放電加工機とは?仕組み・種類・構造・特徴を解説
この記事では、放電加工機の仕組みや種類、構造、特徴、注意点などについてご紹介します。
放電加工機とは
放電加工機とは、金属加工のひとつで、電気エネルギーを活用して金属を彫り進めていく加工方法です。
石油や脱イオン水などの絶縁性の加工液に加工する金属を沈めて、金属と電極の間によって起こるアーク放電の熱で、金属を溶解して加工します。硬さに影響されずに加工できるのが特徴です。
金属の加工方法で主流の切削加工では加工できない硬い金属でも、放電加工機では加工ができるため、金属製作や高い強度が必要な部品で活用されています。
放電加工機の仕組み
放電加工の仕組みは、溶解・冷却・飛散を繰り返し行うことで、金属の表面から徐々に彫り進めていく加工方法です。
放電加工機では、まず絶縁性の加工液の中に入れた金属に向けて、連続して1秒間に1,000回から10万回放電することで、少しずつ金属の表面を溶解します。溶けた金属は、加工液で急速に冷却し、加工液は熱を受けることによって気化爆発を起こします。
溶けた金属は爆発によって、金属の表面から小さな粒となって吹き飛ばされることで、金属の表面が削られます。
このように、加工液の中で溶解・冷却・飛散を何度も行うことで、金属を彫り進めて行くのが放電加工です。
放電加工機の種類
放電加工機は、加工内容や電極の種類によって複数の種類が存在します。ここでは、放電加工機の主な種類をご紹介します。
形彫り放電加工機
形彫り放電加工機は、超硬合金を規定の形状に加工するのに特化した種類です。主に鉄などを形作る型枠を製造する際に用いられます。
加工する金属に電極を押し付けて、溶解・冷却・飛散を繰り返すことで、金属を加工していきます。
ワイヤ放電加工機
電極に細いワイヤを用いて、金属を分断するのがワイヤ放電加工機です。金属を分断するためのワイヤの消耗が激しく、常にワイヤを新しく取り換える必要があります。
ワイヤは種類によって、効率や強度、コストなどが異なります。
細穴放電加工機
細穴放電加工機は、パイプ状もしくは棒状の真鍮や銅などを使って、金属に細い穴を開けられる種類の加工機です。
最小直径0.1mm以下の穴を開けられるだけでなく、高精度での加工が可能で、斜面のある金属でも理想の大きさや深さの穴を開けることができます。
NC放電加工機
放電加工機にロボットの動作を組み込んで、X軸・Y軸・Z軸の数値制御を行いながら加工します。
加工機自体が移動して加工するため、数値制御することでより高精度な加工が可能になります。
小型放電加工機
簡単に持ち運びができる重さ約4〜5kgの放電加工機です。繊細な加工はできないものの、どこにでも簡単に移動させて使用できます。
一般的には放電加工機というより、超音波カッターに分類されることが多いです。
放電加工機の構造
放電加工機の構造は、大きく分けて放電加工機本体と加工制御装置、加工液供給装置の3つがあります。それぞれについてご紹介します。
放電加工機本体
放電加工本体は、加工槽や電極、噴射ノイズなどで構成されます。金属を加工するために用いる電極が設置されており、噴射ノイズから加工液を吹き付け、金属に電極を押し付けて加工します。
また放電加工機本体には加工槽が設けられており、液面調整装置などで管理しながら、適量の加工液を一定に保ちます。
加工制御装置
加工制御装置は、放電加工機を動作する頭脳となる部分で、プログラムにデータを設定することで、同じ加工を高精度で作ることができます。
加工液供給装置
加工液供給装置では、加工液を循環させるための装置です。金属を削った際に発生したくずを含んだ加工液を濾過して、再度加工槽に送り出す働きをします。
放電加工機の特徴
ここでは、放電加工機のメリット・デメリットをご紹介します。
メリット
放電加工機には、以下のメリットがあります。
金属の硬さに関係なく加工を施せる
どの硬さの金属でも簡単に加工できます。
複雑で精密な加工が可能
精度が非常に高いので、数μ単位の精密な加工や複雑な加工もできます。
被加工物に触れることなく加工できる
放電加工では、金属と電極が接触しないため、加工後の金属への負担が少ないのが特徴です。また金属に触れないため、傾斜のあるものや球体のものでも加工することができます。
デメリット
放電加工機には、以下のデメリットがあります。
加工速度が遅いため、大量生産には向いていない
放電加工では、金属を少しずつ溶かしながら削っていくため、仕上がるまでにどうしても時間がかかります。そのため、製造コストが高い傾向にあり、大量生産には不向きです。
加工には電極が必須になるためコストがかかる
電極がなければ放電加工はできません。一般的には銅の電極や黄銅のワイヤーなどを使用しますが、消耗品となるためコストがかさみます。
伝導性のない金属の加工はできない
放電加工は、金属に電極で熱を与えながら加工していくため、電気を通さない金属は利用できません。
放電加工機での注意点
最後に放電加工機を導入・使用する際の注意点をご紹介します。
最適な放電加工機を導入する
放電加工機にはさまざまな種類があるため、仕上がりの形状やサイズに合わせたものを選ぶことが大切です。
安全面をしっかりと対策する
放電加工機は、高電圧を用いるため、感電事故などのリスクに注意する必要があります。取扱説明書などに記載されるメーカーが定める使用方法をきちんと守って、安全面に十分配慮したうえで使用する必要があります。
放電加工機を設置するには届け出が必要
放電加工機では、火災の発生を防ぐ目的で、設置する際に届出をすることが消防法で定められています。放電加工機の設置届出書を作成して、所轄の消防署に提出・申請する必要があります。
対象となるのは、以下の通りです。
引火点が 70℃以上の危険物を加工液として使用する放電加工機について
規定するものとし、放電加工機において使用する危険物の数量が 400L 未満のものも対象
とする。
引用:放電加工機の火災予防に関する基準
放電加工機についてのまとめ
放電加工機は、金属の硬さに関わらずさまざまな金属を加工できるので幅広く活用できます。人工的に放電させるので、工具の接触による影響を受けず、バリなどもほぼ発生しません。
ただし放電加工機を使用する際は、安全面の対策や設置の届け出などが必要になる点には注意が必要です。
放電加工機には複数の種類があるので、自社にとって最適なものを選びましょう。
関連記事
NC旋盤とは? 加工の特徴や種類、対象素材について解説します
産業の世界において、精密かつ高速な製造技術は不可欠です。今回の記事では、その中心にあるNC旋盤(Numerical Control Lathe)に焦点を当てます。 NC旋盤の特徴、種類、加工可能な素材、そしてその技術的進歩と歴史を詳しく掘り下げていますので、NC旋盤の導入を検討中の企業様はぜひ参考にしてみてください。 このような方におすすめです ・NC旋盤加工の特徴について知りたい方 ・NC旋盤の構成要素や種類について知りたい方 ・NC旋盤を活用した素材加工を検討中の方
2025年09月10日
基板加工機とは?仕組みから種類のメリット&デメリット・価格相場・選び方も
電子部品を載せるプリント基板作成において、基盤加工機の選び方に迷うことがあるのではないでしょうか。 この記事では、切削タイプ・レーザータイプなどの違いから価格についてまでを解説し、用途にあった基盤加工機の選び方についてご紹介します。
2025年09月10日
ロストワックスとは? 鋳造の特徴や製品例について解説します
ロストワックス鋳造法は、その独特な製造プロセスを通じて、美術品から工業製品まで、多岐にわたる分野でその価値を発揮しています。この先進的な技術は、美しい表面仕上げと高い寸法精度を実現することで知られ、さらに多様な材質での鋳造が可能であり、複雑な形状の製品製作においても優れた能力を示します。 本記事では、ロストワックス鋳造の特徴とメリット、注意点、さらにはこの方法を用いて作られる製品の例と詳細な工程について解説します。
2025年09月05日
セラミック加工とは? 加工種類と各特徴についてご紹介します
私たちの暮らしにまつわる様々な製品に取り入れられているセラミックス。この素材は、耐熱性・耐摩耗性・耐腐食性に優れた性質を持っているだけでなく、その他の素材との組み合わせが可能であったり、豊富な加工手段を施すことのできる特性があるため、製品の目的に応じて幅広い使い方を適用することができます。本記事では、セラミック加工の種類や、セラミック加工メーカーの選定ポイントをご紹介します。
2025年09月25日
鋳鉄とは? 鋼・鉄との違いや種類別による特徴について解説します
鋳鉄は、自動車や家庭用品、マンホールなど、さまざまな用途で幅広く使用されている金属材料です。製造方法や処理によってさまざまな種類に分けられるため、材料の選定や加工にはそれぞれの特性を理解することが不可欠です。 この記事では、鋳鉄の特徴や各種類の特徴について解説します。関連するおすすめ製品も紹介していますので、鉄加工に関して課題を抱いている企業様はぜひ参考にしてみてください。 このような方におすすめです ・鋳鉄の特性や鋼 / 鋼 / 鉄との違いについて知りたい方 ・鋳鉄の種類とそれぞれの特性について知りたい方 ・鉄加工に関するおすすめの製品を探している方
2025年09月25日
プレス加工とは?種類やメリット、依頼先の選び方までわかりやすく解説
プレス加工は、自動車部品から家電製品、日用品に至るまで、私たちの身の回りにある多くの製品を形作るために不可欠な製造技術です。特に、同じ形状の部品を短時間で、かつ高いコスト効率で大量に生産できる点が大きな特徴です。 本記事は、製造業のご担当者様で、プレス加工に関する基本的な情報を収集されている方や、知識を深めたいと考えている方に向けた内容です。プレス加工の基礎から、その種類、メリット・デメリット、主な用途、そして信頼できる依頼先を選定する際のポイントについて詳しく解説します。
2025年10月16日
プラスチック成形とは?種類・仕組み・成型方法を解説
プラスチックは、人工的に作られた合成樹脂です。プラスチックを成型する方法は数多くあり、それぞれで用途や特徴が異なります。この記事では、プラスチック成形の種類と仕組み、成型方法についてご紹介します。
2025年09月29日
2色成形とは?メリットやインサート成形との違いを徹底解説
2色成形は、異なる2種類の樹脂を一体化させる高度な射出成形技術です。部品点数や組立工数を削減し、コストダウンと品質向上を両立できるため、自動車部品から家電、住宅設備まで幅広い分野で注目されています。 本記事では、製品開発や設計に携わるご担当者様に向けて、2色成形の基本原理からメリット、他の加工方法との違い、具体的な用途事例まで詳しく解説します。
2025年09月25日
特殊鋼とは? | 種類や加工方法・製品について解説
耐久性、耐熱性、耐摩耗性に優れた特性を有する「特殊鋼」という素材は、自動車部品、建産機、工作機械、工具類など幅広い分野でその性能を発揮しています。 この記事では、特殊鋼が有する特性や提供するメリット、種類、加工方法、さらには宮崎精鋼株式会社による特殊鋼製品について詳しくご紹介します。特殊鋼を活用した加工製品の採用を検討中の企業様は、ぜひ参考にしてみてください。
2025年09月19日
EMS(電子機器受託製造)とは?メリットやOEMとの違い、選び方まで解説
近年、電子機器の高度化・複雑化が進む中、製品開発や生産体制の効率化は多くの企業にとって重要な課題です。EMS(電子機器受託製造)は、こうした課題解決の一助となる選択肢として注目されています。本記事では、EMSの基本的な内容から、そのメリット、類似する生産形態との違い、そして信頼できるパートナー選びのポイントについて詳しく解説します。
2025年09月04日
精密板金加工とは?主な工程やメーカー選定のポイントを解説
電子機器や医療機器、半導体製造装置など、現代の高度な産業を支える製品には、極めて高い精度で製造された金属部品が不可欠です。精密板金加工は、そうした要求に応えるための重要な金属加工技術です。本記事は、企業の開発・設計担当者や製造・生産技術担当者の方々を対象に、精密板金加工の概要から一般的な板金加工との違い、具体的な加工工程、主な用途、そして信頼できるメーカーを選定するためのポイントまで、幅広くご紹介します。
2025年09月04日
超音波金属接合とは?原理・特徴・応用分野を徹底解説
超音波金属接合は、重ねた金属を超音波振動によって接合する技術で、適切に行うことで接合品質と効率を両立することができます。 「この技術について詳しく知りたいけれど、専門的で難しそう」だと感じている方に向けて、この記事では超音波金属接合の基本から特徴、応用分野まで徹底的に解説します。
2025年09月08日
ダイレクトブロー成形(押出ブロー成形)|特長・製造プロセス・製品例を解説
ダイレクトブロー成形(押出ブロー成形)は、シャンプーボトルや飲料容器など、私たちの身近にある様々なプラスチック製品の製造に欠かせない成形技術です。本記事では、この技術の基本的な仕組みから、特長・メリット、製造プロセス、さらには具体的な製品例まで、詳しく解説していきます。
2025年09月24日
超音波溶着|メリットや溶着機・装置について解説
超音波溶着は、超音波を利用して樹脂を溶着させる技術です。精電舎電子工業では、超音波溶着機の開発・設計・製造・販売や、工具ホーン・受治具の製作を行っています。70年以上のノウハウを生かし、お客様のニーズに合わせ柔軟に対応いたします。
2025年09月08日
インサート成形とは? メリット・デメリットや用途例を解説
インサート成形は、プラスチックと金属などの異なる素材を組み合わせる製造技術です。 今回は、インサート成形の基本的なプロセス、その主な利点と限界、さらには多様な応用分野について解説します。複雑な形状や高い機能性が求められる部品の製造において、どのようにインサート成形が重要な役割を果たしているのかを解説します。
2025年09月25日
ブロー成形とは? 特徴・メリットや活用した製品例について解説します
ブロー成形とは、多様なプラスチック製品を効率的に製造する技術です。この記事では、ブロー成形の基本的な原理から、その多様な種類、射出成形との違い、そして特徴やメリットに至るまでを詳しく解説します。 日常生活でよく目にするペットボトルや洗剤容器から、自動車部品に至るまで、ブロー成形技術がいかに広範囲にわたり利用されているかをご紹介します。
2025年09月24日
多層ブロー成形|付加価値の高いプラスチックボトルを製造
多層ブロー成形は、複数の異なる樹脂を積層して容器を成形する技術です。一種類の樹脂だけでは満たせない機能要件に対応できます。 ブロー成形機のリーディングカンパニーであるタハラは、単層ブロー成形機だけでなく、各種ニーズに対応できる用途別の多層ブロー成形機の製造も行っています。
2025年09月24日
研磨加工|仕上げ工程技術の特徴・種類・加工手順を解説
研磨加工は、製品の表面を滑らかにし、所定の形状や寸法を実現するための重要な技術です。金属加工から鏡や宝石まで、様々な素材に対して高精度な仕上げを可能にします。 研磨加工の基本的な概要、研削加工との違い、各種研磨方法の特徴やメリット、具体的な手順、そしてナノ単位の精密研磨を提供するNEOSの技術について詳しく解説します。
2025年09月02日
親水処理のメカニズム|表面改質による濡れ性・接着性の向上
親水処理とは、材料表面に水や液体がなじみやすくするための重要な技術です。この処理により、材料の接着性や密着性が向上し、さまざまな産業でその効果が活用されています。 本記事では、親水処理の基本から、具体的な用途や手法について詳しく解説します。
2025年09月02日
超撥水とは?加工により材料表面に超撥水機能を付与する技術
超撥水加工は、材料表面に極めて高い撥水性を付与する技術です。この処理により、水滴が表面で150°以上の接触角を形成し、ほぼ完全な球形を保ったまま転がり落ちる驚異的な効果が得られます。 本記事では、超撥水加工の原理、特徴、手法、そして応用分野について詳しく解説します。
2025年09月02日