LCRメータとは?意味や接続・測定・補正方法について解説
LCRメータとは
LCRメータは、電子回路を詳細に分析する際や製造する際に使う測定機器です。LCRメータでは、L(インダクタンス)、C(コンデンサ)、R(抵抗)の3つの受動素子の値を測ることができます。
受動素子とは、電力を蓄積したり消費したり、放出したりする動作を行う電子部品のことです。
受動素子の特性は、構造やパーツ精度、使用する素材によって異なります。特定の電子回路を製造するためには、各受動素子の特性を理解したうえで、適切な素子を選択する必要があります。
LCRの意味
LCRメータのL、C、Rの各成分についてご紹介します。
L成分
L成分は、インダクタンスと呼ばれる成分です。インダクタンスは、コイルに流れる電流の変化を妨げる方向に生み出す電流の強さを表します。
L成分が大きい回路は電流の変化に疎くなります。急なノイズ電流などには強いものの、交流回路に使うと力率が遅れてしまい、効率が低くなります。
C成分
C成分は、コンデンサと呼ばれ、日本語では「静電容量」とも呼ばれる成分です。C成分は、電気の源である電荷を蓄積する容量を表します。
コンデンサはコイルとは逆の役割を果たし、C成分が大きい回路は電流が急に変化します。交流回路で使用すると力率を進めるものの、ノイズ電流などの発生が増加する場合も。
直流制御回路においては、電圧を拡大させたり、平滑化したりする働きをします。
R成分
レジスタンスと呼ばれているR成分は、電気抵抗のことです。
電気抵抗が大きいと、直流回路でも交流回路でも電流の流れが悪くなります。電流の送電効率が悪くなるものの、故障の際の最大電流も小さくなる特性を持っています。
LCRメータの使用用途
LCRメータは、産業分野や医療分野などで使用されることが多いです。
産業分野では電子機器の開発や電力・電子部品の試験、医療分野では体脂肪率測定器などに用いられます。人体のインピーダンスによる体脂肪率や水分量を測定できることから、医学研究にもよく使用されます。
LCRメータは、CTやNMRといった装置よりも低コストで購入できるため導入がしやすいのがメリットです。
LCRメータの接続方法
ここではLCRメータの接続方法についてご紹介します。一般的に、端子の数が多く接続が複雑になるものほど正確な値を測定できるとされています。
2端子法
2端子法は、テストリードを使いデバイスにある2つの端子を接続するだけという非常に簡易な接続方法です。
2端子法では、接触抵抗やケーブルの直列インピーダンス、端子間やケーブルの浮遊容量などが与える影響が非常に大きくなります。2端子法の場合、正しい値を測定するのは難しいので、結果大きな誤差が生じる可能性があります。
3端子法
3端子法は、主に小さな容量を測定するのに使われる接続方法です。試料やケーブルに静電シールドをつけて、高インピーダンスにおける測定誤差を減らすことができます。
静電シールドをつけることで、浮遊容量を抑制できます。
4端子法
電圧検出ケーブルを自立させて設けることで、低インピーダンスの誤差を軽減する接続方法です。電圧検出ケーブルの自立により、ケーブルの直列インピーダンスが与える接触抵抗や電圧降下の影響をなくします。
4電子法を採用する際は、ケーブル間の相互インダクタンスによる影響を考慮しなければいけません。
接続する際は、ケルビンクリップという電極が2個ある特殊なクリップを2つ用いて接続すれば簡単です。
5端子法
5端子法は、4端子法の各ケーブルにシールドを施し、インピーダンスの幅広い範囲による測定誤差を大幅に減らせる接続方法です。
使用するシールドは、機器を電磁波から保護するための特別なカバーです。外部からのEMIを防いでEMRを制御するため、信号の誤認識やデータ損失を防ぐことが可能です。
4端子対法
4端子対法は、測定電流で発生する磁界の影響を減らして、インピーダンスの範囲の測定誤差を低減することができる接続方法です。
ケーブルのカバーを活用して、電流の往路と復路を合わせることで磁束が生じるのを抑えて、電磁誘導による残留容量を減らします。
LCRメータの測定方法
LCRメータの測定方法には、主に「自動平衡ブリッジ法」「RF I-V法」の2種類があります。
自動平衡ブリッジ法
自動平衡ブリッジ法は、LCRメータの測定方法としてよく使用される回線方式のひとつです。LCRメータが4端子あり、4端子すべてに測定対象の素子が接続されます。
インピーダンス測定を広範囲で行うことができ、温度の範囲も広くなります。ただし複雑な回路になるため、100MHz以上の高周波域の測定には不向きです。
RF I-V法
RF I-V法は、高周波域の測定向きの測定方法です。
広帯域の電流検出を行うことのできるトランスを使用し、測定対象の素子に流れる電流と電圧によってインピーダンスの測定をします。
LCRメータの測定誤差の補正方法
LCRメータを使って正確な値を測定するためには、測定誤差の補正は必須です。ここでは、LCRメータの測定誤差の補正方法についてご紹介します。
オープン/ショート補正
オープン補正は、LCRメータと測定対象を接続するフィクスチャの浮遊容量や接続リード、漏れ抵抗を補正する方法です。配線の配置で値が変動するので、試料を測定するときと同じ状態にして行います。
ショート補正は、フィクスチャや接続リードの接続ケーブルや接続抵抗のインピーダンスを補正する方法です。
残量抵抗を最小限に抑えるために、金属板や太い電線を用いてショートします。ケーブル間の繋ぎによる変動を少なくするために、試料の測定と同様の状態にして行います。
ロード補正
ロード補正は、残留成分が特に大きく、オープン補正もしくはショート補正を行っても無視できない誤差が生じたときに行う方法です。正確な値がわかる標準器などの部品を使用して行います。
ロード補正を行うことで、測定レンジや周波数、信号レベルなどの特定の条件時で生じる細かい誤差を減らす効果が期待できます。
ケーブル長補正
ケーブル長補正は、LCRメータを装置に組み入れて使う場合や、測定対象の素子が大きい場合に使う補正方法です。
長いケーブルを使うと、ケーブル自体の浮遊容量や配線抵抗による影響を受け、試料に加えられる信号の位相やふり幅に誤差が起こる可能性があります。
しかしLCRメータには、長いケーブルを使用する際に発生する誤差を補正するための機能が搭載されています。
LCRメータにケーブルの長さを設定すると、信号の位相やふり幅の誤差が補正されるため、ケーブル長による測定誤差を最小まで抑えることが可能です。
LCRメータについてのまとめ
LCRメータは、インダクタンス、コンデンサ、抵抗を測定する目的で使用される電子機器です。主に産業分野や医療分野で重宝されています。
種類が複数あるので、使用用途にあったLCRメータを選びましょう。
関連記事
X線検査装置とは?食品製造業の品質管理における応用例や選定ポイント
食品製造業において、異物混入は企業の信頼と存続を脅かす深刻なリスクです。その対策のひとつとして注目されているのが、X線検査装置です。X線検査装置は、製品を壊さずに内部を検査できる技術であり、目視や他の検査方法では見つけにくい異物も高精度で検出可能です。金属、ガラス、石、骨片など、さまざまな異物に対応し、食品の「安全」と「安心」を守るうえで欠かせない存在となっています。本記事では、食品製造業におけるX線検査装置の基礎知識から応用例、装置選定の際のポイントをご紹介します。
2025年09月09日
ハーネスチェッカーとは?選び方やメリット・デメリットについて解説
ハーネスチェッカーは、電気製品の電線の切れや端子の抜けがないか検査をするための機械です。 どのぐらいの電圧に耐えられるかを測定したり、異常のある回路がないかを検査したりします。不良品がないか確認するためには欠かせない検査装置です。 今回は、ハーネスチェッカーの特徴や検査の種類、メリット・デメリットについて解説します。
2025年10月13日
データロガーとは?記録から分析までの完全ガイド
データロガーは、温度や電圧などを精密に記録し、重要な情報を提供する装置です。 この記事では、データロガーの基本的な使い方から、温度や電圧測定、グラフテックやキーエンスなどの主要メーカー、さらには車や熱電対への応用までを幅広く解説。 データロガーの価格や選び方についても触れていきます。
2025年10月11日
膜厚計とは? 測定原理や種類、選び方のポイントを解説します
外壁塗装の厚み測定や自動車の生産ライン、橋梁点検、プラントなどの修理・点検など、多岐にわたる用途で利用されている膜厚計。さまざまなタイプの膜厚計が存在しますが、各種類によって測定原理が異なるため、用途に適した膜厚計を選択することが重要です。 そこで今回は、膜厚計の種類やそれぞれの測定原理・特徴についてご紹介します。膜厚計に関連するおすすめ製品もご紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。 このような方におすすめです ・膜厚計の概要や測定原理について知りたい方 ・代表的な膜厚計の種類と各特徴について詳しく知りたい方 ・膜厚計に関連するおすすめ製品を知りたい方
2025年09月25日
エアリークテスターとは?選び方から導入の流れまで解説
現代の製造業では、製品の気密性や液密性が品質と安全性の確保に欠かせません。容器や配管、自動車部品、医療機器など、液体や気体を封じ込める製品では、微小な漏れが性能低下や機能不全、さらにはリコールや事故につながるリスクがあります。こうしたリスクを防ぎ、製品の信頼性を高めるために、リークテストは製造ラインの重要な工程となっています。 エアリークテスター(Air Leak Tester)は、加圧・減圧による圧力変化を数値化して漏れ量を定量的に測定できるため、単なる合否判定を超えた精密な品質管理が可能です。不良率の解析やトレーサビリティの確保も容易になり、製品の信頼性向上に大きく貢献します。
2025年09月08日
寸法検査|自動化が求められている背景や検査の方法・手順を解説
寸法検査とは、製品や部品の寸法が仕様書や図面の要求通りに製造されているかを確認する重要な工程です。 この記事では、寸法検査の重要性や方法、手順に加えて、自動化がもたらす製造業界への影響について詳しく解説します。
2025年09月25日
超音波膜厚計とは?原理や種類、選び方から導入の流れまで解説
製造現場における品質管理や、インフラ設備のメンテナンスにおいて、製品や部材の厚さを正確に測定することは極めて重要です。超音波膜厚計は、対象物を破壊することなく、迅速かつ高精度に厚さを測定できる非破壊検査機器として、幅広い産業で活用されています。 本記事では、超音波膜厚計の導入を検討されている製造業のご担当者様に向けて、その基本的な原理から主な用途、選定のポイント、導入後の運用フローまで、網羅的にご紹介します
2025年10月17日
レーザ変位センサ 用途に応じた種類や選び方
レーザ変位センサは、用途や測定環境に応じた製品選びが重要です。本記事では、レーザ変位センサの仕組みや種類、また、「精度」についての考え方、分解能・直線性・繰り返し精度の違いなどを解説、センサを選ぶ際に考慮すべきポイントについてご紹介します。
2025年09月11日
3Dセンサーとは? 仕組みや測定の種類、活用事例について解説します
3Dセンサー技術は製造業をはじめとして、様々な分野でその価値を発揮しています。今回の記事では、3Dセンサーの基本原理からその多様な応用例までを詳しく解説し、この先端技術がもたらす可能性に焦点を当てます。 3Dセンサーの種類や特徴、利点と課題、そして未来の展望について理解を深めることで、この技術が秘めた将来性について把握できるようになるでしょう。 このような方におすすめです ・3Dセンサーの概要やメリットについて知りたい方 ・3Dセンサーにおける測定別の種類について知りたい方 ・3Dセンサーの具体的な活用事例について知りたい方
2025年09月05日
近赤外分光法(NIR)とは? 応用分野や赤外分光法(IR)との比較を解説
近赤外分光法(NIR)は、物質に近赤外光を照射し、その相互作用から物質の組成や構造を分析する非破壊的な手法です。従来の分析手法と比較して、前処理が不要で迅速な測定が可能という特長を持ち、品質管理や成分分析など幅広い分野で活用されています。 本記事では、近赤外分光法の基本原理から応用分野まで、その特徴や赤外分光法(IR)との違いについて詳しく解説します。
2025年09月16日
スプレードライとは? 特徴・工程プロセス・応用例を解説
スプレードライ(噴霧乾燥)は、液体原料を熱風中で瞬間的に乾燥させて粉末を製造する産業技術です。工程の簡略化、優れた粉体特性、高い処理能力などの特長を持ち、食品、医薬品、化学製品など幅広い分野で活用されています。 本記事では、スプレードライの特徴やメリット、工程プロセス、さらに具体的な応用例について解説します。
2025年09月12日
ロータリーエバポレーター 蒸留の原理や使用時の注意点について解説
ロータリーエバポレーターは、成分の濃縮や溶媒の除去などの目的で使用される装置です。化学、製薬、食品分野などで広く利用されています。しかし、適切に使用しないと突沸が生じるリスクがあります。本記事では、ロータリーエバポレーターの蒸留の原理や具体的な用途例、基本構成、使用時の注意点について詳しく解説します。
2025年09月12日
高精度圧力計・圧力測定器の種類・メーカーの選び方
高精度デジタル圧力計・測定器は、産業界や研究分野で不可欠な計測機器です。従来のアナログ式と比べ、高い精度と使いやすさを兼ね備え、多様な用途に対応します。 本記事では、圧力計の基本から高精度デジタル圧力計の特徴、用途、選び方まで詳しく解説します。
2025年09月09日
微差圧とは?測定方法や計測器、有用性を解説
昨今、多くの業界で、製品の小形化・高精度化・高効率化が求められており、様々な新しい計測ニーズが生まれています。「微差圧」もその例外ではありません。微差圧の正確な把握は、製品の付加価値を高め、競争力を強化する為にも重要な要素となります。
2025年09月09日
断面観察とは?製造業における目的や手法、非破壊での観察装置の選び方を解説
現代の製造業において、製品の品質を保証するためには表面的な検査だけでは不十分です。目に見えない内部の状態を正確に把握することが、製品の信頼性や競争力に直結します。断面観察は、こうした製品や材料の内部を可視化するための重要な技術です。 断面観察には、試料を加工して観察する手法から、製品を壊さずに内部を見る非破壊の手法まで、様々なアプローチが存在します。本記事では、製造業における断面観察の重要性から、具体的な手法、そして非破壊で観察するための装置の選び方まで、詳しく解説します。
2025年08月29日
OCT(光干渉断層撮影)の種類と選び方 | 導入のポイントや医療研究での活用について解説
OCT(Optical Coherence Tomography:光干渉断層撮影)は、近年、医療研究分野において不可欠なイメージングツールとして注目を集めています。非侵襲的かつ高解像度で生体組織の断面画像をリアルタイムに取得できるという特性から、眼科領域でのゴールドスタンダードとしての地位を確立するだけでなく、さまざまな分野の医療研究目的や基礎生物学研究など、その応用範囲は広がり続けています。 本記事では、OCTの基本原理から測定方式別の種類、そして最適なOCTシステムの選び方まで詳しく解説します。
2025年09月01日
水分計とは?種類や測定対象別の選び方を解説
物質の中の水分量を測定するために使われる水分計。さまざまな種類があり、どのように選べば良いのか悩んでいる方も多いのではないでしょうか。 今回は水分計の種類と、測定対象別の選び方を解説します。用途に合わせた選び方の参考にしてみてください。
2025年09月08日
ガスクロマトグラフとは?原理や特徴を分かりやすく解説
ガスクロマトグラフは、気体や液体に含まれる成分の濃度を測定できる装置です。その高度な分析能力と汎用性の高さから、環境・化学工業・食品・製薬など幅広い分野で活用されており、今日の科学技術の発展を支えています。 この記事では、ガスクロマトグラフの原理や装置の仕組みなどを分かりやすくご紹介します。
2025年09月09日
画像解析ソフトとは?目的や使用用途・仕組み・AI技術まで徹底解説
多種多様な産業で用いられている画像解析ソフトは、工程を効率化するうえで必要不可欠です。現在、画像解析のためのAI技術が発展しており、注目が集まっている分野となっています。 今回は、画像解析ソフトについて、仕組みや用いられる技術といった基礎知識から実際の用途、フリーの画像解析ソフトのメリットとデメリットまで詳しく紹介いたします。
2025年09月08日
元素分析装置とは? 種類・活用分野・選び方のポイントを解説します
元素分析装置は、物質を構成する元素の同定と定量に必要な高度な分析技術を提供する機器です。科学研究、品質管理、環境保護等、多岐にわたる分野における元素の種類や量の精密な分析を可能にします。 本記事では、元素分析装置の種類や活用分野、選び方のポイントについて詳しく解説します。
2025年09月05日