小型電磁弁とは?仕組みや種類、選び方のポイントまで解説

製造現場の自動化や装置の小型化が進むなかで、「小型電磁弁」の重要性が高まっています。
空気や水、薬液といった流体を精密に制御するこの部品は、製品の品質や生産性を左右する重要な役割を担います。

本記事では、小型電磁弁の導入を検討されている製造業のご担当者様に向けて、その基本的な仕組みから種類、主な用途、そして選定時に押さえておきたい重要なポイントについて詳しく解説します。

小型電磁弁とは?基本的な仕組みと役割

まず、小型電磁弁がどのような部品なのか、その基本的な構造と役割について見ていきましょう。一般的な電磁弁との違いもあわせて解説します。

電磁石の力で流体を制御するバルブ

電磁弁(ソレノイドバルブ)とは、電気の力を利用して流体(気体や液体)の流れを制御する弁(バルブ)の一種です 1。内部には電磁コイル(ソレノイド)があり、電流を流すことで磁力が発生します。この磁力によってプランジャと呼ばれる可動鉄心が引きつけられ、流体の通り道を開いたり閉じたりするのが基本的な仕組みです。

水道の蛇口に例えると、手でハンドルを回して栓を開閉する代わりに、電気の力で栓を動かしているイメージです。電流を止めると、内蔵されたスプリングの力でプランジャが元の位置に戻ります。このシンプルな構造により、数ミリ秒単位での高速な応答が可能で、自動化された生産ラインなどで精密なON/OFF制御を実現するために不可欠な部品となっています。

一般的な電磁弁との違い

小型電磁弁と一般的な電磁弁の最も大きな違いは、その名の通り、本体のサイズと重量にあります。装置の小型化・高密度化が進む現代の製造業において、限られたスペースに設置できるコンパクトさは非常に重要な要素です。

しかし、「小型」であることの価値は、単に寸法が小さいことだけにとどまりません。近年の小型電磁弁は、消費電力が0.5Wから4W程度と非常に低く設計されている点が大きな特長です。消費電力が低いと、発熱を抑えられるため、熱に弱い部品が密集する装置内でも安心して使用できます。また、PLC(プログラマブルロジックコントローラ)から直接駆動できる製品も多く、制御盤の小型化や配線の簡素化にもつながり、装置全体のコストダウンと設計の効率化に貢献します。

小型電磁弁の主要な作動方式

小型電磁弁は、弁を開閉させる仕組みによって、主に「直動式」「パイロット式」「パイロットキック式」の3種類に分けられます。それぞれの特徴を理解し、用途に応じて適切な方式を選ぶことが重要です。

直動式

直動式は、電磁コイルの吸引力のみで、プランジャに直結した弁体を直接動かして流路を開閉する、最もシンプルな構造の電磁弁です。

この方式の最大のメリットは、応答速度が速いことと、入口側と出口側の圧力差がゼロ(真空や大気圧)の状態でも確実に作動することです。一方で、流体の圧力に逆らって弁を開けるため、流量が大きい(口径が大きい)場合や高圧の流体を制御する場合には、より強力な電磁コイルが必要となり、バルブ本体が大きく、消費電力も高くなる傾向があります。

パイロット式

パイロット式は、比較的小さな電磁コイルで大流量・高圧の流体を制御するために用いられる方式です。電磁コイルは「パイロット弁」と呼ばれる小さな補助弁を操作する役割を担います。そして、そのパイロット弁を通じて主弁に流体の圧力を導き、その圧力差を利用して主弁を動かします。

テコの原理のように、小さな力で大きなものを動かす仕組みであり、消費電力を抑えながら大流量を制御できるのが最大のメリットです 。ただし、主弁を動かすために流体自身の圧力(差圧)を利用するため、作動には「最低作動圧力差」が必要となり、圧力差がゼロの状態では使用できません 。

パイロットキック式

パイロットキック式は、直動式とパイロット式の長所を組み合わせたハイブリッド方式です。基本的にはパイロット式と同様に流体圧を利用しますが、電磁コイルの力に加えて「キックバネ」の力を利用することで、圧力差がゼロの状態でも主弁を強制的に少しだけ開くことができます。

一度わずかに流路が開けば、そこから流れる流体の圧力によって主弁が完全に開くため、パイロット式の省エネ性を保ちながら、差圧ゼロでも作動するという直動式のメリットを両立しています 。

特徴

直動式

パイロット式

パイロットキック式

作動原理

電磁力のみで主弁を直接開閉

電磁力でパイロット弁を開閉し、流体圧で主弁を駆動

電磁力とキックバネで主弁を初期開弁し、流体圧で補助

メリット

応答が速い、差圧ゼロでも作動

消費電力が小さい、大流量・高圧に対応可能

差圧ゼロでも作動、パイロット式の省エネ性を両立

デメリット

大流量・高圧には大型コイルが必要

最低作動圧力差が必要、応答がやや遅い

構造がやや複雑

主な用途

真空、低圧、高頻度作動

大流量のエアシリンダ制御、長時間の通電

差圧が変動するライン、大口径で差圧ゼロ作動が必要な場合

構造や機能による小型電磁弁の種類

作動方式のほかにも、内部の弁構造やポート(配管接続口)の数、通電していないときの状態によって、いくつかの種類に分類されます。これらは、電磁弁がシステムの中でどのような論理的な役割を果たすかを決定づける重要な要素です。

弁構造の違い(ポペット式とスプール式)

弁体の動き方によって「ポペット式」と「スプール式」に大別されます。

  • ポペット式: 弁体が弁座に対して垂直に動くことで流路を開閉する構造です。摺動部がなくシンプルな構造のため耐久性が高く、ストロークが短いのが特長です。ただし、流体圧力に逆らって作動するため、高圧用途では大きな駆動力が必要になります。

  • スプール式: 円筒状の筒の中を、スプールと呼ばれる軸がスライドすることで流路を切り替える構造です。流体圧力が軸方向で平衡しやすいため、比較的小さな力で操作でき、多ポート弁に適しています。

ポート数による分類(2・3・5ポート弁)

ポートは流体の出入り口で、その数によって用途が異なります。

  • 2ポート弁: 入口と出口が1つずつあり、単一の流路のON/OFF制御に使われます。

  • 3ポート弁: 3つのポートを持ち、1つの供給ポートから2つの出口ポートへ流路を切り替えたり、単動シリンダ(一方向にのみ空気圧で動作するシリンダ)への給気と排気を制御したりします 。

  • 5ポート弁: 供給ポート1つ、出口ポート2つ、排気ポート2つの計5つのポートを持ちます。複動シリンダ(両方向に空気圧で動作するシリンダ)の前進・後退を制御するのに標準的に使用されます。

初期状態の違い(NC弁とNO弁)

電源がOFF(非通電)のときの状態によって、2つのタイプに分かれます。この選択は、停電などの異常時を想定した、システムの安全設計において非常に重要です。

  • NC(ノーマリークローズ/常時閉)弁: 電気が流れていない状態では弁が閉じており、通電すると開きます。万が一停電が発生した際に流体の供給を止めたい場合に選ばれ、最も一般的なタイプです。

  • NO(ノーマリーオープン/常時開)弁: 電気が流れていない状態では弁が開いており、通電すると閉じます。冷却水のラインなど、停電時にも流体を流し続けたい安全上重要な用途で使われます。

小型電磁弁の主な用途例

小型電磁弁は、そのコンパクトさ、高速応答性、精密な制御能力から、特に先端技術を支える分野で幅広く活用されています。

半導体・液晶製造装置

半導体や液晶パネルの製造プロセスは、微細なゴミや温度変化が品質に直結する、極めてクリーンで精密な環境を要求します。小型電磁弁は、エッチング工程でのウェハ冷却、塗布工程での温湿度管理、洗浄液や各種プロセスガスの流量制御など、多岐にわたる場面で不可欠な役割を担っています。

医療機器・分析装置

血液分析装置やガスクロマトグラフ、人工呼吸器といった医療・分析機器では、試薬やサンプルガス、呼吸ガスなどの微量な流体を極めて高い精度で制御する必要があります。このような用途では、流体が金属部品に触れないよう隔離された「隔離弁」構造の小型電磁弁が用いられることもあり、コンタミネーション(汚染)の防止や耐食性の確保に貢献しています。

省スペース化が求められる各種自動機

部品の組立機や食品の包装機、産業用ロボットなど、一般的な工場で稼働する自動機にも小型電磁弁は数多く使われています。特に、複数の電磁弁を「マニホールド」と呼ばれる基板に集約して搭載することで、配管や配線を一箇所にまとめることができ、装置全体のさらなる小型化と組立工数の削減を実現します。

小型電磁弁を選定する際の重要ポイント

最適な小型電磁弁を選ぶためには、いくつかの重要なポイントを確認する必要があります。これらを順を追って検討することで、トラブルを未然に防ぎ、装置の安定稼働を実現できます。

対応流体の種類(気体・液体・薬液)と材質の適合性

最初に確認すべきは、使用する流体の種類です。空気、水、油、薬液など、流体の種類によって、電磁弁の本体やシール材に求められる材質が異なります。例えば、シール材には一般的にNBR(ニトリルゴム)が使われますが、腐食性の高い薬液にはFKM(フッ素ゴム)やPTFE(テフロン)など、耐薬品性に優れた材質を選ぶ必要があります。材質の選定を誤ると、腐食や劣化による流体漏れや作動不良の原因となります。

圧力条件(使用圧力範囲・作動圧力差)

次に、使用する圧力条件を確認します。電磁弁が対応できる「最高使用圧力」が、システムの圧力を上回っていることが必須です。また、特にパイロット式電磁弁を選定する際は、入口側と出口側の圧力差である「作動圧力差」が重要になります。パイロット式は作動に最低限の圧力差が必要なため、この条件を満たさないと正常に動作しません。

流量特性(有効断面積とCv値)

アクチュエータ(シリンダなど)の作動速度や、単位時間あたりに流したい流体の量を満たすためには、電磁弁の流量特性が適切でなければなりません。この流量の大きさを示す指標として、「有効断面積(mm²)」や「Cv値(シーブイち)」が用いられます。

Cv値は、ある基準の条件下でどれだけの流量を流せるかを示す流量係数で、この数値が大きいほど、より多くの流体を流す能力があることを意味します。必要な流量と圧力条件から適切なCv値を算出し、それを満たす電磁弁を選定します。

設置環境と保護等級(IPコード)

電磁弁を設置する場所の環境も重要な選定要素です。工場内には、粉塵が舞っていたり、水や油がかかったりする場所もあります。このような環境から機器を保護する性能を示す国際規格が「IP(Ingress Protection)コード」です。

IPコードは「IP65」のように2桁の数字で表され、1桁目が固形物(粉塵など)に対する保護等級(0〜6)、2桁目が水に対する保護等級(0〜8)を示します。例えばIP65は、「粉塵の侵入を完全に防ぎ(6)、あらゆる方向からの噴流水による有害な影響がない(5)」ことを意味し、多くの工場環境に適しています。

等級

第1特性数字(固形物)

第2特性数字(水)

0

無保護

無保護

1

手の接近を防止

垂直に落ちる水滴から保護

2

指の接近を防止

15°傾斜で落ちる水滴から保護

3

工具の先端の接近を防止

散水から保護

4

ワイヤーの接近を防止

水の飛まつから保護

5

有害な影響がない範囲で粉塵の侵入を防止

あらゆる方向からの噴流水から保護

6

粉塵の侵入を完全に防止

あらゆる方向からの強い噴流水から保護

7

-

一時的な水没から保護

8

-

継続的な水没から保護

電気仕様(定格電圧と消費電力)

最後に、制御システムに合わせた電気仕様を確認します。電磁コイルを駆動させるための「定格電圧」が、制御機器の出力電圧(例:DC24V)と一致している必要があります。また、前述の通り、小型電磁弁は「消費電力」が低いことが特長であり、省エネルギー化や制御システムの簡素化に直結する重要な性能指標です。

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まとめ

  • 小型電磁弁は、電磁石の力を利用して流体を高速に制御する小型・軽量なバルブであり、装置の省スペース化や省エネ化に貢献します。

  • 作動方式には「直動式」「パイロット式」「パイロットキック式」があり、応答速度、消費電力、作動圧力差などの条件に応じて最適な方式を選ぶ必要があります。

  • 選定時には、流体との材質適合性、圧力・流量条件、設置環境(IPコード)、電気仕様といった複数の要素を総合的に確認することが、トラブルを防ぎ、安定した稼働を実現する鍵となります。

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