働き方改革で副業・兼業を推進
政府は2017年の「働き方改革実行計画」において、「労働者の健康確保に留意しつつ、原則副業・兼業を認める方向で普及促進を図る」ことを閣議決定しました。
これまで、日本で副業は原則禁止の企業が大半でしたが、なぜ政府は副業・兼業を推進しているのでしょうか。
副業は法律で認められている
前提として、憲法において職業選択の自由が保証されているため、会社員は法律上副業を禁止されていません。しかし、企業は就業規則を作成できるため、副業禁止や副業を許可制にすることがあります。過去の判例から、就業規則で副業を禁止することは法律違反ではないとされています。同時に、副業禁止の企業で副業をおこなった場合も、懲戒処分の対象となるとは限らないのです。
ただし、公務員については国家公務員法の第103条と第104条、地方公務員は地方公務員法の第38条で副業が禁止されているので注意が必要です。
副業・兼業が推進される理由
政府は「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の中で、社員が副業を希望する場合、認める方向で検討することが適切であるとしています。
政府が副業を推奨する理由は、
・自律的なキャリア形成を促す
・労働力の確保
・本業への還元によるイノベーション創出
・チャレンジ機会の創出
などが挙げられます。
日本は労働人口の減少と、イノベーション不足による企業の国際競争力低下が大きな問題となっています。
副業を解禁することで働き手を増やし、企業の垣根を超えたワークシェアリングが可能になるのです。また、人材や知見が企業間・産業間で融合することで、イノベーションの創出も期待できます。
副業を含む多様な働き方を選択できることも、働き方改革の目的の一つなのです。
副業解禁のメリット
副業が解禁されると、労働者は収入を増やしたり新しい仕事にチャレンジできるメリットがあります。同時に企業も従業員が副業をすることで様々な効果を期待できるのです。
副業解禁のメリットや効果を従業員と企業それぞれの視点で紹介します。
従業員側のメリット
従業員側のメリットとして、わかりやすいのは副業により収入が増えることです。長年、日本は賃金が上がらないことが課題となっています。さらに働き方改革で時間外労働が規制されることで、「手取りが減ってしまった」という悩みを抱える人は少なくありません。
今後も事業環境が厳しくなる中で、「昇給が見込めない」「リストラが心配」といった労働者には、本業以外に収入を得られることは経済的にも精神的にもメリットが大きいといえます。
また、副業によりキャリア形成の幅が広がることもメリットです。別の仕事を本業と並行しておこなうことで、未経験の分野にチャレンジしたり、本業では難しい経験を積むことができます。
収入は優先せずに、自分のやりたいことに経済的なリスクを取らずチャレンジでき、自己実現が可能であることも副業ならではのメリットです。
企業側のメリット
従業員が副業をおこなうことで、企業にはどんなメリットがあるのでしょうか。
1つは、従業員が主体的に、社内では得られない経験やスキルを身に着けることです。副業で得た知見や人脈を本業に活かしてくれることも期待できます。
人手不足が深刻になる中で、優秀な人材ほどアンテナを広げて自分らしい働き方や、キャリアアップを模索しています。働き方改革の推進とあわせ、副業を許可することで、従業員の流出を防いだり、採用の効率を上げることにつながります。
また、副業人材を受け入れることで、自社に不足しているスキルや経験を得ることもできるのです。
デメリットや注意点をチェック
副業解禁にあたっては、注意が必要な点が多く、内容によっては労使トラブルなど大きな問題になる可能性もあります。
従業員、企業双方がリスクや注意点を理解した上で、協力する必要があります。
副業解禁の代表的なデメリットと注意点を3つ紹介します。
労務時間管理の複雑化
労働基準法第38条では、本業と副業がある場合、労働時間は通算するとされています。そこで起こる問題が、自社では法定労働時間内で働いていても、副業によって労働時間が長くなることです。
就業後に副業で働いた時間は時間外労働として割増賃金となり、36協定の届出や手当の支給が必要になるのです。また企業は従業員の安全配慮義務を負うため、副業を含む全体の労働時間を把握し、管理しなくてはいけません。
働き方改革による法改正で、従業員に一定時間以上の時間外労働をさせると、企業には罰則が与えられます。従業員が副業をすることで、不必要な手間やコストがかかるリスクがあるのです。
労災発生時の責任の所在が不明確
従業員が副業先へ移動している間に通勤災害あったり、長時間勤務が原因で病気になった場合、責任の所在が本業と副業どちらにあるかでトラブルになる可能性があります。
規定の時間内で勤務していたとしても、副業を許可している場合、「自社で就業している時間以外にも労働時間がある」ことを認識していたことになります。
そうなると、副業が原因で発生した労災であっても損害賠償責任を負う可能性が出てくるのです。
評価制度の見直し
副業をすることで評価を下げたり、異動させるなど不利益を与えることは様々な悪影響を及ぼします。しかし、副業によって本業に支障を来した場合は適切な処分も必要です。副業をしているかどうかと本業の成果を関連付ける際には慎重な判断が必要になるので、評価制度を再検討し、正しい対処ができるように備える必要があります。営業職など数字として成果が出やすい仕事以外は特に評価が困難になるため、手続きが複雑になる懸念があります。
副業解禁に向け企業が取るべき対策
国として副業・兼業を推進し、労働者の副業への関心は高まっていますが、副業を認めるかどうかは各企業に委ねられている状況です。
今後副業を解禁する企業は増加していくと考えられますが、メリットだけでなく、従業員に副業を許可するリスクを把握した上での制度設計が不可欠です。
就業規則の変更や雇用契約書の結び直しが必要になる場合もあります。厚生労働省が公表しているガイドライを参考にするほか、専門家の意見を取り入れたり、他社事例を参考にして自社に最適な運用方法やルール作りを検討しましょう。
また、副業を解禁してから副業をするか、しないかも従業員の自由です。副業解禁について従業員がどんな考えや希望を持っているかを確認することも、最適な仕組み作りにとって重要になります。
まとめ
企業、従業員双方に、副業解禁はメリットがあります。働き方改革が進む中で、副業の重要性も高まっていくでしょう。一方で、制度や体制が追いついていないため、解決すべき課題も多い状況です。
今後、働き手の確保や競争力を高めるために、副業の取り扱いを無視できません。メリット・デメリット、リスクを把握した上で、自社でどのように取り入れていくべきかを検討しましょう。