偏光ビームスプリッターとは? 特性・種類・用途例を解説
本記事では、偏光ビームスプリッターの特性や主要な種類、具体的な用途例について解説します。
目次
偏光ビームスプリッターとは?

偏光ビームスプリッターは、光学素子の一種で、入射光をその偏光状態に応じて直線偏光の反射光(S偏光成分)と透過光(P偏光成分)に分離する機能を持ちます。
この素子は通常、2つの直角プリズムが接合されたキューブ形状や、薄膜コーティングが施されたプレート形状で構成され、分離特性は接合面に施された薄膜コーティングの設計によって決定されます。
偏光ビームスプリッターと無偏光ビームスプリッターの違い
偏光ビームスプリッターは偏光状態に基づいて光を分離し、特にレーザーシステムや偏光解析、分光分析などで有用です。一方、無変光ビームスプリッターは入射光の偏光状態に関係なく一定の比率で光を分離するため、一般的な光路分割や光学干渉計、レーザー分光など幅広い用途に適しています。
また、偏光ビームスプリッターは特定の薄膜コーティングを使用して偏光成分を分離するのに対し、無変光ビームスプリッターは通常のコーティングを用いて一定の反射透過比を実現します。
偏光ビームスプリッターの特性
偏光分離機能
偏光ビームスプリッターは、S偏光(平行偏光)とP偏光(垂直偏光)の光を効率的に分離することができます。S偏光は光波が入射面に平行に振動する偏光であり、P偏光は入射面に対して垂直に振動する偏光です。この二つの偏光成分を分離することで、ビームスプリッターは特定の偏光状態を有する光のみをターゲットとする高度な光学操作を可能にします。
たとえば、光通信においては、特定の偏光状態を有する信号光を選択的に取り扱うことが求められることがあり、この技術がその要求を満たすことになります。
高い消光比
加えて、高い消光比を有するビームスプリッターは、偏光成分の選択性が非常に高く、望ましくない偏光成分を有効に除去し、必要な成分を純度高く取り出すことができます。
消光比とは、透過した偏光成分と除去された偏光成分の強度比を表し、この値が高ければ高いほど、ビームスプリッターの偏光分離性能が良好であることを意味します。この特性により、光学系における信号対雑音比の向上が図られ、結果として高精度な測定や解析が実現されます。光学的測定装置や高解像度の画像処理システムにおいては、この消光比の高さが非常に重要な指標となります。
ビームスプリッターの種類

ビームスプリッタは、用途や必要な性能に応じて適切な構造のものを選択する必要があります。
プレート型ビームスプリッター
プレート型ビームスプリッターは、その構造が比較的シンプルでありながらも高い効率を誇ります。一般的に軽量であり、小さな設置面積での使用に適しているため、装置のコンパクト化が求められる状況での選択肢として最適です。
光が45°の角度で入射する設計になっており、特定の薄膜コーティングを施すことで、入射光の一部を反射させ、残りを透過させることができます。この技術は、光の分岐や合成を必要とする多くの光学系において基本的な役割を果たします。
キューブ型ビームスプリッター
キューブ型ビームスプリッターは、構造的にプレート型よりも堅牢であることが特徴です。この形状のビームスプリッターは、2つの直角プリズムを特殊な接着剤で接合し、その接合面に薄膜コーティングを施すことにより光を分岐させます。
この設計は、光学系における強度と耐久性を高めると同時に、光の分離と統合の精度を向上させます。光路が完全に閉じられているため、光の散乱や損失を最小限に抑えることが可能です。
ペリクルビームスプリッター
ペリクルビームスプリッターは、その名が示す通り、極めて薄い膜で作られています。この超薄膜の特性により、反射と透過の比率を非常に細かく調整することができます。
軽量でありながらも、光の制御における高度な柔軟性を提供します。特に、高精度の光学実験や測定において、微細な光の調整が求められる際に選ばれます。
結晶ビームスプリッター
結晶ビームスプリッターは、特定の光学結晶を使用して偏光状態に基づいて光を分離する能力を持ち、特に偏光の制御が重要となる応用において優れた性能を発揮します。光学結晶の選択によって、特定の偏光成分を高精度に分離することができ、その結果、光学系における偏光状態の精密な管理が実現可能です。
光の偏光特性を基にした高度な測定や分析、さらには光学通信技術における応用が期待されています。
くさび形ビームスプリッタ
くさび形の形状を持つビームスプリッターで、その設計により光の分離と制御を高い精度で行うことができます。このタイプのビームスプリッターは、光が通過する際に非常に小さな角度で反射されるように設計されており、光の干渉や重なりを最小限に抑えます。
特に、干渉計や分光計などの高精度光学機器において、光の波長分解能を高めるために使用されます。また、くさび形状により、多様な入射角度や波長に対応する柔軟性も持ち合わせており、幅広い応用が可能です。
偏光ビームスプリッターの用途例

偏光ビームスプリッターは、その精密な光の制御能力により、多岐にわたる先進的な技術分野で不可欠な役割を果たしています。
光ピックアップ
光ピックアップ技術において、偏光ビームスプリッターはデータの読み取りと記録の精度を飛躍的に向上させます。CD、DVD、ブルーレイディスクなどの光学メディアからデータを読み取る際、偏光ビームスプリッターは光源からのビームを正確にディスクの記録層に導き、反射された光を検出器へ効率的に送ります。
この過程で、データの正確な読み取りに必要な特定の偏光成分を選択的に利用することが可能となり、読み取りエラーの減少とデータ伝送速度の向上が実現されます。
半導体・液晶露光装置
半導体や液晶ディスプレイの製造プロセスにおける露光装置は、偏光ビームスプリッターを用いて非常に高い精度で光を制御します。
露光工程では、微細なパターンを半導体ウェハーや液晶パネルに正確に転写する必要があり、偏光ビームスプリッターは、露光光源の偏光状態を最適化し、コントラストと解像度を高めることでこのプロセスを支援します。結果として、チップやディスプレイの品質向上に直結し、製造コストの削減にも寄与しています。
レーザー干渉計
レーザー干渉計における精密な測定は、偏光ビームスプリッターの能力に大きく依存しています。この応用では、ビームスプリッターは入射するレーザービームを二つに分割し、異なる経路を経て再び合成します。この過程で、光の干渉現象を利用して、極めて微小な距離変化や物体の振動を検出することができます。
例えば、重力波の検出や地球の微細な動きのモニタリング、材料の微小な変形測定など、科学研究から工業応用に至るまで、レーザー干渉計は広範な分野で重要な役割を担っています。
関連記事
光スペクトラムアナライザとは?仕組みや用途、選び方を解説
光スペクトラムアナライザは、光通信やレーザー開発など、最先端技術を支える重要な測定器です。本記事では、光スペクトラムアナライザの導入を検討されている研究開発や品質保証、製造部門のご担当者様に向けて、その基本的な役割から仕組み、主な用途、そして自社に最適な一台を選ぶためのポイントについて詳しく解説します。
2025年10月16日
回折格子とは?原理や種類、選び方を解説
回折格子(かいせつこうし)は、分光器やレーザーシステム、光通信機器に不可欠な、光を波長ごとに分ける機能を持つ光学素子です。自社製品の性能を最大限に引き出すためには、その特性を深く理解し、用途に最適なものを選定することが極めて重要です。 本記事では、分析機器やレーザー関連機器の研究開発・設計部門のご担当者様に向けて、回折格子の基本原理から、回折効率や分解能といった重要性能、製造方法による種類の違い、主な用途、そして最適な製品を選定するためのポイントについて詳しく解説します。
2025年10月15日
エリアレーザーとは?スポットレーザーやリフローとの違い、メリットを解説
電子部品の小型化や高密度実装が進む中で、従来のはんだ付け手法では品質の維持が難しくなっています。特に、熱に弱い部品へのはんだ付けや、狭いエリアでの精密な接合が大きな課題です。エリアレーザーは、こうした課題を解決する新しいはんだ付け技術として注目されています。本記事では、エリアレーザーの基本原理から、スポットレーザーやリフローとの違い、導入のメリット、主な用途について詳しく解説します。
2025年09月25日
ホテル・旅館における適切なLED照明とは? 選び方のポイントやおすすめの製品をご紹介
ホテル・旅館の空間作りには、インテリアデザインにおける色、素材の選択や、広い空間を演出するために収納スペースを確保するなど、様々な要素に目を配る必要があります。中でも、照明の役割は極めて重要で、部屋の明るさや色味によって空間全体の印象が大きく左右されるものです。 そこで今回は、宿泊施設における照明の特徴や選び方のポイントについて解説します。おすすめのLED電球・照明も併せてご紹介しますので、ぜひ照明選びの参考にしてください。
2025年09月10日
誘虫灯|特徴・用途例・最新技術の動向を解説
害虫を光で誘引して捕獲する「誘虫灯」は、農業や食品産業における効果的な害虫管理のための重要な照明装置です。本記事では、その基本的な仕組みから最新の技術動向まで、包括的に解説します。
2025年09月10日
LEDバーライト|間接照明として活用するメリットや選び方のポイントを解説
LEDバーライトは、省エネルギー性と優れた機能性を併せ持つ照明器具として、住宅やオフィス、商業施設など幅広い場所で活用されています。間接照明としての利用が特に人気があり、空間の雰囲気作りに大きく貢献します。 本記事では、LEDバーライトの基本的な特徴から具体的な用途例、種類の選び方まで、導入を検討されている方に役立つ情報を詳しく解説していきます。
2025年09月10日
LEDライン照明|用途・種類・選び方のポイントを解説
LEDライン照明は、建築空間や室内インテリアにおいて、機能性とデザイン性を両立する照明器具として注目を集めています。直線的な光のラインを活かした間接照明や、什器照明、アクセント照明など、その用途は多岐にわたり、空間の質を高める重要な設計要素となっています。 本記事では、LEDライン照明の特徴や種類、選び方のポイントについて、実践的な視点から詳しく解説します。
2025年09月10日
高演色LED:リアルで豊かな色彩体験を提供
高演色LED照明は、Ra90以上の高い演色性を持ち、美術館やホテル、レストランなどでのリアルで豊かな色彩体験を実現します。光源の柔軟な制御や多様な発光方式により、シーンに応じた最適な照明を提供します。特に、自然な色彩を求める展示や空間に最適なソリューションとして注目されています。
2025年09月10日
光学部品のレーザー耐久性を表す「レーザー誘起損傷閾値 (LIDT)」とは? 試験概要や試験の種類について解説します
レーザー誘起損傷閾値 (LIDT)試験を実施することで、レーザー光を使用する際に、光学部品がどの程度レーザー光に耐えられるかを測定することができます。LIDTが高い光学部品は耐久性に優れているなどの特徴を有しているため、様々な分野への応用が可能で、近年ではLiDAR用光学部品としても需要を高めています。 そこで今回は、レーザー誘起損傷閾値の概要や試験の種類についてご紹介させていただきます。オンライン展示会プラットフォームであるevortには、レーザー誘起損傷閾値 (LIDT)試験に関連する製品も掲載しているため、今回の記事に関心を持たれた企業様は、ぜひevort内で製品検索・資料検索をして探してみてください。
2025年10月03日
拡散板(光拡散シート・光拡散フィルム)
拡散板は、光を散乱させて均一に広げる光学部品です。主に照明や光学機器で使用され、効果的な光の制御と均一な照明の実現に貢献しています。 本記事では、拡散板の特性や素材、多岐にわたる用途について、詳しく解説します。
2024年09月17日
産業用レンズ拡散板:LSD
産業用レンズ拡散板:LSDは、光の拡散をコントロールする高性能な光学シートです。従来の拡散板が微小粒子による拡散反射を利用するのに対し、LSDは微小レンズによる屈折を用いており、従来の拡散板よりも大幅に高い透過率を実現しています。 その高い性能と多様な応用可能性から、照明技術の分野で重要な役割を果たしています。
2025年03月11日
レーザーカッターとは?基本的な仕組み・種類や特徴・活用法などを解説
レーザーカッターは、精密な加工を可能にする革新的な機器です。この特性を活かし、さまざまな分野で用いられています。 「レーザーカッターの仕組みや用途・導入によるメリットがわからない」という方のために、この記事ではレーザーカッターの基本的な仕組みや種類、特徴、そして活用法について詳しく解説します。
2025年09月09日
レーザー彫刻機とは?仕組みから選び方まで徹底解説
レーザー彫刻機は、精密な加工を可能にする革新的なツールです。精密な加工や個性的なデザインを実現できる一方で、初めて使う方にとっては仕組みや選び方が分かりにくいものです。 そこで、この記事では、レーザー彫刻機の基本から選び方まで徹底的に解説します。
2025年09月09日
レーザー加工機とは|種類・活用メリット・選定のポイントを解説
レーザー光を利用して様々な素材を加工する「レーザー加工機」。レーザー光を照射することで素材を切断・穴あけ・溶接・彫刻することが可能です。 そこで今回は、レーザー加工機についての基本知識、代表的な種類、そしてレーザー加工ならではのメリット・効果についてご紹介いたします。おすすめの製品も併せてご紹介しますので、レーザー加工機の導入を検討されている企業様はぜひ参考にしてみてください。
2025年09月09日
ビームシェーピングとは?製造業でのメリットや種類、選び方を解説
製造業の現場では、より高い加工精度や生産スピード、品質の安定化が常に求められています。その解決策の一つとして、レーザー加工は不可欠な技術となっています。しかし、単にレーザーを照射するだけでは、その能力を最大限に引き出せているとは限りません。 そこで重要になるのが、レーザー光の特性を加工目的に合わせて最適化する「ビームシェーピング」という技術です。本記事では、製造業のご担当者様に向けて、ビームシェーピングの基本原理から、そのメリット、主な方式、選定のポイントまで、幅広くご紹介します。
2025年10月17日
波面センサーとは? 測定の原理や用途例、導入における選定のポイントを解説します
光学技術の進歩において、波面センサーは革新的な役割を果たしています。これらの精密な装置は、光の波面の形状や強度分布を分析することで、光学系の性能を飛躍的に高めることができます。 本記事では、波面センサーの原理、その応用、精度向上の方法、および選択時の重要な考慮事項について詳しく解説します。光学技術の世界をより深く理解するための第一歩として、波面センサーの基礎からその高度な応用に至るまでの知識をご紹介します。 このような方におすすめです ・波面センサーの測定原理について理解したい方 ・波面センサーの産業用途について知りたい方 ・波面センサーを導入する際に考慮したいポイントについて知りたい方
2025年09月05日
レーザーマーカーとは?種類や特徴・メリット&デメリット・活用例を確認
レーザーマーカーは、レーザーの力を用いてアイテムの印字や加工を行う道具です。素早く高精細に消えない印字ができるなど、製品生産の高速化や質の向上に役立ちます。 この記事ではレーザーマーカーの原理や主な種類、メリット&デメリット、分野別の活用例をご紹介します。
2025年09月09日
超短パルスレーザーとは?メリット・デメリットや用途について解説
パルスレーザーのなかでも特に短いパルス幅を持つレーザーを超短パルスレーザー(ピコ秒レーザー・フェムト秒レーザー)と言います。 超短パルスレーザーを取り入れることで微細加工が可能になるほか、さまざまな材料を加工できるようになります。 この記事では、超短パルスレーザーがどのようなレーザーなのかを紹介するとともに、メリット・デメリット、用途を解説します。
2025年09月05日
フォトダイオードとは? 特性・種類・用途例を解説
光を電気信号に変換するフォトダイオードは、現代科学技術の多くの領域で重要な役割を果たしています。 この記事では、フォトダイオードの基本原理、その機能、および異なるタイプのフォトダイオードとその応用例について詳しく説明します。また、フォトトランジスタとの違いや特定の用途に適したフォトダイオードの選択方法についても掘り下げていきます。
2025年09月05日
レーザー発振器の原理や種類ごとの特徴・用途について解説
レーザー発振器の原理は、光に刺激を与えることで強いレーザー光を作り出すというものです。英語ではLaser oscillator(レーザーオシレーター)と言います。 この記事では、レーザー発振器の種類やそれぞれの特徴、また適した用途についてご紹介します。
2025年09月05日