室内の二酸化炭素が増加すると、倦怠感や眠気を引き起こすなど、人体へ悪影響を及ぼします。オフィスなどの空間においては、空気の質が業務のパフォーマンスにも直結します。
室内での生活において、二酸化炭素(CO2)の濃度は快適な空間づくりには必要な指標なのです。
本記事では、二酸化炭素濃度の人体への影響や基準を解説するとともに、二酸化炭素濃度を測定し適切に換気する必要性、CO2センサを選ぶポイントについてご紹介します。
このような方におすすめです
・室内の二酸化炭素濃度の目安を知りたい方
・二酸化炭素濃度計測による効果を知りたい方
・二酸化炭素濃度による人体への影響を知りたい方
・オフィスや学校の環境づくりを任せられている企業の担当者
二酸化炭素濃度とは、二酸化炭素(CO2)が1㎥中に含まれている割合のことです。空気中のCO2濃度は「ppm」で表されます。
「parts per million」の略。ppmは「100万分のいくつ」という割合(比率)を示します。1ppmは0.0001%です。
空気中の二酸化炭素濃度は通常410ppmとされており、室内の二酸化炭素濃度の基準は1,000ppm以下です。
人間の呼気に含まれる二酸化炭素の濃度は約40,000ppmといわれています。
二酸化炭素濃度は室内の空気汚染を判断する指針のひとつで、基準値を超えると体調にも影響していきますので、 基準値を保てるような換気が必要です。
二酸化炭素(CO2)が人体に与える影響について、様々な文献が発表されています。
屋内で500〜800ppmの二酸化炭素濃度であれば、人体には無害であるとみなされます。二酸化炭素(CO2)の濃度が上がるにつれ、眠気を引き起こし、学習パフォーマンスや意思決定力の低下といった私たちの認知能力に影響を与えます。
80,000ppmを超えるレベルでは意識を失い、最終的には死に至ります。
出典:旭化成エレクトロニクス株式会社.“換気しないと私たちはどうなってしまうのか?”.屋内空気質センサーで CO2 濃度をモニタリング.https://www.akm.com/jp/ja/products/co2-sensor/application/indoor-air-quality-co2-monitoring/ ,(参照 2023-10-02)
二酸化炭素濃度1,500ppm~3,000ppmで人間の能力・健康への影響が報告されています。
出典:László Kajtár, Levente Herczeg.“Influence of carbon-dioxide concentration on human wellbeing and intensity of mental work”.2012年5月.https://www.researchgate.net/publication/231558578Influenceof_carbon-dioxide_concentration_on_human_well-being_and_intensity_of_mental_work#:~:text=Several%20physiological%20measures%20show%20that,the%20air%20reaches%203000%20ppm. ,(参照 2023-10-2)
出典:Usha Satish, Mark J. Mendell, Krishnamurthy Shekhar, Toshifumi Hotchi, Douglas Sullivan, Siegfried Streufert, William J. Fisk.“Is CO2 an Indoor Pollutant? Direct Effects of Low-to-Moderate CO2 Concentrations on Human Decision-Making Performance”.2012年12月1日.https://ehp.niehs.nih.gov/doi/10.1289/ehp.1104789,(参照 2023-10-2)
出典:Joseph G. Allen, Piers MacNaughton, Jose Guillermo Cedeno-Laurent, Xiaodong Cao, Skye Flanigan, Jose Vallarino, Francisco Rueda, Deborah Donnelly-McLay, John D. Spengler .“Airplane pilot flight performance on 21 maneuvers in a flight simulator under varying carbon dioxide concentrations”.2018年8月8日.https://www.nature.com/articles/s41370-018-0055-8,(参照 2023-10-2)
出典:Joseph G. Allen, Piers MacNaughton, Usha Satish, Suresh Santanam, Jose Vallarino, John D. Spengler.“Associations of Cognitive Function Scores with Carbon Dioxide, Ventilation, Volatile Organic Compound Exposures in Office Workers: A Controlled Exposure Study of Green and Conventional Office Environments”.2016年6月1日.https://ehp.niehs.nih.gov/doi/10.1289/ehp.1510037,(参照 2023-10-2)
二酸化炭素濃度2,500ppm以上で眠気が増加することが報告されています。また、1,500ppm以上で睡眠の質が低下するという研究結果もあります。
出典:Ruey-Yu Chen, Kin-Fai Ho, Ta-Yuan Chang, Gui-Bing Hong, Chien-Wei Liu, Kai-Jen Chuang.“In-vehicle carbon dioxide and adverse effects: An air filtration-based intervention study”.2020年6月25日.https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0048969720315606 ,(参照 2023-10-2)
出典:Stephen Snow, Amy Boyson, Marco Felipe-King, Obaid Malik, Louise Coutts, Catherine J Noakes, Hannah Gough, Janet Barlow, m.c. schraefel.“Using EEG to characterize drowsiness during short duration exposure to elevated indoor Carbon Dioxide concentrations”.2018年11月30日.https://www.biorxiv.org/content/10.1101/483750v1,(参照 2023-10-2)
出典:Tommi Vehviläinen, Harri Lindholm, Hannu Rintamäki, Rauno Pääkkönen, Ari Hirvonen, Olli Niemi, Juha Vinha.“High indoor CO2 concentrations in an office environment increases the transcutaneous CO2 level and sleepiness during cognitive work”.2016年1月6日.https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/15459624.2015.1076160,(参照 2023-10-2)
出典:Peter Strøm-Tejsen, Pawel Wargocki, David P Wyon, Daria Zukowska-Tejsen.“The effects of CO2 controlled bedroom ventilation on sleep and next-day performance”.2014年10月.https://backend.orbit.dtu.dk/ws/portalfiles/portal/101895512/Roomvent_2014_Paper_ID_148.pdf ,(参照 2023-10-2)
出典:井上 莉沙, 都築 和代, 竹内 悠香, 秋山 雄一, 尾方 壮行, 田辺 新一.“寝室内環境が睡眠の質に与える影響 (第4報)空気質を考慮した寝室内環境が睡眠に及ぼす影響”.2018年9月.https://www.jstage.jst.go.jp/article/shasetaikai/2018.6/0/2018.6_93/_article/-char/ja/ ,(参照 2023-10-2)
オフィスビルの空気換気の基準は、ビル管理法の建築物環境衛生管理基準に規定があります。そのなかで、二酸化炭素濃度は「1,000ppm以下」と定められており、厚生労働省はこの基準に適合するように空調設備の維持管理に努めなければならないとしています。
また、特定建築物のビルオーナーは、2ヵ月に1回、空気環境測定を行う義務があります。
ビル管理法とは、不特定多数が利用する建物を対象とし、建築物の衛生的な環境を確保するための法律です。正式名称は「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」。
一定以上の規模を持つ大型商業施設(百貨店など)や、娯楽施設(映画館や劇場など)、ホテル、学校、オフィスビルなどが「特定建築物」とされ、ビル管理法の対象となります。
文部科学省の「学校保健安全法」にもとづく教育施設における「学校環境衛生基準」にも、空気環境に関する基準が定められています。
換気の基準として、二酸化炭素濃度は「1,500ppm以下であることが望ましい※」とされています。
※教室内の空気は外気との入れ換えがなければ、在室する児童生徒等の呼吸等によって教室の二酸化炭素の量が増加するとともに、同時に他の汚染物質も増加することが考えられます。このため、教室等における換気の基準として、二酸化炭素濃度は1,500ppm以下であることが望ましいとされています。
出典:文部科学省.“学校環境衛生管理マニュアル 「学校環境衛生基準」の理論と実践[平成30年度改訂版]”.https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2018/07/31/1292465_01.pdf ,(参照 2023-09-15)
実際の家を用いたCO2モニタリングの実験では、家族が集まる時間帯は CO2 濃度が大きく上昇することが確認されました。特に就寝中の寝室や、人が多く集まる空間では濃度が上がりやすい傾向があります。
出典:旭化成エレクトロニクス株式会社.“実際の家を用いた CO2 モニタリング”.
https://www.akm.com/jp/ja/products/co2-sensor/application/co2-monitoring-real-life-house/,(参照 2023-10-02)
二酸化炭素(CO2)自体は少量であれば人体に有害なものではありませんが、1,000ppmを超えると息苦しさを感じる事が増えるといわれています。室内の二酸化炭素濃度を意識し、適切に喚起することで、快適な空気室を保つことが大切です。
国際エネルギー機関 (IEA:International Energy Agency)の「建物・地域システムの省エネプログラム」に参加している13カ国では、すべての建物の換気に起因する一次エネルギー消費量は、各国の一次エネルギー消費量全体の9%に相当すると推定されています。
また、米国の住宅の換気には、年間推定3エクサジュール (EJ : ジュールの10の18乗) のエネルギーが使用されており、これはこれらの建物で使用される全エネルギーの約30%にあたります。米国のサービス業(商業、工業、政府機関などの建物)では、換気のために消費されるエネルギーは1.5EJと推定され、サービス業の建物の総エネルギー使用量の約4分の1を占めています。
出典:O A Seppänen, W J Fisk, M J Mendell. “Association of Ventilation Rates and CO2-Concentrations with Health and other Responses in Commercial and Institutional Buildings”.1999年12月11日. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10649857/ , (参照 2023-10-2)
室内において快適な空気質を保つ際、換気システムを常時フルパワーで動作させると、せっかく冷やした(温めた)空気が外に排出されるため、必要以上にエネルギーを消費してしまいます。
エネルギー効率よく快適な空気質を保つには、室内の二酸化炭素濃度を計測して、最適な換気制御を行うことが重要です。
従来の換気制御 | 二酸化炭素濃度を基準とした換気制御 |
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二酸化炭素濃度の計測なしで常に換気している状態。必要以上に換気され、エネルギーロスになってしまう場所と、換気が不十分で二酸化炭素濃度が高い場所が生まれてしまいます。 | 各部屋の二酸化炭素濃度を計測し、適切に換気制御した状態。部屋の実稼働率に基づく換気ができるため、快適な空気質を保ちつつ、省エネが可能です。 |
デマンド制御換気 (DCV) なしの固定換気に対し、換気制御に下記の効果があります。
出典: XINGBIN LIN; JOSEPHINE LAU, PH.D., MEMBER ASHRAE.“Applying Demand-Controlled Ventilation”.ASHRAE Journal.2016年1月.https://www.meghvac.com/wp-content/uploads/2016/05/2016Jan_030-037_Lin.pdf ,(参照 2023-10-02)
出典:旭化成エレクトロニクス株式会社.“換気で消費されるエネルギーは?”.屋内空気質センサーで CO2 濃度をモニタリング.
https://www.akm.com/jp/ja/products/co2-sensor/application/indoor-air-quality-co2-monitoring/,(参照 2023-10-02)
CO2センサの方式には「NDIR方式」と「固体電解質方式」の2通りがあります。NDIR(Non Dispersive InfraRed:非分散型赤外線吸収法)方式のセンサは高精度かつ長寿命という特徴があり、測定に適しています。
現在はNDIR方式のセンサが、CO2センサ市場の90%以上のシェアを占めています。
NDIR方式 | 固体電解質方式 | |
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メカニズム | 測定対象ガスが持つ特有の吸収波長の赤外線を利用して二酸化炭素濃度を計測 | 酸化還元反応を利用して二酸化炭素濃度を計測 |
測定の精度 | 高精度 | 低精度 |
ガス選択性 | 高い(CO2のみに反応する) | 低い(CO2以外のガスにも誤って反応しやすい) |
寿命 | 長寿命( > 10年) | 低寿命( < 2年) |
電源のない場所への設置や、オフィスなどのレイアウト変更に柔軟に対応する必要がある場合には、電源に繋ぐ必要のないポータブルタイプがおすすめです。
CO2センサを設置する場所によっては、コンセントがない場合があります。コンセントにつなぐタイプのCO2センサの場合、オフィスなどのレイアウト変更のたびに、センサへの電力供給の方法を検討する必要が出てきます。
そのため、さまざまな設置環境に柔軟に対応できる、ポータブルタイプのものを選ぶと良いでしょう。
また、ポータブルであっても、電池が数日しか持たないものも多いため、動作可能な時間が長いものを選びましょう。
取り扱い時の振動や基板への応力、光源の発光量低下、光路の汚れによりセンサーの精度が低下するため、定期的な較正(こうせい)が必要です。
自動で較正できる機能を持ったCO2センサを選ぶことで、メンテナンスの手間を大幅に削減し、長期間にわたり正確な測定が可能です。
旭化成エレクトロニクス (AKM) グループのSenseair AB(センスエア)が提供するNDIR方式のCO2センサモジュール「Sunrise」をご紹介します。
モジュールとは、ひとまとまりの機能を持った部品です。普段の生活の中でモジュールを意識することはなかなかありませんが、最終製品(消費者が購入する製品)の機能性を左右する需要な要素です。
このセンサモジュールは、旭化成エレクトロニクス (AKM) グループの独自技術を組み合わせて開発されました。
高精度でありながら、超低消費電流を実現しています。また、定期的に自動較正するため取り付け後はメンテナンスフリーで使用できます。
オフィスビルなどの二酸化炭素濃度を測定するセンサネットワークに、AKMグループのSenseair AB(センスエア)のCO2センサモジュールが採用されています。
センサネットワーク機器の特徴 | ・10年寿命のバッテリ駆動により、完全ワイヤレスかつメンテナンスフリーを実現(バッテリ交換や充電の手間なし) ・配線を引きづらい場所やレイアウト変更にも柔軟に対応可能 |
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CO2センサモジュール「Sunrise」の導入効果 | Sunriseは、超低消費電流 / 自己補正機能付きでメンテナンスフリーである特徴により、最終製品のワイヤレス化 / メンテナンス低減に貢献しました |
二酸化炭素濃度が増加すると人体へ悪影響を及ぼすため、室内での生活において、二酸化炭素(CO2)の濃度は重要な指標であることをご紹介しました。
また、換気によるエネルギー消費を抑えるためにも、二酸化炭素濃度を計測し、適切な換気を行うことが重要です。
運用性の高い最適なCO2センサを導入し、エネルギー効率よく快適な空気質を保ちましょう。