光学薄膜とは?
光学薄膜とは、光学部品の表面に蒸着される薄い膜であり、光の反射や透過などを制御するために使用されます。これらの薄膜が光学部品に蒸着されることで、光の干渉条件を利用し、反射率や透過率を調整することが可能です。
光学薄膜は、膜の厚みや材料、膜の層数などが任意に設計され、これによって光の干渉条件がコントロールされます。その結果、光学薄膜はユニークな光学特性を持つ薄膜となります。
光学薄膜の機能・効果
光学薄膜は、ガラス表面に光の波長よりも薄い膜を付着させることで、光の挙動を変化させる技術です。この技術を用いることで、光の干渉作用を利用し、反射の削減や逆に増加などが可能となり、以下のような効果が得られます。
反射防止効果
光学薄膜を導入することで、光の反射を有意に低減させることができます。具体的な例として、スマートフォンの画面に応用される薄膜技術が挙げられます。この技術により反射が抑制され、画面の視認性が向上しています。
色調調整効果
光学薄膜を活用することで、光の波長による色調の調整が実現します。 例えば、サングラスに採用される薄膜技術は、光の強度を微調整することで、眩しさを軽減する効果があります。
光学フィルター効果
光学薄膜を応用することで、特定の波長の光を通過させたり、遮断したりすることが可能です。たとえば、カメラのレンズに組み込まれた薄膜技術は、特定の波長の光を遮断することで、色の再現性を向上させる効果があります。
光学薄膜の構造は通常、多層になっており、反射防止膜の単層膜を例に挙げることがあります。基本的な構造は、薄膜材料を2~3種類交互に積層することで所望の分光特性が得られます。実際の設計では、コンピューターを利用して各層の膜厚が望ましい特性に最適化されます。この技術を活用することで、特定の波長の光の通過や遮断を制御し、光学フィルターの効果を発揮します
光学薄膜の加工方法
真空蒸着
真空蒸着は、蒸着材料を真空中で加熱し、それを蒸発・昇華させて得られる蒸気を基板に付着させ、薄膜を形成する成膜技術の一つです。このプロセスでは、電子ビーム加熱や抵抗線加熱といった方法で材料を加熱します。
この成膜技術は古典的な手法ではありますが、乖離しやすい物質にも対応可能で、高い成膜速度が得られるなどの特徴があります。さらに、材料の選択性が広いため、様々な製品に幅広く応用できます。
また、真空蒸着薄膜と比べて高密度、高付着強度などの優れた性能を持つ薄膜を得ることができる、イオンプレーティング(ION PLATING)法があります。
イオンプレーティング(ION PLATING)法は、蒸発粒子をプラズマ中に通過させて基板に付着させ、プラズマの利用により、蒸着粒子の一部がイオン化し、導入ガスプラズマによる成膜表面へのスパッタリング効果が得られます。 イオンプレーティング法は優れた物理的特性を有する薄膜を形成し、その結果、さまざまな用途において有用な成膜手法となっています。
イオンビームスパッタ
薄膜を作る方法の一つで、ターゲットと呼ばれる材料をイオンや原子で蒸発・スパッタさせて基板に薄い層を形成します。この方法は、ターゲット材料を加熱して蒸発させる真空蒸着と比べると、高いエネルギーを持つターゲット分子が基板にしっかりと付着するため、緻密で均一な膜をつくることができます。
イオンビームスパッタは、イオンガン(スパッタ源)を備えており、アルゴンガスに高周波(13.56MHz)をかけてガスをプラズマ状態にします。プラズマから電圧をかけた格子状のグリッドによって引き出されたアルゴンイオンが、ターゲット物質に強く衝突して膜材料をスパッタします。
イオンビームスパッタには下記のような特徴があります。
低欠陥、低損失、高平滑性 | イオンビームスパッタ膜は、高いエネルギーのイオンビームにより、生成される薄膜が欠陥が少なく、損失が低く、表面が滑らかである特徴があります。 |
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低温成膜が可能 | イオンビームスパッタは低温で行うことができ、熱に敏感な基板や材料にも適しています。 |
高い制御性と精度 | プロセスが高い制御性を持っており、所望の膜の特性を精密に制御することが可能です。 |
このような特性から、イオンビームスパッタは、集積回路、センサー、光学デバイスなど、多岐にわたる産業分野で幅広く利用されています。
プラズマCVD
薄膜形成において、気相からの凝縮には物理的気相成長法(PVD)と化学的気相成長法(CVD)の2つの主要な方法があります。
PVD法 | CVD法 |
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法真空中で行われ、蒸着源から発生した原子や分子気体を熱的蒸着またはイオン衝撃によるスパッタリングを通じて基板上に凝縮させ、薄膜を形成します。この方法には蒸着、イオンプレーティング、IBS(イオンビームシンタリング)などが含まれます。 | 基板表面で原料気体が分解されたり分子間の化学反応が促進され、その結果として薄膜が析出します。プラズマCVD法はCVD法の一種で、原料ガスをプラズマ分解して活性なラジカルやイオンに変換し、これを用いて薄膜を形成します。 |
CVD法 特徴
プラズマ中で励起された気体が高い反応性を持ち、非熱平衡状態で化学反応が進行します。 この特性により、通常の熱励起プロセスでは達成できない原子の組成や配列を持った膜を生成することが可能です。 プラズマ中の高いエネルギー状態が、より精密で複雑な構造の薄膜を形成する手段となります。
CVD法 使用例
プラズマ発生に独自のイオンプロセス法を適用し、高い耐久性やIR(赤外線)透過性などの特徴を持つDLC膜(ダイヤモンドライクカーボン膜)を作成しています。このような特殊な膜は、耐摩耗性や光学的特性が要求される様々な分野で利用されています。
光学薄膜の種類
光学薄膜は非常に多くの用途があり、現代の生活に欠かせないものとなっています。
反射防止膜(ARコート)
AR(Anti-Reflection)コーティングは、一般的に基板の表面に誘電体薄膜を単層または多層に形成して行われるコーティングプロセスです。
この加工により、光の干渉作用によって表面の反射を低減させます。 このコーティングの主な目的は、基板の透過率を向上させ、表面への映り込みを減少させ、ゴーストを防止することです。光の反射防止効果は、成膜する膜の厚さ、層数、材料の組み合わせを工夫することで調整できます。このコーティングは、特にガラスや赤外線結晶材料などの基板に広く適用されます。 波長帯域の選択範囲は幅広く、紫外線から赤外線領域まで対応が可能です。
ARコーティングは、光学デバイスやレンズ、カメラ、ディスプレイなど、様々な光学機器で反射の低減と透過性の向上を実現するために使用されます。
用途例 | 車載カメラ,半導体露光装置,レーザー,LiDAR,バイオメディカル,照明 |
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ダイクロイックミラー
異なる屈折率を持つ誘電体薄膜を多層にコーティングすることで、光の干渉を利用して光源からの光を特定の波長で透過または反射させることが可能です。
コーティングする誘電体薄膜の層数は数層から数百層まで調整でき、これにより様々な特性を実現することができます。また、コーティングする基板の形状も平面から放物面鏡など、さまざまな形状に対応できます。この技術は、特定の波長での透過や反射を選択的に制御することで、レンズ、フィルター、ミラー、光学素子などの製造に応用されます。
用途例 | レーザー加工,蛍光分析,HUD,ラマン分光,バイオメディカル,露光 |
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ダイクロイックフィルター
用途例 | 3Dセンシング,ガス分析,LiDAR,バイオメディカル,天文観測 |
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ノッチフィルター
特定波長の光のみを減衰し、それ以外の波長を透過させる光学フィルターです。これにより、光学系から不要な光を取り除くことが可能です。
ノッチフィルターは単一波長から複数波長までを対象にして、紫外、可視、赤外の波長域を選んで設定することができます。誘電体多層膜を使用した高度な膜設計により、特定の波長を阻止する際に急峻なスロープを実現できます。この特性により、バンドパスフィルターとは逆の特性を持つフィルターとして、特定の波長の光を取り除くのに有用です。
用途例 | 小型分光器,色彩測定,成分分析,ハイパースペクトルカメラ |
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リニアバリアブルフィルター
ガラス基板上に一方向に線形に変化する膜厚をコーティングすることで、複数の波長を連続的に取り出すためのフィルターです。
LVFは、一枚の基板内に線形で連続的に変化するスペクトル特性を持つフィルターをコーティングします。このフィルターに対して入射する光の位置を変えることで、連続的に透過スペクトルを変化させることができます。
膜設計は特定のアプリケーションに合わせて調整でき、バンドパスフィルタータイプだけでなく、ロングパスフィルターやショートパスフィルタータイプも製作可能です。 LVFのサイズは任意に設定でき、長辺が10mm以下でも製作可能です。また、LVFは高密度な金属酸化膜を使用しているため、高い耐久性を持っています。
用途例 | 小型分光器,色彩測定,成分分析,ハイパースペクトルカメラ |
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赤外域用フィルター
近赤外線(0.7~3.0μm)、中間赤外線(3.0~8.0μm)、遠赤外線(8.0~15μm)で使用されるフィルターの製作が可能です。
- バンドパスフィルター
- エッジフィルター
- 反射防止膜
応用例 | 赤外線の応用分野では、幅広い用途に対応する特性を有する多層膜干渉フィルターが求められており、高屈折率基板材料の選択や分光特性の微調整が可能です。 |
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用途例 | ガスセンサー,ガス分析,暗視カメラ,サーモグラフィ,人感センサー |
DLCコーティング
DLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティングによる高耐久性の赤外反射防止膜です 赤外領域での高透過性と優れた耐環境性・耐摩耗性を実現しています。
シリコンやゲルマニウムなどの材料にも効果的にコーティング可能です。 独自のプラズマCVD法を使用したコーティングにより、中間赤外線領域(MIR)で高透過率と優れた耐久性を同時に実現しています。
用途例 | 赤外線カメラ,ナイトビジョン,放射温度計,車載 |
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ビーム・スプリッタ―
光学部品として、任意の比率で透過光と反射光を分離することができる製品があります。これには、入射光からp偏光とs偏光を分離する(PBS:偏光ビームスプリッター)タイプや、偏光依存性が少ないタイプ(N-PBS:無偏光ビームスプリッター)などが制作可能です。
用途例 | レーザー加工機、計測機器、半導体露光装置、FPD露光装置、カメラなど |
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コールドミラー・フィルター
熱を含む波長を透過または反射させ、除去するためのフィルターです。このフィルターは、誘電体多層膜を使用しており、耐熱性や耐候性に優れています。楕円鏡や他のリフレクター基板へのコーティングも可能です。
用途例 | 照明機器,プロジェクター,温度上昇の抑制(熱線カット) |
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NDフィルター
NDフィルター(Neutral Density)は特定波長帯域において透過率(濃度)を一定に制御するフィルターで、金属膜や誘電体多層膜のどちらでも製作可能です。
紫外線から赤外線まで各波長帯域に対応しており、カメラやセンサー感度の補正に使用され、任意の波長帯で平坦な透過率スペクトルを提供いたします。 反射型と吸収型の2種類があり、無反射型も可能です。
用途例 | 源の減光,センサー感度補正 |
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金属膜コーティング
金、銀、アルミなどの金属膜を各種基板へコートします。 赤外線イメージセンサーを高感度に保つ為に必要な真空封止に適したハンダ付け用のメタライズ加工も可能です。
用途例 | 金属薄膜ミラー,ハンダ封止 |
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日本真空光学の光学薄膜
歴史
1946年の創業以来、光学薄膜メーカーとして、日本真空光学は薄膜設計技術、コーティング技術、プロセス制御技術の三本柱に注力し、常に技術の最先端を切り拓いてきました。
この結果、光学薄膜の専門メーカーとしての地位を築き上げ、黎明期から現在に至るまで一貫して業界の先頭を走り続けています。 UVからIRにわたる広範な波長領域や医療、計測、映像、露光などあらゆる光学応用分野において、豊富なコーティングプロセスを提供し、お客様の多様なニーズに対応しています。
紫外領域から赤外領域まで、広範な波長帯域に対応
紫外領域から赤外領域まで、当社はワンストップで対応可能です。この広範な波長帯域のカバレッジにより、半導体の製造装置や検査装置から赤外線カメラまで、多岐にわたるアプリケーションにおいて優れたサービス提供が実現でき、さらにコストとスピードの面でも優位性を持っています。
高い耐久性
業界トップレベルの高いレーザー耐性を誇り、特にレーザーミラーおよび光学フィルターの製作において優れた製品を提供しています。レーザー損傷閾値は、レーザーによる損傷が発生する破壊限界エネルギー密度を指し、この値が高いほど製品の耐久性が向上します。当社のHRコート(高反射膜)およびARコート(反射防止膜)は、これらの特性に優れ、厳しい環境での使用にも耐える信頼性の高い製品として評価されています。
光学薄膜の事例
「はやぶさ2」搭載の小型着陸機「MASCOT」用赤外線ディテクタ
当社の製造した赤外線ディテクタ用光学ウインドウが、小型着陸機「MASCOT」に搭載され、小惑星リュウグウの科学的観測に貢献しました。この光学ウインドウは、熱サイクルに対する耐久性とブロードバンドでの反射率抑制により、リュウグウ表面の撮像に寄与し、はやぶさ2のミッションに成功裏に参加しました。
導入目的 | 過酷な宇宙空間での赤外画像分析 |
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対象製品 | 赤外域用フィルター 赤外線画像用フィルター |
高出力レーザー用ミラー・ARコーティング
日本真空光学は1970年代からレーザー用コーティング技術の開発に着手し、レーザー加工機、顕微鏡、半導体検査装置など様々な分野で利用され、レーザー技術の進化に寄与しています。
高いレーザー耐性が求められる中、最適な成膜物質と成膜プロセスの選定、薄膜設計を行い、その結果、レーザー損傷閾値データベース化試験において常にトップクラスの評価を受けています。今後も高耐力レーザーミラー・ARコーティングの開発に注力し、レーザー技術の発展に寄与していきます。
導入目的 | レーザーの高出力化 |
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対象製品 | 反射防止膜 レーザー加工 |
すばる望遠鏡 Hyper Suprime-Cam
すばる望遠鏡の一部であるHyper Suprime-Cam(HSC)用に直径600mmの大口径フィルタを製作しました。
この大型赤外線望遠鏡は、ハワイのマウナケア山頂に位置し、HSCは116個のCCD素子を備え、約8億7000万画素の超広視野デジタルカメラです。フィルタの製作は高い難易度を伴い、均一な分光特性を確保するために緻密なコーティングが必要で、1年以上の開発期間が費やされました。
HSC用の他にも様々なフィルターやウィンドウの製作経験を通じて、高精度なフィルタ提供において日本真空光学は成膜技術の高度なスキルを展開し、今後も天文学や研究分野に貢献し続けます。
対象製品 | ナローバンドパスフィルタ |
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レンズ曲面へ特性ムラを抑えたコート技術を開発
曲率およびサイズが大きなレンズに対する反射防止膜コーティング技術を開発しました。
通常のコーティングでは特に曲率が大きい場合に生じる特性や色ムラの問題を解決するため、特殊な製法を使用して膜厚を均一に制御し、レンズ面内での特性の均一性を確保しています。
この技術は宇宙観測用途にも応用されており、産業用途においては精密描画システムや露光装置などでのレンズコーティングにおいて有用です。
対象製品 | 反射防止膜 |
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半導体製造装置用フィルター・ミラーコーティング
半導体製造装置や液晶・OLED用の設備装置向けに使用されるフィルター・ミラーの製造を行っています。
これらの製品は紫外線光源に対する高い耐久性が求められ、特に波長の短い紫外線光源の使用増加に伴い、高耐久性の膜質が更に要求されています。
当社は成膜プロセスの最適化を図り、使用する膜材料の分光損失を低減させ、高耐久性の膜質を実現しました。光源ごとの異なる要件に対応するため、常に最適な製品を提供できるよう、成膜プロセスと材料の選択にも注意を払っています。今後もお客様の要望に応えるために、半導体分野でのフィルター・ミラーの開発に取り組んでいきます。
導入内容 | 半導体露光装置 FPD用露光装置 OLED製造装置 |
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導入目的 | 紫外線耐久性向上 |
対象製品 | コールドミラー・フィルタ |
日本真空光学株式会社について
会社概要
出展団体名 | 日本真空光学株式会社 |
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所在地 | 〒100-8405 東京都 千代田区丸の内一丁目5番地1号 新丸の内ビルディング |
設立年月 | 1960年10月 |
従業員規模 | 101名-500名 |
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