DLCコーティングとは?
DLCコーティングは、金属や樹脂の表面に炭素を主成分とする薄膜を形成する表面処理技術です。
DLCは”Diamond-Like Carbon”の略で、ダイヤモンドとグラファイトの両方の特性を併せ持つことに特徴があるため、ダイヤモンドに近い硬度を持ちながら、滑りが良い特性を有しています。
DLCコーティングの特徴
高硬度と低摩擦係数
DLCコーティングの高硬度と低摩擦係数は、その優れた特性の中核を成しています。ダイヤモンドに匹敵する硬度を有し、耐摩耗性に優れた表面を形成します。同時に、グラファイトの特性を活かすことで、低い摩擦係数を実現し、滑りやすさを向上させます。
摩擦や磨耗に強い、高性能な表面処理が可能です。
薄膜形成
薄膜形成は、DLCコーティングの重要な特徴の一つです。わずか数ミクロンという極めて薄い膜でコーティングを施すことができます。薄さゆえに、製品の寸法精度や形状を損なうことなく、表面特性を大幅に改善することが可能です。
微細な部品や精密機器への応用に特に適しています。
多様な機能性
DLCコーティングは、多様な機能性を備えています。耐凝着性により、他の物質が表面に付着しにくくなります。赤外線透過性を持つため、光学機器への応用も可能です。さらに、独特の外観を生み出すデザイン性や、生体親和性、ガスバリア性、耐腐食性など、幅広い機能を付与することができます。
用途に応じて、これらの特性を組み合わせることで、多岐にわたる産業分野のニーズに対応します。
環境親和性
環境親和性も、DLCコーティングの重要な特徴です。高い生体適合性を有し、人体への悪影響が極めて少ないことが特筆されます。医療機器や食品関連機器など、人体に直接接触する可能性のある製品にも安心して使用できます。
環境負荷の低減と安全性の確保を両立させる、現代の産業ニーズに合致したコーティング技術といえるでしょう。
DLCコーティングの成膜方法
PVD法
スパッタリング法、イオンプレーティング法、アークイオンプレーティング (AIP) 法
PVD法(物理蒸着法)は、DLCコーティングの主要な成膜方法の一つです。比較的低温での成膜が可能なため、熱に弱い基材にも適用できます。この方法では、高硬度のDLC膜を形成することができ、特にAIP法(アークイオンプレーティング法)を用いると、さらに高い硬度のDLC膜を得ることができます。
PVD法の特徴として、緻密な膜構造と優れた密着性が挙げられ、耐摩耗性や耐食性が要求される用途に
適しています。
CVD法
プラズマCVD法、プラズマ励起化学蒸着 (PECVD) 法
CVD法(化学蒸着法)は、もう一つの重要なDLCコーティング技術です。この方法では、プラズマを利用して炭化水素ガスを分解・イオン化し、基材表面に炭素膜を形成します。特にPECVD法(プラズマ化学蒸着法)は、高い成膜速度を実現し、生産効率の向上に貢献します。CVD法で作製されたDLC膜は、優れた均一性と密着性を示し、複雑な形状の部品にも均一なコーティングを施すことができます。
また、膜の組成や構造を精密に制御できるため、用途に応じた最適な特性を持つDLC膜を作製することが可能です。
DLCコーティングの用途例
DLCコーティングは様々な産業分野で活用されています。
工業用途 | 切削工具:摩耗防止、長寿命化、アルミ加工やドライ加工に適しています。 金型:摩耗防止、長寿命化、溶融ガラスの離型性向上に使用されます。 |
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自動車・機械部品 | エンジン部品やベアリングなどの摩擦低減や耐摩耗性向上に利用されます。 |
医療分野 | 医療器具、手術用具、インプラント、ステントなどに応用されています。 |
消費財 | ペットボトル:ガスバリア性を活かし、飲料の酸化防止に使用されます。 スポーツ用品:ゴルフクラブやテニスラケットの耐摩耗性向上と装飾に利用されます。 ヒゲ剃りの刃:耐摩耗性と低摩擦係数を活かして使用されます。 |
日本真空株式会社のDLCコーティング
日本真空光学株式会社は、DLCコーティング技術を用いた高性能な光学薄膜製品を提供しています。独自のプラズマCVD法を用いてDLCコーティングを行っており、中間赤外線領域での高性能な反射防止膜の作製が可能です。
用途
赤外画像素子用窓、赤外線を使用した光学系の組み合わせレンズ、CO2レーザー加工機用の窓材等
特性例
高透過率性:DLCは中間赤外線領域(MIR)にて透明であり、GeやSi基板に対して高透過率の反射防止膜が得られます。
高耐久性:高硬度、かつ耐摩耗性に優れた膜表面が得られ、最外層の保護膜として使用できます。また、耐湿性や耐塩水性についても優れた膜質を有します。
耐湿性 | 85・C / 85%Rh 600Hr 変化なし |
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耐剥離性 | MIL-C-48497A 4.5.3.1 OK |
耐塩水性 | 85・C / 5wt% / 24Hrs OK |
最大成膜可能サイズ | φ400 |