超音波膜厚計とは?原理や種類、選び方から導入の流れまで解説

製造現場における品質管理や、インフラ設備のメンテナンスにおいて、製品や部材の厚さを正確に測定することは極めて重要です。超音波膜厚計は、対象物を破壊することなく、迅速かつ高精度に厚さを測定できる非破壊検査機器として、幅広い産業で活用されています。

本記事では、超音波膜厚計の導入を検討されている製造業のご担当者様に向けて、その基本的な原理から主な用途、選定のポイント、導入後の運用フローまで、網羅的にご紹介します

超音波膜厚計の基本原理と測定の仕組み

超音波膜厚計は、人間の耳には聞こえない高い周波数の音波(超音波)を利用して、物体の厚さを測定する装置です。その測定は「超音波パルス反射法」という原理に基づいています。

超音波パルス反射法とは

超音波パルス反射法は、装置の先端にある探触子(プローブやトランスデューサーとも呼ばれます)から、測定対象物内部に向けて超音波の短いパルスを発信する仕組みです。

発信された超音波は、物質の中をまっすぐ進み、反対側の面(底面)や材質が異なる境界面に当たると反射します。その反射した超音波(エコー)が再び探触子に戻ってくるまでの往復伝搬時間を、装置が精密に計測します。この時間と、あらかじめ設定した材質ごとの音速を利用して、厚さを計算します。

厚さを求める計算式は以下の通りです。

$$厚さ (D) = \frac{1}{2} \times 音速 (C) \times 伝搬時間 (t)$$

伝搬時間(t)は超音波が往復した時間であるため、片道の距離(つまり厚さ)を求めるために2で割るのがポイントです 1。この原理により、金属はもちろん、プラスチックやガラス、セラミックなど、超音波が伝わるさまざまな材質の厚さを測定できます。

測定に不可欠な「音速」と「接触媒質」

超音波膜厚計で正確な測定を行うためには、二つの重要な要素があります。「音速」の設定と「接触媒質」の使用です。

音速(おんそく)

超音波が物質の中を伝わる速さ(音速)は、材質によって異なります。例えば、鋼とアルミニウム、プラスチックではそれぞれ音速が違うため、測定したい対象物の材質に合わせた正しい音速値を装置に設定する必要があります。もし設定が間違っていると、算出される厚さの値も不正確になります。多くの機種では、代表的な材質の音速がプリセットされているほか、厚さがわかっている試験片を使って音速を校正(キャリブレーション)する機能も備わっています。

接触媒質(せっしょくばいしつ)

超音波は空気中を非常に伝わりにくい性質を持っています。そのため、探触子と測定対象物の表面にわずかな隙間(空気層)があるだけで、超音波がうまく内部に伝わらず、測定ができません。この空気層をなくし、超音波を効率的に伝えるために使用するのが「接触媒質(カプラント)」と呼ばれる専用のジェルや液体です。測定前に対象物の表面にカプラントを塗布することは、安定した測定を行うための必須のステップです。

このように、超音波膜厚計の精度は、単に装置の性能だけで決まるわけではありません。オペレーターが材質に合わせて正しく音速を設定し、カプラントを適切に使用するという一連のプロセスを正しく行うことで、初めて信頼性の高い測定結果が得られるのです。

超音波膜厚計を導入するメリット

超音波膜厚計の導入は、品質管理や設備保全の現場に多くのメリットをもたらします。特に重要な3つの利点をご紹介します。

対象物を傷つけない非破壊検査

最大のメリットは、対象物を切断したり穴を開けたりすることなく、そのままの状態で厚さを測定できる「非破壊検査」である点です。完成品の全数検査や、稼働中の重要な設備の健全性を確認する際に、製品や設備を傷つけることなく検査できるため、検査後の修理や補修にかかるコストや時間を削減できます。

片側からのアクセスで測定可能

マイクロメータやノギスといった測定工具は、対象物を両側から挟み込む必要があります。しかし、超音波膜厚計は探触子を当てる片側からのアクセスだけで測定が完了します。この特長により、大型のタンクや貯槽、配管、複雑な形状を持つ鋳造品など、内側に手が届かないような対象物でも簡単に厚さを測定することが可能です。

高精度で迅速な品質管理を実現

測定は探触子を対象物に当てるだけで、瞬時にデジタルで結果が表示されるため、非常にスピーディーです 。これにより、製造ラインでの品質管理や、広範囲にわたる設備の点検を効率的に行うことができます。機種によっては、測定結果をカラーマップで表示し、設計値からの厚みの増減を視覚的に評価できるものもあり、潜在的な不良箇所を素早く発見することにも繋がります。

これらのメリットは、それぞれが独立しているだけでなく、互いに連携することで大きな価値を生み出します。例えば、化学プラントの配管メンテナンスを考えてみましょう。「片側アクセス」でなければ、そもそも稼働中の配管内部の厚さは測れません。

「非破壊」でなければ、測定のためにプラントを停止し、配管を切断する必要があり、莫大なコストと時間がかかります。そして「迅速性」があるからこそ、広範囲の配管を定期的に点検し、腐食による減肉の進行を予測して、事故が発生する前に計画的な補修が可能になります。

このように、超音波膜厚計は、他の方法では実現が難しい「予防保全」を可能にする戦略的なツールと言えます。

超音波膜厚計の種類と特徴

超音波膜厚計は、その用途によって大きく二つのタイプに分けられます。また、測定対象や環境に応じて、さまざまな種類の探触子(プローブ)を使い分けます。

腐食検査用と精密検査用

腐食検査用

主にプラントの配管やタンク、橋梁などのインフラ構造物において、腐食や摩耗によって部材が薄くなる「減肉(げんにく)」の進行度合いを測定するために使用されます 3。表面が錆びていたり、凹凸があったりする過酷な環境でも安定して測定できるよう、耐久性が高く、粗い面での測定を得意とする「二振動子探触子」が一般的に用いられます。

精密検査用

製造工程における品質管理など、より高い精度が求められる場面で使用されます。薄い材料の厚さ測定や、表面が滑らかで平行な対象物の精密測定を得意とします。高精度な測定を実現するために「一振動子探触子」が用いられることが多く、0.01mm単位での分解能を持つ機種もあります。

探触子(プローブ)の種類と選び方

探触子は、超音波を発信・受信する心臓部であり、測定の目的や対象物の形状に合わせて最適なものを選択することが重要です。

  • 二振動子探触子: 内部に超音波を発信する素子と受信する素子が分かれており、音響的に隔離されています。表面が粗い腐食面の測定に適しています。

  • 一振動子探触子: 一つの素子で超音波の発信と受信を兼ねます。高精度な測定や薄物の測定に向いています。

  • 高温用探触子: 製造ラインの途中など、高温状態の材料を測定するために、耐熱性の高い素材で作られています。

  • ペンシル型・小径探触子: 先端が細くなっており、パイプのような曲面や、エッジ部分、狭い場所の測定に便利です。

塗装越しに母材を測定するスルーペイント機能

通常の方法で塗装された鋼材などを測定すると、塗膜の厚さも合算された数値が表示されてしまいます。しかし、「スルーペイント機能」や「多重エコー方式」と呼ばれる機能を搭載した機種では、塗膜の厚さを無視して、その下にある母材(素地)の厚さだけを正確に測定することが可能です。

この機能は、特にインフラ設備のメンテナンスにおいて絶大な効果を発揮します。橋梁や船舶、街灯などの点検で、測定のたびに塗装を剥がし、測定後に再塗装するという手間とコストを根本から削減できるため、検査時間の大幅な短縮と経費削減に繋がります。

主な用途例

超音波膜厚計は、その特長を活かして、さまざまな産業分野で重要な役割を担っています。

インフラ・プラント設備の保全

石油化学プラントや発電所の配管、圧力容器、貯蔵タンクなどは、内部の流体によって常に腐食のリスクに晒されています。超音波膜厚計は、これらの設備の外面から定期的に肉厚を測定し、腐食による減肉の進行状況を監視するために不可欠なツールです。

これにより、設備の寿命予測や適切な補修時期の判断が可能となり、重大な事故を未然に防ぎます。また、橋梁の鋼材や水中の鋼管杭などの腐食調査にも広く利用されています。

自動車部品の塗装・コーティング管理

自動車のボディや部品の品質において、塗装の厚さは外観の美しさだけでなく、錆を防ぐ防食性能にも直結する重要な要素です。超音波膜厚計は、塗装やコーティングの膜厚を管理するために使用されます。

特に、従来の電磁式や渦電流式の膜厚計では測定できなかったプラスチック製のバンパーや内装部品上の塗膜厚も測定できるため、現代の自動車製造における品質管理に欠かせません。塗料の使用量を最適化し、コスト削減や環境負荷の低減にも貢献します。

航空宇宙分野の複合材検査

航空機や宇宙機器の分野では、軽量でありながら高い強度が求められるため、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)などの複合材料が多用されています。これらの部材の厚さを正確に管理したり、運用中に発生しうる内部の剥離や衝撃による損傷を検出したりするために、超音波膜厚計が活用されています。

機体の安全性と信頼性を確保する上で、極めて重要な検査手法の一つです。

製品の品質管理・検査

上記以外にも、さまざまな製造業の現場で品質管理ツールとして活躍しています。例えば、ブロー成形で作られるプラスチックボトルの肉厚が均一かどうかの確認、エンジン部品などの金属鋳造品の厚み検査、精密加工部品が設計図通りの寸法に仕上がっているかのチェックなど、製品の品質を保証するための幅広い用途で使われています。

超音波膜厚計の選定ポイント

自社の用途に最適な超音波膜厚計を選ぶためには、何を、どこで、どのように測定したいのかを明確にすることが重要です。ここでは、機種選定の際に確認すべき主要なポイントを解説します。

まず、検討すべき項目を一覧表にまとめました。これらの項目に沿って自社の要求仕様を整理することで、必要な機能やスペックがおのずと見えてきます。

検討項目

確認事項

関連する仕様・機能

測定対象の材質

金属、樹脂、ガラス、複合材など。材質によって音速が異なるため、対応機種か確認が必要です。

音速調整機能、材質プリセット

測定物の厚さ

測定したい厚さの範囲(最小〜最大)はどれくらいか。

測定範囲、精密測定モード、対応プローブ

塗装・コーティングの有無

塗装の上から母材の厚さだけを測りたいか。

スルーペイント機能

表面状態と形状

表面は粗いか(錆など)、平滑か。湾曲しているか(パイプなど)。

腐食検査用(二振動子プローブ)、ペンシル型プローブ

測定環境

高温の場所、水中、暗い場所など。

高温用プローブ、防水性能、バックライト

データ管理

測定データを保存・出力する必要があるか。

データロガー機能、USB出力

測定対象の材質と厚さ

最初に確認すべきは、測定対象の材質と、想定される厚さの範囲です。測定したい材質の音速設定に対応しているか、また、測定したい厚さ(例えば0.5mm〜200mmなど)が装置の測定範囲内に収まっているかを確認します。木材や発泡スチロールのように超音波が極端に減衰・散乱する材質は測定できないため注意が必要です。

測定環境と表面状態

どこで測定するのかも重要な選定基準です。高温の配管を測定する場合は高温用プローブが必須ですし、水中構造物を検査するなら防水仕様の本体と水中用プローブが必要です。また、表面に錆や凹凸が多い場合は腐食検査用のモデルを、パイプのような曲面を測るなら先端の細いプローブが使えるモデルを選ぶなど、対象物の状態に合わせた選択が求められます。

必要な機能と精度

基本的な厚さ測定機能に加えて、どのような付加機能が必要かを検討します。測定データを本体に記録し、PCに転送して報告書を作成したい場合は、データロガー機能付きのモデルが便利です。また、設定した厚さのしきい値を超えた場合にアラームで知らせる機能や、暗い場所での視認性を高めるバックライト機能なども、作業効率に影響します。要求される測定精度(例えば±0.1mmで十分か、±0.01mmが必要か)によって、腐食検査用か精密検査用か、およその機種グレードが決まります。

導入から運用までの流れ

超音波膜厚計を導入し、正しく活用していくためには、計画的なステップを踏むことが大切です。ここでは、導入決定から日々の運用までの一般的な流れを解説します。

STEP1 要件定義と機種選定

まず、前述の「選定ポイント」を参考に、自社の測定目的、対象物、環境、必要な機能などを明確にする「要件定義」を行います。その要件に基づき、複数のメーカーのカタログや仕様を比較検討し、候補となる機種を絞り込みます。必要に応じて、メーカーや販売代理店にデモを依頼したり、レンタルサービスを利用して実際の使用感を試したりすることも、最適な機種選定に繋がります。

STEP2 導入前の準備(校正・表面処理)

校正(キャリブレーション)

装置が届いたら、まず正確な測定ができるように校正作業を行います。これは、厚さが正確にわかっている試験片(テストブロック)を使って測定し、表示値が正しくなるように装置の音速設定などを調整する作業です。信頼性の高い測定を行うための、最も重要な準備段階です。

表面処理

測定対象物の表面に、浮き錆や剥がれかけた塗膜、汚れなどがあると、探触子との密着性が悪くなり、正確な測定ができません。ワイヤーブラシやグラインダーなどを用いて、測定箇所の表面を清掃し、平滑に仕上げる必要があります。

STEP3 正しい測定の実施

準備が整ったら、実際の測定に入ります。測定箇所に接触媒質(カプラント)を適量塗布し、探触子を表面に対して垂直に、しっかりと押し当てて測定値を確認します。腐食の進行度合いを調査する際には、同じ測定点で探触子の向きを90度変えて2回測定し、より薄い方の値を採用する「2点測定法」を用いることで、最も減肉が進んだ箇所の厚さを捉えやすくなります。

STEP4 定期的な校正とメンテナンス

測定器の精度を長期間維持するためには、定期的な校正が不可欠です。社内で基準となる試験片を用いて日常的に点検を行うほか、ISO9001などの品質マネジメントシステムを運用している場合は、年に1回程度、専門の校正機関に依頼して、国家標準にトレーサブルな「校正証明書」付きの校正を行うことが一般的です 。また、探触子は消耗品ですので、使用後はきれいに清掃し、粗い面で引きずらないように丁寧に取り扱うことが長持ちさせるコツです。

超音波膜厚計の導入を検討する際には、本体の購入費用だけでなく、こうした運用プロセスにかかる費用も考慮に入れることが重要です。カプラントなどの消耗品費、定期的な専門校正サービスにかかる費用、そして何より、担当者が正しい手順で測定・管理を行うための教育時間といった、運用開始後にかかるコストも含めた「総所有コスト(TCO)」の視点で評価することが、長期的に見て費用対効果の高い投資に繋がります。

非破壊超音波膜厚計 ペルトゲージ PELT® Gaugeのご紹介

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多層膜の厚さを非破壊で測定するソリューション

BYK-Gardner社(以下、BYK)の超音波膜厚計「ペルトゲージ PELT® Gauge」は、超音波の原理を利用した画期的な膜厚計です。これまで困難とされてきた、塗装など多層膜の各層の厚さを、非破壊で一度に測定できるソリューションを提供します。金属はもちろん、プラスチックやカーボンファイバーといった多様な素材の上で測定が可能です。

株式会社テツタニは、BYKの日本国内における総代理店として、製品の輸入販売から、国内のISO認定ラボによる修理・校正、アフターメンテナンスまで一貫したサービスを提供し、お客様の品質管理と生産性向上に貢献します。

非破壊超音波膜厚計 ペルトゲージ PELT® Gaugeについて

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