製造業において、空調設備の省エネ化は避けては通れない重要課題です。エネルギーコストの上昇や環境規制の強化、そして地球温暖化対策の要請を背景に、工場における効率的な空調システムの導入が注目を集めています。
本記事では、製造業における空調省エネの意義から、最新の省エネ空調設備の特徴、そして導入時の選定ポイントまでを解説します。
現代において製造業における省エネの取り組みは、環境保護、資源の有効活用、コスト削減、法令遵守など、多面的な意義を持つ重要な経営課題となっています。
世界的な人口増加や経済成長に伴い、エネルギー消費量が急増しています。国際エネルギー機関(IEA)の予測では、2040年の世界エネルギー消費量は2014年の1.3倍に達すると見込まれているのです。
特にアジアを中心とした新興国における工業化の進展と生活水準の向上が、エネルギー需要を大きく押し上げる要因となっています。
現在のエネルギー消費の大半を占める化石燃料には限りがあります。具体的には、石油や天然ガスは約50年、石炭は約130年で枯渇すると予測されており、新たなエネルギー源の開発と省エネの取り組みが急務となっています。
採掘技術の向上により一時的な埋蔵量の増加は見込まれるものの、長期的な視点では化石燃料への依存度を下げることが不可欠です。また、採掘コストの上昇も、化石燃料からの転換を促す要因となっています。
化石燃料の大量消費は、CO2排出量の増加を招き、地球温暖化を加速させています。21世紀末には世界の平均気温が20世紀末比で1.5°C上昇すると予想されており、温室効果ガス削減のための省エネ対策が求められています。
国際社会においても、パリ協定に基づく温室効果ガス削減目標の達成に向けた取り組みが加速しています。
多くの国がエネルギー資源の輸入に依存しており、原油価格の変動は企業経営に大きな影響を与えます。2000年以降、新興国の需要増大や中東情勢の不安定化などにより、エネルギー価格は大幅に変動しているのです。
地政学的リスクや為替変動も価格変動の要因となり、企業の経営計画に不確実性をもたらしています。長期的な視点での安定したエネルギーコスト管理が、企業の競争力維持に不可欠となっています。
省エネ法や温対法により、一定規模以上の事業者には省エネ対策が義務付けられています。具体的には、年間のエネルギー使用量が原油換算で1,500kL以上の事業者は、エネルギー管理指定工場として、毎年1%以上のエネルギー消費原単位の削減が求められています。
さらに、炭素税やカーボンプライシングなど、新たな規制の導入も検討されており、企業には一層の対応が迫られています。
省エネはコスト削減に直結するため、企業の収益性向上に重要な役割を果たします。製造業では特に、生産設備で消費される電力が全体の83%を占めており、省エネ対策による経費削減効果が大きいのが特徴です。
加えて、環境配慮型経営は企業価値の向上にもつながり、ESG投資の観点からも注目を集めています。省エネ技術の開発・導入は、新たなビジネスチャンスの創出にもつながる可能性を秘めています。
空調は工場全体のエネルギー消費の約30%を占めることがあり、その効率的な運用が求められています。空調省エネには以下のような重要な効果があります。
コスト削減
空調の効率化により光熱費を抑え、利益率を向上させることができます。エネルギー消費の大部分を占める空調の効率的運用は、大幅なコスト削減につながります。
CO2排出削減
製造業は日本のCO2排出量の約35%を占めており、その大部分が工場からの排出です。空調の省エネはCO2削減に直接寄与し、企業の社会的責任を果たすことができます。
生産性向上
適切な温湿度管理は作業環境を改善し、生産性の向上にもつながります。
前述した省エネ課題に直面している製造業・工場にとって取り組みやすいのが、空調設備の刷新です。近年、省エネ性能を備えた様々な空調設備が開発されています。
氷蓄熱式空調システムは、電気料金の安い夜間に氷を作り、昼間の冷房に利用することで省エネを実現します。システムの導入により、割安な夜間電力を活用した光熱費の削減が可能です。
また、昼間の電力使用量を抑制し、電力需要の平準化に貢献することで、社会全体のエネルギー効率向上にも寄与します。さらに、夏場の昼間における熱の放出を抑制できるため、ヒートアイランド現象の緩和にも効果を発揮します。
ただし、蓄熱槽などの設備導入に伴う初期費用が高額となることや、夜間に氷を製造する必要があるため24時間操業の施設には不向きといったデメリットも存在します。
デシカント空調システムは、温度と湿度を分離して制御することで高効率を実現します。従来の空調システムと比較して、除湿に必要なエネルギー消費量を大幅に削減できる点が特徴的です。
また、冷媒を使用しないノンフロンシステムであるため、環境負荷の低減にも貢献します。運転時の騒音も少なく、静粛性に優れているため、騒音への配慮が必要な施設での導入にも適しています。
ただし、システムの中核となる除湿ローターが比較的大型で高価であり、導入時のコストが課題となる場合があります。
最新の空調設備には、快適性と省エネ性を両立する高度な機能が搭載されています。室内の活動量を検知して運転状態を自動的に調整する機能により、空調負荷に応じた最適な運転が実現可能です。
また、センサーによって人の位置や数を把握し、風向や風量を細かく制御することで、無駄のない空調運転を実現します。さらに、外気温や負荷状況に応じて室外機の運転を最適化する機能も備わっており、システム全体での効率的なエネルギー利用を可能にします。
これらの先進的な省エネ機能の組み合わせにより、利用者の快適性を損なうことなく、大幅な省エネルギーを実現することができます。
実際の運転状況に近い部分負荷時の効率を示すAPF (通年エネルギー消費効率) や IPLV (期間成績係数) を確認しましょう。空調設備は年間を通じて最大負荷で運転されることは少なく、多くの時間を部分負荷で運転している状態にあります。APFやIPLVの値が高い設備を選定することで、実運用における省エネ性能の高さを期待することができます。季節や時間帯による負荷変動が大きい施設では、特に重要な指標です。
最大負荷時の効率を示すCOP (成績係数) も確認が必要です。夏季のピーク時など、最大負荷での運転時における省エネ性能を判断する重要な指標となります。ただし、COPの値だけでは実際の運転状況を反映しきれないため、部分負荷効率と併せて総合的に評価することが大切です。
両方の指標をバランスよく検討することで、より適切な設備選定が可能となります。
負荷変動の大きい工場では、インバータ制御機能付きの設備を選ぶことで、部分負荷時の効率を向上させることができます。インバータ制御は、圧縮機の回転数を負荷に応じて細かく制御し、必要最小限の出力で運転を行うことを可能にします。
特に春秋季など中間期や、工場の稼働状況によって負荷が大きく変動する環境では、大きな省エネ効果を発揮します。
工場の排熱を利用できる熱回収システムを導入することで、さらなる省エネ効果が期待できます。生産設備や空調機器から発生する排熱を回収し、給湯や暖房などに有効活用することで、施設全体のエネルギー効率を高めることが可能です。
製造プロセスで大量の熱が発生する工場では、導入効果が特に高くなる傾向にあります。
複数の小型機器を組み合わせることで、負荷に応じた効率的な運転が可能になります。負荷の変動に合わせて運転台数を調整することで、各機器を効率の良い運転状態に保つことができます。
また、メンテナンス時や故障時のバックアップ体制も確保しやすく、システムの信頼性向上にも寄与します。施設の規模や用途に応じて、最適な台数構成を検討することが重要です。
ダイナエアー株式会社のリキッドデシカント空調機は、省エネ性、環境性、除加湿能力、制御性のバランスを取りながら、現代の空調における課題を解決する革新的なソリューションを提供します。
主な特徴 |
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強力な除湿・加湿能力 液体調湿剤の温度と濃度を調整することで、空気の温度と湿度を正確にコントロールできます |
省エネルギー性 低温の熱源を用いて幅広い除湿・加湿ニーズに対応し、ヒートポンプチラーの温水や未利用熱(地中熱、太陽熱、排温水等)を最大限活用できます |
高度な制御性 温度と湿度を独立して制御可能で、目標温湿度を一定に保つなど、様々な調湿ニーズに対応できます |
クリーンな加湿 調湿剤に除菌作用があるため、蒸気式加湿と同等のクリーンな加湿が可能です |
幅広い適用範囲 工場のクリーンルームや製造室、医療・介護施設、学校、ホテル、オフィスなど、様々な施設で利用されています |