現代の製造業において、製品の品質を保証するためには表面的な検査だけでは不十分です。目に見えない内部の状態を正確に把握することが、製品の信頼性や競争力に直結します。断面観察は、こうした製品や材料の内部を可視化するための重要な技術です。
断面観察には、試料を加工して観察する手法から、製品を壊さずに内部を見る非破壊の手法まで、様々なアプローチが存在します。本記事では、製造業における断面観察の重要性から、具体的な手法、そして非破壊で観察するための装置の選び方まで、詳しく解説します。
断面観察とは、製品や材料を切断、研磨、あるいは非破壊的な手法を用いて、その断面を露出し、内部の構造や状態を詳細に調べる技術のことです。表面からではわからない情報を得ることで、品質管理の精度向上や、開発・設計段階での課題解決に役立てられます。
この技術は、単に欠陥を見つけるだけでなく、製品がなぜそのように作られているのか、あるいはなぜ故障したのかという根本原因を探るための、いわば製品内部との対話ともいえるプロセスです。
内部構造の観察 | 材料の特性は、その内部構造に大きく依存します。断面観察によって、金属の結晶構造や樹脂の相構造、複合材の繊維配向、めっきなどの層構造を直接確認できます。 |
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欠陥の検出 | 製品の信頼性を損なう内部欠陥、例えば鋳造品の巣(ボイド)や溶接部の亀裂(クラック)、樹脂成形品への異物混入などは、表面検査では発見が困難です。 |
接合部の評価 | 電子部品のはんだ接合や、金属の溶接、異種材料の接着など、製品の機能は多様な接合技術によって支えられています。 |
断面観察は、様々な産業分野で品質の維持・向上に貢献しています。観察される欠陥の種類や求める情報は、材料の特性や典型的な故障モードと深く結びついており、これが後述する観察手法の選定において重要な指針となります。
電子部品 | スマートフォンや自動車などに搭載される電子基板では、部品と基板を接続するはんだ接合部の品質が極めて重要です。温度変化の繰り返しによって発生する微細なクラックや、実装時に生じるボイド(気泡)は、導通不良の原因となります。 |
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金属材料 | 機械部品や構造物が破損した場合、その原因を究明するために破断面の観察(破面解析)が行われます。破断面に残された模様は、破壊に至った経緯を物語る重要な手がかりです。 |
樹脂成形品 | 自動車部品や家電製品の筐体などに広く使われる樹脂成形品では、成形プロセスに起因する内部のボイドやヒケ(収縮によるくぼみ)が問題となることがあります。これらの欠陥は、製品の強度を低下させるだけでなく、外観品質にも影響を与えます。 断面観察により、これらの欠陥の有無や分布を評価し、成形条件の最適化に役立てます。 |
断面観察には、大きく分けて「破壊検査」と「非破壊検査」の2つのアプローチがあります。どちらの手法を選択するかは、技術的な要求だけでなく、検査対象の価値や生産量、後工程への影響といったビジネス上の要因も考慮して決定されます。
破壊検査は、観察したい箇所を物理的に切断し、その断面を研磨することで観察面を作り出す、最も一般的な手法です。
まず、バンドソーや切断機を用いて試料を切り出し、観察しやすいように樹脂に埋め込みます(樹脂埋め)。その後、研磨紙や研磨剤を用いて、粗いものから細かいものへと段階的に断面を研磨し、鏡のように滑らかな「鏡面」に仕上げます。
この手法で重要なのは、試料作製の品質が観察結果の質を直接的に左右するという点です。切断や研磨の過程で、本来の組織が変質したり、新たな傷(アーティファクト)が生じたりすることがあります。特に高倍率での観察では、機械的な研磨で生じる微細な傷やダレが、本来観察したい構造を覆い隠してしまう可能性があります。
そのため、より精密な断面を作製する手法として、イオンビームを利用したクロスセクションポリッシャ(CP)加工や、微小領域をピンポイントで加工できる集束イオンビーム(FIB)加工なども用いられます。
観察には主に、金属組織の観察に適した「金属顕微鏡」や、より高倍率で微細な構造を観察できる「走査電子顕微鏡(SEM)」が使用されます。観察システムとは、単に顕微鏡だけでなく、適切な試料作製プロセスを含めたワークフロー全体を指すという認識が重要です。
非破壊検査は、その名の通り、製品や材料を破壊することなく、X線や超音波などを利用して内部の状態を可視化する技術です。
この手法の最大の利点は、検査後も製品をそのまま使用できる点にあります。これにより、高価な製品や一点ものの試作品を傷つけることなく内部を評価したり、量産ラインにおいて全数検査を実施したりすることが可能になります。
また、橋梁やプラント設備のように、すでに稼働している構造物の健全性を評価する場合、非破壊検査は唯一の選択肢となります。
非破壊での断面観察は、品質保証のあり方を統計的な抜き取り検査から、より信頼性の高い全数検査へと進化させる可能性を秘めており、特に安全性や信頼性が厳しく問われる航空宇宙や医療分野でその重要性を増しています。
非破壊で内部を観察する技術には様々なものがありますが、ここでは製造業で広く利用される代表的な4つの手法について、その原理と特徴を比較します。
これらの技術を選択する上で最も重要なのは、「分解能(どれだけ細かく見えるか)」と「観察深度(どれだけ深く見えるか)」の間に、物理的な原理に基づくトレードオフの関係が存在することを理解することです。
一般的に、分解能が高い手法は観察深度が浅く、深く観察できる手法は分解能が低くなる傾向があります。
共焦点レーザー顕微鏡は、光源にレーザーを用いた光学顕微鏡の一種です。
対物レンズを通して試料上の一点にレーザー光を集光させ、その点から反射した光だけを検出器に導きます。このとき、「ピンホール」と呼ばれる小さな穴を検出器の直前に置くことで、焦点が合っていない位置からの余分な光(迷光)を遮断します。この仕組みにより、物理的に切断することなく、まるでスライスしたかのような鮮明な断面画像(光学的断面像)を得ることができます。
レーザーを走査しながら各点の高さを測定することで、表面の微細な凹凸をナノメートルレベルの精度で捉え、高精細な3D画像を構築することも可能です。
原理 | レーザー光とピンホールを利用した光学切断 |
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主な観察対象 | 表面形状、透明・半透明体の内部など |
分解能 | 高(サブミクロン) |
観察深度 | 浅い(表面〜数十μm) |
メリット | サブミクロンオーダーの高い分解能とコントラストが得られる。非接触で測定できるため試料を傷つけない。 |
デメリット | 光を用いるため、観察できるのは試料の表面からごく浅い領域(数μm〜数十μm)に限られる。金属のような不透明な材料の内部を透過して観察することはできない。 |
概算価格帯 | 高価(数千万円〜) |
光干渉断層計(OCT: Optical Coherence Tomography)は、光の干渉現象を利用して、非破壊で物体の内部を画像化する技術です。
光源からの光(低コヒーレンス光)を2つに分け、一方は参照ミラーへ、もう一方は測定対象物へ照射します。対象物内部の異なる層で反射してきた光と、参照ミラーからの光を再び合成した際に生じる「干渉縞」を解析することで、深さ方向の構造をμmレベルの分解能で測定します。
超音波検査が音の反射を利用するのに対し、OCTは光の反射を利用するため「光のエコー」とも呼ばれます。共焦点顕微鏡よりも深く、超音波よりも高い分解能で観察できる、両者の中間的な位置づけの技術です。
原理 | 光の干渉を利用 |
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主な観察対象 | 半透明体の内部、多層フィルムなど |
分解能 | 非常に高い(数μm) |
観察深度 | 浅い(表面〜数十μm) |
メリット | 測定スピードが非常に速く、リアルタイムでの断層観察が可能。分解能も数μmと高く、非接触で測定できる。 |
デメリット | 光が透過しない不透明な材料の内部は観察不可。観察深度は半透明な材料でも数mm程度と、超音波やX線に比べて浅い。 |
概算価格帯 | 中〜高価(数百万円〜) |
超音波探傷は、人間の耳には聞こえない高い周波数の音波(超音波)を材料内部に送り込み、その反射波(エコー)を捉えることで内部の状態を調べる手法です。
超音波は、材料の内部を進み、亀裂や気泡(ボイド)といった欠陥や、材質が異なる境界面に当たると反射する性質があります。このエコーが返ってくるまでの時間から欠陥の位置(深さ)を、エコーの大きさから欠陥のサイズを推定します。
特に、空気層との境界面では超音波がほぼ100%反射するため、内部の空隙や剥離の検出に非常に優れています。
原理 | 超音波の反射を利用 |
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主な観察対象 | 金属・樹脂などの内部欠陥(ボイド、クラック)など |
分解能 | 中(数十μm〜) |
観察深度 | 深い(数mm〜数m) |
メリット | 金属や樹脂など、様々な材料の内部深くまで検査可能。放射線を使用しないため安全性が高く、装置も比較的小型で取り扱い。 |
デメリット | 超音波を効率よく材料に伝えるため、水や専用のジェルなど接触媒質が必要。分解能は光を利用する手法に比べて低く、複雑な形状の製品の検査は難しい場合がある。 |
概算価格帯 | 安価〜高価(数万円〜数百万円) |
X線検査は、対象物にX線を照射し、透過したX線の強弱を画像として捉える技術です。
骨のレントゲン写真と同様に、材質の密度によってX線の透過しやすさが異なることを利用します。密度の高い部分はX線を吸収しやすく白く写り、密度の低い部分(空洞など)はX線が透過しやすいため黒く写ります。
X線CT(Computed Tomography)は、このX線透過像を360度あらゆる角度から撮影し、コンピュータで再構成することで、対象物を破壊することなく内部の3次元構造を精密に可視化する技術です。
原理 | X線の透過・吸収差を利用 |
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主な観察対象 | 内部構造、異物、欠陥など |
分解能 | 中〜高(数μm〜) |
観察深度 | 深い(対象物による) |
メリット | 複雑な形状の製品でも内部の構造や部品の実装状態を3次元で正確に把握できる。金属のような高密度の材料も高エネルギーのX線を用いれば透過観察が可能。 |
デメリット | 放射線を使用するため、法令に基づく厳重な安全管理と資格者による取扱が必要。超音波とは対照的に、X線ビームと平行な向きの亀裂や、空気層(ボイドなど)はX線の吸収差が小さく、検出しにくい場合がある。 |
概算価格帯 | 中〜高価(数百万円〜数億円) |
これらの技術は、単に優劣を競うものではなく、それぞれが得意とする領域が異なります。例えば、複合材料(CFRP)の品質評価において、層間の剥離(空気層)を検出するには超音波が最適ですが、内部の炭素繊維の配向を3次元で観察するにはX線CTが適しています。
このように、解決したい課題に応じて複数の技術を補完的に利用する視点も重要です。
自社の課題解決に最適な断面観察装置を選定するためには、いくつかの重要なポイントを整理する必要があります。以下に挙げる項目を順に検討することで、選択肢を効果的に絞り込むことができます。
まず最初に確認すべきは、何を観察したいのか、その材質と状態です。
光の透過性 | 観察対象がガラスや半透明の樹脂であれば、光を用いる共焦点レーザー顕微鏡やOCTが選択肢になります。 |
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材質 | 材料によって、適した手法は異なります。例えば、金属内部の微細な割れを探すなら超音波探傷が有効ですが、樹脂成形品内部のガラス繊維の分布を見たい場合はX線CTが適している、といった具合です。 |
次に、観察したい対象がどのくらいの深さにあり、どの程度の細かさで見る必要があるかを明確にします。これは前述の「分解能と観察深度のトレードオフ」に直結する最も重要な選択基準です。
深度と構造 | めっき層の厚みや、半導体表面の微細な凹凸など、表面から数十μm程度の深さをサブミクロン単位で見たいのであれば、共焦点レーザー顕微鏡が第一候補となります。 |
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深度と大きさ | 鋳物の内部数cmの深さにある数mm程度の「巣」を見つけたいのであれば、深いところまで届く超音波探傷器やX線CTが適しています。 |
技術的な側面だけでなく、運用の観点から破壊検査が許容できるかも重要な判断基準です。
試作品や故障品の解析 | 一点ものの解析であれば、破壊して詳細に観察する方が多くの情報を得られる場合があります。この場合は、SEMなどを用いた破壊検査が有効です。 |
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量産品の品質管理 | 製造ラインで流れる製品を検査する場合、破壊はできません。この場合は非破壊検査が必須となります。全数検査が必要か、抜き取り検査で十分かによっても、求められる測定スピードが変わってきます。 |
最後に、予算や検査にかけられる時間といった実用的な側面を考慮します。一般的に、得られる情報の次元(2Dか3Dか)や精度が高くなるほど、装置は高価になり、測定に時間がかかる傾向があります。
求めるデータの精度 | 例えば、超音波厚さ計は比較的安価ですが、得られるのは一点の厚み情報のみです。一方、X線CTは内部構造を3次元で完全にデータ化できますが、装置は高価で、1回の撮影にも数分から数時間かかることがあります。 |
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システムズエンジニアリングは、眼科で発展したOCT技術を他の医療分野へ広げ、さらに工業製品の評価や検査にも活用できる新たな技術を導入・開発してきました。まさにOCTの進化とともに歩んでいます。
新しい技術を誰もが使いやすく提供することが私たちの使命です。目視できない内部構造を、光を使って分解も切断もせず可視化し、より詳細な情報をご提供します。
常に世界の新しい技術に目を向け、皆様の研究、開発、生産・品質管理がより良いものとなりますよう、システムズエンジニアリングは進み続けます。
システムズエンジニアリングのOCTシステムについて詳しく見る
本記事では、断面観察について、以下のポイントを中心に解説しました。
断面観察は、目に見えない品質を保証し、製品の競争力を高めるための重要な手段です。この記事が、貴社の課題解決に最適な断面観察手法や装置を選定する一助となれば幸いです。