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チップアッテネータの基礎知識|選定のポイントと実装技術

高周波回路や通信機器の設計において、チップアッテネータは信号の反射を防ぎ、システム全体の動作を安定させる重要な役割を担っています。

本記事では、単なる信号レベルの調整にとどまらないインピーダンス整合のメカニズムや、自作回路と専用チップの構造的な違いを解説します。また、薄膜・厚膜プロセスの特性差や実装時の熱設計など、最適な部品選定に役立つ技術的なポイントを紹介します。

現代のエレクトロニクス設計におけるチップアッテネータの役割

信号レベル調整から「インピーダンス整合」へ

チップアッテネータは、従来、信号の強さを適切に下げる「レベル調整」のための部品として認識されてきました。 しかし、5G(第5世代移動通信システム)やADAS(先進運転支援システム)の普及に伴い、現在では回路のインピーダンス(交流回路における電気抵抗)を合わせる「インピーダンス整合」が主要な役割となっています。

高周波の電気信号は、回路の継ぎ目でインピーダンスが一致していないと、信号の一部が元来た方向へ跳ね返る「反射」を起こす性質があります。 この反射波は、信号の波形を歪ませたり、送信電力をロスさせたりする原因となります。

アッテネータを挿入することで、この不要な反射波を熱エネルギーとして吸収し、回路網の「定在波比(VSWR)」を改善できます。 特に波長が数ミリメートルとなるミリ波帯域では、アッテネータがシグナルインテグリティ(信号品質)を保証する重要な防波堤として機能しています。

回路の安定性を高める「アイソレーション」効果

アッテネータには、前段と後段の回路を電気的に切り離し、相互の影響を抑える「アイソレーション(分離)」という効果もあります。

例えば、アンテナなどの負荷側のインピーダンスは、周囲の環境や周波数によって変動することがあります。 この変動がそのまま前段のアンプや発振器に伝わると、動作が不安定になり、最悪の場合は異常発振を引き起こすリスクがあります。

回路ブロックの間にアッテネータを「緩衝材(バッファ)」として配置することで、後段の状態が変化しても、前段からは常に安定した負荷が見えるようになります。 これにより、予期せぬトラブルを防ぎ、システム全体の信頼性を高めることが可能です。

インピーダンス整合とVSWR改善の物理的メカニズム

「往復減衰」によるリターンロス改善の原理アッテネータを回路に挿入すると、インピーダンス不整合による反射波の影響を劇的に低減できます。その理由は、反射波がアッテネータを「行き」と「帰り」で合計2回通過するためです。

信号源から出た波は、アッテネータで一度減衰して負荷に届きます。そこで発生した反射波は、信号源へ戻る際にもう一度アッテネータを通り、さらに減衰します。

つまり、アッテネータの減衰量をA(dB)とすると、信号源から見た反射波(リターンロス)は2×A(dB)分だけ改善されることになります。以下の表は、不整合な状態(VSWR 3.0)にアッテネータを追加した場合の改善効果を示したものです。

挿入アッテネータ 改善後の
リターンロス
実効VSWR
なし 6.0 dB 3.00 : 1
3.0 dB 12.0 dB 
(6 + 2×3)
1.67 : 1
6.0 dB 18.0 dB
(6 + 2×6)
1.29 : 1
10.0 dB 26.0 dB
(6 + 2×10)
1.11 : 1

このように、わずか数dBのアッテネータを入れるだけで、反射波の影響を大幅に抑え込み、回路を安定させることができます。

スミスチャート上の挙動と整合イメージ

この整合改善の様子は、インピーダンスを視覚的に表す「スミスチャート」を使うと直感的に理解できます。スミスチャートの中心は、反射のない完全な整合状態(通常50Ω)を表し、外周に行くほど反射が強い状態(全反射)を示します。

アッテネータを回路に接続することは、チャート上のインピーダンス点を中心に向かって引き寄せる操作に相当します。

例えば、チャートの最外周(全反射)にある点に10dBのアッテネータを接続したとします。反射波の振幅は-20dB(1/10)になるため、チャート上では中心に向かって劇的に収縮し、半径0.1の円の内側に収まります。

これにより、後段の回路のインピーダンスが周波数によって変動したとしても、前段からは常に中心付近の安定した負荷に見えるようになります。これが、アッテネータがVSWR(電圧定在波比)を改善する視覚的なイメージです。

ディスクリート回路と専用チップアッテネータの構造的差異

π(パイ)型・T型回路のトポロジー

アッテネータの内部構造は、主に「π(パイ)型」と「T型」と呼ばれる2種類の抵抗ネットワークで構成されています。

π型は1つの直列抵抗と2つの並列(シャント)抵抗を組み合わせた形状で、ギリシャ文字の「π」に似ていることから名付けられました。 一方、T型は2つの直列抵抗と1つの並列抵抗で構成され、アルファベットの「T」のような形をしています。

これらの回路定数は、必要とする減衰量によって変化する傾向があります。 例えばπ型の場合、減衰量を大きくしようとすると、直列抵抗の値が増加し、並列抵抗の値は減少します。

対照的にT型では、減衰量が増えるにつれて、グラウンドへ落ちる並列抵抗の値が極端に小さくなる特性があります。 自作で回路を組む場合、こうした抵抗値の極端な変化が部品選定の難易度を高める要因となります。

高周波帯域における「分布定数」的設計の優位性

30GHzを超えるマイクロ波やミリ波帯域になると、一般的な抵抗器を組み合わせた「集中定数回路」としての設計には限界が生じます。 この領域では、電気信号の波長が短くなり、抵抗体自体の物理的な長さや大きさが無視できなくなるためです。

専用のチップアッテネータは、抵抗膜そのものを伝送線路として扱う「分布定数回路」の考え方を取り入れて設計されています。

具体的には、抵抗体の形状を工夫することで、高周波で発生する寄生容量(意図しないコンデンサ成分)と寄生インダクタンス(コイル成分)が互いに打ち消し合うように調整されています。 これにより、自作回路では実現が難しい、DC(直流)から100GHzを超える帯域までの平坦な周波数特性を実現しています。

製造プロセスによる特性の違い:薄膜(Thin Film)と厚膜(Thick Film)

厚膜技術:コストと耐電力性のバランス

厚膜(Thick Film)抵抗は、エレクトロニクス業界で最も広く普及しているタイプです。製造プロセスでは、酸化ルテニウムなどの金属酸化物とガラスを混ぜたペーストを、セラミック基板上にスクリーン印刷し、高温で焼き固めます。

この技術の最大のメリットは、製造コストが安く、かつ膜厚が厚いためにサージエネルギー(瞬間的な過大電流)や熱に対する耐性が高い点です。電源回路や汎用的な信号ラインなど、コストと堅牢性が求められる用途に適しています。

一方で、印刷技術を用いるため精度の限界があり、抵抗値の許容差(トレランス)は通常1%〜5%程度にとどまります。また、導電粒子がガラスの中に分散している構造上、電流ノイズが発生しやすく、高周波領域では寄生容量(意図しないコンデンサ成分)の影響で特性が劣化しやすいという弱点もあります。

薄膜技術:高周波・高精度の実現

5G/6G通信や精密計測機器など、高い信号品質が求められる分野では薄膜(Thin Film)技術が主流です。こちらは、真空中でスパッタリング(微細な粒子を付着させる技術)を行い、ニクロム(NiCr)や窒化タンタル(TaN)といった金属合金を原子レベルで均一に成膜します。

その膜厚はオングストローム(Å)オーダーと極めて薄く、厚膜の数千分の一程度しかありません 。この薄さが、高周波信号が導体の表面に集中する「表皮効果」の影響を最小限に抑え、DC(直流)から100GHzを超える帯域までフラットな周波数特性を維持することを可能にしています。

また、写真製版技術(フォトリソグラフィ)で回路パターンを形成するため形状精度が非常に高く、極めてノイズの少ないクリアな信号伝送を実現できるのが特徴です。

高周波性能を左右する実装技術と寄生成分

寄生リアクタンス(Ls, Cp)との戦い

周波数が10GHzを超えるような高周波領域では、部品のわずかな形状が回路の性能を阻害する要因となります。 部品の電極の長さや、抵抗値を調整するために入れた切り込み(トリミング溝)が、意図しないコイル(寄生インダクタンス/Ls)やコンデンサ(寄生容量/Cp)として機能してしまうためです。

これらはインピーダンスを上昇させたり、高周波信号を漏洩させたりして特性を悪化させます。 そのため、高性能なチップアッテネータでは、0402サイズ(1.0×0.5mm)などの超小型パッケージを採用し、物理的な長さを極力短くしています。

さらに、内部構造においても寄生成分同士が打ち消し合うような緻密な計算に基づいた設計が行われています。

実装手法の選定:ワイヤボンディングからフリップチップへ

部品単体の性能だけでなく、基板への接続方法も重要です。 従来一般的だった金線で接続する「ワイヤボンディング」は、ミリ波帯においてはワイヤ自体が大きなインダクタンス(抵抗成分)を持ち、回路の不整合を引き起こす原因となります。

これに対し、チップを裏返して端子を直接基板に接続する「フリップチップ(フェースダウン)実装」が有効です。 ワイヤを介さないため寄生インダクタンスを極限まで低減でき、高周波特性が飛躍的に向上します。

また、実装時には基板側の設計も鍵を握ります。 アッテネータのグラウンド端子の直下に「グランドビア(層間を接続する穴)」を配置し、グラウンドまでの距離を最短にすることで、性能劣化を防ぐ工夫が求められます。

長期信頼性を確保するための選定ポイント

環境耐性と銀の硫化腐食対策

厚膜チップアッテネータの電極には、一般的に導電性の高い「銀」が使用されますが、これには「硫化」しやすいという弱点があります。

工場や自動車の排気ガスなどに含まれる微量な硫黄成分が銀と反応すると、絶縁性の硫化銀が生成されます。この硫化銀が針状結晶(ウィスカ)として成長すると、保護膜を突き破って電極間をショートさせたり、導電経路を侵食して断線を招いたりする重大な故障につながります。

こうしたトラブルは市場に出てから数年後に発生することもあるため、ゴム製品の近くや屋外など硫黄ガスのリスクがある環境では、電極に金を使用したり、特殊な保護層で銀を覆った「硫化対策品」を選定することが重要です。

長期信頼性を確保するための選定ポイント

環境耐性と銀の硫化腐食対策厚膜チップアッテネータの電極には、一般的に導電性の高い「銀」が使用されますが、これには「硫化」しやすいという弱点があります。

工場や自動車の排気ガスなどに含まれる微量な硫黄成分が銀と反応すると、絶縁性の「硫化銀」が生成されます。この硫化銀が針状結晶(ウィスカ)として成長すると、保護膜を突き破って電極間をショートさせたり、導電経路を侵食して断線を招いたりする重大な故障につながります。

こうしたトラブルは市場に出てから数年後に発生することもあるため、ゴム製品の近くや屋外など硫黄ガスのリスクがある環境では、電極に金を使用したり、特殊な保護層で銀を覆った「硫化対策品」を選定することが重要です。熱設計とディレーティング、パルス耐性アッテネータは電気エネルギーを熱に変換して消費する部品であるため、熱設計が信頼性の鍵を握ります。

選定の際は「電力軽減曲線(ディレーティングカーブ)」を確認し、周囲温度の上昇に合わせて許容電力を下げる運用を厳守してください。特に注意が必要なのが、レーダー信号のようなパルス波形を扱う場合です。

抵抗値を調整するために削られた「トリミング部(くびれ)」に電流が集中し、局所的な異常発熱(ホットスポット)が発生して、平均電力が定格内でも一瞬で断線に至るケースがあります 7。パルス耐性の高い専用品を選ぶとともに、基板の銅箔厚を増やして熱を逃がすなど、十分な放熱対策を行うことが不可欠です。

まとめ

  1. チップアッテネータは単なる抵抗の集合体ではなく、インピーダンス整合を行いシステム全体の動作を安定化させる、極めて戦略的なコンポーネントです。
  2. 単価の安さだけで選ぶのではなく、使用する周波数帯域や求められる精度に応じて「薄膜(高周波・高精度)」と「厚膜(コスト・耐電力)」を適切に使い分ける視点が欠かせません。
  3. 硫化ガスへの対策や十分な熱設計など、実装環境まで考慮した部品選定が、将来の市場クレームを防ぎ、製品の長期的な信頼性を決定づけます。

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