SPM(走査型プローブ顕微鏡)の一種であるAFM(原子間力顕微鏡)。この記事では、AFM(原子間力顕微鏡)とはどのような装置なのかや、仕組み、用途、メリット、弱点などについて詳しく解説していきます。
AFM(原子間力顕微鏡)は、「Atomic Force Microscope」の略称で、SPM(走査型プローブ顕微鏡)の一種です。微小な針(深針/プローブ)で試料をなぞり、形状や性質を観察でき、試料の表面形状を三次元画像として記憶できます。
AFMの分解能は非常に高く、測定できる範囲は深針のサイズにもよりますが、サブナノレベル以上の分解能を持っています。
原子間力を用いて測定するAFMでは、導体・半導体・絶縁体などあらゆる試料を測定できるのが主な特徴です。
またAFMは、測定する際に試料に対して与えるダメージが少ないため、傷をつけることなく測定できます。非接触で測定できるモードも搭載されているので、壊れやすい試料や柔らかい試料でも測定可能です。
SEM(電子顕微鏡)は、電子線を当てて対象となる試料を拡大して観察する顕微鏡です。どちらも試料表面の凹凸を測定できるAFMとSEMですが、AFMはSEMにできない高さデータの数値も取り込むことができます。
またAFMは、試料の前処理をする必要がないので手軽に測定ができるというメリットもあります。
さまざまなメリットを持つAFMですが、ここではその中でも特記すべきメリットを2つご紹介します。
AFMは空間分解能が極めて高いため、ナノスケールでの測定が可能です。測定可能な空間分解能は深針のサイズにもよりますが、原子レベルの検出が実現するといわれています。
AFMの一般的な観察範囲は、光学顕微鏡の0.2μm〜1mmよりも小さい30μmまで観測可能です。nmにも対応しているため、光では観察できない微小物体を検出できます。
AFMは測定時のダメージが少ないため、試料の電気物性、摩擦・粘弾性、磁気物性などの高精度な測定が可能なため、さまざまな使い方ができます。
例えば、分解能の高さや精度の正確さを求められる半導体分野をはじめとした、ゴム、プラスチック、繊維などの分野でも活躍しています。
AFMは、高温や低温、真空中、大気中、液体中などのあらゆる環境下でも安定した測定ができるので、多様なニーズに対応することが可能です。
AFMはステージ(台)に乗せた試料を、深針やレーザーを用いて計測していきます。ナノサイズの深針を取り付けたカンチレバーを試料からナノサイズの距離まで近づけて、針先と試料の間に働く原子間力を検出することで、試料表面の凹凸を測定します。
カンチレバーには微小な板バネが取り付けられており、試料表面に凹凸があると、原子間力によってカンチレバーが反ります。そこにレーザーを当てることで、反射角の変化で測定ができる仕組みです。
AFMはさまざまな試料の種類を測定することができるため、幅広い分野で活用されています。ここでは、AFMの主な用途をご紹介します。
ポリマーには天然樹脂や合成樹脂などがあり、日常のあらゆるところで利用される材料です。多様な物性があるポリマーでは、さまざまな研究にAFMが活用されています。
半導体・マイクロエレクトロニクス分野では、過去20年にわたりAFMが多くの技術進化に重要な役割を果たしています。例えば、材料や化学、エンジニアリング、コンピューターサイエンスなどの全分野、さらには生物学にまでおよびます。
薄膜・コーティングにおいてのAFMは、食品包装や太陽光発電などあらゆる方向で活躍しています。AFMは電気的・機械的・磁気的特性があり、ナノスケールでの測定が可能なので、材料の性能評価を必要とされる重要な場面で使われます。
AFMは、生きたままのサンプルの分子構造を解明することができるツールなので、生体分子や生体膜、生体分子集合体などの研究などに使われます。水を含んだままの状態でも、下処理なしでそのまま観察できるため、生理学的条件にほぼ近い状態での測定が可能です。
炭素原子が結び付き六角形のパターンで作られる2児原材料のグラフェンの技術進歩においても、AFMは使用されています。グラフェンは熱に弱く、破壊強度が高いですが、AFMならサンプルを破壊することなく測定することができます。
AFMはウイルス研究にも、強力なツールのひとつとなっています。高分解能のAFMやSEMを活用することで、ウイルス粒子の形状やサイズ、組織なども観察可能です。
特にAFMは、温度や薬物分子の有無などの異なる環境条件での観察も可能なので、薬物や化学物質、抗体などがウイルスに及ぼす影響を研究するのに適しています。
AFMの測定モードは、大きく分けて以下の2種類があります。
AFMでは接触だけでなく非接触でも高い分解能が期待できるので、あらゆる種類の試料を観測することができます。コンタクトモードは、比較的硬めの試料の観測を得意としますが、シンプルな構造なので扱いやすく、正確性が高いのがメリットです。
一方ダイナミックモードは、直接試料に深針が触れないため、柔らかい試料や動きやすい試料、凹凸の大きい試料などにも対応できます。コンタクトモードに比べると、分解能が劣るものの、サンプルのサイズが数μm以上あれば大きな違いはないといわれています。
AFMはメリットがある一方、気を付けなければいけない弱点もいくつかあります。
AFMの計測スピードは、光学顕微鏡の方が優れています。従来のAFMでは、1枚の画像をスキャンするのに数分から数十分の時間がかかります。
例えば、DNAやタンパク質などの生物試料の場合、測定時間が長くなると正確な測定ができないケースも考えられるでしょう。
計測時間のスピード感を考えるなら、光学顕微鏡が適しています。
AFMは試料表面の構造や高さなどを測定できますが、深針が取り付けられたカンチレバーで試料表面をスキャンして測定するため、物質の内部まで観察することはできません。
しかし2021年に、金沢大学ナノ生命科学研究所とスイス連邦工科大学、産業技術総合研究所らの共同研究グループにおいて、生きた細胞の内部を直接観察できるAFM技術の開発に成功しています。
現在のAFMは、物質の内部まで観察することは難しいですが、技術は日々進化しているので今後の展開に期待できます。
参考元:金沢大学ナノ生命科学研究所|生きた細胞の内部をナノレベルで直接観察する「ナノ内視鏡AFM」の実験マニュアルを公開|NanoLSI
AFMには、シンプルな作りのものからさまざまな機能を搭載したスペックの高いものまで種類が豊富にあるので、その価格も幅広いです。
シンプルな構造のAFMであれば500万円程度から購入でき、最高級モデルになると数千万円以上するAFMもあります。
AFMの価格は、スキャナーのタイプや範囲、対応できるサンプルのサイズ・重量、測定モード、解像度、ノイズレベルなどによって左右されます。どのような機能が必要なのかや、求める部分はどこなのかを検討して導入するAFMを選ぶ必要があります。
幅広い試料の観察に利用できるAFMは、ナノスケールの小さい微小物体も観察でき、あらゆる環境下で安定した測定結果を得られます。
ただし計測に時間がかかったり、物体の内部構造の観察には不向きの点には注意が必要です。
さまざまな分野で幅広く活躍するAFMですが、特徴や仕組みなどもしっかり理解しておきましょう。