3DCADとVRシステムの連携による設計レビューのメリットと導入手順

3DCADとVRシステムを組み合わせた設計レビューは、製造業における開発プロセスの効率化や品質向上を実現する手法として注目を集めています。本記事では、3DCADデータをVR空間で活用するメリットや具体的な連携方法、導入時に押さえておきたい注意点や手順について詳しく解説します。

3DCADとVRシステムの連携の概要

製造業の設計現場では3DCADによるモデリングが普及しましたが、ディスプレイ上の平面的な確認だけでは、実際のサイズ感や奥行きを正確に把握することに限界がありました。3DCADとVRシステムを連携させる技術は、これらの課題を解決するために開発されました。

VR(Virtual Reality:仮想現実)システムを用いることで、設計者はヘッドマウントディスプレイ(HMD)を装着し、3DCADで作成したデータを1分の1スケールの仮想空間として体験できます。まるで実物が目の前にあるかのような環境で、形状の確認や組立作業の検証を行うことが可能です。

VRシステムを用いた設計レビューのメリット

実寸大での形状や距離感の正確な把握

VRシステム最大の利点は、モニター越しでは掴みにくい「実寸大のスケール感」を体感できることです。大型の産業機械や自動車、あるいは微細な電子部品のアセンブリであっても、VR空間内であれば自由な視点から確認できます。

  モニターでの確認 VR空間での確認
スケール感 数値や縮尺での想像が必要 1:1スケールで直感的に把握
奥行き・距離 角度を変えて推測する 自分の体を使って距離を体感
視点移動 マウス操作で画面を回転 自分の頭や体を動かして覗き込む

作業性や組立手順の事前検証

生産技術や製造現場の視点において、組立のしやすさや工具の入りやすさを設計段階で検証できる点は大きなメリットです。VR空間では、コントローラーを工具に見立てて実際に手を動かすシミュレーションが行えます。

部品を取り付ける際に手が届くか、工具を回すためのスペースが確保されているか、無理な姿勢を強いられないかといった人間工学的な評価(エルゴノミクス評価)を、試作機を作る前にデジタルデータ上で実施できます。

部門間や遠隔地との円滑なコミュニケーション

VRシステムの中には、複数のユーザーが同一のVR空間に入り込み、ボイスチャットやアバターを通じてコミュニケーションを取れるものがあります。設計者、生産技術者、品質管理者が同じモデルを囲み、指差し確認をしながら議論することが可能です。

遠隔地の工場や海外拠点ともVR空間を共有できるため、出張コストを抑えながら密なすり合わせが行えます。言葉だけでは伝わりにくいニュアンスも、目の前のモデルを共有することでスムーズに伝達できます。

手戻りの削減によるコストダウンと期間短縮

設計の初期段階(フロントローディング)で、形状の不具合や組立作業の課題を発見できれば、修正にかかるコストと時間は最小限で済みます。試作機を作成した後に重大なミスが見つかると、金型の修正や設計のやり直しなど、甚大なロスが発生します。

VR設計レビューによって問題点を早期に潰し込むことで、物理的な試作回数を減らし、市場投入までの期間短縮と開発コストの大幅な削減に貢献します。

3DCADデータをVRで活用する主な手法

専用のVRソフトウェアやビューワの利用

専用のVRソフトウェアやビューワの利用 最も一般的な方法は、3DCADデータをVR用に変換・表示する専用ソフトウェアを利用することです。多くの製造業向けVRソフトは、主要な3DCADフォーマット(CATIA, NX, SolidWorksなど)や中間ファイル(STEP, IGES)に直接対応しています。

これらのソフトは、CADの属性情報(部品名や階層構造)を保持したままVR化できるものが多く、断面表示や計測機能など、設計レビューに必要な機能があらかじめ搭載されているため、導入後すぐに実務で活用できます。

3DCADソフトの標準機能やプラグイン活用

使用している3DCADソフト自体にVR表示機能が搭載されている場合や、公式のプラグインが提供されている場合があります。この場合、別のソフトを立ち上げたりデータを変換・エクスポートしたりする手間がなく、設計作業の延長線上で即座にVR確認が行えます。

ただし、専用のVRソフトと比較すると、機能が簡易的であったり、大規模なアセンブリデータの表示において描画パフォーマンスが落ちたりする場合があるため、用途に応じた使い分けが必要です。

VRシステム導入時に注意すべきポイント

データ軽量化とフレームレートの維持

3DCADデータは設計用に高精度で作られているため、そのままVRで表示するとデータ量が重すぎて、映像がカクつく(フレームレートが低下する)原因となります。映像の遅延やカクつきは、深刻な「VR酔い」を引き起こし、レビューを続行できなくなる恐れがあります。

快適なVR体験のためには、目に見えない内部部品を削除したり、曲面のポリゴン数を減らしたりする「データ軽量化(デシメーション)」の処理が不可欠です。自動で軽量化を行うツールの活用も検討しましょう。

ヘッドマウントディスプレイの選定

VRゴーグル(HMD)には、PCにケーブルで接続するタイプと、ケーブル不要のスタンドアローンタイプがあります。大規模な3DCADデータを扱う場合は、高性能なPCの処理能力を利用できるPC接続型が推奨されます。

  特徴 適した用途
PC接続型 高画質・高処理能力だがケーブルが必要 大規模アセンブリの設計レビュー
スタンドアローン型 ケーブルレスで動きやすいが処理能力は限定的 簡易的な形状確認やプレゼン

レビュー実施に必要な物理的スペースの確保

VRを利用する際は、ユーザーがHMDを装着して歩き回ったり、腕を動かしたりします。周囲の机や壁に衝突して怪我をしないよう、十分な広さのスペースを確保する必要があります。

特に組立性の検証などで大きく動くことが想定される場合は、最低でも2m×2m、可能であれば3m×3m程度の何もない空間を用意することが望ましいです。安全管理者の立ち合いのもと、周囲の安全を確認して実施しましょう。

VRシステム導入までの一般的な流れ

目的の明確化と対象データの選定

まずは「何のためにVRを導入するのか」を明確にします。「デザインの見た目を確認したいのか」「工具の作業性を検証したいのか」によって、選ぶべきハードウェアやソフトウェアが変わります。また、どの程度の規模(部品点数)のデータを扱うかも事前に確認しておきましょう。

ソフトウェアとハードウェアの選定・試用

目的に合ったVRソフトウェアと、それを動作させるためのPCおよびHMDを選定します。カタログスペックだけで判断せず、自社の実際の3DCADデータを持ち込んでデモやトライアルを行い、変換の手間や描画の滑らかさを必ず確認してください。

3DCAD VRシステム 関連製品・サービスのご紹介

製造業向けVRソフト Xphere(クロスフィア)

Dipro Xphere Mv V3

Xphere(クロスフィア)は、CADデータなどの3Dモデルを実物大のVR(仮想現実)空間に投影し、人の感覚で評価・検証できるシステムです。実機がない段階からリアルスケールでの検証を行うことで、ものづくりのプロセスにおける課題の早期発見と手戻りの削減を実現します。離れた拠点間で同じVR空間を共有してのレビューも可能です。

デジタルプロセス株式会社(DIPRO)は、長年にわたり製造業のデジタル化をご支援させていただく中で得た知見と、自社開発ならではの手厚いサポート体制を活かし、お客様のものづくりDXを加速させます。

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まとめ

  1. 3DCADとVRの連携により、実寸大での形状確認や組立性の事前検証が可能になる。
  2. 手戻りの削減、コストダウン、部門間コミュニケーションの円滑化など多くのメリットがある。
  3. 導入手法には専用ソフト、プラグイン、ゲームエンジンがあり、目的とリソースに応じて選択する。
  4. 導入時はVR酔いを防ぐためのデータ軽量化や、安全なスペースの確保が重要である。

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