圧力制御弁とは?種類や仕組み、流量制御弁との違いから選び方まで解説

製造現場で使われる油圧・空圧システムにおいて、装置の安定稼働と安全性の確保は非常に重要です。その心臓部ともいえる役割を担うのが「圧力制御弁」です。この部品がなければ、機械は正しく力を発揮できず、最悪の場合は故障や事故につながる可能性もあります。

本記事では、圧力制御弁の導入を検討されている製造業のご担当者様に向けて、その基本的な役割や仕組み、主な種類ごとの用途、そして流量制御弁との違いや選定時のポイントについて詳しく解説します。

圧力制御弁とは?基本的な役割と重要性

圧力制御弁とは、油圧や空気圧といった流体を使用する回路の中で、流体の圧力を適切に調整・制御するための機器の総称です。その主な役割は、ポンプなどから送り出された流体の圧力を一定の範囲に保つこと、あるいは回路内の特定の部分で圧力を上げたり下げたりすることです。

この圧力制御という機能は、単に機械を動かすためだけではありません。第一に、アクチュエータ(シリンダやモータなど、実際に物を動かす部分)が発生させる「力」(推力やトルク)を決定づける重要な役割があります。第二に、回路内の圧力が異常に高くなることを防ぎ、ポンプや配管、その他の機器が破損するのを防ぐ「安全弁」としての役割も担っています。

油圧・空圧システムにおける圧力制御の必要性

なぜ、製造現場のシステムにおいて圧力の制御がこれほどまでに重要なのでしょうか。それは、圧力の異常がもたらす影響が、単なる性能低下にとどまらないからです。圧力制御は、安定した生産活動を維持するためのリスク管理そのものと言えます。

機器の損傷防止

システム内の圧力が設計上の上限を超えると、配管の破裂や機器内部のシール材の破損などを引き起こす可能性があります。圧力制御弁は、こうした過大圧力を未然に防ぎ、高価な設備資産を保護する役割を果たします。これにより、突発的な故障による生産停止や、多額の修理費用といった経営リスクを低減します。

製品品質の安定化

例えばプレス機では、加える圧力が一定でなければ製品の仕上がりにばらつきが生じます。圧力制御弁によって作動圧力を常に一定に保つことで、機械は毎回同じ力で作業を行うことができ、製品品質の安定化に直結します。

作業の安全性確保

高圧の流体を扱うシステムでは、万が一の配管破裂などが大きな事故につながる危険性があります。圧力制御弁は、システム全体の圧力を安全な範囲内に維持するための最後の砦として機能し、現場で働く作業者の安全を守ります。

省エネルギーへの貢献

システムが必要としない時にもポンプが高い圧力で稼働し続けると、エネルギーの無駄遣いになります。後述するアンロード弁などの圧力制御弁は、機械の待機中などにポンプの負荷を自動的に下げることで、消費電力を抑え、工場の運用コスト削減に貢献します。

圧力制御弁の基本的な仕組み

圧力制御弁の多くは、比較的シンプルな原理で動作しています。その基本は、「ばねの力」と「流体の圧力」という2つの力のバランスです。

弁の内部には、調整ねじで強さを変えられる「ばね」と、流体の圧力を受ける「ピストン」や「ポペット」といった可動部品が組み込まれています。

  1. 圧力が設定値より低い状態:流体の圧力がばねの力に負けているため、ばねがピストンなどを押し付け、流体の通り道(ポート)は閉じています。

  2. 圧力が設定値に達した状態:流体の圧力が高まり、ばねの力に打ち勝つと、ピストンなどが押し上げられて通り道がわずかに開きます。

  3. 圧力の調整:通り道が開くことで、流体の一部が逃げたり(リリーフ弁の場合)、流れが制限されたり(減圧弁の場合)します。この通り道の開き具合が流体の圧力とばねの力で絶えず自動調整されることで、結果として回路内の圧力が一定に保たれる仕組みです。

利用者は調整ねじを回してばねの強さを変えることで、弁が作動する圧力(設定圧力)を任意に決めることができます。

圧力制御弁と流量制御弁との違い

油圧・空圧システムで使われる制御弁には、圧力制御弁のほかに「流量制御弁」があります。この2つは役割が明確に異なりますが、混同されやすいため違いを正しく理解しておくことが重要です。

最も大きな違いは、その制御対象にあります。端的に言えば、圧力制御弁が「力」を制御するのに対し、流量制御弁は「速さ」を制御します。

例えば油圧シリンダを動かす場合を考えてみましょう。

  • シリンダが物を押す「力」の強さを決めたい場合は、圧力制御弁で油の圧力を調整します。

  • シリンダが動く「速さ」を変えたい場合は、流量制御弁でシリンダに流れ込む油の量を調整します。

圧力と流量は互いに関連していますが、機械に精密な動作をさせるためには、それぞれを独立して制御する必要があります。以下の表に両者の違いをまとめます。

項目

圧力制御弁

流量制御弁

制御対象

流体の「力」(圧力)

流体の「量・速さ」(流量)

主な目的

アクチュエータの推力・トルクの調整、回路の最高圧力設定、機器の保護

アクチュエータの作動速度の調整

役割の例

プレス機で加える力を設定する

コンベアベルトの動く速さを調整する

圧力制御弁の主な種類と用途

圧力制御弁は、その目的や機能によっていくつかの種類に分類されます。ここでは、製造現場で特によく使われる代表的な5種類の弁について、それぞれの役割と用途を解説します。

リリーフ弁

リリーフ弁は、油圧回路全体の圧力が設定した上限値を超えないようにするための、最も基本的な安全弁です。通常は閉じており、回路圧力が設定値を超えた瞬間に開いて、余分な作動油をタンクに戻します。これにより、ポンプやアクチュエータ、配管などを過大な圧力から保護します。あらゆる油圧ユニットに、システムの保護を目的として必ずと言っていいほど組み込まれています。

減圧弁

減圧弁は、主回路の圧力よりも低い圧力の分岐回路を作りたい場合に使用します。リリーフ弁が入口側(一次側)の圧力を制御するのに対し、減圧弁は出口側(二次側)の圧力を一定に保つのが特徴です。例えば、主回路が20MPaで動いているシステム内で、一部のクランプ用シリンダだけを5MPaで動かしたい、といった場面で活躍します。

シーケンス弁

シーケンス弁は、複数のアクチュエータを決められた順番で動かすために使用される弁です。一つ目の動作が完了して回路内の圧力が設定値に達すると、弁が開いて次のアクチュエータへ圧油が流れる仕組みです。例えば、「材料をクランプで固定してから、ドリルを下降させる」といった一連の自動化工程において、確実な順序動作を実現するために用いられます。

カウンタバランス弁

カウンタバランス弁は、主に垂直方向に取り付けられたシリンダなどで、自重による意図しない落下を防ぐために使われます。シリンダの出口側に設置され、常に一定の背圧(抵抗)をかけることで、荷重を支えます。プレス機のスライドやリフトなど、重量物を下降させる際に、急激な落下を防ぎ、スムーズで安定した速度制御を可能にします。

アンロード弁

アンロード弁は、省エネルギーを目的として使用される弁です。

アクチュエータが作動していない待機時間中に、ポンプから吐出される作動油を無負荷(極めて低い圧力)でタンクに戻す役割を担います。これにより、ポンプの動力を最小限に抑え、エネルギー消費と作動油の温度上昇を抑制することができます。サイクルタイムの中で待機時間が長い機械などで特に効果を発揮します。

製造業における圧力制御弁の用途例

圧力制御弁は、その多様な機能により、さまざまな製造業の現場で活躍しています。ここでは具体的な用途例をいくつかご紹介します。

工作機械やプレス機での動力制御

射出成形機やプレス機、マシニングセンタといった工作機械では、巨大な力を精密に制御する必要があります。リリーフ弁がシステム全体の圧力を安全に保ち、カウンタバランス弁が金型などの重量物の落下を防ぎます。また、減圧弁によってクランプ部分の圧力を適切に調整することで、加工対象を傷つけることなく確実に固定します。

食品・薬品工場の蒸気ライン管理

食品や医薬品の製造プロセスでは、加熱や滅菌のために蒸気が広く利用されます。ボイラーで作られた高圧の蒸気を、各装置が必要とする適切な圧力まで下げるために、減圧弁が不可欠です。これにより、製品ごとに最適な温度管理が可能となり、品質の安定化に貢献します。

半導体製造におけるガス供給制御

半導体の製造工程では、酸化防止や不純物の除去のために、窒素ガスやクリーンエアといった多種多様なガスが使われます。これらのガスをウェハーに供給する際、極めて精密な圧力制御が求められます。高精度な圧力制御弁(レギュレータ)が、プロセスの要求通りに安定したガス供給を実現し、製品の歩留まり向上を支えています。

搬送装置や自動化ラインでの活用

工場の自動化ラインや物流倉庫で活躍するリフターやロボットアームにも、圧力制御弁が組み込まれています。カウンタバランス弁が荷物の安全な昇降を支え、シーケンス弁が「掴む」「持ち上げる」「運ぶ」といった一連の動作を正確な順序で実行させます。

圧力制御弁の選定で失敗しないためのポイント

自社のシステムに最適な圧力制御弁を選ぶためには、いくつかの重要なポイントを確認する必要があります。要求仕様に合わない弁を選んでしまうと、性能が発揮できないばかりか、トラブルの原因にもなりかねません。

使用する流体の種類と特性の確認

まず、制御する流体が何か(作動油、水、空気、蒸気、特殊ガスなど)を確認します。流体の種類によって、弁本体や内部のシール材に求められる材質が異なります。特に、腐食性のある流体や高温の蒸気などを扱う場合は、耐食性や耐熱性に優れた材質(ステンレス、フッ素ゴムなど)を選ぶ必要があります。

圧力・温度・流量の仕様検討

圧力:システムの最高使用圧力に対応できる定格であることはもちろん、調整したい圧力範囲が弁の仕様と合っているかを確認します。

温度:流体の温度と、弁が設置される周囲の環境温度の両方が、弁の使用温度範囲内に収まっているかを確認します。

流量:システムの流量に対して弁のサイズが適切でなければなりません。小さすぎると圧力損失が大きくなり、大きすぎると圧力制御が不安定になる(ハンチング)ことがあります。

応答性や耐久性、メンテナンス性

緊急停止回路など、素早い応答速度が求められる用途では、応答性に優れた直動式の弁が適しています。一方、大流量を安定して制御したい場合は、パイロット作動式の弁が選ばれることが多いです。また、開閉頻度が高い場合は耐久性の高い製品を選ぶこと、設置後の点検や修理のしやすさ(メンテナンス性)も考慮に入れると良いでしょう。

設置環境と接続方法

屋外や粉塵の多い場所、振動のある場所など、設置環境に応じた保護構造を持つ弁を選ぶ必要があります。また、接続する配管のサイズや、接続方式(ねじ込み式、フランジ式など)も事前に確認しておくべき重要な項目です。

検討項目

確認事項

備考

流体情報

流体の種類(作動油、水、空気、蒸気、ガスなど)、腐食性

シール材や本体材質との相性を確認

圧力仕様

最高使用圧力、調整したい圧力範囲(一次側・二次側)

システムの最大圧力を超える定格のものを選ぶ

温度仕様

流体温度、周囲環境温度

高温・低温環境では特殊仕様が必要な場合がある

流量仕様

システムの最大流量、通常流量

流量特性図を確認し、適切なサイズを選定する

性能要件

必要な応答速度、制御精度

直動式は応答が速い、パイロット式は大流量向き

接続・設置

配管サイズ、接続方式(ねじ込み、フランジ)、設置姿勢

 

環境要件

屋内/屋外、振動の有無、雰囲気(防爆、クリーンルームなど)

 

圧力制御弁の安定稼働を支えるメンテナンス

圧力制御弁の性能を長期間維持し、トラブルを未然に防ぐためには、適切なメンテナンスが欠かせません。メンテナンスの基本は、日常的な点検と定期的な部品交換です。

日常点検で確認すべき項目

日常点検は、専門的な知識がなくても実施できるものが中心です。五感を使って異常のサインを早期に発見することが目的です。

  • 漏れ:弁本体や配管の接続部から、油や空気が漏れていないかを目視で確認します。

  • 異音・振動:弁の作動時に「ブーン」といううなり音や異常な振動が発生していないか、耳で確認します。これらは内部部品の摩耗やゴミの噛み込みのサインである可能性があります。

  • 圧力計の確認:圧力計の針が安定しているか、指示値が正常な範囲にあるかを確認します。

  • 外観の確認:弁本体に錆や傷、へこみなどがないかを確認します。

定期メンテナンスの重要性と注意点

圧力制御弁の故障原因の多くは、弁そのものの問題ではなく、流体の汚染に起因します。特に油圧システムにおいて、作動油の管理はバルブの寿命を左右する最も重要な要素です。

作動油の管理:作動油に混入したゴミや水分は、弁内部の精密な摺動部(スプールなど)を傷つけたり、作動不良(スティック)を引き起こしたりする最大の原因です。定期的なフィルターの交換や作動油の分析・交換を徹底し、作動油を常に清浄な状態に保つことが、結果的に圧力制御弁を守る最善のメンテナンスとなります。

消耗品の交換:Oリングなどのシール材は、時間とともに劣化します。油漏れなどのトラブルが発生する前に、メーカーが推奨する交換周期(例:2年ごと)に従って、計画的に交換することが望ましいです。

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まとめ

  1. 圧力制御弁は、油圧・空圧システムの「力」を制御し、機器の保護と安定稼働に不可欠な部品であること。

  2. リリーフ弁、減圧弁、シーケンス弁など多様な種類があり、それぞれが回路内で特定の役割(圧力上限設定、減圧、順序制御など)を担っていること。

  3. 最適な弁を選定するには、流体の種類、圧力・流量などの仕様を総合的に検討する必要があり、清浄な作動油の管理といった定期的なメンテナンスが長寿命化の鍵となること。

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