衝撃試験は、製品や材料の耐久性や信頼性を評価する際に不可欠な手法です。さまざまな産業分野で使用されており、材料強度だけでなく、自動車、航空宇宙、電子機器などの製品開発においても重要な役割を果たしています。
今回は、衝撃試験について、基礎知識から実際の試験対象や用途まで詳しく解説していきます。
衝撃試験とは、材料や製品の強度を調べる試験のことを言います。身の回りにある生活用品から産業用に使用される設備用パイプまで、さまざまなものが試験の対象です。
衝撃試験の目的は、材料や部品、製品などの「靭性」や「脆性」などを調べ、どのくらいの強度や耐久性があるのかを確認することです。
自動車や航空機に用いられる部品の衝撃試験の結果は、実際にその部品を生産するにあたって、どのくらいの安全率を取るべきかの指標を策定する際に参考にされます。
「靭性」とは、一言で表すと「ねばり強さ」です。
金属などの材料や部品が脆く壊れてしまうと、急にポキッと折れ曲がってしまうことになり非常に危険です。
靭性があれば、急に折れ曲がることはなく、徐々に形を変形しながら潰れていきます。自動車のボディの場合は靭性があることで、事故が起きた際に衝撃吸収の役割を果たすことができるのです。
また、この靭性というねばり強さを持つために、金属などの材料は、プレスや叩いて加工ができるとも言えます。
「脆性」とは、「靭性」とは真逆で、形が変形しないうちに破壊してしまう性質のことを言います。
例えば、窓ガラスなどは強い衝撃が加わった際に、凹んだりすることなく一瞬で割れてしまいます。
このように、「靭性」の性質が強い材料と「脆性」の性質が強い材料とではまったく特性が異なり、使用される用途にも違いが生じるのです。
衝撃試験の対象となるのは、金属やガラス、コンクリートといった建材から、おもちゃやスマートフォン、液晶パネルといった製品まで、非常に多種多様です。
衝撃試験の対象となる材料は金属、ガラス、プラスチック、コンクリートなどの建材です。材料の衝撃試験を行う際は試験片と呼ばれるものに対して衝撃を与えて実験します。
衝撃試験の対象となる製品は、自動車や家電、建材などが挙げられますが、これ以外にもあらゆる製品が対象となっています。
床をコンクリートにするなど、実際の使用状況を再現した場所で行うことがよくあります。
衝撃試験の原理は試験方法によって異なります。
衝撃試験で一般的なのは「振子式衝撃試験」と呼ばれる、ハンマー(振子)を用いた衝撃試験です。
「振子式衝撃試験」は「アイゾット衝撃試験」「シャルピー衝撃試験」「引張衝撃試験」の3種類があり、どれもハンマーを用いますが、ハンマーの用い方などで異なっています。
後ほど衝撃試験の種類で詳細を説明しますが、「アイゾット衝撃試験」と「シャルピー衝撃試験」ではハンマーを対象に衝突させて性質を調べますが、「引張衝撃試験」ではハンマーで対象を引っ張ることで性質を調べます。
構成要素も衝撃試験によって異なりますが、一般的に「ハンマー」「アンビル」「試験片」の3つから成り立っています。それぞれ詳しく説明していきます。
ハンマーは試験片などの対象に衝撃を与えたり、引張を加えるために用いられる部分です。
「アイゾット衝撃試験」と「シャルピー衝撃試験」では、ハンマーを実際に試験片と衝突させ、試験片を破壊した後などにどのような動きをするかによって対象の性質を調べることができます。
ハンマーはJIS規格で規定されており、ハンマーの「長さ」「ひょう量」「衝撃速度」などの数値が決まっています。
基本的にシャルピー衝撃試験の場合、JIS規格では、ハンマーは0.5J~5Jで使用されるものと、7.5J~25Jで使用されるものの2本があります。さらに、ASTM規格では衝撃速度が異なるため別のハンマーが必要になります。
また、JIS規格とASTM規格では打撃刃などが異なる場合があり、どちらの刃も兼用して試験する場合もあります。
アンビルは試験片を支持して、適切にハンマーから衝撃を与えられるようにする部分のことです。
アイゾット衝撃試験では、試験片の片側を固定するためのアンビルが用いられます。一方、シャルピー衝撃試験では、試験片の両側を固定します。
アンビルも、支持台の逃げ角やすくい角などがJIS規格によって規定されています。JIS規格とASTM規格で異なるため、どちらも行いたい場合は2種類のアンビルの用意が必要です。
試験片は、対象の材料でできている直方体状の物質のことを言います。
試験片の中央部分にはノッチと呼ばれる切り欠きが入っており、JIS規格では、ノッチの深さは2mmと規定されています。
また、試験片の大きさや長さもJIS規格やASTM規格で規定されています。
シャルピー衝撃試験では、ハンマーから衝撃が加わった際に破壊されます。
打撃方向は、ハンマーが試験片と衝突する際の方向のことを言います。
アイゾット衝撃試験では、切り欠きの入ったノッチ方向から打撃を与えますが、シャルピー衝撃試験ではノッチがない方向から打撃を与えるようにJIS規格で規定されています。
さまざまな衝撃試験が存在しており、それぞれ用途や対象の大きさなどに合わせて行われます。
<h3>アイゾット衝撃試験(JIS K 7110)
アイゾット衝撃試験は、試験片の片側のみを固定し、ハンマーを振り落として直接打撃を与える試験方法です。
試験片のノッチが入っている方向にハンマーで衝撃を加えた後、ハンマーがどこまで高く振り上がり、どのような動きをするか観察することで材料の特性を確認します。
試験片に打撃を加えた後にハンマーが高く振り上がらなかった場合は、試験片は衝撃を吸収したと言えます。一方で、ハンマーが高くまで振りあがってしまったときはうまく衝撃を吸収できなかったということになります。
シャルピー衝撃試験は、試験片の両側を固定して、ハンマーを振り落として直接打撃を与える試験方法です。
試験片は、ノッチが入っていない方向からハンマーで衝撃が加えられます。
アイゾット衝撃試験と同じく、衝撃を加えた後のハンマーの動きで素材の靭性を確認します。
引張衝撃試験は、試験片をハンマーで引っ張ることによって強度を確かめる試験方法です。
繊維やゴムなどの柔軟すぎてアイゾット衝撃試験などでは調べることができない材料などの強度を調べる際に用いられます。
支持台に固定し、ハンマーが振り下がり終わったときに引っ張り始めるインベース法とハンマーが振り下がると同時に引っ張るインヘッド法の2種類があります。
落球衝撃試験は、剛球を一定の高さから対象に落として強度を確かめる試験です。
スマートフォンなどの液晶パネルがついた製品が対象になることが多いです。
これらの製品は、製品自体を自然落下させても姿勢が安定しません。試験結果に誤差が生じやすい傾向があるため、落球衝撃試験で疑似的に自然落下させている状況をつくりだしています。
デュポン衝撃試験は、落球衝撃試験と同じく一定の高さから撃ち型を落下させ、試験片に打撃を加える試験です。
落球衝撃試験との違いは、窪みが付いている受け台に試験片を固定する点と、剛球ではなく撃ち型を使用する点です。
デュポン衝撃試験では、塗膜などの材料の衝撃による剥がれやすさを調べるために用いられることが一般的です。
ダートインパクト試験は、半球状のダートを対象の試験片に落下させて、試験片の損傷の度合を確かめる試験です。
プラスチック板やガラスなどの素材の強度を調べるために用いられます。
衝撃試験は衝撃試験機を使用して行います。
衝撃試験機は衝撃試験によって異なりますが、先ほどの「ハンマー」「アンビル」などから構成されています。
衝撃試験機は計測結果をアナログで表示するものとデジタルで表示するものに分類されます。
アナログ衝撃試験機は指針が付いており、ハンマーがどれだけ振り上がったのかを指針で確認できますが、この指針によって摩擦が生じてしまい、JIS規格の許容値から逸脱してしまう可能性があります。
また、許容値内でも摩擦損失の計算をしなければならず、実験結果を求めるには少し手間がかかります。
デジタル衝撃試験機は指針がないため、アナログ衝撃試験機と比べて正確な数値を求めやすい傾向があります。ただし、アナログよりも価格が高いという短所もあります。
衝撃試験の他にも強度を調べる試験があります。製品や用途によっては衝撃試験以外の試験も必要になるケースがあります。
引張試験は対象の材料や製品の引張強度を調べます。
引張衝撃試験ではハンマーが試験片を急激に引っ張ることで衝撃を加えていましたが、引張試験では一定の速度で引っ張ることで引張強度を調べます。
圧縮試験は、試験片などに少しずつ荷重を加えることで材料の圧縮強度を調べる試験です。
包装用の材料や製品が対象になることが多いです。
衝撃試験は日々の暮らしを支える製品から、産業で重要な役割を果たす設備に至るまでさまざまな部材などの強度を調べる際に行われており、安全な日常生活や生産活動を行う上で欠かせないものです。
適切な衝撃試験が行われなければ衝撃試験は意味を持たないので、しっかりと衝撃試験の対象となる材料や製品で確かめたい特性が何なのかを確認した上で衝撃試験を行いましょう。