装置を組み上げる際においても、フィルター特性による装置性能の変動を心配する必要がなく、量産時には安定した生産ラインを確保できます。
Semrock社の光学フィルターは、カタログ標準品が800種類以上と豊富にラインナップがあり、特別仕様で手配することと比較して短納期、低予算で1枚から手配することも可能です。
100μmの極薄も可能!次世代光学フィルター。従来の光学フィルターでは考えられなかった薄さ・軽さ・柔軟さを持ちつつ、90%の透過率・OD6・半値幅<10nmの高い光学仕様を実現。光学装置の小型化・軽量化をご提案いたします。
樹脂製の光学フィルターは、厚み100μmにも対応でき、ガラス製のフィルターよりも遙かに薄く、軽量です。この特長は、光学デバイスやセンシングアプリケーションなど、様々な産業で活用できます。
軽い圧力で曲げたり、折れたりする心配がなく、曲面にも対応できます。さらに、これまでガラスでは難しかった微細な加工も可能です。
干渉フィルターの多層薄膜の構造を再現しているので、透過率やブロッキング(OD)値について、樹脂製でも高い光学特性を有します。