電着塗装は工業分野や自動車製造で広く利用されていますが、その詳細なプロセスや特徴についてはあまり知られていません。
今回は、電着塗装の基本原理、異なるタイプとその特性、実施工程、そして一般的な問題と対処法について、簡潔に解説します。また、電着塗装と電着メッキの違いにも触れ、各々の適用範囲を明確にします。
電着塗装は、塗料の粒子を電気を用いて対象物に付着させる塗装方法です。均一な厚さの塗膜を得ることが可能で、自動車や産業機器の塗装に広く用いられています。
このプロセスでは、被塗物を電極として、塗料が水に溶かされた水溶性塗料の中に浸されます。電流が適用されると、塗料の粒子が被塗物の表面に吸着し、均一な塗膜が形成されます。
電着塗装と電着メッキはしばしば混同されますが、主な違いは用途と材料にあります。電着塗装は塗料を使用し、主に保護や装飾目的で用いられます。一方、電着メッキは金属のコーティングであり、耐食性や耐摩耗性を高めるために使用されます。
電着塗装は、その塗料の荷電の種類によって大きく二つのカテゴリーに分けられます。
アニオン電着塗装は、負に帯電した塗料粒子が陽極として機能する被塗物に向かって移動し、そこに付着する方式です。この方法の最大の特徴は、その単純さとコスト効率の良さにあります。長年にわたって使用されてきたこの方法は、特に限られた予算内で効果的な塗装が必要な場合に適しています。
しかし、この方法は色の選択肢が限られており、塗膜の品質や耐久性もカチオン電着塗装に劣ることがあります。主に産業機器や一部の自動車部品など、外観よりもコストを重視する製品に用いられます。
一方、カチオン電着塗装では正に帯電した塗料粒子が陰極として機能する被塗物に移動します。この方法の最大のメリットは、環境への影響が少なく、高品質な塗膜を実現できる点にあります。さらに、カチオン電着塗装では多様な色の選択が可能であり、耐腐食性や耐久性に優れています。そのため、自動車業界をはじめとする高品質な塗装が求められる分野で広く採用されています。
カチオン電着塗装のプロセスはアニオン電着塗装に比べてやや複雑で、コストも高くなる傾向がありますが、その分、環境への配慮や塗膜の質の面で優れた結果をもたらします。
電着塗装は、高品質な塗膜を実現するために、いくつかの慎重に計画された工程を経て行われます。
初期段階は、被塗物表面から油脂や汚れを取り除くことに専念しています。脱脂は、塗料が均一に付着し、密着性を確保するために不可欠です。適切な脱脂処理がなされない場合、塗膜は不均一になりやすく、剥がれや腐食のリスクが高まります。
通常、この工程にはアルカリ性または酸性の洗浄液が用いられ、高圧スプレーや浸漬により行われます。
脱脂後、表面処理工程が続きます。この工程では、塗料の密着性や耐食性を高めるために、表面に特殊な皮膜を形成します。塗装の耐久性を高め、長期間にわたる品質保持に寄与します。
皮膜処理は、化学的または電気化学的な方法で行われることが多く、防錆や密着促進のために重要です。
電着塗装において核心に位置付けられる工程です。低濃度で水溶性の電着塗料に被塗物を浸漬し、直流電流を適用します。電流の影響で、塗料の粒子が被塗物の表面に引き寄せられ、均一で薄い塗膜が形成されます。
この工程により、細かな部分や複雑な形状の被塗物にも塗料が均等に行き渡ります。
塗装過程で使用されずに残った塗料は、この段階で回収されます。未使用の塗料を回収することで、材料の無駄を減らし、環境への影響を最小限に抑えるとともに、コスト効率を高めます。
最後に、塗膜を硬化させるために加熱されます。焼き付け工程により、塗膜は耐久性が高く、長持ちする品質になります。加熱は、塗膜の性質によって異なる温度で行われ、これにより塗膜は最終的な強度と耐久性を得ます。
電着塗装は高度な技術を要するプロセスであり、その過程でいくつかの一般的な不良が発生する可能性があります。これらの不良は製品の品質に大きな影響を与えるため、それぞれの原因を理解し、適切な対策を講じることが重要です。
エアポケは、製品の上部に空気が残り、その部分が電着されない不良です。主に、製品の掛け方や浸漬角度が適切でない場合に発生します。
対策としては、製品をハンガーに掛ける際の角度や位置を工夫し、空気が被塗物の表面から逃げやすくすることが重要です。また、塗装前の空気抜き工程を丁寧に行うことも効果的です。
通電不良は、ハンガーと製品の接触が不十分な場合に起こり、塗料の均一な塗着が妨げられます。
ハンガーと製品の接触面積を増やす、接触部分の清掃を徹底するなど、接触の質を高めることが有効な解決策です。また、接触部分の設計を見直すことも有効な場合があります。
製品表面の塗膜に歪みや穴が生じる主な原因は、塗装前の製品にゴミや塵が付着していることです。
そのため、製品を塗装する前に十分な洗浄を行い、表面の塵やゴミを除去が必要です。また、塗装環境を清潔に保ち、空気中の塵の侵入を防ぐことも欠かせません。
製品の一部に薬液が蓄積し、焼き付け時に蒸気圧によって吹き出す不良です。
対策としては、ハンガーへの掛け方を工夫し、液体が溜まりやすい部分がないようにします。また、焼き付け前の乾燥工程で薬液の除去を徹底することも効果的です。
塗装前の製品表面に汚れが残っていることが、塗装不良の原因となります。油分、ほこり、指紋などが塗膜の品質を低下させる可能性があります。
対策として、塗装工程に入る前に、製品の表面を徹底的に検査し、必要に応じて清掃します。特に、油分や指紋はアルコールや専用の洗浄剤で丁寧に除去することが重要です。また、塗装作業員の手袋や作業服の清潔さも保ち、塗装環境を清潔に維持することが必要です。
今回は、電着塗装の概要、その種類、実施工程、そして発生しやすい問題と対処法について解説しました。電着塗装は多くの産業で用いられる重要な手法であり、その効果的な使用は製品の品質に大きく寄与します。
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