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金属検出機とは?基本原理や食品製造業における選定ポイントを解説

食品製造業における品質管理の最前線では、異物混入事故は単なる製品トラブルに留まらず、消費者の健康被害、そして企業の信頼を揺るがす深刻な事態へと発展する可能性があります。このような背景の中で、金属検出機は食品の安全と品質を確保するための不可欠なツールとして、その重要性を増しています。

本記事では、食品製造業の品質管理担当者に向けて、金属検出機の基礎知識から、最適な機種の選定、導入後の確実な運用・保守方法に至るまで、網羅的に解説します。

金属検出機とは?

金属検出機は、製造工程における原料や最終製品に混入した、目視では発見が困難な金属異物を高精度で検出するための装置です。

その最大の役割は、消費者の安全と安心を確保することにあります。万が一、金属片が混入した食品を消費者が口にしてしまえば、口腔内を傷つけるなどの危害を被る可能性があり、このような事故を未然に防ぐことが金属検出機の最も重要な役割です。

食品安全管理手法「HACCP」における位置付け

金属検出機は、食品業界で義務化が進む食品安全管理手法「HACCP」において、非常に重要な位置づけを占めています。金属混入はHACCPが管理すべき3大危害要因の一つとされており、特に最終製品検査の工程では、金属検出が「重要管理点(CCP)」として設定されることが一般的です。このため、金属検出機は単なる検査機器ではなく、法規制への準拠と製品の安全性を担保するための基盤的なインフラと言えます。

製造ラインの保護と企業の信頼維持

消費者保護だけでなく、金属検出機は製造工程自体の保全にも大きな役割を果たします。製造ラインの初期段階、例えば原料投入前に金属異物を検査することで、後続の製造装置や機械に金属片が噛み込んでしまうことによる故障を防ぐことができます。これにより、高価な設備の修理費用や、生産ラインの停止による莫大な損失を回避することが可能となります。

さらに、異物混入事故は、企業の信用や評判を著しく低下させるリスクをはらんでいます。一度失った信用を取り戻すのは容易ではありません。金属検出機を導入し、確実な検査体制を構築することは、事故を未然に防ぐだけでなく、消費者や取引先に対する企業の高い品質意識を証明し、長期的な信頼関係を維持する上でも不可欠な要素となります。

金属検出機の基本原理

電磁誘導方式の仕組み

多くの金属検出機に採用されている「電磁誘導方式」は、磁界の乱れを利用して金属を検出する仕組みです。装置の内部には、交流電流を流して交変磁界を生成する「発信コイル」と、この磁界の変化を検知する2つの「受信コイル」が配置されています。

通常、製品が検出ヘッドを通過する際、2つの受信コイルが受ける磁束は均等で、平衡状態が保たれています。しかし、金属異物がこの磁界の中に入ると、異物の内部に「渦電流」という電流が発生し、この渦電流が元の磁界を歪ませます。この歪み、すなわち磁界の乱れを2つの受信コイルが捉え、そのバランスが崩れることで、金属の存在を正確に判定するのです。

磁性金属と非磁性金属の検出メカニズム

金属には大きく分けて「磁性金属」と「非磁性金属」の2種類があり、検出機はそれぞれの特性に応じた方法で検知します。

磁性金属
(鉄、コバルト、ニッケルなど)

これらの金属は磁場に強く反応する性質を持っています。磁性金属が磁界に入ると、磁力線が金属に引っ張られるように変化し、この変化を受信コイルが検知します。

低周波の磁場で効果的に検出できるため、鉄片などは比較的容易に検出が可能です。
非磁性金属
(ステンレス、アルミニウム、銅など)
磁場に反応しにくいこれらの金属は、高周波の磁場を用いることで検出されます。磁界に入った際に発生する渦電流が磁界を歪ませることで、その存在が検知されます。

特にステンレス鋼(オーステナイト系など)は非磁性であり、高周波磁界で効果的に検出されます。

製品影響と位相の概念

高度な金属検出機を理解する上で不可欠なのが「製品影響」と「位相」の概念です。製品が検出ヘッドを通過する際、金属異物がなくても、製品自体が磁界に影響を与えることがあります。特に水分や塩分を多く含む食品(ハム、漬物など)は、導電性があるために金属と同様に渦電流を発生させ、まるで金属が混入しているかのような信号を発生させてしまいます。

これが「製品影響」であり、誤検出の主な原因となります。この課題を解決するために、金属検出機は「位相」という信号の電気的な性質を利用します。位相は、磁界の変化の方向やタイミングを角度で示したものであり、機器は製品影響による信号がゼロになる特定の位相を特定することで、異物による信号だけを正確に判別できるようになります。

しかし、製造ラインでは製品の温度や形状にばらつきが生じることがあり、これによって位相がずれてしまうことがあります。そこで重要となるのが、製品のばらつきによる位相のズレを自動的に補正し、常に最適な感度を維持する「オートトラッキング機能」です。この機能は、単なるスペックではなく、現実の製造現場における不安定な要因を吸収し、安定した運用を可能にするための重要な技術なのです。

金属検出機の主なタイプ

金属検出機は、検査対象の製品形態や生産ラインの構成に応じて、主に以下の3つのタイプに分類されます。

コンベヤ式金属検出機

ベルトコンベヤの上に製品を載せて移動させながら検出する最も一般的なタイプです。冷凍・チルド食品などの固形物や、袋詰め・箱詰めされた包装済み製品の検査に適しており、質量の大きい製品も検査が可能です。生産ラインに組み込みやすく、連続的な検査が可能であるため、多くの食品工場で最終製品検査に利用されています。

金属異物が検出された際は、エアーブロワーやプッシャーなどの排除機構によって、自動的に不良品をコンベヤ上から取り除くことができます。

自由落下式金属検出機

粉体や顆粒状の製品が、重力によってパイプ内を自由落下する過程で金属異物を検出するタイプです。主に原料の投入段階で使用され、この段階で異物を検出・排除することで、後続の工程で異物が拡散することを防ぎ、製品廃棄ロスの削減にもつながります。粉体、顆粒状の食品、穀類、錠剤などの検査に広く用いられています。

パイプライン式金属検出機

パイプラインの内部に検査対象となる液体や粘性のある製品を流しながら検出するタイプです。スープや飲料、調味料、ジャム、ミンチ、ひき肉など、流動性のある製品の検査に適しています。パイプ内を製品が流れるため、非接触での検査が可能であり、衛生面で非常に優れています。食品・化学・製薬メーカーなど、様々な業界で使用実績があります。

金属検出機の選定ポイント

検査対象製品の特性を把握する

金属検出機の導入を成功させるためには、まず検査対象となる製品の特性を詳細に把握することが不可欠です。製品の特性は、検出感度に大きな影響を与えるため、以下の点を考慮して機種を選定する必要があります。

製品のサイズ・形状 検査品のサイズが大きいほど、また複雑な形状であるほど、小さな金属の検出は難しくなります。
水分・塩分量 前述の通り、水分や塩分を多く含む製品は、製品影響が大きくなり、感度が低下したり、誤検出を引き起こしたりするリスクが高まります。
温度 冷凍品など、温度にばらつきがある製品も同様に誤検出の原因となるため、温度変化による影響を抑制できる機能(位相追従機能など)の有無を確認する必要があります。

これらの要因が複合的に作用し、運用の負担増大や生産性の低下につながる可能性があります。そのため、製品の特性による検出感度の変動を抑制できる「マルチ周波数対応」や「オートトラッキング機能」の有無、そしてそれらを適切に設定できる技術的な知見が重要となります。

求められる検出感度

次に、どのような異物を、どの程度の精度で検出したいのか、具体的な検出感度を明確にする必要があります。一般的に、検出感度は、鉄球(Fe)とステンレス球(SUS304)の最小直径で示されます。製品のリスク分析に基づき、必要な感度要件を決定しましょう。

生産ラインへの適合性

生産ラインの速度や設置場所の制約も重要な選定ポイントです。機器がラインの搬送速度に対応できるかを確認するほか、金属検出機は外部の電磁ノイズに弱いため、大型モーターを使用する機器や他の金属機器から1メートル以上離して設置することが推奨されます。工場内のスペースに限りがある場合は、省スペース設計の機種も選択肢となります。

運用・メンテナンスの容易さ

導入後の運用をスムーズに行うためには、機器の使いやすさやメンテナンス性も欠かせない要素です。

操作性 7インチのカラータッチパネルを搭載した機種など、直感的でわかりやすい操作画面であれば、作業者のトレーニング時間を短縮し、ヒューマンエラーのリスクを低減できます。
清掃性 食品工場では、清掃や衛生管理が極めて重要です。清掃しやすいシンプルな構造や、工具を使わずに簡単にベルト交換ができる機種は、日々の運用負担を大幅に軽減します。
サポート体制 万一のトラブルに備え、メーカーや販売元のサポート体制が充実しているかを確認することも重要です。保守期限、国内拠点、迅速な出張サービスなどが提供されているかを確認し、長期的な安定稼働を視野に入れて検討しましょう。

テストピースを用いた日常点検の重要性

テストピースによる日常点検は、機器の正常動作を確認し、製品の品質を担保する上で最も重要な行為です。

メーカーによる定期点検と校正

日常点検に加え、機器の長期的な性能維持と信頼性確保のためには、メーカーによる専門的な保守点検が不可欠です。

金属検出機とX線検査機の比較

食品工場で金属異物対策を検討する際、しばしば比較対象となるのが「X線検査機」です。両者は得意とする異物の種類や原理が異なるため、自社の製品や混入リスクに応じて最適な選択をすることが重要となります。

金属検出機

磁界の変化を利用する電磁誘導方式により、鉄やステンレス、アルミニウムなど、あらゆる種類の金属を検出することに特化しています。特に、X線検査機が苦手とする薄い金属、例えば剥離した鉄サビやアルミ箔などに対しては、非常に高い感度を発揮します。

X線検査機

物質の密度の違いを利用して異物を検出します。X線が透過しにくい高密度の物質ほど、影が濃く写る原理で検知します。このため、金属異物だけでなく、ガラス、石、硬骨、高密度プラスチックといった非金属の硬質異物も検出できるのが大きな特長です。

併用によるメリット

一見するとX線検査機は万能に見えますが、厚みが非常に薄い異物に対しては透過しやすいため、検出が難しくなるという弱点があります。このため、金属検出機とX線検査機は、優劣の関係ではなく、互いの強みと弱みを補完し合う関係にあります。

両者を併用することで、金属異物だけでなく、ガラス片や石といった非金属異物、さらにはX線検査機では見落としがちな薄い金属まで、あらゆる異物混入リスクを網羅的にカバーすることが可能です。導入コストは高くなりますが、食品安全に対する社会的責任と、万一の事故発生時の企業リスクを総合的に考慮すると、両者の併用は最も包括的かつ効果的な異物対策と言えるでしょう。

まとめ

  1. 金属検出機は、電磁誘導方式を基本とし、目視できない金属異物を高精度に検出する装置です。
    導入には、製品の特性、求められる検出感度、生産ラインへの適合性などを総合的に考慮することが不可欠です。

  2. 導入後も、HACCPの管理基準に基づいたテストピースによる日常点検や、メーカーによる定期的な校正・保守が安定した運用には欠かせません。

  3. 金属検出機とX線検査機は、それぞれに得意・不得意な異物があるため、両者を併用することでより包括的な異物対策が可能になります。

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