生物資源から作られる土壌改良材の「バイオ炭」。農作物の収穫量を増やし、土壌や水の汚染を抑制する炭化物として注目され、世界的に話題を呼んでいます。
今回は、バイオ炭が注目されている背景や国内における普及の現状、活用のメリット、製造方法について解説します。
このような方におすすめです
・バイオ炭が注目されている背景に関心のある方
・バイオ炭を農業分野や漁業分野に活用するメリットについて知りたい方
・バイオ炭の製造方法を知りたい方
バイオ炭とは、生物由来の有機物を炭化したもので、土壌改良や二酸化炭素の吸収などに効果がある炭化物です。木材や竹などのバイオマスを加熱して作られる固形物で、燃焼しない水準に管理された酸素濃度の下、350℃超の温度で作られます。
2020年9月には「バイオ炭の農地施用」が日本国政府が認証する制度「J-クレジット」の対象となり、カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みの中で注目を集めています。
バイオ炭と木炭の主な違いは、それらの製造プロセスと特性にあります。バイオ炭は、バイオマスを酸素レベルを制御した条件下で350°C以上の温度で熱分解することによって生産される固体燃料です。主に土壌改良や炭素固定に使用され、気候変動緩和の取り組みにおいて貴重なツールとなっています。
一方、木炭は伝統的に木材や他の有機材料を異なる酸素レベルで燃焼させることによって作られ、その組成や用途がバイオ炭と異なります。バイオ炭と木炭はどちらも炭化物質の形態ですが、バイオ炭は特に土壌改良や炭素貯留などの環境上の利点を目的として設計されており、木炭が調理や暖房目的に使用される伝統的な用途とは異なります。
バイオ炭の製造方法には、主に焼成技術と炭化装置を使用した方法があります。
ピロリシスは、バイオ炭を生成するための主要な方法の一つです。この過程では、バイオマスを酸素がほとんどまたは全く存在しない状態で高温(通常は500°C以上)に加熱します。この過程では、バイオマスが分解し、バイオ炭、生ガス、およびバイオオイルという三つの主要な製品が生成されます。
バイオ炭は、このプロセスの固形副産物であり、非常に多孔性で炭素豊富な物質です。ピロリシスによって得られるバイオ炭は、その高い炭素含有量と安定性のため、炭素隔離、土壌改良、水質浄化などの目的に使用されます。
バイオ炭の生成には、無煙炭化装置などの特殊な装置が用いられることもあります。これらの装置は、バイオマスを炭化するための環境を最適化し、プロセスの効率を大幅に向上させることができます。無煙炭化装置は、炭化過程で発生する有害な煙やガスを最小限に抑え、より環境に優しいバイオ炭の生成方法を提供します。
また、これらの装置は操作が簡単で、小規模な農家から大規模な生産施設まで、幅広い規模でのバイオ炭製造に適しています。効率的な炭化プロセスにより、一貫した品質のバイオ炭を安定して供給することが可能になり、農業や環境保全の分野での応用範囲が広がっています。
現在、地球温暖化問題への対策として、二酸化炭素の排出量削減が求められていますが、バイオ炭がその有効性と低コストを理由に新たな解決策として注目されています。
地球温暖化の防止のために、世界中で様々な取り組みが行われていますが、実際には多くの取り組みが「カーボンニュートラル」であり、「カーボンマイナス」ではありません。加えて、日本の主要電力会社やヨーロッパの石油会社は、二酸化炭素を地中に圧縮して埋める実験を試みていますが、高いコストがかかるため、最適な方法とは考えられていません。
一方、バイオ炭は効果的な二酸化炭素削減(カーボンマイナス)が可能であり、しかも比較的導入のハードルが低いため、地球温暖化対策への効果的な素材として注目を集めているのです。
カーボンニュートラルとは、企業や個人、政府などが発生させる二酸化炭素(CO2)の排出量を、削減やオフセット(相殺)などの手段を通じて実質ゼロにすることを目指す概念です。
気候変動対策の一環として重要視されており、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出量を減らすことを目的としています。
一方、カーボンマイナスは、カーボンニュートラルよりも一歩進んだ概念で、単に二酸化炭素(CO2)排出量を実質ゼロにするのではなく、排出される量よりも多くのCO2を削減、回収、または吸収することを目指します。
このアプローチでは、大気中から既に排出されてしまったCO2を積極的に取り除くことに焦点を当て、地球温暖化の原因となる温室効果ガスの濃度を低下させることを目標としています。
バイオ炭を農業分野・漁業分野で活用することにより得られるメリットをご紹介します。
田畑などの土壌にバイオ炭を混ぜることで、水の浸透性が向上し、酸性化した土壌を中和する効果が期待されています。この効果により土壌の品質が改善され、作物がより良く育つ環境が整うと考えられているのです。
しかし、過剰に施用した場合、土壌のpHが上昇し、作物の生育に悪影響が生じる可能性が指摘されているため注意が必要です。農林水産省がバイオ炭の施用にあたる目安を公表しているため、参考にしてみてください。
(画像:農林水産省HP「バイオ炭の施用量上限の目安について」)
バイオ炭の特徴として、表面に多数の穴が存在し、その表面積が広いという点が挙げられます。そのため、環境汚染物質を吸着し、水や空気の浄化作用が生じます。
具体的な例として、漁業での赤潮予防にバイオ炭が活用されています。和歌山県で水産加工業を営む企業が「紀州備長炭の粉末を添加した飼料」を魚に与えることで、養殖漁場の水質保全を実現しています。海洋汚染を抑制するだけでなく、魚の品質向上にも寄与することが確認されているのです。
バイオ炭の原料となる木や竹などの植物は、成長過程で二酸化炭素を吸収し、多くの炭素を含んでいます。しかし、これらの植物が伐採や枯死した後、自然に放置されると、微生物によって分解され、再び二酸化炭素として大気中に放出されてしまいます。
一方、これらの植物を炭化させてバイオ炭にすることで、炭素は炭の中に固定されます。その後、バイオ炭を土壌に混ぜることにより、炭素が土壌に閉じ込められ、大気中への放出が削減されます。この土壌への「炭素貯留」は、温室効果ガスの削減に有効な手段として認識されているのです。
バイオ炭を使用することで、二酸化炭素排出量の削減に貢献できるというメリットを生かし、そのような農地で栽培された作物を特別なブランドとして市場に打ち出し、収益性を高める戦略も考えられます。
作物に限らず、この取り組みに地元のビジネスを組み込み、共通のブランド名のもとに結束し、その活動内容を積極的に宣伝することが可能です。
環境省の調査によれば、国内での2018年度のバイオ炭の施用量は約2,500トンであり、二酸化炭素の貯留量は約5,000トンに見積もられました。1ヘクタールあたりのバイオ炭の使用量を10トンと仮定すると、バイオ炭を施用している農地の面積は約250ヘクタールに相当します。これは、日本の農地面積が約450万ヘクタール(平成27年度)の約0.006%に過ぎないため、国内全体ではバイオ炭の普及が十分に浸透しているとは言えません。
とはいえ、バイオ炭を施用できる農地面積はまだ豊富に存在するとも言えます。バイオ炭の普及を進めるには、農業従事者に対してバイオ炭の効用について情報提供を行うことや、価格に関する問題の解決が必要です。例えば、農地面積の10%に対してバイオ炭を施用するだけで、900万トンの二酸化炭素を貯留することができる可能性があります。
J-クレジット制度は、省エネルギー機器の導入や森林経営などの取り組みによる、CO2などの温室効果ガスの排出削減量や吸収量を「クレジット」として国が認証する制度です。2013年度より国内で開始されました。
J-クレジット制度を利用することで、企業や自治体などが排出削減・吸収された温室効果ガスをクレジットとして国が認証し、購入・売却できるようになります。クレジットを購入することで、低炭素投資を促進し、日本の温室効果ガス排出削減に貢献することが可能です。ただし、クレジット制度を利用するにあたって、無効化手続きは追加・修正できない、認証申請には期限がある、クレジットの種類別で活用法は制限されるなどの注意点があるため、詳しくは農林水産省が公表している資料を参照してください。
(参考:農林水産省「バイオ炭をめぐる事情」)
バイオ炭は、比較的手頃な価格で入手できるため、炭素固定に有効な手段として注目を集めています。地球環境問題への対応策として、農業分野だけでなく建設業でも積極的に取り組まれています。さらに、2020年からはJ-クレジット制度にも採用され、今後の更なる活用が期待されるでしょう。
近年において、環境改善に向けた取り組みは企業が行うブランディングに欠かせない要素となっています。バイオ炭と親和性の高い事業を営む企業様は、ぜひ活用を検討してみてはいかがでしょうか。