日常生活にある金属製品の多くが、工業炉を通して加工や処理がされています。自動車やボートなどの部品、小さな金属のパーツまで、加工品の用途はさまざまです。
今回は、工業炉について解説します。
工業炉とは、鉄やアルミ、金属ガラスなどの素材を加熱・加工する装置です。加熱によって機械的・化学的に物質を変化させて、材料の加工や処理を行います。
工業炉は排ガスが少なく、自動で火力調整ができるメリットがあります。環境に優しく、身近にある部品や素材の加工ができる装置です。
それぞれのメリットについて解説します。
ガス工業炉の場合、油燃料からガス燃料への切り替えによって二酸化炭素の排出を削減できます。環境に影響しやすい排気ガスを抑えながらも、加熱や加工を進められる点が大きなメリットです。
また、燃焼時にあまりススが出にくいため、装置のメンテナンスの手間がほとんどかかりません。
ガス工業炉は、自動で火力調整ができるため火力調整の手間がかかりません。燃焼性が優れており、必要な熱量まで素早く達成して、燃焼性も安定します。点火や消火をオートメーション化することで、人員コストの削減にもつながります。
工業炉の種類には、溶解炉・加熱炉・熱処理炉・焼結(焼成)炉・乾燥炉の5種類があります。同じように見えても、それぞれ目的が違います。
溶解炉は、名前の通り対象のものを溶解する工業炉です。2つ以上の素材を溶かして、1つの素材へとブレンドするための工業炉でもあります。
アルミニウム合金や鉄鉱石、コークスなども溶解炉で加工される場合があります。そして、スクラップや鋼、鉄鉱石をもとにした銑鉄へと加工するのも役割のひとつです。
加熱炉は、灯油や電気ガス、重油などを熱源として稼働する工業炉です。金属などを直火で加熱して、さまざまな金属部品に加工します。圧延加熱炉と鍛造加熱炉の2種類があり、主に鋼材を製造しています。
鋼材に加工する際は、厳密に温度管理をしたうえで製造をしていきます。
熱処理炉は、鋼鉄などの金属を加熱したり冷却したりして、金属の性能や組織を改善する工業炉です。
焼入れ炉や焼戻し炉、焼なまし炉や焼きならし炉、真空で熱処理をする真空炉など、加工するものによって用途は異なります。
いずれ熱処理炉も、厳重な温度調整や温度管理が大切です。常に温度を記録しながら、不具合が生じないようにしましょう。
焼結炉とは、金属やセラミックなどの素材を金型にいれて、部品を作るための炉です。焼結炉でできあがった物は、焼結品ともいわれます。素材を炉内で焼き固めることで、物に一定の形状を保たせて強度を上げます。
粉末状の素材を、自由な形状にできる点が焼結炉のメリットです。複雑な形状の品であっても、焼結炉であれば仕上げられます。
灯油やガスなどを熱源として、水分や粉体、溶剤などの材料を乾燥させたり焼付処理をしたりする炉です。直接加熱方式と間接加熱方式があり、いずれも燃焼室が分かれています。
バーナーで燃焼管を加熱したり、バーナーなどで加熱した熱風を送り込んだりします。
金属製品を加工した後に、熱硬化型塗料を塗って乾燥炉にいれて、塗料を硬化させます。他の工業炉と同様に、温度管理が非常に大切です。
工業炉の操業方式には、バッチ式・連続式があります。それぞれの操業方式を生かして、製造や加工が行われています。
バッチ式とは、窯単位でまとめて加熱を行う操業方式です。主に、多品種少量の加熱を行う際に使用されています。一度処理をしたら、中身を変えて次の処理を行います。
効率的に、さまざまな製品の熱処理が可能です。
中身を入れ替えるタイミングで、工業炉内のメンテナンスもできます。こまめなメンテナンスをしながら作業が行えるため、装置を維持したい場合には最適です。
ただし、中身を入れ替える手間があるため、大量生産をするための作業には向いていません。
連続式は、ベルトコンベアーを利用して、時間をかけて製品をゆっくりと加熱させる操業方式です。バッチ式よりも、大量生産に向いています。製造品の均一性を保ちやすく、高い生産性のある方式といえます。
同一条件で同一のものを加工・加熱する場合には、連続式が最適です。
工業炉には、さまざまな種類があります。いずれの工業炉にしても、自動車の部品や電化製品のパーツなど、私たちの生活に欠かせないものを製造しているのです。
細かく温度調整をしながら、いずれ流通する製品が生み出されています。
近年では、排ガスの少ない工業炉が開発されています。環境に配慮できる工業炉の開発は、これからもさらに増えることが期待できます。
仕事で工業炉に関わる機会のある方は、それぞれの工業炉について役割の理解を深めましょう。