ハイスピードカメラは、1秒あたりに多くの静止画が撮影でき、スーパースローモーション動画(ハイスピードムービー)の撮影も可能なデジタルカメラの一種です。すばやい動作もなめらかなスロー動画として撮影できるため、スポーツから農業、医療農業まで幅広い分野で活用されています。
この記事では、ハイスピードカメラについて、種類や主な使用用途、選ぶ際のポイントなどをご紹介します。
ハイスピードカメラとは、高速現象をスローモーションの動画として記録できるデジタルカメラです。
一般的なビデオカメラだと1秒に30fps〜60fps程度撮影できるのに対して、ハイスピードカメラでは1秒間に数百〜数十万fpsのフレーム(静止画)を撮影することが可能です。人の目では見えない一瞬の動きもハイスピードカメラを利用すれば可視化できます。
1秒間で撮影できるコマ数が多くなるほど、より細やかな動きを記録でき、撮影した動画もよりなめらかになります。
スマホでもスーパースロー撮影に対応している機種もありますが、ハイスピードカメラの方がより鮮明で長時間の撮影が可能です。
ハイスピードカメラには、用途別に個人向け、製造現場向け、研究開発向け、映像制作・メディア向けがあります。それぞれの特徴を見ていきましょう。
個人向けのハイスピードカメラは、個人が趣味や思い出の記憶などで使うもので、60fpsまで対応しているものが多いです。
ハイスピードカメラ単体というよりは、一眼レフカメラやミラーレス一眼レフカメラなどに搭載された機能のひとつです。
製造現場向けのハイスピードカメラでは、数千fps程度の高速撮影に対応した機種が多いです。主な使用方法は、製造ラインなどの不具合や不良品が発生していないかの確認のために使用します。
ハイスピードカメラを使うことで、肉眼では確認できない瞬間を解析することが可能です。
製造ラインでは、スペースの問題やカメラポジショニングの位置の関係から、軽量で小型なハイスピードカメラが求められます。低照度でも撮影できるように、モノクロ撮影に対応しているかも重要です。
研究開発向けには、10万fps以上にも対応したハイスピードカメラもあります。衝突実験では、耐衝撃性や小型軽量性が求められ、振動分析や燃焼研究では高解像度であることが必要です。
さらに研究開発の現場では過酷な環境にも対応していなければいけないため、内蔵メモリ録画があるモデルを選ぶと良いでしょう。
映像制作・メディア向けのハイスピードカメラは、数百〜1,000fpsのものが多く展開されています。フルHD解像度での4倍速のスローモーション再生や、スポーツなどの中継現場で使用されます。
映像制作・メディア向けのハイスピードカメラには、アリーナやスタジアムなどでのスポーツ中継撮影にも対応できるように、高速のデータ転送システムが内蔵されているのが特徴です。
一般的に市販されているビデオカメラでも、スローモーション動画に対応したものもあります。しかし、個人用のビデオカメラと業務用・研究用のハイスピードカメラでは、性能が大きく異なります。
ここでは、業務用と個人用のハイスピードカメラの違いをご紹介します。
個人用のカメラに内蔵されているスローモーション撮影機能では、1秒間に数百コマ程度の撮影が限界です。それに対して、業務用・研究用のハイスピードカメラでは、1秒間に数千〜数万コマの撮影ができます。
個人用に比べて、業務用・研究用のハイスピードカメラは、何倍ものコマ数が撮影できるため、より高速で一瞬の現象を捉えることが可能です。
スローモーション動画は大量のフレームをつないで構成されるため、データ容量が膨大になります。個人用のビデオカメラでは、容量を小さくする目的でデータを圧縮しますが、それにより動画の解像度が低下します。
一方業務用・研究用では計測と解析を行うのに使用するため、より鮮明な動画が必要になるため、データを圧縮せずに扱える専用のカメラが使われます。
ここでは、分野別にハイスピードカメラの主な使用用途をご紹介します。
ハイスピードカメラは気体や液体の流れを観察、または計測する際に使用可能です。
例えば、PIVと呼ばれる画像計測法を用いれば、流れの速度や方向などを計測でき、分布化が円滑になります。
流体の状態を把握できれば、さまざまな現象が発生する原因が把握しやすくなります。
スマートフォンやパソコンの開発現場にも、ハイスピードカメラは導入されています。
例えば、モバイル端末が落下したときに起こる挙動や変形などをハイスピードカメラでチェックし、耐久性と安全性の観察に活用できます。
またインクジェットプリンターのインクの出方を撮影して、品質向上に活かすことが可能です。
このようにさまざまな製品の品質や耐久性、安全性などの改善の研究にハイスピードカメラが活躍しています。
生産現場でも、品質管理や効率向上にハイスピードカメラは欠かせません。製造プロセスを詳しく観察して、不具合の原因となっている部品を特定することで、不良品や生産ラインが増えるのを防ぎます。
また製造プロセスの改善点を検出して効率性をアップさせれば、業務の効率化やコスト削減につながります。
自動車の開発や製造のさまざまな製造プロセスで、ハイスピードカメラが活用されます。瞬間的な動作を映像で捉えて詳細に分析することで、パフォーマンスと安全性の向上に役立てられます。
例えば、走行テストや衝突テスト、エアバッグの展開テスト、サスペンションテスト、タイヤテスト、振動テスト、材料テスト、可充電テストなどで活用することが可能です。
スポーツ分野では、野球の投球フォームやサッカーのキック、ゴルフのスイングフォームなどの瞬間をハイスピードカメラで撮影することで、フォームの改善などに活用できます。
スローモーション映像で、フォームや力の入れ方などが観察しやすくなります。
ハイスピードカメラで求める結果を得るためには、目的に合わせたものを選ぶ必要があります。ハイスピードカメラのスペックで注目すべきポイントをご紹介します。
撮影速度は、1秒間に撮影できる静止画の数を表す数値で、コマ/秒またはfpsと表記されます。撮影速度が高い方が、より鮮明な現象をスローモーションに捉えられるため、非常に重要な要素です。
ただし、撮影速度が多くなるほど導入コストがかかるので、使用する目的に合わせた機種を選びましょう。
解像度は、ハイスピードカメラでは横×縦 pixelで表記されるもので、1コマの画像を構成する画素数を表しています。
解像度が高い方が、被写体を繊細に撮影することが可能です。
ただし解像度が大きくなると、データ量や画像処理にかかる負荷が大きくなります。
ハイスピードカメラには、モノクロとカラーがあります。色情報が必要のない産業分野や研究開発分野では、モノクロカメラが採用されることが多いです。
一方、色情報が重要になる可視化計測ではカラーカメラが向いています。
ただしカラーカメラは、取り込む光量が減少するため、モノクロカメラに比べてカメラ感度が低くなるので注意が必要です。
ISO感度は、動画を撮影する際の明るさを表す値です。値が高いほど、少ない光量でより明るく撮影できます。
撮影速度が数千〜数万fpsで撮影するハイスピードカメラでは、短い時間で細かく撮影するため、鮮明な画像を撮影するためには、ISO感度が高いものを選ぶことが求められます。
シャッタースピードは、1コマを撮影する際に電子シャッターを開いてイメージセンサに光(露光)を取り込むまでにかかった時間のことです。シャッター速度が高いとシャッタースピードが短くなるため、ブレが抑えられ鮮明な画像を撮影できます。
シャッタースピードは短くなるほど撮影画像が暗くなるので、シャッター速度を高めたら輝度を高める必要がある点には注意が必要です。
最適なシャッタースピードに調節することで、鮮明な動画が撮影できるようになるので、計測の誤差や分析エラーを軽減できます。
ハイスピードカメラは、カメラ本体に内蔵されたフラッシュメモリに一時的に保存されますが、カメラの電源を落とすと消去されます。そのため、残しておきたい撮影データはパソコンなどに転送する必要があります。
ハイスピードカメラのデータ量が膨大になることが多いため、転送にかかる通信速度の速さに注意が必要です。
ハイスピードカメラで撮影したデータは、カメラ内部に内蔵されたメモリに一時的に残ります。撮影速度や解像度によって撮影時間は決まるので、メモリの容量が大きいほど長い時間の撮影ができるようになります。
撮影したい時間に合わせて、最適なメモリ容量を選ぶことが重要です。
ハイスピードカメラは、一眼レフなど一般的なカメラのようにレンズを交換することができる製品が多いです。
F値やズーム倍率、撮影範囲、最短撮影距離、焦点距離などが変わるので、使用する環境や用途に応じて選びましょう。
ハイスピードカメラを選ぶ際はスペックや性能も重要ですが、カメラ本体のサイズや重量も忘れないようにしましょう。撮影する環境によっては、設置場所が狭かったり、頻繁に場所を変えたり、持ち運びをする必要がある場合は、軽くて小さい方が便利です。
ハイスピードカメラは、さまざまな種類、スペックのものがあるので、使用目的に合った適切なものを選ぶことが大切です。
業務用・研究用のハイスピードカメラは、製品の性能やスペックを重視して選ぶ必要があるので、検討前に基本的なことを知っておくことが重要です。
今回紹介したハイスピードカメラの種類や個人向けとの違い、選ぶ際のポイントなどを参考にして、用途に合ったものを選びましょう。