OCT(Optical Coherence Tomography:光干渉断層撮影)は、近年、医療研究分野において不可欠なイメージングツールとして注目を集めています。非侵襲的かつ高解像度で生体組織の断面画像をリアルタイムに取得できるという特性から、眼科領域でのゴールドスタンダードとしての地位を確立するだけでなく、さまざまな分野の医療研究目的や基礎生物学研究など、その応用範囲は広がり続けています。
本記事では、OCTの基本原理から測定方式別の種類、そして最適なOCTシステムの選び方まで詳しく解説します。
OCTは、光の干渉現象を利用して、測定対象物の内部構造を非破壊・非接触で画像化する技術です。超音波診断に似ていますが、音波の代わりに近赤外光を使用する点が特徴です。特に、生体組織の微細な構造をミクロンレベルで詳細に観察することができます。
OCT(光干渉断層撮影)は、低コヒーレンス光を用いたマイケルソン干渉計の原理に基づき、対象物内部の断面像を生成する技術です。低コヒーレンス光とは、時間的・空間的な干渉性が低く、波長幅が広いため干渉が生じる距離が非常に短い光を指します。
OCTでは、この低コヒーレンス光を測定対象に照射し、対象からの反射光と装置内の参照光を合波させます。そして両者の光が干渉することで得られる信号を検出・解析し、深さ方向の屈折率の変化を基に内部構造を再構築します。
組織内での透過性を高めるために0.8〜1.4μmの広帯域赤外光を使用し、生体組織内の屈折率境界で生じる反射を高精度に捉える干渉イメージング技術として活用されています。
OCTは、その独自の原理から、以下の特徴とメリットがあります。
高解像度 | 数ミクロンレベルの精度で組織構造を描写でき、非常に細かい構造の観察が可能です。 網膜が複数の薄い層で構成されていることを初めて明らかにするなど、従来の切片を用いた病理検査では得られなかった知見がもたらされました。 |
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非侵襲・非接触 | 光を使用するため、人体や生体サンプルに負担をかけず、繰り返し測定を行うことができます。 X線のような被ばくの心配もありません。 |
リアルタイム観察 | 高速な画像取得が可能であり、生体内の動的な変化をリアルタイムで観察するのに適しています。 |
3次元 | 断面画像を連続的に取得することで、対象物の3次元構造を再構築し、立体的に可視化できます。 |
一方で、OCTにはいくつかの制約も存在します。光の透過性が低い組織や血液のような強い散乱を持つ媒体では、画像の深部まで詳細に観察することが難しい場合があります。また、測定深度が数ミリメートル程度と比較的浅いという制限があります。
超音波画像診断 | 音波を利用し、より深い組織の内部を描写できますが、OCTよりも解像度が低くなります。 |
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磁気共鳴画像 | 優れた組織コントラストと深部描写能力を持ちますが、撮影時間が長く、リアルタイム性に劣ります。 |
共焦点レーザー | OCTよりも高い分解能を持つ場合がありますが、測定深度が非常に浅いという特徴があります。 |
OCTは、その非侵襲性と高解像度という特徴から、ライフサイエンス分野の様々な研究・診断・開発・評価のステージで活用されています。
OCTは、生体組織の微細構造を非侵襲かつ高解像度で取得できる特性を活かし、眼科・皮膚科・循環器・歯科・消化器など幅広い領域において、病態解析や治療効果の経時的評価を目的とした臨床研究に広く活用されています。
眼科 | OCTは網膜の断面像をミクロンレベルで繰り返し取得できるため、加齢黄斑変性、黄斑円孔、網膜浮腫などの疾患における構造変化の解析に有効です。 緑内障においても治療介入後の網膜神経線維層の厚み変化や経時的な進行度評価など、臨床研究データの取得に活用されています。 |
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皮膚科 | 皮膚の層構造を非侵襲的に観察できることから、皮膚がん、湿疹、乾癬などの病変における深さや広がりの定量化、経時的変化の解析に活用されます。 病態進展や治療反応性を評価する臨床研究において、非侵襲で繰り返し測定できる手法として注目されています。 |
循環器内科 | 毛細血管系を高解像度で立体的に可視化でき、血液細胞からの後方散乱光を利用することで造影剤を用いずに血管構造を描出可能です。 血栓形成や石灰化の進展度を非侵襲的に追跡する研究において重要なデータを提供します。 |
歯科 | 歯質や歯肉の微細構造を非被ばくで観察できることから、初期の齲蝕や歯の微細な亀裂、修復材料の界面状態などを研究対象とする臨床研究での利用が進んでいます。 繰り返し観察できることから、長期的な経過解析にも適しています。 |
消化器・ | 食道や気管支、大腸などの粘膜構造を高解像度で取得できるため、腫瘍の発生過程や早期病変の形態変化を追跡する臨床研究に活用が検討されています。 |
臨床応用だけでなく、基礎的な生命現象の解明や新規治療法の開発においてもOCTは重要な役割を担っています。
脳科学・ | マウスやラットの脳のイメージングにおいて、神経細胞や毛細血管の微細構造を非破壊で観察し、脳組織中の情報伝達メカニズムの解明に貢献する試みが続けられています。 |
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発生生物学 | 動物モデル(メダカ、ゼブラフィッシュなど)の生体内イメージングを通じて、生体中の器官の発生や機能変化に関する知見を得るために利用されます。 非侵襲性のため、動物が成体になるまでの過程を追跡観察できます。 |
バイオフィルム研究 | 給水系統などで形成されるバイオフィルムの形態モニタリングに注目が集まっています。 非破壊で3次元情報を取得できるため、その形成プロセスや除去方法の理解に役立ちます。 |
組織弾性評価 | 生体組織の弾性を定量化し、印加応力に対する局所的な組織の変位を測定する光コヒーレンスエラストグラフィにも応用されています。 |
医療・バイオ分野以外でも、OCTは幅広い分野でその特性を活かしています。
化粧品・ | 皮膚の内部構造を非破壊で高速に観察できるため、化粧品の浸透評価や貼付剤の効果検証などに活用されます。 |
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工業・材料評価 | 薄膜の膜厚測定、微細なキズや粒子の検出、形状パラメータの評価・制御、複合材料の検査、3Dプリント製品の評価など、生産ライフサイクルのあらゆる段階で活用されます。 |
OCTは眼科で診断の標準的なツールとして広く普及していますが、その活用の範囲は皮膚科、循環器、歯科、脳科学、発生生物学、さらには化粧品開発や工業分野へと大きく広がっています。これは、OCTが特定の臓器に特化した診断装置に留まらず、その汎用性の高い高解像度・非侵襲イメージング能力が、多様な研究ニーズに応える強力なツールとして認識されつつあることを示しています。
OCTの非侵襲性・非破壊性は、生体内(in vivo)での研究において極めて重要な特長です。同一の生体サンプルや動物モデルに対して繰り返し測定が行えるため、疾患の進行や治療反応、発生過程を長期的に追跡することが可能になります。これにより、動的な生体プロセスの解明や、生理学的関連性の高いデータの収集が実現します。
OCTシステムは、その測定方式によって分類されます。それぞれの方式には異なる特性と適した用途があり、研究目的によって適切な選択が求められます。数値は一般的な目安であり、装置やモデルによって変動します。
主な特徴 | 波長掃引レーザーを使用し、より深部まで高速に取得可能。動きに強い。 |
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分解能 (軸方向) | 約3〜10 μm |
測定深度 | 深い(数mm) |
スキャン速度 | 非常に高速 |
主な用途 | 眼科、循環器、深部組織観察 |
SD-OCTは、スペクトル領域で干渉信号を検出する方式です。高解像度な画像取得に適しており、生体組織の観察や工業材料評価など幅広い用途で利用されます。光学系がシンプルで小型化しやすい設計のため、原理的に可動部が少なく、小型化・コンパクト設計に適したOCT方式で、既存の顕微鏡へのアドオン(追加)も検討できます。
生体組織のモニタリング(皮膚、歯、小動物の網膜・角膜)、樹脂中の異物・ボイド観察、樹脂融着状態の解析、金属表面の傷探索・深さ計測など、多様な研究・評価に活用されます。
主な特徴 | 分光器とラインセンサーを使う方式。高感度で小型化しやすい。 |
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分解能 (軸方向) | 数μm |
測定深度 | 中程度(数mm) |
スキャン速度 | 高速 |
主な用途 | 生体組織、工業材料評価、研究全般 |
FF-OCTは、全視野(フルフィールド)で画像を一度に取得する方式です。顕微鏡に匹敵する超高分解能が最大の強みで、断片化や染色などの前処理が不要で断層画像を撮像できます。高速性(30断層画像/秒)により、動く物体の測定や生体組織のリアルタイム観察に適しています。
細胞レベルでの微細構造観察、眼の組織(角膜疾患など)の精密なイメージング、発生生物学研究など、最高レベルの解像度が求められる分野で活用が期待されます。
主な特徴 | 面全体を同時照射・検出し、高解像度の断層画像を取得。 |
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分解能 (軸方向) | 約1〜5 μm(高性能モデルで約1〜2 μm) |
測定深度 | 浅い(数mm) |
スキャン速度 | 撮影範囲全体を一度に取得 |
主な用途 | 細胞レベル観察、微細構造解析 |
LC-OCT(Line-field Confocal OCT)は、ラインフィールド共焦点方式を組み合わせたOCTです。皮膚用に開発された生体内(in-vivo)タイプの高分解能システムです。高解像度のイメージングによって、皮膚の内部構造(真皮の深さまで)を非破壊でスピーディーに観測できます。
皮膚科の研究、貼付剤開発、化粧品開発など、皮膚の微細構造解析が必須となる分野で活用されます。
主な特徴 | 線状に照射し、高解像度と測定速度のバランスを実現。 |
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分解能 (軸方向) | Single-cellレベル |
測定深度 | 浅い(約1〜2 mm、生体組織観察向け) |
スキャン速度 | 高速 |
主な用途 | 皮膚科研究、化粧品・貼付剤開発 |
各OCT方式にはそれぞれ特徴があり、SS-OCTは「超高速・高深達度」に優れる一方で、FF-OCTやLC-OCTは「超高分解能」に特化しています。SD-OCTは「高解像度」と「高速撮影」のバランス型といえます。ただし、これらの性能はモデルや設計によってバランスが異なる点に注意が必要です。
このことは、OCTシステムにおいてスキャン速度、測定深度、そして分解能(軸方向・横方向)の間に多くの場合相互作用が存在することを示しています。つまり、すべての性能を同時に最大化するのは難しく、研究者は自身の研究で最も重視する要素を明確にする必要があります。
最適なOCTシステムを選ぶためには、多角的な視点から検討することが重要です。ここでは、医療研究向けOCTを選定する際に考慮すべき主要なポイントを詳しく解説します。
OCTシステムを選定する上で最も重要なのは、何を、どのように観察・測定したいのかを明確にすることです。
生体組織の種類 | 眼、皮膚、脳、血管、歯など、測定したい組織の種類によって、最適なOCTの波長帯域、分解能、測定深度が異なります。 |
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生体内(in-vivo)・ | 生体内でリアルタイムに観察する生体内研究なのか、培養細胞や摘出組織を観察する生体外研究なのかによって、装置の形態(プローブ型、卓上型)、非侵襲性の要件、スキャン速度の重要性が変わります。 |
研究ステージ | 基礎研究、前臨床開発、臨床研究、品質評価など、研究のどのステージでOCTを使用するのかによって、求められる機能(定量解析、自動化、データ連携など)やコストの許容範囲が異なります。 |
OCTの解像度は、軸方向(深さ方向)と横方向(XY平面方向)の2つの要素で評価されます。
軸方向分解能 | 光源の中心波長と帯域幅、そして試料の屈折率に影響されます。 一般的に、光源の帯域幅が広いほど軸方向分解能は向上しますが、イメージング深度とは反比例の関係にあります。 |
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横方向分解能 | プローブのレンズ特性と開口数(NA: Numerical Aperture、光を集める能力を示す指標)によって主に決まります。 NAが大きいほど横方向分解能は向上しますが、焦点深度が短くなるという互いに影響し合う関係にあります。 |
研究ニーズとの | 細胞レベルの微細構造を観察したい場合はFF-OCTのような高い分解能を持つシステムが適しています。 一方で、より広い範囲の組織全体像を把握したい場合は、分解能よりも測定深度やスキャン速度が優先されることもあります。 |
スキャン速度と測定深度は、特に生体内研究において、取得できるデータの質と量に大きく影響します。
スキャン速度 | Aスキャンの速度(深さ方向の走査スピード)が速いと、Bスキャン(断面画像)や3Dボリューム(3次元画像)を短時間で取得でき、生体の動きによる画像の乱れ(アーチファクト)を抑えることができます。 ただし、Aスキャンを高速化すると感度が下がる傾向があり、両者は互いに影響し合う関係にあります。 |
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測定深度 | OCTの測定深度は主に光の吸収や散乱によって制限されます。 特にフーリエドメインOCT(FD-OCT:干渉信号を周波数領域で解析する方式)では、ナイキスト定理に基づくサンプリング間隔も影響し、データの取得間隔が細かいほどより深い領域まで測定できます。一般的なOCTの測定深度はおよそ数ミリメートル程度です。 |
研究ニーズとの | 心拍動や呼吸など、動きのある生体組織を観察する場合は、SS-OCTのような超高速システムが適しています。 深部の組織を観察したい場合は、深達度の高いシステムを選ぶ必要があります。 |
OCTを選定する際、分解能・スキャン速度・測定深度といった性能指標は独立したものではなく、相互に影響し合う関係があります。たとえば、高い横方向分解能を追求すると焦点深度が短くなり、高速なスキャンレートは感度の低下を招く可能性があります。また、高分解能と深部イメージングの両立は容易ではありません。
これらの関係は装置の設計や用途によって影響の度合いが異なるため、研究者は「すべてにおいて最高の性能」を求めるのではなく、自身の研究において「最も優先すべき要素」を明確にし、その優先順位に基づいて最適なバランスを備えたシステムを選ぶことが重要です。
OCTの性能は、使用する光源の波長帯域とプローブの特性に大きく依存します。
光源の波長帯域 | 測定対象物の光の吸収と散乱特性を考慮して選択します。一般的に、波長が長いほど水の吸収は大きくなり、散乱は小さくなります。組織への浸透が最適な800nm〜1400nmの近赤外光が広く用いられます。 |
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プローブ | 横方向分解能や焦点深度に影響を与えるレンズ特性のほか、遠隔測定が必要な場合は長尺ファイバーの有無も確認しましょう。 研究室での卓上利用か、現場でのハンディ利用かによっても、プローブの選択は変わります。 |
光検出器 | 対象物からの反射光が微弱な場合があるため、波長帯域だけでなく、受光感度が高い検出器を選ぶことも重要です。 |
OCTシステムは、画像取得だけでなく、取得したデータをどのように解析・活用できるかが研究の効率と成果に直結します。
画像表示モード | En-face(平面撮像)、En-coupe(断層撮像)、3D画像モードなど、目的に応じた表示モードの切り替えが必要か、またそれが可能なモデルかどうかを確認しましょう。 |
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定量解析機能 | 測定した画像から、組織の厚さ、体積、血管密度などを定量的に解析できる機能は、研究の客観性を高める上で重要です。 |
データ連携・ | 取得したOCT画像データや関連する臨床情報(視力、眼圧、視野検査結果など)を、他の解析ソフトウェアやデータベースと連携できるか、個人を特定できない形でエクスポートできるかを確認しましょう。 |
AI・深層学習との | 近年、OCT画像データを用いた深層学習による診断プログラムや視機能推測プログラムの開発が進められています。 将来的な研究の発展を見据え、AI解析への対応も検討材料となります。 |
OCT画像データは、深層学習やAIプログラムの開発に活用されており、特に眼科や皮膚科を中心に、診断支援や予測モデル構築に向けた研究が進んでいます。
これは、OCTが単なるイメージング装置にとどまらず、将来的に医療研究における重要なデータソースとしての役割を担うことを示しています。
研究環境や将来のニーズに合わせて、システムの構成や拡張性も考慮しましょう。
設置スペースと | 設置場所や持ち運びの必要性に応じたサイズ・形状を選びましょう。 |
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既存機器との | 既設の顕微鏡にOCTシステムをアドオンできるモデルもあります。既存の研究設備を有効活用できるかどうかも、選定のポイントです。 |
カスタム対応 | 特定の研究に特化した測定治具やファイバー長、個別のソフトウェア開発など、特注仕様に対応できるかどうかも重要な要素です。 |
OCTシステムは高価な投資となるため、導入コストと長期的な運用コストの両面から検討が必要です。
装置本体価格 | OCTシステムの価格は、機能や性能によって大きく異なります。 |
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維持費用 | 消耗品、メンテナンス、ソフトウェアのアップデート費用なども考慮に入れましょう。 |
サポート体制 | 導入後の技術サポート、保守サービス、運用支援が充実しているかどうかも、長期的な研究活動の継続には不可欠です。 |
システムズエンジニアリングは、眼科で発展したOCT技術を他の医療分野へ広げ、さらに工業製品の評価や検査にも活用できる新たな技術を導入・開発してきました。まさにOCTの進化とともに歩んでいます。
新しい技術を誰もが使いやすく提供することが私たちの使命です。目視できない内部構造を、光を使って分解も切断もせず可視化し、より詳細な情報をご提供します。
常に世界の新しい技術に目を向け、皆様の研究、開発、生産・品質管理がより良いものとなりますよう、システムズエンジニアリングは進み続けます。
システムズエンジニアリングのOCTシステムについて詳しく見る
本記事では、OCTの種類と選び方について、以下のポイントを中心に解説しました。
目に見えない微細構造の把握は、医療研究の精度と信頼性を高める基盤となります。本記事が、研究目的に最適なOCTの種類や装置を選定する際の指針となれば幸いです。