シーズヒーターとは?基本の構造と仕組み
シーズヒーターは、産業用ヒーターの中でも最も基本的で、幅広い分野で利用されている電気ヒーターです 。まずは、その心臓部である構造と、熱を発生させる仕組みについて見ていきましょう。
シーズヒーターの構造
シーズヒーターという名称は、その構造に由来します。英語の「sheath(シース)」は「鞘(さや)」を意味し、発熱体を金属製のパイプ(シース)で保護していることから、この名前が付けられました。
その基本的な構造は、主に以下の3つの要素で構成されています。
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金属パイプ(シース): ヒーターの一番外側を覆う金属製の保護管です。外部からの物理的な衝撃や振動から内部の発熱体を守る役割を果たします。材質は用途に応じてステンレスや鉄、銅、チタンなどが選定されます。
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発熱線(ニクロム線): 金属パイプの中心に配置される、電気抵抗の大きいニクロム線などのコイルです。電気エネルギーを熱エネルギーに変換する、ヒーターの心臓部です。
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絶縁材(酸化マグネシウム粉末): 発熱線と金属パイプの隙間を埋めるための、電気を通さない粉末です。一般的に酸化マグネシウム(MgO)が使用されます。この絶縁材は、電気は完全に遮断する一方で熱は効率良く伝える「熱伝導性」に優れているという特性を持っています。
このシンプルな三層構造こそが、シーズヒーターの安全性や耐久性、汎用性といった多くの利点を生み出す源泉となっています。金属パイプが物理的な保護を、そして絶縁材が電気的な安全を確保することで、水や油の中に直接投入して加熱するような過酷な環境でも安全に使用できるのです。
発熱の仕組み
シーズヒーターの発熱原理は「抵抗加熱(ジュール熱)」と呼ばれる非常にシンプルなものです 。
電源に接続された端子から発熱線(ニクロム線)に電流を流すと、ニクロム線の持つ大きな電気抵抗によって電気エネルギーが熱エネルギーに変換されます。発生した熱は、熱伝導性に優れた絶縁材(酸化マグネシウム)を介して、瞬時に外側の金属パイプへと伝わります。そして、金属パイプの表面から、加熱したい対象物(液体・気体・固体)へと熱が伝達される仕組みです。
このプロセスは、燃料を燃やすわけではないため、排ガスなどが一切発生しないクリーンな加熱方法であることも大きな特徴です。
シーズヒーターの主なメリットと注意点
シーズヒーターは多くの利点を持つ一方で、特性を理解した上で使用すべき注意点も存在します。ここでは、その両面を詳しく見ていきましょう。
メリット
シーズヒーターが長年にわたり様々な産業で採用され続けている理由として、以下のような優れたメリットが挙げられます。情報を整理しやすいように、表形式でまとめました。
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メリット
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詳細
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安全性
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発熱体が絶縁材を介して金属パイプで完全に覆われているため、漏電や感電のリスクが極めて低いです。これにより、水や薬液などの液体中に直接投入して使用することが可能です。
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耐久性
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堅牢な金属パイプが内部の発熱線を物理的な衝撃や振動から保護します。そのため、過酷な産業環境下でも長期間にわたって安定した性能を維持できます。
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設計の自由度
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金属パイプは、加熱対象の形状や設置スペースに合わせて、U字型や円形など様々な形状に曲げ加工が可能です。これにより、限られたスペースでも効率的な熱配置を実現できます。
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高い熱効率
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加熱対象に直接接触させたり、液体に浸漬させたりして使用するため、熱損失が少なく、エネルギーを効率的に伝達できます。燃焼を伴わないため、投入した電力のほぼ全てを熱に変換できます。
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幅広い用途
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シースの材質を変更することで、水、油、薬液、空気、金属など、多種多様な加熱対象に対応できます。耐食性や耐熱性が求められる特殊な環境にも対応可能です。
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注意点(デメリット)
多くのメリットを持つシーズヒーターですが、導入を検討する際には以下の点に注意が必要です。
最大の注意点は、加熱の立ち上がりに時間がかかることです。
これは、シーズヒーターが持つ安全性や耐久性とのトレードオフの関係にあります。発熱線で発生した熱が、絶縁材と金属パイプという複数の層を通過して表面に伝わるまでには、ある程度の時間(数分程度)を要します。そのため、急速な温度上昇や、頻繁なON/OFFを繰り返すような精密な温度サイクルが求められる工程には不向きな場合があります。
また、液体加熱用途で液面が低下した状態で通電を続ける「空焚き(からだき)」は、ヒーターの異常な温度上昇を引き起こし、寿命を著しく縮めるだけでなく、火災の原因にもなるため絶対に避けなければなりません。
工業用シーズヒーターの主な種類
「シーズヒーター」と一言でいっても、その形状や構造は多岐にわたります。ここでは、代表的な種類を分類してご紹介します。
加熱対象による分類
シーズヒーターは、まず何を加熱するかによって大きく3つに分類されます。
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液体用: 水や油、薬液などの加熱・保温を目的としたヒーターです。シースの材質には、耐食性に優れたステンレス(SUS316Lなど)やチタン、油用の鉄などが用いられます。
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気体用: 空気や窒素ガスなどを加熱するためのヒーターです。気体は液体や固体に比べて熱が伝わりにくいため、放熱面積を増やす目的で、シースの周りに多数の放熱板(フィン)を取り付けた「フィン付きシーズヒーター」がよく用いられます。
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固体用: 金型や金属プレート、配管などを直接加熱するためのヒーターです。被加熱物の形状に合わせて加工され、密着させて使用します。
形状や構造による分類
上記の分類をベースに、より具体的な用途に合わせて様々な形状の製品が存在します。
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フィン付きシーズヒーター: 気体加熱の効率を最大限に高めるために、シースの表面に帯状の金属板(フィン)を螺旋状に巻き付けたヒーターです。表面積が格段に増えるため、少ない本数で効率的な気流加熱が可能になります。
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鋳込みヒーター: シーズヒーターを、アルミや真鍮などの鋳物の中に埋め込んだ(鋳込んだ)ヒーターです。ヒーターと鋳物が一体化しているため、熱伝導性が非常に良く、均一な温度分布を実現できます。主にホットプレートや金型の加熱に用いられます。
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フランジヒーター/プラグヒーター: 複数本のシーズヒーターを、タンクや容器に取り付けるためのフランジ(円盤状の接合部品)やネジ付きのプラグに溶接して一体化させたユニットです。タンク内の液体を効率良く加熱でき、メンテナンス時の交換も容易です。
カートリッジヒーターとの違い
シーズヒーターとよく比較されるものに「カートリッジヒーター」があります。カートリッジヒーターは、実はシーズヒーターの一種と考えることができますが、構造に明確な違いがあります。
一般的なシーズヒーターがパイプの両端から電源端子(リード線)が出ているのに対し、カートリッジヒーターは片側からのみ電源端子が出ているのが最大の特徴です 19。この構造により、金型に開けられた穴(ドリル穴)の奥まで差し込んで、ピンポイントで加熱することが可能になります。
シーズヒーターが汎用性に優れるのに対し、カートリッジヒーターは金型加熱のような特定の用途に特化しており、より高い熱応答性や熱密度が求められる場面で選定される傾向があります。
製造業におけるシーズヒーターの用途例
シーズヒーターの汎用性の高さは、その用途の広さに表れています。ここでは、製造業における具体的な用途例をいくつかご紹介します。
液体加熱
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食品加工: 業務用フライヤーの油加熱、飲料や調味料の殺菌・保温、業務用洗浄機の洗浄水加熱など 。
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化学プラント: 反応釜やタンク内の薬液の温度維持、各種溶液の加熱。
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表面処理: めっき槽内の薬液の加温、部品洗浄槽の温水加熱。
気体加熱
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乾燥工程: 塗装後の乾燥炉、印刷インクの乾燥、樹脂や食品の乾燥装置の熱源。
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空調・恒温設備: クリーンルームの空調、恒温槽、各種試験装置内の雰囲気温度制御。
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半導体・液晶製造: 製造プロセスで使用される各種ガスの加熱。
固体加熱
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樹脂成形: 射出成形機や押出成形機の金型・シリンダー加熱、ホットプレートの加熱。
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包装機械: ヒートシーラー(熱溶着装置)のシールバー加熱。
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プラント設備: 配管やバルブの凍結防止・保温(パイプトレース)。
シーズヒーター選定で失敗しないための4つのポイント
シーズヒーターの性能を最大限に引き出し、長期間安定して使用するためには、用途に合わせた適切な製品選定が不可欠です。ここでは、選定時に特に重要となる4つのポイントを解説します。
シース(金属パイプ)の材質
シースの材質は、ヒーターの耐久性や寿命に直結する重要な要素です。加熱する対象物や使用温度、腐食性の有無などを考慮して、最適な材質を選定する必要があります。
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材質
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主な用途
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最高許容温度(目安)
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特徴
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銅 (Copper)
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水加熱
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200℃
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熱伝導性に優れるが、耐食性は高くない。主に清水の加熱に使用される 。
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ステンレス (SUS316L)
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水、弱酸・弱アルカリ溶液、一部の油
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760℃
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耐食性に優れ、水加熱用として最も一般的に使用される材質。
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ステンレス (SUS321)
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空気加熱
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760℃
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高温での耐食性に優れ、主に空気加熱用として使用される。
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鉄 (Steel)
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油、アスファルト、鋳込み用
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400℃
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比較的安価で、油加熱やアルミ鋳込みヒーターの内部品として使用される。
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NCF800相当品 (Incoloy)
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高温空気加熱、腐食性ガス
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850℃
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高温強度と耐酸化性に非常に優れる特殊合金。高温環境下での使用に適する。
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チタン (Titanium)
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海水、各種薬液
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耐食性が極めて高く、海水や腐食性の高い薬液の加熱に使用される。
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ワット密度
ワット密度は、シーズヒーターの寿命を決定づける最も重要な要素です。
ワット密度とは、ヒーター表面積1$cm^2$あたりにかかる電力(W)のことで、「$W/cm^2$」という単位で表されます。この値が高いほど、ヒーター表面は高温になります。
重要なのは、加熱対象がヒーターから熱を奪う能力以上にワット密度を高く設定しないことです。例えば、熱を奪う能力が低い空気中で、水加熱用のような高いワット密度のヒーターを使用すると、熱が逃げ場を失い、ヒーターが異常過熱して早期に断線してしまいます。
一見、初期コストが安いという理由で短く高出力なヒーター(ワット密度が高い)を選定してしまうと、頻繁な交換や生産ラインの停止につながり、結果として総所有コスト(TCO)が高くつく可能性があります。ヒーターを長く安定して使用するためには、加熱対象に合わせて、可能な限り低いワット密度で設計することが基本となります。
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被加熱物
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標準使用温度(目安)
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推奨ワット密度(W/cm2)
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水
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100℃
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7~10
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機械油・潤滑油
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200℃
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2~3
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重油・高粘度油
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200℃
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1.5~2
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熱媒油
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300~350℃
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2~3
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流動空気
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1~5(風速による)
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金属(鋳込み)
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300℃
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3~5.5
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上記は一般的な目安です。実際の設計では、使用条件に応じて詳細な検討が必要です。
形状と寸法
ヒーターを設置するスペースや、加熱対象の形状に合わせて、ヒーターの外径、長さ、曲げ形状などを正確に指定することが重要です。特に、金型の穴に挿入する場合や、限られたスペースに配置する場合には、精密な寸法精度が求められます。効率的な加熱を実現するためには、被加熱物に対して均一に熱が伝わるような形状を検討しましょう。
使用環境
ヒーターが使用される周辺環境も考慮に入れる必要があります。例えば、湿度が高い場所では、吸湿による絶縁不良を防ぐために端子部のシール構造を強化する必要があります。また、振動や衝撃が多い設備では、堅牢な取り付け方法を検討する必要があります。腐食性ガスが発生する雰囲気では、シース材質だけでなく、端子部分の材質にも配慮が求められます。
シーズヒーター導入の基本的な流れ
特注仕様のシーズヒーターを導入する場合、一般的に以下のような流れで進められます。これは単なる発注プロセスではなく、メーカーの技術者と協力して最適な一品を設計していく共同作業と捉えることができます。
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お問い合わせ・ヒアリング: まずはメーカーに用途を相談します。この段階で、加熱対象、使用温度、電圧・電力、寸法、形状、使用環境といった要求仕様をできるだけ詳しく伝えます。
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仕様の提案・設計: ヒアリング内容を基に、メーカーの技術者が最適なシース材質、ワット密度、形状などを検討し、仕様を提案します。図面などを用いて、具体的な形状や寸法を確認します。
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製造: 確定した仕様に基づき、製造が開始されます。ニクロム線のコイル加工、端子との溶接、金属パイプへの充填、曲げ加工、端子部の仕上げなど、多くの工程を経てヒーターが形作られます。
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検査: 完成した製品は、抵抗値測定、絶縁抵抗試験、耐電圧試験、寸法検査など、厳格な品質検査を受けます。これにより、仕様通りの性能と安全性が確保されていることを確認します。
シーズヒーターの寿命を延ばすメンテナンスのポイント
シーズヒーターは堅牢な製品ですが、適切なメンテナンスを行うことで、その寿命をさらに延ばし、トラブルを未然に防ぐことができます。
定期的な清掃と点検
ヒーター表面に汚れ(油の炭化物、水垢、粉塵など)が付着すると、その部分が断熱材のような役割を果たし、放熱を妨げます。熱の逃げ場がなくなったヒーターは内部温度が異常上昇し、劣化や断線の原因となります。定期的にヒーター表面を清掃し、汚れが付着していないか、変形や損傷がないかを目視で点検しましょう。また、年に1回程度、絶縁抵抗値を測定し、初期値から大きく低下していないかを確認することも有効です。
空焚きの防止
液体加熱用のヒーターにおいて、液面がヒーターの発熱部より下に落ちた状態で通電する「空焚き」は、ヒーターを短時間で破損させる最も大きな原因の一つです。液面センサーを設置して液位を常に監視し、液位が低下した際にはヒーターへの通電を自動的に遮断するような制御システムを導入することが、空焚き防止には不可欠です。
適切な温度管理
過度な温度での連続運転は、発熱線の酸化を促進し、寿命を縮めます。温度センサーや温度調節器を用いて、必要以上に温度が上がらないように適切に管理することが重要です。また、1分間に数回といった極端に短い周期でのON/OFFの繰り返しは、発熱線に熱ストレスを与え、劣化を早める可能性があります。可能な限り、安定した温度で連続運転する方がヒーターの寿命にとっては望ましいです
保管時の注意点
シーズヒーターの内部に使用されている絶縁材(酸化マグネシウム)は、湿気を吸収しやすい性質(吸湿性)を持っています。長期間使用しなかったヒーターや、湿度の高い場所で保管していたヒーターは、内部に湿気を吸い込んでいる可能性があります。この状態でいきなり定格電圧を印加すると、漏電やショートの原因となることがあります。長期保管後や梅雨の時期などに使用を再開する際は、乾燥した場所で保管するか、使用前に低電圧でしばらく通電してヒーターを100℃以上に加熱し、内部の湿気を追い出す「乾燥運転」を行うと安全です。
新熱工業のシーズヒーターのご紹介

様々な熱課題を解決する専門技術
シーズヒーターとは、金属パイプ(シース)内にスパイラル形の発熱線を挿入し、熱伝導の良い絶縁物(MgO)で高密度に満たした電気ヒーターです。
新熱工業のシーズヒーターは、半導体・厨房機器、理化学機器など多岐にわたる分野で採用されており、独自技術を活かした製品開発力も高く評価されています。
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