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精密板金加工とは?主な工程やメーカー選定のポイントを解説

電子機器や医療機器、半導体製造装置など、現代の高度な産業を支える製品には、極めて高い精度で製造された金属部品が不可欠です。精密板金加工は、そうした要求に応えるための重要な金属加工技術です。本記事は、企業の開発・設計担当者や製造・生産技術担当者の方々を対象に、精密板金加工の概要から一般的な板金加工との違い、具体的な加工工程、主な用途、そして信頼できるメーカーを選定するためのポイントまで、幅広くご紹介します。

精密板金加工とは

精密板金加工は、金属の板材に高精度な加工を施し、複雑な形状の部品や製品を製作する技術です。まずは、その定義と一般的な板金加工との違いについてご紹介します。

高い寸法精度が求められる金属加工技術

精密板金加工とは、金属の板材に対して切断、曲げ、溶接といった加工を行い、製品を仕上げる技術の中でも、特に「寸法精度」「形状精度」「表面品質」を高いレベルで追求する分野を指します。一般的な板金加工が主に「形状を作ること」に重点を置くのに対し、精密板金加工では、図面に指示された寸法通りに、いかに誤差なく仕上げるかが最も重要視されます。

その精度要求は具体的な数値で定義されることが多く、例えば曲げ加工では±0.1mmから±0.2mm、パンチング(抜き加工)では±0.05mm以下といった、非常に厳しい寸法公差(許容される誤差の範囲)を満たす必要があります。

なお、「精密」という言葉は、必ずしも小さな部品の加工のみを指すわけではなく、製品の大きさに関わらず、加工そのものの精度が高いことを意味します。

一般的な板金加工との違い

精密板金加工は、建築物の屋根や外壁を扱う「建築板金」や、自動車のボディ修理を行う「自動車板金」とは異なる分野です。高い加工精度が求められるうえ、薄板や複雑な形状の材料を扱う点が精密板金加工の特徴です。

また、高精度な部品を製造する「プレス板金」とも、生産方法やコスト構造の面で大きな違いがあります。プレス板金は、専用金型を使って大量生産するのに適しており、初期投資は大きいものの、大ロットでの低コスト化が可能です。一方、精密板金加工は汎用的な金型や工具を活用し、金型の製作を省けるため、試作や小~中ロット生産に最適です。

特徴

精密板金加工

一般的な板金加工

寸法公差

曲げ: ±0.1~0.2mm
抜き: ±0.05mm以下

±0.5~2.0mm

主な板厚

0.1mm~3.0mm(薄板)

1.0mm~10mm(中厚板)

使用材料

鉄、ステンレスに加え、アルミニウム、銅、真鍮、バネ材など多岐にわたる

主に鉄、ステンレス

形状の複雑さ

複雑で繊細な形状、微細な穴や溝などに対応

比較的シンプルな形状、耐久性重視

コスト構造

初期費用(金型代)が安いが、加工費は比較的高め

プレス加工の場合、初期費用(専用金型)が高いが、量産時の単価は安い

得意なロット数

試作品、小~中ロット

中~大ロット

精密板金加工の工程と使用機材

精密板金加工は、一枚の金属板がCADデータから最終製品へと姿を変えるまで、様々な工程を経て行われます。ここでは、その基本的な流れと、各工程で使用される主要な機械設備について解説します。

設計・図面展開

顧客から提供される2D図面や3Dモデルを、CAD/CAMソフトウェア(設計と製造をコンピューターで支援するシステム)を用いて、立体的な製品形状を一枚の平らな板に展開した「展開図」を作成します。この際、使用する金属の材質、板厚、曲げ加工によって生じる伸び縮みを正確に計算に入れることが、最終的な製品の寸法精度を保証する上で極めて重要です。

抜き加工(ブランク加工)

展開図のデータに基づき、金属の板材(シート材)から製品の平面形状を切り出す工程です。「ブランク加工」とも呼ばれます。主に以下の機械が使用されます。

レーザー加工機 強力なレーザー光を照射して金属を溶融・切断する機械です。プログラム制御により、直線だけでなく複雑な曲線や微細な形状も自由に切り抜くことができ、精密板金加工の中核を担います。近年は、加工速度と精度に優れたファイバーレーザーが主流です。
タレットパンチプレス 「タレパン」とも呼ばれます。円盤状のホルダー(タレット)に多数の金型(パンチとダイ)を格納し、プログラムに従って高速で板材を打ち抜いていく機械です。円や四角といった標準的な形状の穴を多数あける場合に、レーザー加工機よりも高速かつ低コストで加工できます。
NCTレーザー複合機 レーザー加工とタレパン加工の機能を一台に集約した複合機です。複雑な輪郭の切り出しと多数の穴あけが混在する部品を、一台で効率良く加工できるため、工程間の移動がなくなり、生産性と精度の向上に貢献します。

曲げ加工

抜き加工で切り出された平面状の部品(ブランク)を、プレスブレーキ(ベンダーとも呼ばれる)という機械を使って立体的に成形する工程です。プレスブレーキは、上部に「パンチ」と呼ばれる刃物状の金型、下部に「ダイ」と呼ばれるV字の溝を持つ金型が取り付けられており、パンチを下降させて板材をダイに押し込むことで、正確な角度に曲げます。この工程では、金属が元に戻ろうとする力(スプリングバック)を予測し、それを織り込んだ加工条件の設定が求められます。

溶接・接合加工

複数の部品を組み合わせて一つの製品を作り上げる際に、部品同士を接合する工程です。

溶接機 材質や板厚、求められる仕上がりに応じて、様々な溶接方法が使い分けられます。ステンレスやアルミの精密な接合には、仕上がりが美しく高品質な「TIG溶接」が用いられることが多く、鉄材には効率の良い「CO2/MAG溶接」が一般的です。また、薄板の点付けには「スポット溶接」が用いられます。
その他の接合 熱による歪みを避けたい場合や、アルミのように溶接が難しい材質の場合には、リベットやカシメ(圧入ナットなど)、ねじ止めといった機械的な接合方法も選択されます。

仕上げ・表面処理

製品の機能性と外観品質を最終的に高める工程です。

バリ取り 抜き加工や切断の際に発生する、金属の鋭い突起(バリ)を除去する作業です。製品の安全性を確保し、組み立て時の精度を保証するために不可欠な工程です。
仕上げ 溶接によってできた跡(ビード)を研磨機で削り、滑らかに仕上げます。
表面処理 製品に塗装やめっきなどを施し、錆や腐食を防ぐ(耐食性向上)とともに、美しい外観を与えます。

精密板金加工の主な用途例

半導体製造装置・電子機器分野

ミクロン単位の精度が求められる半導体製造装置では、装置の骨格となるフレームや筐体、内部の精密ブラケット(取り付け金具)などに精密板金加工が多用されます。極めて高い剛性や平面度が要求されるこれらの部品は、装置全体の性能を支える重要な役割を担っています。また、データセンターに設置されるサーバーラックや通信機器の筐体なども代表的な用途です。

医療機器分野

高い清浄度と信頼性が求められる医療分野では、レントゲン装置やCTスキャナといった診断装置の筐体(カバー)、手術用器具の部品、分析装置の内部機構部品などに精密板金加工が活用されています。特に、耐食性や衛生面に優れたステンレス鋼を使用した部品が多く、精密な加工技術によって気密性や滑らかな表面仕上げが実現されています。

航空宇宙分野

強度と軽量化の両立が絶対的な使命となる航空宇宙分野でも、精密板金加工は欠かせません。航空機の構造部材やパネル、エンジン周辺の部品などには、アルミニウム合金やチタン合金といった特殊な材料が用いられます。これらの部品は、燃料効率と安全性を確保するため、1グラム単位での軽量化と、厳しい環境に耐えうる高い強度が同時に求められます。

その他産業機器

上記以外にも、工場の自動化を支えるFA(ファクトリーオートメーション)機器のカバーやフレーム、各種装置の操作盤、ATM(現金自動預け払い機)や券売機といった金融・交通関連端末の筐体など、幅広い産業分野で精密板金加工の技術が活かされています。

信頼できる精密板金加工メーカーの選定ポイント

複雑な形状や高い精度が求められる部品の製造を依頼する場合、メーカー選定はプロジェクトの成否を分ける重要な要素です。単に図面通りに加工するだけでなく、製品開発のパートナーとして協力できる企業を選ぶことが成功の鍵となります。

加工実績の確認

まず、依頼したい製品と同じ業界での加工実績が豊富かどうかを確認しましょう。例えば、医療機器であればステンレスの精密溶接や仕上げ、半導体製造装置であれば大型フレームの精度維持など、業界特有のノウハウや品質基準への理解度が重要です。企業のウェブサイトなどで公開されている加工事例や製品ポートフォリオを参考に、自社の要求と合致する技術力を持っているかを見極めます。

保有設備と品質管理体制

精密板金加工の品質は、使用される機械設備の性能に大きく左右されます。また、ISO 9001などの品質マネジメントシステムの認証取得はもちろん、検査機器を用いた徹底した品質管理が行われているかを確認することも重要です。

設計段階からの提案力

優れたメーカーは、受け取った図面をそのまま加工するだけではありません。より効率的な生産方法や、品質向上、コスト削減につながる設計変更(VE/VA提案)を積極的に行ってくれます。例えば、「この形状は溶接よりも曲げ加工で一体化した方が強度と精度が向上し、コストも下がります」といった、製造現場の知見に基づいた提案ができるかどうかは、メーカーの技術レベルを見極める大きなポイントです。

コストと納期への対応力

コストは重要な選定基準ですが、単に見積金額の安さだけで判断するのは危険です。なぜそのコストが実現できるのか、背景にある効率化の取り組みや技術的な工夫について、納得のいく説明ができる企業を選びましょう。また、安定した生産管理体制が構築されており、確実な納期遵守が見込めることも重要です。試作品の短納期対応など、開発スケジュールに応じた柔軟な対応が可能かどうかも確認しておきたいポイントです。

精密板金加工の依頼から納品までの流れ

実際に精密板金加工をメーカーに依頼する場合の一連のプロセスをご紹介します。

問い合わせ・打ち合わせ

まずは、加工を依頼したい部品の図面(2Dまたは3D)や、材質、必要数量、希望納期といった情報を準備し、電話やウェブサイトの問い合わせフォームからメーカーに連絡します。その後、担当者と詳細な打ち合わせを行い、技術的な要件や品質基準、コストなどの具体的な仕様を詰めていきます。

見積・発注

打ち合わせ内容に基づき、メーカーから正式な見積書が提出されます。提示された金額や納期、その他の取引条件に合意した場合、正式に注文書を発行し、契約が成立します。

設計・試作

メーカーは、最終的な製造データ(CAD/CAMプログラム)を作成します。特に新規の部品や複雑な形状の部品の場合、量産に入る前に試作品を1つ製作し、形状や寸法、組み立て性などを実際に確認する工程を踏むことが一般的です。この試作段階での検証が、量産時のトラブルを未然に防ぎます。

製造・検査・納品

試作品の評価が完了すると、本生産が開始されます。前述の「抜き」「曲げ」「溶接」「仕上げ」といった工程を経て製品が製造された後、図面通りの寸法・仕様を満たしているか、三次元測定機などを用いて厳格な品質検査が行われます。検査に合格した製品は、輸送中に傷や変形が生じないよう丁寧に梱包され、指定の納期に顧客のもとへ届けられます。

精密板金加工 関連サービスのご紹介

岩崎通信機株式会社の精密板金加工

Iwatsu Incubation Sheet Metal Processing Mv

岩崎通信機(以降IWATSU)では、精密板金加工を承ります。平板加工、バリ取り、曲げ加工、溶接・ナット打ち込みといった板金加工の基本工程の他、溶剤塗装、シルク印刷まで一つの工場で完結します。試作・小ロットから大量生産まで幅広く対応可能です。一部工程のみの依頼も承ります。

創業から80年以上にわたり各事業で業界初・国内初の製品を開発・製造してきたノウハウを活かし、お客様のものづくりを強力にサポートします。

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まとめ

  1. 精密板金加工は、高い寸法精度が要求される金属加工技術であり、扱う板厚や材質、得意なロット数において一般的な板金加工と異なる。

  2. 加工工程は、設計から「抜き」「曲げ」「溶接」「仕上げ」といった複数の専門的な工程で構成され、それぞれに専用の機械設備が用いられる。

  3. 信頼できるメーカーを選定するには、技術力や設備、品質管理体制に加え、設計段階から課題解決に貢献できる提案力を見極めることが重要である。

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