導電フィルムとは?種類や用途、選び方を分かりやすく解説

導電フィルムは、スマートフォンや自動車、各種電子機器など、私たちの身の回りにある多くの製品に欠かせない高機能材料です。しかし、その種類は多岐にわたり、「どのような基準で選べば良いのか分からない」と感じる方も少なくありません。特に製造業の現場では、製品の性能や品質を左右する重要な要素となるため、その特性を正しく理解することが求められます。

本記事では、導電フィルムの導入を検討されている製造業のご担当者様に向けて、その基本的な仕組みから主な種類、具体的な用途例、そして自社の目的に合ったフィルムを選ぶためのポイントまで、幅広くご紹介します。

導電フィルムとは?基本と役割

導電フィルムは、その名の通り「電気を通す性質(導電性)」を持たせたフィルム状の素材です。一般的なプラスチックフィルムは電気を通さない「絶縁体」ですが、これに特殊な加工を施すことで、様々な機能を発揮させることができます。

電気を流すフィルムの基本的な仕組み

導電フィルムは、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのベースとなるプラスチックフィルムに、導電性を持たせるための材料を混ぜ込むか、表面にコーティングすることで製造されます。

導電性のレベルを示す重要な指標が「表面抵抗値」です。これは電気の流れにくさを表す数値で、単位は「$Ω/sq$」や「$Ω/$」で示されます。この数値が小さいほど電気が流れやすく(導電性が高く)、大きいほど電気が流れにくい(導電性が低い)ことを意味します 。用途によって求められる表面抵抗値は大きく異なります。

なぜ製造現場で必要とされるのか

導電フィルムが製造現場で広く利用される理由は、大きく分けて二つの役割があるためです。一つは製品を静電気から守る「保護」の役割、もう一つは製品に新たな機能を与える「電子部品」としての役割です。この二つの役割は、求められる性能やコストが全く異なるため、どちらの目的でフィルムを使用するのかを最初に明確にすることが重要です。

1. 静電気対策(保護)としての役割

一般的なプラスチックは摩擦などによって静電気を帯びやすい性質(帯電)を持っています。この静電気が、製造現場では様々な問題を引き起こします。例えば、静電気によって空気中のホコリやゴミが製品に付着し、外観不良や性能低下の原因となります。さらに深刻なのは、ICや半導体のような精密な電子部品に対して、溜まった静電気が一気に放電(ESD:Electrostatic Discharge)することで、部品そのものを破壊してしまうケースです。

導電フィルムは、発生した静電気を速やかに逃がす通り道を作ることで、こうした静電気によるトラブルを防ぐ役割を担います。電子部品を保護するための包装材や、製造ラインで部品を運ぶためのキャリアテープなどに使用されます。

2. 機能的な電子部品としての役割

もう一つの役割は、フィルム自体が製品の機能の一部を担う、より能動的な使われ方です。代表的な例が、スマートフォンの画面に使われる「透明電極」です。画面に触れた指の位置を検知するためには、透明でありながら電気を通す電極が必要不可欠です。

その他にも、フィルムに電圧をかけることで発熱させ、カメラレンズの曇り止めとして利用する「透明ヒーター」や、外部からの電磁波を遮断して電子回路の誤作動を防ぐ「電磁波シールド」など、導電フィルムは新しい製品機能を実現するためのキーマテリアルとなっています。

導電フィルムの主な種類

導電フィルムは、その機能や使われる材料によって様々な種類に分類されます。ここではまず機能による分類を概観し、次に代表的な材料とその特徴について詳しく見ていきましょう。

機能による分類

透明導電フィルム(TCF)

透明導電フィルム(Transparent Conductive Film, TCF)は、光を透過する高い透明性と、電気を通す導電性を両立させたフィルムです。タッチパネルや液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、太陽電池など、光を通す必要がある部分の電極として、現代のエレクトロニクス製品に不可欠な存在です。

異方性導電フィルム(ACF)

 

異方性導電フィルム(Anisotropic Conductive Film, ACF)は、接着剤の中に導電性の微粒子を分散させた特殊なフィルムです。このフィルムを電子部品と基板の間に挟み、熱と圧力を加えることで、フィルムの厚み方向(一方向)にのみ電気が流れるようになります。一方で、水平方向には電気が流れないため、隣接する電極同士がショートすることはありません。

この特性を活かし、液晶ディスプレイのガラス基板と駆動用ICチップのように、非常に微細で間隔の狭い電極同士をまとめて接続する用途で広く使われています。はんだ付けが困難な微細配線の接続を実現する重要な材料です。

帯電防止・静電気対策フィルム

静電気の発生を抑制し、電子部品などを保護することを主目的としたフィルムです。導電性を持たせるためにカーボンブラックなどを練り込んだ黒色不透明なタイプや、導電性ポリマーをコーティングしたタイプなどがあります。

求められるのは、静電気を安全に逃がせる程度の導電性であり、透明性や極端に低い抵抗値よりも、保護機能とコストのバランスが重視されます。電子部品の包装袋や、クリーンルーム内での部材保護、製造工程で使われるキャリアテープなどに使用されます。

主要な材料とその特徴

導電フィルム、特に透明導電フィルムの性能は、使用される導電材料によって大きく左右されます。ここでは、長年の実績を持つITO(酸化インジウムスズ)と、その代替として注目される次世代材料について解説します。

ITO(酸化インジウムスズ)系

ITOは、酸化インジウムにスズを添加した無機材料で、透明導電膜の材料として最も広く利用されています。高い透明性と低い抵抗値(高い導電性)を両立できる優れた材料であり、長年にわたり液晶ディスプレイやタッチパネルの透明電極として市場を支えてきました。

しかし、ITOにはいくつかの課題も存在します。主原料であるインジウムが希少金属(レアメタル)であるため、資源枯渇のリスクや価格変動が懸念されます。また、材料の性質上、硬くてもろいため、折り曲げたり、大きく変形させたりすることができません。このため、近年急速に開発が進むフレキシブルディスプレイやウェアラブルデバイスへの応用には不向きという大きな制約があります。

ITO代替材料(次世代材料)

ITOが持つ課題、特に「柔軟性の欠如」と「資源リスク」を克服するため、様々な代替材料の研究開発が活発に進められています。これらの次世代材料の登場は、折り曲げ可能なスマートフォンや身に着ける電子機器といった、新しい製品の実現を後押ししています。

  • 銀ナノワイヤ(AgNW)
    銀ナ-ノワイヤは、直径がナノメートル(10億分の1メートル)単位の、非常に細い銀の繊維状材料です。この銀ナノワイヤをフィルム上に塗布し、網目(ネットワーク)状に形成することで、導電性を持たせます。ITOに匹敵する高い導電性を持ちながら、金属ならではのしなやかさにより、非常に優れた柔軟性(耐屈曲性)を発揮します。そのため、折り畳み式のディスプレイや、曲面を持つタッチセンサー、ウェアラブルデバイスなどへの応用が期待されています。ただし、材料の特性上、わずかな光の曇り(ヘイズ)が発生することがあり、用途によっては光学的な調整が必要になる場合があります。

  • カーボンナノチューブ(CNT)
    カーボンナノチューブは、炭素原子が六角形に組み合わさって筒状になったナノサイズの材料です。非常に高い機械的強度と優れた柔軟性、化学的な安定性を兼ね備えています。CNTもインクのように溶液としてフィルムに塗布できるため、ITOの製造で必要となる大掛かりな真空蒸着装置が不要となり、製造プロセスの簡素化やコストダウンに繋がる可能性があります。

  • 導電性高分子(PEDOT:PSS等)
    導電性高分子は、それ自体が電気を通す性質を持つ特殊なプラスチック(ポリマー)です。代表的な材料にPEDOT:PSS(ペドット・ピーエスエス)があります。この材料の最大の特長は、非常に高い柔軟性と透明性、そして印刷技術などを応用した簡便なウェットコーティングプロセスで成膜できる点です。銀ナノワイヤやCNTといった金属系・炭素系材料と比較すると導電性はやや劣りますが、帯電防止用途や、特定の透明電極、フレキシブルなセンサーなど、その特性を活かした分野で採用が進んでいます。

これらの材料の特性を理解するために、以下の比較表をご参照ください。この表は、どの材料がどのような用途に適しているかを判断する上での一助となります。例えば、最高の柔軟性が求められる製品であれば銀ナノワイヤやCNTが、コストと加工のしやすさを重視する帯電防止用途であれば導電性高分子が有力な候補となることが分かります。

材料の種類

主な特徴

導電性

透明性

柔軟性

コスト

ITO

高い透明性と導電性のバランスに優れる。長年の実績と信頼性。

×

銀ナノワイヤ (AgNW)

非常に高い導電性と優れた柔軟性。フレキシブルデバイスに最適。

カーボンナノチューブ (CNT)

優れた柔軟性と機械的強度、化学的安定性。

導電性高分子 (PEDOT:PSS)

非常に高い柔軟性とウェットプロセスへの適合性。

(評価:◎ 非常に優れる, 〇 優れる, △ 普通, × 劣る)

導電フィルムの主な用途例

導電フィルムは、その多様な特性を活かして、幅広い分野で活用されています。ここでは、具体的な製品や用途例をいくつかご紹介します。

ディスプレイ・タッチパネル

最も代表的な用途の一つが、スマートフォンやタブレット、カーナビゲーションシステムなどのディスプレイやタッチパネルです。透明導電フィルム(主にITO)が透明な電極として使用され、画面に触れた指の静電容量の変化を検知することで、タッチ操作を可能にしています。近年では、折り畳み式デバイスの登場に伴い、柔軟性に優れた銀ナノワイヤなどの採用も進んでいます。

静電気対策(電子部品の保護・搬送)

半導体チップやIC、プリント基板といった精密な電子部品は、わずかな静電気でも破壊されてしまう可能性があります。そのため、これらの部品を製造・保管・輸送する際には、静電気対策が施された包装材や容器が必須です。カーボンブラックを練り込んだ導電性フィルム製の袋や、導電性ポリマーをコーティングしたキャリアテープなどが、部品を静電気放電(ESD)から守るために広く使用されています。

透明ヒーター(車載・監視カメラ)

透明導電フィルムに電圧をかけると、ジュール熱によってフィルム全体が均一に発熱します。この原理を応用したのが透明ヒーターです。自動車のリアウィンドウやサイドミラーの曇り止め(デフォッガー)、寒冷地に設置される監視カメラやセンサーレンズの着雪・結露防止など、クリアな視界を確保する必要がある場面で活躍しています。

太陽電池

太陽電池は、太陽光のエネルギーを電気に変換するデバイスです。光を最大限に取り込むために、太陽光が当たる面には透明な電極が必要となります。透明導電フィルムは、光を透過させながら、発電によって生じた電気(電子)を効率的に集める電極としての役割を担っています。特に、カーボンナノチューブなどの柔軟な材料を用いたフィルムは、軽量で曲げられる次世代のフレキシブル太陽電池への応用が期待されています。

ウェアラブルデバイス・各種センサー

心拍数や体温などを計測するウェアラブルデバイスや、人の動きを検知するセンサーなど、身体や曲面に装着する製品が増えています。こうした用途では、デバイス自体が柔軟に変形する必要があるため、硬くてもろいITOは使用できません。代わりに、銀ナノワイヤやカーボンナノチューブ、導電性高分子といった柔軟性に優れた導電フィルムが、電極や配線として活用されています。

導電フィルム選定のポイント

自社の製品や目的に最適な導電フィルムを選定するためには、いくつかの重要なポイントを総合的に評価する必要があります。単一の性能だけでなく、製造プロセス全体を見据えた判断が求められます。

要求される電気特性(表面抵抗値)

最も基本的な選定基準は、用途に対して必要な電気特性、特に表面抵抗値を満たしているかという点です。例えば、静電気をゆっくり逃がす帯電防止用途であれば、比較的抵抗値が高くても問題ありません。しかし、タッチパネルの電極のように、微弱な電気信号を高速に伝達する必要がある場合は、抵抗値が低い(導電性が高い)材料が必須となります。まずは、自社のアプリケーションで求められる表面抵抗値の範囲を明確にすることが選定の第一歩です。

光学特性(透明性・ヘイズ値)

透明性が求められる用途では、光学的特性の評価が重要になります。具体的には、どれだけ光を通すかを示す「全光線透過率」と、光の曇り度合いを示す「ヘイズ値」の二つが主要な指標となります。高精細なディスプレイ用途では、透過率が高く、かつヘイズ値が低い、クリアな視認性を持つフィルムが求められます 。

機械的特性と耐久性(柔軟性・耐熱性)

製品の使用方法や製造工程を考慮し、必要な機械的特性や耐久性を見極めることも重要です。製品が折り曲げられる、あるいは曲面に貼り付けられる場合は、銀ナノワイヤやCNTのような高い柔軟性(耐屈曲性)を持つ材料を選定する必要があります。また、フィルムを貼り合わせるラミネート工程などで高温に晒される場合は、その温度に耐えられる耐熱性を持った材料でなければなりません。

使用環境や後加工との適合性

フィルムが実際に使用される環境も考慮に入れる必要があります。屋外で使用される製品であれば耐候性や耐湿性が、化学薬品に触れる可能性がある環境であれば耐薬品性が求められます。一部の導電性フィルムは、特定の有機溶剤によって性能が劣化する場合があるため、注意が必要です。さらに、フィルムに印刷や粘着加工といった後加工を施す場合は、それらのプロセスとの適合性も事前に確認しておく必要があります 。

コストと供給安定性

最終的には、コストも重要な選定要素となります。材料自体の価格だけでなく、製造プロセスに必要な設備投資や加工コストまで含めたトータルコストで比較検討することが賢明です。

例えば、ITOは真空スパッタリングという比較的大掛かりな設備を必要としますが、導電性高分子はロール・トゥ・ロール方式の印刷技術で安価に大量生産できる可能性があります 17。また、ITOの主原料であるインジウムのような希少金属に依存する材料は、将来的な供給リスクも考慮に入れておくとよいでしょう。

導電フィルム導入の基本的な流れ

実際に導電フィルムを自社製品に導入する際の、一般的なプロセスをご紹介します。

目的と要求仕様の明確化

まず、「何のために導電フィルムを使うのか」という目的を明確にします。静電気による不良対策なのか、タッチセンサーという新機能の追加なのか、目的によって選ぶべきフィルムは大きく異なります。その上で、「表面抵抗値は$100 Ω/sq$以下」「全光線透過率は90%以上」といった具体的な数値目標(要求仕様)を定義します。

材料・メーカーの選定とサンプル評価

定義した要求仕様に基づき、候補となる材料やメーカーを調査・選定します。メーカーからサンプルを取り寄せ、社内の設備で基本的な性能評価(抵抗値、透過率、密着性など)を行い、仕様を満たしているかを確認します。

試作と実機検証

サンプル評価で有望だったフィルムを使い、実際の製品と同じ形状の試作品を製作します。この試作品を、想定される使用環境下で動作させ、耐久性や信頼性を含めた総合的な性能を検証します。例えば、高温高湿環境での連続動作試験や、繰り返しの折り曲げ試験などを実施します。

量産化に向けたプロセス構築

試作品での検証をクリアしたら、量産化に向けた準備を進めます。フィルムメーカーと協力して安定的な供給体制を構築するとともに、自社の製造ラインにフィルムの貼り付けや加工といった工程を組み込み、品質管理基準などを定めていきます。

導電フィルムの特注製造「ダイクレア」のご紹介

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PEDOT/PSSを塗布した導電フィルム。抵抗率や耐溶剤性等カスタマイズ可能

ダイクレア(DAICREA)は、導電材料PEDOT/PSSを主原料とした独自の塗料を、プラスチックなどの基材に塗工して、導電・帯電防止性能を付与したフィルム・シートの総称です。薄膜ながら高い導電性と透明性を両立し、柔軟性にも優れるため、折り曲げや延伸加工にも対応可能です。

大日本パックェージ株式会社は、長年培ったグラビア印刷の塗工技術と、顧客の要望に応じて素材自体を配合する材料開発技術を掛け合わせ、お客様の課題解決に貢献します。

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