流量制御弁とは?役割や種類、選び方のポイントまでわかりやすく解説

現代の製造現場において、液体や気体、蒸気といった「流体」の精密な管理は、製品の品質、生産効率、そしてプロセスの安全性を支える基盤です。この流体管理の中核を担う重要な部品が「流量制御弁」です。流量制御弁は、いわば産業機械のアクセルのような役割を果たし、様々な自動化プロセスの速度や安定性を決定づけています。

本記事では、これから流量制御弁について学ばれる製造業のご担当者様に向けて、その基本的な役割や仕組みから、混同されやすい関連バルブとの違い、主な種類と構造、そして具体的な用途例までを網羅的に解説します。さらに、安定した生産ラインを構築するために不可欠な、適切な製品を選定するためのポイントも詳しくご紹介します。

流量制御弁の基本的な役割と仕組み

まず、流量制御弁がどのようなもので、どのように機能するのか、その基本から見ていきましょう。

流体の「量」を調整し、装置の「速度」を制御する

流量制御弁の最も基本的な役割は、配管を流れる作動油や空気などの流体の「流量(単位時間あたりに流れる量)」を調整することです。そして、この流量をコントロールすることにより、油圧シリンダやモータといったアクチュエータの「動作速度」を制御します。

製造現場では、部品を運ぶ、加工する、組み立てるといった多くの工程でアクチュエータが使われています。流量制御弁は、これらの装置が速すぎず、遅すぎず、常に一定の最適なスピードで動作するように調整する、極めて重要な役割を担っているのです。単に流体を管理するだけでなく、機械の物理的な動作そのものをコントロールすることが、流量制御弁の本来の目的です。

抵抗の原理に基づいた基本的な動作

流量制御弁の動作は、「抵抗」という非常にシンプルな原理に基づいています。バルブの内部には、プラグやディスク、ニードル(針)といった可動部品があり、この部品を動かして流体が通る流路の面積を変化させます。

ハンドルを操作したり、外部から信号を送ったりしてバルブを少し閉じると、流路が狭くなり、流体に対する抵抗が増加して流量が減少します。逆にバルブを開けば、流路が広がり抵抗が減るため、流量は増加します 4。これは、家庭にある水道の蛇口をひねって水量を調整するのと同じ原理です。

関連するバルブとの違い

流量制御弁を理解する上で、しばしば混同されがちな「圧力制御弁」や「開閉弁」との違いを明確にしておくことが重要です。

圧力制御弁との違い:「速度」と「力」の制御

流量制御弁がアクチュエータの「速度」を制御するのに対し、圧力制御弁はシステム内の「力(圧力)」を制御する役割を持ちます。例えば、油圧プレス機でどれだけ強い力で押し付けるか、あるいはシステム内の圧力が危険なレベルまで上がらないように調整するのが圧力制御弁の仕事です。代表的なものに、設定圧を超えた流体を逃がすリリーフ弁などがあります。

流量と圧力は互いに関連していますが、制御する主目的が「速度」なのか「力」なのかという点で明確に異なります。

項目

流量制御弁

圧力制御弁

主な目的

アクチュエータの速度を調整する

システム内の力(圧力)を調整する

制御する対象

流量(単位時間あたりの流体の量)

圧力(単位面積あたりにかかる力)

主な用途

シリンダやモータの速度制御、流量の一定化

システムの過負荷防止、力の制御

代表例

絞り弁、流量調整弁

リリーフ弁、減圧弁

開閉弁(ON/OFF弁)との違い:「調整」と「全開/全閉」

流量制御弁は、全開と全閉の中間の位置(中間開度)で流量を細かく「調整」することを目的として設計されています。

一方、開閉弁(ON/OFF弁)は、その名の通り、流体を完全に通す「全開」か、完全に止める「全閉」かの2つの状態で使用されるバルブです。代表的なボール弁やゲート弁がこれにあたります。開閉弁を中途半端な開度で流量調整に使おうとすると、流体の高速通過による激しい振動や摩耗(エロージョン)が発生し、バルブの早期破損につながる可能性があります。

精密な調整が必要な場合は流量制御弁を、単純な流れのON/OFFが目的であれば、より構造がシンプルで安価な開閉弁を選ぶのが基本です。

流量制御弁の主な種類と特徴

流量制御弁は、その機能によっていくつかの種類に分類されます。ここでは代表的なものを、シンプルなものから高機能なものへと順に解説します。

絞り弁

最も基本的な流量制御弁で、スロットルバルブやニードル弁とも呼ばれます。ハンドルなどを回して単純に流路の断面積を変えることで流量を調整する、シンプルな構造です。

しかし、この単純さゆえに大きな弱点があります。それは、バルブの開度が一定でも、負荷の変動による圧力の変化や、温度変化による流体の粘度(粘り気)の変化によって、実際の流量が変動してしまうことです 。そのため、高い制御精度が求められない、あるいは運転条件が非常に安定しているといった限定的な用途に適しています。

流量調整弁(圧力・温度補償機能付き)

絞り弁の弱点を克服し、より精密な制御を実現するために開発されたのが、補償機能付きの流量調整弁です。

このバルブには、圧力の変動に関わらず絞り部分の前後の圧力差を一定に保つ「圧力補償機構」が内蔵されています。これにより、アクチュエータにかかる負荷が変動しても、設定した流量を正確に維持し続けることができます。さらに、油温の変化による粘度の影響を打ち消す「温度補償機能」を備えたタイプもあり、より厳しい条件下でも安定した制御が可能です。

製造現場のように圧力や温度が常に変動する環境で、安定した品質を維持するためには、これらの補償機能はオプションではなく、必須の機能と言えます。

項目

絞り弁

流量調整弁(圧力・温度補償付き)

基本構造

単純な絞り機構のみ

絞り機構+圧力・温度補償機構

圧力変動への安定性

不安定(圧力変動で流量が変化する)

安定(圧力変動の影響を受けにくい)

温度変動への安定性

不安定(温度変化で流量が変化する)

安定(温度変化の影響を受けにくい)

制御精度

低い

高い

コスト

安価

高価

主な用途

精度が不要な回路、安定した条件下の回路

負荷変動がある回路、精密な速度制御が必要な回路

分流弁・分集流弁

分流弁は、1つの入口から入ってきた流体を、2つ以上の出口へ均等に分割して流す機能を持つバルブです 。逆に、複数の流れを1つにまとめるのが集流弁です。

主な用途は、2台の油圧シリンダを、それぞれにかかる負荷が違っていても、全く同じ速度で動かしたい場合など、複数のアクチュエータの動きを同調させるために使用されます。

比例制御弁(電磁弁)

電気信号(電流や電圧)の大きさに比例して、流量を無段階で連続的に制御できる高機能なバルブです。入力された電気信号に応じて電磁石(ソレノイド)が可動部を精密に動かし、目標の流量を実現します。

PLC(プログラマブルロジックコントローラ)などの制御装置と組み合わせることで、流量の自動制御や遠隔操作が可能になり、現代の自動化された生産ラインに不可欠な存在です。

流量調整で用いられる代表的なバルブ構造

流量を調整する機能を持つバルブには、その目的や性能に応じて様々な内部構造があります。ここでは代表的な4つの構造を紹介します。

ニードル弁

先端が細く尖った針(ニードル)状の弁体を、ねじの仕組みで上下させることで、流路の隙間を非常に細かく調整します。この構造により、特に少ない流量の精密な制御を得意とし、分析装置や実験設備などで多用されます。

グローブ弁

玉形弁(たまがたべん)とも呼ばれ、球状の弁本体(ボデー)の内部に仕切りがあり、流体がS字を描くように流れる構造が特徴です。弁体が流れに対して垂直に動くため、流量調整性能に優れ、流れをしっかりと止めることもできます。ただし、流路が複雑なため、圧力損失(流れの勢いが失われること)が大きいという短所があります。

Vポートボール弁

一般的なボール弁のボール(球)にある丸い穴の代わりに、V字型の切り込み(ポート)を入れたものです 。このVポートにより、バルブを開け始めたときの流量変化が緩やかになり、ボール弁の特長である圧力損失の少なさと、グローブ弁のような優れた流量調整性能を両立させています。

バタフライ弁

配管内に円盤状の弁体を設け、それを90度回転させることで流路を開閉・調整するバルブです。構造がシンプルで、小型・軽量、かつ安価なのが特長です。流量調整にも使用できますが、一般的に弁の開き方が小さい領域(開度30%以下など)での精密な制御は苦手とされています。

バルブ構造

制御の精密さ

圧力損失

サイズ・重量

適した用途

ニードル弁

◎(特に微小流量)

小型

微小流量の精密制御、実験装置

グローブ弁

大型・重量

精密な流量調整、高温・高圧流体

Vポートボール弁

中型

流量調整と低圧力損失の両立、スラリー流体

バタフライ弁

△(小開度域は不向き)

小型・軽量

大口径配管のON/OFF、大まかな流量調整

駆動方式(アクチュエータ)の種類と選び方

流量制御弁を動かすための駆動部分をアクチュエータと呼びます。手動から自動まで様々な方式があり、用途に応じて選定します。

手動式

ハンドルやレバーを人の手で操作する最もシンプルな方式です。低コストですが、自動化や頻繁な調整には向きません。

電動式

電気モータの力でバルブを駆動します。制御システムとの連携が容易で、精密な位置決めや遠隔操作に適しています。ただし、応答速度は空圧式などに比べて遅くなる傾向があります。

空圧式

圧縮空気の圧力でバルブを駆動します。応答速度が速く、構造が比較的シンプルで信頼性が高いのが特長です。爆発の危険性がある場所でも安全に使用できます。

油圧式

油圧の力でバルブを駆動します。非常に大きな力を発生させることができるため、大型のバルブや高圧のラインに適しています。

駆動方式

動力源

長所

短所

最適な用途

手動式

人力

低コスト、シンプル

自動化不可、頻繁な操作に不向き

調整頻度が低い場所

電動式

電気

高精度、遠隔操作・自動化が容易

応答速度が比較的遅い、構造が複雑

精密な自動制御、遠隔操作

空圧式

圧縮空気

高速応答、高信頼性、防爆性

精密な位置決めは苦手、エア供給設備が必要

高速なON/OFF、一般的な自動化

油圧式

作動油

非常に大きな力を発生、スムーズな動作

油圧ユニットが必要、油漏れのリスク

大口径・高圧バルブの制御

製造業における流量制御弁の主な用途例

流量制御弁は、様々な産業の生産プロセスで活躍しています。

  • 化学・薬品プラントでの反応制御: 原料の供給量を精密に制御し、化学反応を安定させ、製品の収率向上と安全を確保します。

  • 半導体製造における薬液供給: エッチングや洗浄工程で、腐食性の高い薬液や超純水をμL(マイクロリットル)単位で正確に供給します。汚染を防ぐため、接液部にはフッ素樹脂などが用いられます。

  • 食品・飲料工場の充填・調合プロセス: 原料を正確な比率で混合したり、容器に一定量を充填したりすることで、製品の味や品質を均一に保ちます。

  • 自動車産業の塗装・冷却ライン: 塗料の吐出量を一定に保ち、均一で美しい塗装面を実現します。また、エンジン冷却水の流量を制御し、最適な温度を維持します。

工業炉など燃焼装置のガス・空気制御: 燃料ガスと空気の混合比を最適に保つことで、燃焼効率を高め、安定した温度管理と排出ガスのクリーン化を実現します。

流量制御弁の選定で失敗しないための7つのポイント

自社の設備に最適な流量制御弁を選ぶためには、多角的な視点からの検討が必要です。ここでは、選定時に確認すべき7つの重要なポイントを解説します。

Point 1: 流体の種類と特性(粘度・腐食性など)

まず、制御対象となる流体の種類と性質を確認します。流体と接触するバルブの本体やシール材が、その流体に対して化学的に適合しているか(腐食しないか)は最も重要な点です。腐食性流体であればステンレスや特殊合金、樹脂ライニングされたバルブを選定します。また、流体の粘度や、温度による粘度変化も制御性に影響するため考慮が必要です。

Point 2: 使用条件(圧力・温度)

システムが稼働する際の最高圧力と最高温度を確認し、それらの条件を十分に満たす仕様のバルブを選定します。一般的に、バルブが耐えられる最高圧力は、温度が高くなるほど低下する傾向があるため注意が必要です。

Point 3: 必要な流量とCv値の計算

バルブのサイズを選定する上で最も重要な指標が「Cv値(シーブイち)」です。Cv値は、バルブの「流れやすさ」を示す世界共通の係数で、この値が大きいほど多くの流体を流すことができます。

選定の基本は、プロセスで必要な最大流量と最小流量を算出し、それぞれの条件下で要求されるCv値を計算することです。この計算には、流量、流体の比重、バルブ前後の圧力、温度などのパラメータが必要となります。

Point 4: 流量特性とレンジアビリティ

「流量特性」とは、バルブの開度と流量(Cv値)の関係を示すグラフのことです。制御用途では、一般的に「イコールパーセント特性」を持つバルブが、圧力変動に対して安定した制御を行いやすいとされています。

また、「レンジアビリティ」は、そのバルブが安定して制御できる最大流量と最小流量の比を示します。この値が大きいほど、幅広い流量範囲を1台のバルブでカバーできることになります。

Point 5: 応答速度と制御精度

プロセスの要求する速度に合わせて、バルブとアクチュエータの応答速度を選定します。高速な制御が求められる場合は空圧式アクチュエータ、精密な位置決めが必要な場合は電動式アクチュエータやサーボ弁などが適しています。

Point 6: 設置環境とメンテナンス性

バルブを設置する周囲の環境も考慮します。例えば、屋外で雨風にさらされる場所や、腐食性ガス雰囲気、防爆エリアなど、環境に応じた材質や構造、駆動方式を選ぶ必要があります。また、シール材などの消耗品は定期的な交換が必要なため、メンテナンスのしやすさも長期的な信頼性を左右する重要な要素です。

Point 7: 考慮すべき潜在的な問題(キャビテーション、圧力損失など)

バルブをシステムの一部として捉え、起こりうる問題を事前に予測することも重要です。

  • 圧力損失: バルブを通過する際に流体のエネルギーが失われる現象です。圧力損失が大きいと、ポンプの能力を余分に消費することになり、省エネの観点から不利になります。

  • キャビテーション: 液体がバルブ内で急激に減圧されると、液体が沸騰して気泡が発生し、その後の圧力回復で気泡が激しく崩壊する現象です。この衝撃は、バルブ内部に深刻な損傷を与える可能性があります。

  • ハンチング: 必要以上に大きなサイズのバルブを選定してしまうと、ごくわずかな開度で制御することになり、動作が不安定になる「ハンチング」という現象を引き起こすことがあります。これは制御性を悪化させるだけでなく、バルブの寿命を著しく縮める原因となります。

これらの問題を避けるためにも、専門家と相談しながら、プロセス全体を考慮した慎重な選定が求められます。

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まとめ

  1. 流量制御弁は、流体の「量」を調整することで、製造装置のアクチュエータの「速度」を精密に制御する重要な部品です。

  2. 単純な「絞り弁」と、圧力や温度の変化を補償する高機能な「流量調整弁」があり、求められる制御精度に応じて使い分ける必要があります。

  3. 選定時には、流体の種類、圧力・温度などの使用条件に加え、Cv値の計算、流量特性、駆動方式、そしてキャビテーションなどの潜在的な問題を総合的に検討することが、安定した生産ラインの構築に不可欠です。

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