ゲッター材(水分・ガス吸着材)とは?種類や用途、選び方を解説

ゲッター材(水分・ガス吸着材)は、電子部品のパッケージや真空容器といった密閉空間に存在する不要なガス分子を吸着し、デバイスの性能や長期信頼性を維持するために不可欠な機能性材料です。

本記事では、ゲッター材の導入を検討されている開発担当者の方に向けて、基本的な役割から、用途に応じた種類の違い、ゲッター材の選び方について詳しく解説します。

ゲッター材(水分・ガス吸着材)とは?

ゲッター材とは、封止された容器・パッケージ内部に残留する、もしくは外部から新たに侵入する水分やその他ガスを吸着する吸着材です。封止空間のガスマネジメントに貢献し、デバイスの長期安定性を確保します。

ゲッター材の役割と必要性

電子部品のパッケージ内部のガスマネジメントの重要性

近年、センシング(モーションセンサ、イメージセンサ、IRセンサ)、通信(高周波、オプトエレクトロニクス)、医療(CTスキャン、ペースメーカー)といった多様な分野で電子機器の用途が拡大しています。それに伴い、デバイスの高精度化・高出力化、小型化、高耐環境性・高信頼性への要求も一段と高まっています。

こうした要求を満たすため、様々な電子機器において、真空封止容器・パッケージや、内部を窒素・アルゴン・乾燥空気などで置換するパッケージが採用されています。これらのパッケージでは、内部のガスマネジメント(残留・侵入ガスの制御)が非常に重要になります。

封止後のパッケージ内部に残る、あるいは外部から侵入する微量な水分やガスは、デバイスやセンサーの性能・信頼性を大きく左右します。不純ガスを最小限に抑えることが、デバイスの長期安定性と劣化防止の鍵となります。

パッケージ内部の主なガス発生源

デバイスの性能を脅かす不純ガスの主な発生源は、以下の4つに大別されます。

アウトガス デバイスを構成する部品、例えば接着剤や基板、プラスチック筐体などの材料自体から放出されるガスです。製造後の時間経過や、デバイスの動作熱によって放出が促進されることがあります。
残留ガス パッケージを密封する際に、内部の空気を真空引きしたり、窒素などの不活性ガスで置き換えたりします。このとき、完全に除去しきれずに内部に残ってしまったガスが残留ガスとなります。
透過 パッケージの封止材(シール材)などを、外部のガス(特に水分)が時間をかけてゆっくりと通り抜けて内部に侵入する現象です。
リーク パッケージの封止部分に目に見えないほどの微細な亀裂や隙間があり、そこから外部の空気が侵入する現象です。

これらの発生源から、水分(H₂O)、水素(H₂)、酸素(O₂)、そして接着剤などから発生する揮発性有機化合物(VOC)といった様々なガスがパッケージ内部に発生し、デバイスの性能や信頼性に悪影響を及ぼします。

不純ガスによる製品の長期信頼性への影響

水分(H₂O) 金属配線の腐食や、電気的なショートを引き起こします。また、MEMS(微小電気機械システム)のような微細な可動部を持つデバイスでは、部品同士が水分の表面張力でくっついてしまう「スティッキング」という固着現象の原因にもなります。
水素(H₂) 特に、高速通信で用いられるGaAs(ガリウムヒ素)やInP(インジウムリン)といった化合物半導体は、水素に晒されると特性が劣化することが知られています。
酸素(O₂) 材料の酸化を引き起こし、性能劣化や寿命の低下に繋がります。真空管や照明ランプなどで古くから問題とされてきました。
揮発性有機化合物(VOC) 光通信モジュール内のレンズやミラーといった光学部品の表面に付着・堆積し、光の透過率を下げて通信品質を低下させる原因となります。

ゲッター材の主な種類と原理

ゲッター材は、その使用環境と目的、吸着対象ガス、形状などによって様々な種類に分類されます。

使用環境による分類

ゲッター材が使用される環境は、大きく「真空封止」と「ガス置換」の2つに分けられます。それぞれの目的や課題に応じて、ゲッター材に求められる性能も異なります。

  真空封止容器・パッケージ向け ガス置換パッケージ向け
目的 様々な残留ガスを吸着し、高真空度を長期間維持する 特定の不純ガス(水分、水素など)を選択的に吸着し、高純度の不活性ガス雰囲気を維持する
主な課題 部材からのアウトガスや、封止後のわずかなリーク 封止時に持ち込まれる水分や、部材から発生する特定のガス
ゲッターに求められる性能 幅広い種類のガスに対する高い吸着能力 ターゲットガスに対する高い選択性と吸着能力
代表的な用途 X線管、電子管、IRセンサ、圧力センサ、モーションセンサ、MEMS、魔法瓶 光通信デバイス、高周波デバイス、有機EL(OLED)、イメージセンサ、有機太陽電池

吸着対象ガスによる分類

真空封止容器・パッケージ向けゲッター

水分(H₂O)、水素(H₂)、酸素(O₂)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO₂)など、様々な反応性ガスを吸着し、高真空度を長期間維持します。

ガス置換パッケージ向けゲッター

特定の不純ガス(水分、水素、VOCなど)を選択的に吸着し、高純度の不活性ガス雰囲気を維持します。

水分ゲッター 水分(H₂O)をターゲットとして吸着します。電子部品の腐食防止など、多くのデバイスで利用されます。
水分+ガスゲッター 水分と水素、あるいは水分とVOCなど、複数の種類のガスを同時に吸着できるタイプです。より複雑なガス環境に対応するために用いられます。
水素ゲッター 水素(H₂)をターゲットとして吸着します。水素による性能劣化が懸念される化合物半導体を用いたデバイスなどで重要となります。

形状や形態による分類

ゲッター材は、使用環境、デバイスの構造や製造プロセスに合わせて、様々な形状で提供されています。

真空封止容器・パッケージ向けゲッター

ピル・タブレット型

錠剤やリング状に成形されたゲッター。比較的大きな吸着容量を確保しやすい。

主な用途:照明(ランプ)、魔法瓶など、比較的スペースに余裕のある容器。

バルク型

円筒状に成形されたヒーター内蔵型ゲッター。電流加熱によるゲッターの活性化が可能。

主な用途:電子管、赤外線センサーなど、直接加熱が難しい真空容器デバイス。

シート・フィルム型

薄いシート状やフィルム状のゲッター。限られたスペースに実装しやすい。

主な用途:MEMSなど小型デバイスのパッケージ内部。基板に貼り付けて使用。

ガス置換パッケージ向けゲッター

塗布型(ペースト)

ペースト状で、ディスペンサーやスクリーン印刷で特定の場所に塗布可能。設計自由度が高い。

主な用途:パッケージの蓋(リッド)や基板上。複雑な形状のデバイス内部。

接着剤・シール型

ゲッター粒子を接着剤に混ぜ込んだもの。パッケージの封止とガスバリアの機能を両立。

主な用途:パッケージの接合部(エッジ)に塗布し、外部からの水分侵入を防ぐバリアとして使用。

ゲッター材の選び方

自社の製品課題を解決するために、数あるゲッター材の中から最適なものを選ぶには、以下のポイントを順に確認していくことが重要です。

封止環境と条件の確認

真空封止容器・パッケージの場合は、製品に要求される目標真空度とライフを確認します。ガス置換パッケージの場合は、要求ライフに加えてシーム溶接等のハーメチックパッケージなのか、シーラント材等を使用したセミ・ハーメチックパッケージなのかを確認します。

除去対象ガスの特定

次に、どのガスが問題を引き起こしているのかを特定します。

真空封止容器・パッケージの場合は、真空度が劣化する要因と発生しているガス種を特定します。圧力計を用いて封止後のパッケージ内圧の変化を測定したり、パッケージ内部の残留ガス分析(RGA: Residual Gas Analysis)を行うことで、真空度劣化の原因を特定します。例えば、圧力が一定のペースで上昇し続ける場合は外部からの「リーク」が、初期に急上昇してその後安定する場合は部材からの「アウトガス」が主な原因と考えられます。また、RGA(残留ガス分析)で水分が多く検出されればベーキング(加熱による脱ガス)不足が、窒素が多く検出されれば大気の混入(リーク)が疑われます。主なアウトガスの成分を把握することで、必要な吸着容量をより正確に見積もることができます。

ガス置換パッケージの場合は、デバイスの性能劣化要因となるガス種を特定し、それに応じたゲッター材を選びます。

実装プロセスとスペースの考慮

最後に、実際の製造プロセスにおける制約を確認します。

スペース

真空封止容器・パッケージの場合、内部にピル型やバルク型ゲッターを置く物理的なスペースがあるかを確認します。もしなければ、成膜タイプが候補となります。

ガス置換パッケージの場合、塗布型ゲッターが塗布可能な場所やスペース、バリアシーラント材が塗布可能なエッジ幅があるかなどを確認します。

温度 真空封止容器・パッケージの場合、ゲッターの活性化に必要な高温に、デバイスや他の部品が耐えられるかを確認します。耐えられない場合は、より低温で活性化できるゲッターや、電流印加でのゲッター活性を検討する必要があります。
プロセス

真空封止容器・パッケージの場合、真空排気が行われた状態でゲッターが十分活性化できるよう、ベーキングや真空排気の温度・時間等の条件を調整する必要があります。

ガス置換パッケージ向けの塗布型ゲッターの場合、塗布・硬化環境・時間、封止までの保管環境や時間などを確認します。

これらの製造プロセスとの適合性も、重要な選定基準となります。

ゲッター材の主な用途例

ゲッター材は、最先端の科学技術から私たちの身近な製品まで、非常に幅広い分野で活躍しています。

ヘルスケア・医療

CTスキャン用X線管、医療用加速器、ペースメーカー、内耳インプラント、その他各種の埋め込み型(インプランタブル)医療機器など、長期間にわたる絶対的な信頼性が求められるデバイスのパッケージに不可欠な部材として使用されています。

民生機器

スマートフォン内部の揺れ・傾きを検知するMEMSセンサーや、カメラの手振れ防止機能、有機EL(OLED)ディスプレイなど、小型化・高性能化が進むデバイスの信頼性確保に貢献しています。

自動車

ヘッドアップディスプレイ(HUD)向けのMEMSミラーデバイスや、横滑り防止装置(ESC/ESP)などに使われるジャイロスコープ(慣性センサー)、赤外線カメラなど、過酷な環境下で高信頼性を要求される車載部品のパッケージに採用されています。

光通信・エレクトロニクス

5G通信網やデータセンターを支える高速光トランシーバー(TOSA/ROSAモジュール)、RF(高周波)デバイス、レーザーモジュールなど、ガス置換パッケージ内の微量な水分や水素ガス、VOC(揮発性有機化合物)が性能に致命的な影響を与えるデバイスで使用されます。

科学・研究分野

粒子加速器や電子顕微鏡、各種の分析機器など、超高真空(UHV)環境が不可欠な科学研究分野においてゲッター材は中核的な役割を担っています。

その他

魔法瓶や真空断熱ボトルの真空度を長期間維持するためにも、ゲッター材が広く使われています。

ゲッター材 関連製品・サービスのご紹介

SAES(サエス)のゲッター材ソリューション

Saesgetters Getter Mv

封止された電子デバイス等の容器・パッケージ内部の不純ガス吸着を行う、ゲッター材を提供しています。「真空封止容器・パッケージ向け」と「ガス置換パッケージ向け」のゲッターを取り揃えております。ピル型・粒型、成膜型、塗布可能なペースト状、接着剤と一体化したバリア材など、多彩な形状で提供します。

SAES Getters S.p.A.(以下、SAES)は、80年以上にわたるガス吸着技術の知見に基づき、お客様の研究開発課題に機能性材料で応えます。

SAES(サエス)のゲッター材ソリューションについて詳しく見る

まとめ

  1. ゲッター材は、電子デバイスなどの密閉空間で不要なガスを化学的に吸着し、製品の性能と長期信頼性を確保する機能性材料である。
  2. 用途は主に「真空封止容器・パッケージ向け」と「ガス置換パッケージ向け」に大別され、それぞれゲッターの材質や形状、使用方法が大きく異なる。
  3. 最適なゲッター材の選定には、要求される封止環境・ライフを確認し、次に対象ガスを特定、最後に実装プロセスやスペースの制約を考慮することが重要である。

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