親水処理のメカニズム|表面改質による濡れ性・接着性の向上
本記事では、親水処理の基本から、具体的な用途や手法について詳しく解説します。
親水処理とは?

親水処理とは、材料の表面に水がなじみやすくなる現象で、表面の濡れ性を向上させるための処理を指します。親水処理には、化学薬品を使用する方法や高エネルギープラズマを照射する方法があります。
親水処理による「濡れ性向上」の目的・用途例
親水処理(濡れ性向上)の用途は多岐にわたります。以下に主な用途を挙げます。
微細部への液の流動性向上
親水処理は、液体が微細な部分にまで浸透しやすくなる効果があります。液体の均一な分布や流動が求められるプロセスにおいて、この特性は非常に有用です。
例えば、精密機器の製造や微細な構造を持つ部品の洗浄など、様々な産業分野で効率向上に貢献しています。
防曇加工
親水処理を施すことで、表面に水滴が形成されにくくなり、防曇効果を得ることができます。この特性は、視界をクリアに保つ必要がある製品や用途に適しています。
一般的には、車のフロントガラスやゴーグル、カメラのレンズなど、多岐にわたる分野で活用されています。
防汚加工
親水処理は、表面の防汚性能を向上させる効果があります。親水性の高い表面では、水が均一に広がりやすくなるため、汚れが付着しにくく、また付着した汚れも水で容易に洗い流すことができます。この特性は、様々な製品や環境で清潔さを保つのに役立ちます。
例えば、建築外装材やガラス、タイルなどの建材に適用されることで、雨水による自然な洗浄効果(セルフクリーニング効果)を促進します。また、衛生面が重要な医療機器や食品加工設備にも応用され、清浄性の維持に貢献しています。
細胞培養速度、採取性向上
親水処理は、細胞培養の分野でも重要な役割を果たしています。親水性の高い表面は、細胞がより容易に付着し、成長するのを助けます。その結果、細胞培養の速度や効率が向上し、バイオテクノロジーや医療研究の分野で大きな利点となっています。
また、培養後の細胞採取も容易になるため、研究や製造プロセスの効率化にも貢献しています。
これらの用途は、樹脂、金属、ガラスなどの様々な材料に適用されており、特に医療や工業分野での応用が期待されています。
親水処理の手法
親水処理は、物質の表面を水や他の液体に対して濡れやすくするための技術です。以下に、親水処理の主な手法をいくつか紹介します。
プラズマ処理
プラズマを用いて材料表面を改質する方法です。プラズマ中の活性種が表面と反応し、ヒドロキシ基やカルボニル基などの親水性官能基を形成します。この過程で表面の化学組成が変化し、親水性が大幅に向上します。
処理時間や出力の調整により、親水性の程度をコントロールすることも可能です。
コロナ処理
高電圧による電気放電を利用してフィルムやシートの表面を改質する手法です。処理により表面に微細な凹凸が生じ、印刷インクの密着性が向上します。同時に表面の酸化も進行し、親水性が増加します。
ただし、オゾンの発生を伴うため、作業環境への配慮が必要となります。
フレーム処理
燃焼ガスと空気の混合ガスを燃やし、その炎で材料表面を処理する方法です。特にプラスチック表面の前処理として広く利用されています。炎の熱と酸化作用により表面が改質され、印刷や塗装の密着性が向上します。
処理速度が速く、大面積の処理に適しているのが特徴です。
化学薬品処理
酸やアルカリなどの化学薬品を用いて材料表面を改質する手法です。強力な酸化剤を使用してポリマー表面を酸化させ、極性基を導入します。結果として表面の濡れ性や接着性が向上します。
処理条件の選択により、目的に応じた表面特性を得ることができます。
UV照射
紫外線を材料表面に照射し、有機混入物の除去と表面の活性化を行う方法です。UV光の強力な分解作用により、表面の汚れや油分が除去されます。同時に、高エネルギーの光子がプラスチック表面の分子結合を切断し、活性点を生成します。
低温処理が可能なため、熱に弱い材料にも適用できます。
親水化の流れ

例として、プラズマ処理とコロナ処理による親水化の流れをご紹介します。
プラズマ処理による親水化の流れ
| プラズマ化による活性酸素種の発生 |
プラズマ処理では、酸素ガスを高エネルギー状態に励起させ、プラズマ化します。このプロセスで、酸素分子が解離し、高反応性の活性酸素種(酸素ラジカル)が生成されます。 酸素ラジカルの発生に伴い、一重項状態の酸素やオゾンが生成されます。これらは通常の酸素分子よりも遥かに反応性が高く、材料表面との相互作用を引き起こす能力を持っています。 |
|---|---|
| 酸素ラジカルによる表面改質 |
生成された酸素ラジカルは、材料表面に存在する高分子鎖の結合を攻撃し、切断します。この過程で、表面の化学構造が変化し、新たに水酸基(-OH)やカルボニル基(C=O)、カルボキシル基(-COOH)などの極性官能基が導入されます。 この化学的変化は、材料表面の性質を大きく変え、親水性を著しく向上させる要因となります。また、表面のナノレベルでの粗さも増加し、これも親水性向上に寄与します。 |
| 水素結合による密着性向上 |
表面に新たに導入された極性官能基は、水分子や他の極性物質と水素結合を形成する能力が高くなります。この特性は、材料の濡れ性を大幅に改善し、水やインク、接着剤などの液体が表面に均一に広がりやすくなります。 結果として、接着剤や塗料の密着性が向上し、剥離抵抗性が増加します。さらに、この表面改質は材料の印刷適性や生体適合性も向上させる可能性があります。 |
コロナ処理による親水化の流れ
| コロナ放電の発生 | コロナ処理では、まず高周波高電圧を電極間に印加することでかすかな光を放つコロナ放電を発生させます。 |
|---|---|
| 空気中での化学反応 | コロナ放電により空気中の酸素などの分子が解離して、プラズマ状態となります。このプラズマは非常に反応性が高く、基材表面に到達すると即座に化学反応を引き起こします。 |
| 基材表面の改質 |
コロナ放電によって生成されたプラズマは表面層に到達すると、高分子結合の主鎖や側鎖が切断されます。この切断により、基材の表層は化学的にラジカルな状態となります。そして、このラジカル状態の基材表面が気相中の酸素ラジカルやオゾンと再結合することで、水酸基やカルボニル基などの親水性官能基がフィルム表面に導入されます。 この過程を通じて、基材表面の化学構造が大きく変化し、親水性が向上する基盤が形成されます。 |
内面や局所に処理できる親水処理技術「FCS処理」

株式会社ネオスの「FCS処理」は、内面や局所に処理できる親水処理技術です。マイクロ流路チップなどにおいて部分的な親水処理が可能なため、水が広がる親水部分と広がらない部分を局所的に作製できます。
気泡付着抑制やタンパク質吸着抑制など、多彩な効果が期待され、医療、バイオ分析、細胞培養など、様々な分野での活用が期待されています。
| FCS処理の特徴 | |
|---|---|
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内面・局所処理が可能 チューブの内側や複雑な形状の一部分だけを処理できます。 |
|
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気泡付着抑制効果 処理面での気泡の発生・付着を抑制し、流体の流れを改善します。 |
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コーティングレス処理 表面に何も付着させないため、安全性が高く、余分な物質が混入するリスクがありません。 |
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タンパク質吸着および抑制の可能性 FCS処理の条件次第で、未処理の表面よりもタンパク質を吸着およびその吸着を抑制できることが観察されております。 |
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