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エンジニアリングプラスチックとは|加工のポイントや種類と特徴を解説

近年、自動車や電子機器をはじめとする多くの産業で、製品の軽量化やコストダウンを目的として、金属部品を高性能な樹脂に置き換える動きが加速しています。この流れを支えているのが、一般的なプラスチックよりも強度や耐熱性に優れた「エンジニアリングプラスチック」です。

本記事では、樹脂製品の設計や試作を担当されている方向けに、エンジニアリングプラスチック(エンプラ)の基礎知識から、その種類、代表的な加工方法、そして材料選定や加工における注意点まで、幅広くご紹介します。

エンジニアリングプラスチックの基礎知識

まず、エンジニアリングプラスチックがどのようなものか、その定義と他のプラスチックとの違いについて理解を深めましょう。適切な材料を選び、最適な方法で加工するための第一歩となります。

エンジニアリングプラスチック(エンプラ)とは

エンジニアリングプラスチック(Engineering Plastics、略してエンプラ)とは、汎用プラスチックと比較して、機械的強度や耐熱性といった性能を大幅に向上させた高機能な合成樹脂の総称です。明確な定義はありませんが、一般的に100℃以上の環境でも連続して使用できる耐熱性を持つプラスチックを指します。

1960年代以降の高度経済成長期に、工業製品の大量生産に対応するため、「安く、軽く、加工しやすい」材料として、金属の代替となる可能性を秘めた素材として次々と開発されました。エンプラは、金属のような強度や耐熱性と、プラスチックならではの軽量性、錆びない性質、射出成形による複雑形状の量産性といった利点を兼ね備えており、金属と汎用プラスチックの中間的な特性を持つ材料として位置づけられています。

エンジニアリングプラスチックの主な種類と特徴

エンジニアリングプラスチックには、さまざまな種類のものがありますが、汎用エンジニアリングプラスチックの約9割を占めるのが「5大エンジニアリングプラスチック」です。

ここでは、5大エンプラの特徴を見ていきます。

ポリアセタール ポリアセタール(POM)は、乳白色のなめらかな素材です。耐摩耗性・耐疲労性に優れているため、歯車などの部品によく使用されます。
ポリアミド

ポリアミド(PA)は、耐衝撃性、耐溶剤性、耐薬品性、耐摩耗性に優れた素材です。ただし、吸湿性、吸水性が高いため、多湿の環境下では寸法に狂いが生じます。

屋内で使用する機械部品、衣類などに使用されます。

ポリブチレン
テレフタレート

ポリブチレンテレフタレート(PBT)は、耐衝撃性、耐溶剤性、電気絶縁性に優れたなめらかな素材です。他の素材と組み合わせて使用されるケースも多くあります。

モーター部品や電子部品などに、幅広く使用されています。

ポリカーボネート

ポリカーボネート(PC)は、エンジニアリングプラスチックの中で唯一、透明の素材です。その透明性を生かし、家電製品、光学部品、スマートフォンのカバーなどに使用されています。

寸法安定性、耐衝撃性には優れていますが、耐薬品性は低い素材です。

変性ポリフェニレン
エーテル
変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)は、耐熱性、耐無機薬品性、耐加水分解性、電気特性に優れ、汎用エンプラの中では、最も軽い素材です。

電気機器、自動車の部品などに使用されます。

エンジニアリングプラスチックのメリット

エンジニアリングプラスチックには、いくつかのメリットがありますが、特に大きなメリットとして、環境に優しい素材であること、用途が幅広いことが挙げられます。

この2つのメリットについて、詳しく見ていきましょう。

環境に優しい

エンジニアリングプラスチックは、汎用プラスチックよりも少ない使用量で、同じ性能のものが作れるため、エコな素材です。また、燃やしたときに、汎用プラスチックよりも、地球温暖化につながる二酸化炭素などの排出が少ないというメリットがあります。

さらに、原料は化石資源ではなく、植物資源から簡単に作れるものもあります。世界中で「持続可能な開発目標」の達成が求められる中、環境に優しい素材は、ますます注目される可能性を秘めています。

用途が幅広い

エンジニアリングプラスチックは金属よりも軽く安価で、同じものを大量生産しやすいため、さまざまなものに活用が可能です。

具体的には、自動車部品や機械部品、電子機器部品のほか、スマートフォンのケース、液体の容器、食品の包装など、わたしたちの身近で、多くのものに用いられています。

エンジニアリングプラスチックのデメリット

エンジニアリングプラスチックのメリットをご紹介しましたが、デメリットも存在します。デメリットを把握したうえで適切に使用し、エンプラを有効活用しましょう。

値段がやや高い

エンジニアリングプラスチックは、金属と比べた場合は安価ですが、汎用のプラスチックや鉄と比べた場合、価格が高いという特徴があります。

金属に比べると強度や耐熱性が低い

エンジニアリングプラスチックは、金属に比べると、強度や耐熱性が低いというデメリットがあります。

軽さや扱いやすさを重視するならば、エンジニアリングプラスチック、強度や耐熱性を重視するならば金属を使用するなど、重要視する点をよく検討し、使用する素材を選択する必要があります。

接着に課題がある

エンジニアリングプラスチックは、接着が難しい素材であり、接着の方法に課題が残っています。

メーカーによっては、難接着素材専用の接着剤を販売しているところがあるため、専用接着剤を使用することにより、課題を解決できます。

汎用プラスチック・スーパーエンプラとの違い

プラスチックは、性能と価格のバランスによって大きく3つのカテゴリーに分類されます。具体的には、「汎用プラスチック」「エンジニアリングプラスチック」「スーパーエンジニアリングプラスチック」です。

この分類を決定づける最も重要な指標が「耐熱温度」です。汎用プラスチックは耐熱温度が100℃未満であるのに対し、エンプラは100℃から150℃、スーパーエンプラは150℃以上の過酷な環境でも連続使用が可能な性能を持ちます。性能が高くなるにつれてポリマーの化学構造が複雑になり、製造も難しくなるため、価格も汎用プラスチックが最も安価で、スーパーエンプラが最も高価になります。

この性能とコストの関係性は、製品開発における材料選定で非常に重要です。必ずしも最高性能の材料が最適とは限らず、製品に求められる最低限の性能要件を満たす、最もコスト効率の良い材料を選ぶことが、競争力のある製品開発の鍵となります。

プラスチックの分類と比較

分類 耐熱温度 機械的強度
汎用プラスチック 約100℃未満
エンジニアリング
プラスチック
100℃~150℃ 中~高
スーパーエンプラ 150℃以上

エンジニアリングプラスチックの代表的な加工方法

エンプラを製品の形にするには、いくつかの加工方法があります。ここでは、生産量や製品形状に応じて使い分けられる代表的な加工方法をご紹介します。

射出成形

射出成形は、加熱して溶かした樹脂(ペレット状の材料)を高圧で金型内に射出し、冷却して固めることで製品を成形する方法です。複雑な形状の製品でも高い精度で、かつ高速に大量生産できるため、エンプラ加工において最も広く用いられています。

一方で、金型の設計・製作に高額な初期投資と長い期間が必要となるため、試作品や少量生産には向いていません。

切削加工

切削加工は、ドリルやエンドミルといった刃物を用いて、塊や板状の樹脂材料を削り出して目的の形状を作り出す方法です。金型が不要なため、初期費用を大幅に抑えることができ、1個からの試作品製作や数百個程度の少量生産に最適です。

また、射出成形では難しい高精度な加工にも対応できます。ただし、1個あたりの加工時間が長くなるため、大量生産時の部品単価は射出成形に比べて高くなります。

押出成形・ブロー成形

その他の代表的な加工方法として、押出成形とブロー成形があります。押出成形は、溶かした樹脂をダイと呼ばれる口金から連続的に押し出すことで、パイプやシートのような長尺品を製造する方法です。

ブロー成形は、溶かした樹脂でつくった筒状の材料(パリソン)に空気を吹き込んで膨らませ、ボトルやタンクのような中空製品を製造する方法です。

3Dプリンティング(積層造形)

近年、3Dプリンティング技術の進化により、エンプラを用いた部品製作も可能になっています。これは3Dデータをもとに、材料を一層ずつ積み重ねて立体物を造形する技術です。

特に、フィラメント状の樹脂を熱で溶かして積み重ねるFDM(熱溶解積層)方式や、粉末状の樹脂にレーザーを照射して焼結させるSLS(粉末焼結積層造形)方式が知られています。SLS方式ではPA12(ナイロン12)などのエンプラ材料が使用でき、複雑な形状でもサポート材なしで高強度な部品を製作できます。

3Dプリンティングは、従来、切削加工で行われていた試作品製作をより迅速かつ低コストにするだけでなく、PEEKのようなスーパーエンプラに対応した機種の登場により、治具や最終製品の少量生産にも活用され始めています。これにより、金型製作という大きな投資をせずに製品を市場に投入することも可能になりつつあり、ものづくりのあり方を変える可能性を秘めています。

エンジニアリングプラスチック加工のポイントと注意点

エンプラの優れた性能を最大限に引き出すためには、材料の特性を理解し、加工方法ごとの注意点を押さえることが不可欠です。

射出成形の注意点

射出成形はエンプラの量産に欠かせない技術ですが、その加工は容易ではありません。エンプラは汎用プラスチックよりも溶融温度が高いため、分解ガスが発生しやすく、金型の腐食やガスによる成形不良(ガス焼け)の原因となります。また、ガラス繊維などで強化された材料は、金型や成形機のスクリューを激しく摩耗させます。

これらの課題に加え、様々な成形不良が発生する可能性があります。不良対策は単純ではなく、例えば「ヒケ」を防ぐために保圧を上げると、今度は「バリ」が発生するというように、一つの対策が別の問題を引き起こすことがあります。そのため、各パラメータのバランスを取りながら最適な成形条件を見つけ出す、高度な技術と経験が求められます。

射出成形の主な成形不良と対策

不良の内容 現象 主な原因 主な対策
ショート
ショット
樹脂が金型の隅々まで充填されない 射出圧力・速度の不足、金型温度の低さ、ガス抜きの不良 射出圧力・速度・温度の引き上げ、ガスベントの追加・清掃
バリ 金型の合わせ面から樹脂がはみ出す 型締め力の不足、射出圧力の過多、金型の合わせ面精度不良 型締め力の引き上げ、射出圧力の低減、金型のメンテナンス
ヒケ 製品表面に凹みが生じる 保圧の不足、肉厚部の冷却不足、金型温度の高さ 保圧の引き上げ・時間延長、肉厚を均一にする設計変更、金型温度の調整
ウェルド
ライン
樹脂の合流部分に線状の模様ができる 樹脂温度・金型温度の低さ、射出速度の遅さ 樹脂温度・金型温度の引き上げ、射出速度の向上、ゲート位置の変更
反り・歪み 成形品が冷却後に変形する 金型温度の不均一、冷却時間の不足、製品の肉厚差 金型温度の均一化、冷却時間の延長、アニール処理、リブ等による設計補強

切削加工の注意点

樹脂の切削加工は金属加工とは異なる難しさがあります。特に注意すべきは「熱」「切りくず」「固定」「寸法変化」の4点です。

熱対策

プラスチックは金属に比べて熱伝導率が低く、加工時に発生した熱が逃げにくいため、材料が溶けて刃物に付着したり、加工面が荒れたりする原因となります。対策として、切れ味の良い専用工具の使用、適切な回転数と送り速度の設定、エアブローなどによる冷却が有効です。

切りくず処理

樹脂の切りくずは静電気を帯びやすく、製品や機械に付着して加工精度を低下させることがあります。切りくずの排出性に優れた工具を選定するとともに、エアブローや集塵機で適切に除去することが重要です。

材料の固定

樹脂は金属よりも柔らかく、強い力で固定(クランプ)すると変形や割れの原因になります。締め付けトルクを管理したり、治具にゴム板を挟むなどの工夫で、材料にダメージを与えないよう配慮が必要です。

寸法精度

樹脂は熱膨張係数が金属より大きく、加工中の熱で寸法が変化しやすいです。また、PA(ナイロン)のように吸湿によって寸法が変化する材料もあるため注意が必要です。加工後の寸法変化を見越した加工や、アニール処理(熱処理)による内部応力の除去が有効な場合があります。

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