リフトオフとは?プロセスやフォトレジストの種類を解説
本記事では、リフトオフレジストの基本的な仕組みから、エッチング法との比較によるメリットとデメリット、種類、そしてプロセス成功のための剥離溶剤の選び方を解説します。
目次
リフトオフレジストの基礎知識と製造プロセス
リフトオフとは?
リフトオフとは、レジストをパターニング後に金属を蒸着またはスパッタリングで成膜し、剥離工程でレジストと金属の積層膜を一度に取り除き、レジストパターンのないスペース領域に金属膜を残すプロセスです。リフトオフプロセスはエッチング工程を必要としないため、コストの削減と作業時間の短縮が可能です。
アンダーカット構造が果たす重要な役割
リフトオフを成功させ、高い歩留まりを達成するためには、「アンダーカット構造」の形成が最も重要です。アンダーカットとは、レジストパターンの上部が、基板側のレジスト下部よりも外側に張り出した状態(オーバーハング構造)になっていることを指します。
このオーバーハング構造は、薄膜を堆積させる際に、レジストの側壁に薄膜が連続して繋がってしまうのを防ぐためのものです。もし側壁にも連続して膜が堆積してしまうと、レジストの上に載っている薄膜と、基板に張り付いている薄膜が物理的につながってしまいます。
アンダーカットが適切に形成されていれば、堆積した薄膜は上部と下部が完全に分離されます。これにより、剥離溶剤がレジスト層の下部にスムーズに浸透し、レジストを内側から溶解・膨潤させることが可能になります。この物理的な分離(絶縁)が保証されることで、溶剤がレジスト全体を浮き上がらせ、残渣(カス残り)なく薄膜全体を容易に除去できるのです。アンダーカットは、単なるプロセスの工夫ではなく、リフトオフ法における歩留まりを決定づける物理的な「絶縁層」の役割を果たします。
なぜリフトオフ法が必要か? エッチングとの違い
エッチングプロセスとリフトオフプロセス比較

一般に広く用いられる金属パターニングプロセスでは、下地基板に金属を成膜し、上層にフォトレジストをパターニングした後にエッチングを行い、所望のパターンを形成します。しかし、エッチングが難しい金属配線や、複雑な層構造、エッチングによる下地基板へのダメージを懸念する場合、上記のエッチング工程が難しいことがあります。
こうした課題の解決に有効なのが「リフトオフ」というプロセスの適用です。この方法では、金属を成膜する下地基板に先にレジストパターニングを行い、その上層に金属を成膜します。後にレジストと上層金属を同時に剥離除去することで、エッチングを行わず所望の金属パターニングが可能になります。

リフトオフ法を選択する主なメリット
リフトオフ法は、エッチング法では解決が難しい課題に対応し、特に高付加価値なデバイス製造において大きなメリットを提供します。
- 難エッチング材料への適用
貴金属や特定の合金など、反応性が低くエッチングが困難な材料でも、レジストごと物理的に剥離するリフトオフ法であれば容易にパターン形成が可能です。これにより、材料の選択肢が広がり、電気的特性や信頼性に優れたデバイスの設計が可能になります。 - 基板へのダメージ低減
エッチングプロセスでは、強力な薬液やプラズマを使用するため、基板表面や下層の敏感な薄膜に対してダメージを与えるリスクがあります。リフトオフ法は物理的な剥離に依存するため、基板表面を化学的・物理的に傷つけるリスクを避けられます。これは、特に化合物半導体や光学部品など、基板が敏感なデバイスの製造において非常に重要なメリットです。 - 高い設計自由度
リフトオフ法では、成膜前のレジストの形状によってパターンの側壁形状を制御しやすくなります。一方で、エッチングでは垂直な側壁を維持するのが難しく、アンダーカットやテーパーが意図せず発生することがあります。
製造プロセスを選択する際は、材料の制約、求められる製品寿命や信頼性、そしてコストを総合的に考慮する必要があります。高付加価値なデバイスや基板ダメージを避けたい場合、リフトオフのコスト増を許容するケースが多いです。
リフトオフプロセスとエッチングプロセスの有意差
| リフトオフプロセス |
エッチングプロセス |
|
|---|---|---|
|
工程数 |
3steps |
4steps |
|
エッチング液による基板へのダメージ |
ダメージを与えない。 |
エッチング条件によりダメージを与えることがある。 |
|
難エッチング金属 |
エッチング不要であるため、加工が容易。 |
難エッチング金属加工が難しい。 |
|
加工精度 |
ミクロンレベルの微細加工に向いている。 |
ミクロンレベル〜ナノレベルまで。 |
リフトオフレジストの種類と選定ポイント
リフトオフ用レジストの分類(単層レジストと多層レジスト)
リフトオフプロセスで使用されるレジストは、アンダーカット構造の形成方法によって、主に単層レジストと多層レジストに分けられます。この構造の選択は、達成可能な解像度とプロセスの複雑さに直結します。
- 単層レジスト
単層レジストは、単一の感光性樹脂のみを使用します。現像後、レジストを加熱処理(ベーク)することで、レジストの表面を溶融・変形させ、アンダーカット構造を形成します。プロセスは比較的単純で安価に導入できますが、パターンが微細化したり、レジストの厚さに対する開口部の幅の比(アスペクト比)が高くなったりすると、熱流動によるアンダーカット形状の安定的な制御が難しくなります。 - 多層レジスト
多層レジストは、溶解速度が異なる複数のレジスト層(一般的に2層)を組み合わせて使用します。上層で微細なパターンを形成し、そのパターンをマスクとして、下層を横方向に素早く溶解させます。この溶解速度の差を利用することで、確実にオーバーハング形状、すなわちアンダーカットを形成します。高い解像度と、厚膜堆積に耐えうる安定したアンダーカット形状が求められる場合に有効です。
微細化が求められる分野において、単層レジストの熱流動によるアンダーカット形成は、狙った形状を安定的に再現することが極めて困難です。そのため、高精度なデバイスを製造する場合や歩留まりの安定化を優先する場合、初期コストが増加しても、構造的にアンダーカットを保証できる多層レジストへの移行が不可避な傾向にあります。
単層レジストと多層レジストの特性比較
|
構造 |
メリット |
デメリット |
|---|---|---|
|
単層レジスト |
プロセスが単純で安価、設備コストを抑えられる |
アンダーカットの制御が難しく、微細化に限界がある |
|
多層レジスト |
優れたアンダーカット形状を安定的に形成可能、高解像度 |
プロセスが複雑化、材料コストと工数が増加する |
段差部での断線・レジスト残渣を防ぐための対策
リフトオフの歩留まりを低下させる主要な要因は、レジスト残渣(剥離不良)と、段差部での薄膜の断線です。これらの課題は、プロセス後半で顕在化しますが、その根本原因はレジスト材料の特性と構造にあります。
- 段差部での断線対策
基板上に複雑な段差が存在する場合、レジスト膜を均一に塗布することが難しくなります。段差部分でレジスト膜が急激に薄くなったり、不連続になったりすると、その後の薄膜堆積時に断線が発生し、デバイスが機能しなくなります。これを防ぐためには、レジスト自体に高い「平坦化能力」(段差を埋めて表面を平らにする能力)が求められます。多層レジストを採用する場合は、特に下層材として高い平坦化能力を持つ材料を選定することが、段差上のパターン形成における信頼性向上に有効です。 - 残渣(剥離不良)対策
残渣は、アンダーカットが不十分なために、レジスト側壁に薄膜が繋がってしまうこと(専門的には「フェンス形成」と呼ばれます)や、剥離溶剤の性能不足が原因で発生します。このフェンス形成を防ぐには、多層レジストで確実なアンダーカット形状を維持することが必須です。また、剥離工程においては、剥離を促進するために溶剤温度を適切に管理したり、超音波洗浄を併用したりするなどの工夫が必要となります。
歩留まりを向上させるためには、プロセス条件の調整だけでなく、デバイスの複雑なトポグラフィ(段差構造)を考慮した高平坦化能力を持つレジスト材料を初期段階で選定することが、最も効果的で確実な対策となります。
まとめ
- リフトオフレジストは、エッチングが困難な貴金属などの材料に対して微細なパターンを形成する、半導体やMEMS製造において不可欠な技術。
- プロセス成功の鍵は、薄膜がレジスト側壁で繋がるのを防ぎ、剥離溶剤の浸透経路を確保する「アンダーカット構造」の安定的な形成にある。
- アンダーカットの安定性、高い解像度、厚膜形成が求められる場合、構造的にアンダーカットを保証する多層レジストの採用が有効である。
- 残渣や段差での断線といった歩留まりの課題は、高平坦化能力などデバイスのトポグラフィに適したレジスト材料を選定することで大幅に改善できる。
- 剥離溶剤は、NMPやGBLなどの規制物質からの切り替えが進んでおり、代替溶剤の採用に際しては、剥離性能と環境安全性のバランスを考慮したレジスト材料とのトータルでの評価が重要となる。
リフトオフレジストの
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