ビームシェーピングとは?製造業でのメリットや種類、選び方を解説

製造業の現場では、より高い加工精度や生産スピード、品質の安定化が常に求められています。その解決策の一つとして、レーザー加工は不可欠な技術となっています。しかし、単にレーザーを照射するだけでは、その能力を最大限に引き出せているとは限りません。
そこで重要になるのが、レーザー光の特性を加工目的に合わせて最適化する「ビームシェーピング」という技術です。本記事では、製造業のご担当者様に向けて、ビームシェーピングの基本原理から、そのメリット、主な方式、選定のポイントまで、幅広くご紹介します。

ビームシェーピングとは?レーザー加工を進化させる基本原理

ビームシェーピングは、レーザー光の断面におけるエネルギーの強度分布を、意図的に成形(シェイピング)する技術です 1。この技術を理解するためには、まず一般的なレーザービームがどのような特性を持っているかを知る必要があります。

レーザービームの標準的な強度分布「ガウシアン分布」

多くのレーザー発振器から出射されるビームは、「ガウシアン分布」と呼ばれる強度分布を持っています。これは、ビームの中心部でエネルギー強度が最も高く、中心から離れるにつれてなだらかに弱くなっていく、釣鐘状の分布です。

このガウシアン分布は、一点にエネルギーを集中させる用途には適していますが、ある程度の面積を持つ加工においては課題が生じることがあります。中心の強すぎるエネルギーは、材料を過剰に加熱して溶融・蒸発させ、スパッタ(溶融金属の飛散)や品質のばらつきを引き起こす原因となります。一方で、周辺部の弱いエネルギーは、加工に必要なエネルギー(しきい値)に達せず、材料に不要な熱影響を与えてしまう「熱影響部(HAZ:Heat-Affected Zone)」を発生させたり、エネルギーの無駄になったりします。

ビームシェーピングの目的と「トップハット」への変換

ビームシェーピングの主な目的は、このガウシアン分布を、より加工に適したエネルギー分布に変換することです。その代表例が「トップハット分布」です。

トップハット分布とは、その名の通りシルクハットのように、特定のエリア内でエネルギー強度が均一になっている分布形状を指します。ビームが照射される領域のどこでも同じエネルギーが与えられるため、加工エリア全体で均一な処理が可能になります。これにより、中心部の過加熱や周辺部のエネルギー不足といったガウシアン分布の課題を解決し、加工品質を飛躍的に向上させることができます。

他にも、中心が空洞になった「ドーナツ(リング)形状」や、線状にエネルギーを分布させる「ラインビーム」など、用途に応じて様々な形状にビームを成形することが可能です。

製造業でビームシェーピングが注目される理由

ビームシェーピング技術は、単にビームの形を変えるだけでなく、製造プロセスの根幹に関わる多くのメリットをもたらします。これは、従来の「道具(レーザー)の特性に工程を合わせる」という考え方から、「工程の要求に合わせて道具(レーザービーム)を最適化する」という、より高度なものづくりへの転換を意味します。

加工品質の劇的な向上

ビームシェーピングによる均一なエネルギー分布は、加工品質を大きく向上させます。

  • レーザー溶接: ガウシアンビームで発生しがちだったキーホール(溶融部にできる空洞)の不安定化を抑制し、溶融池を安定させることができます。これにより、溶接不良の原因となるスパッタの発生を劇的に低減し、クリーンで強固な溶接を実現します。

  • レーザー切断: 熱影響部(HAZ)を最小限に抑え、シャープで高品質な切断面を得ることができます。精密部品の製造において、後工程の削減や製品性能の向上に直結します。

  • 表面処理: レーザー焼入れや乾燥といった用途では、加熱ムラや未処理部分がなくなり、均一で安定した表面改質が可能になります。

生産性の向上とコスト削減

品質の向上は、生産性やコストにも良い影響を与えます。スパッタやバリ、ドロス(切断時に付着する溶解金属)の発生が抑えられることで、これまで必要だった研磨や洗浄といった後処理工程を削減、あるいは完全に不要にすることができます。

また、エネルギーを効率的に利用できるため、同じ加工をより高速に行うことが可能になり、タクトタイムの短縮と生産量の向上に貢献します。

エネルギー利用効率の最大化

ビームシェーピングは、エネルギーを賢く使う技術でもあります。ガウシアンビームでは、加工しきい値を超える中心部の過剰なエネルギーと、しきい値に満たない周辺部のエネルギーが無駄になっていました。一方、トップハットビームは、エネルギーの大部分を加工しきい値のわずか上に集中させることができるため、エネルギーの浪費を最小限に抑えます。

これにより、より低い出力のレーザーで、高出力レーザーと同等以上の加工結果を得られるケースもあります。これは、設備導入コストの削減や、ランニングコストである消費電力の大幅な削減につながります。

新たな加工アプリケーションの実現

ビームシェーピングは、既存の加工を改善するだけでなく、これまで難しかった新たなアプリケーションを可能にします。例えば、ドーナツ形状のビームを用いることで、従来は高品質な加工が困難だった厚板のファイバーレーザー切断が可能になったり、バッテリー電極のような熱に弱い材料に対して、ダメージを抑えつつ高速で均一なレーザー乾燥プロセスを開発したりといった事例があります。このように、ビームシェーピングはレーザー加工の可能性を広げる基盤技術となっています。

ビームシェーピングの主な方式と種類

ビームシェーピングを実現するには、いくつかの異なる光学的なアプローチが存在します。それぞれに原理や特徴があり、用途に応じて最適な方式を選択することが重要です。

屈折式ビームシェイパー

特殊な形状を持つレンズ(非球面レンズなど)を用いて、光を屈折させることでビーム形状を変化させる方式です。ガウシアンビームの中心部の光を周辺部に再配置するようにレンズを設計することで、トップハット形状などを生成します。

この方式の大きな利点は、光の透過効率が96%以上と非常に高いこと、そして原理的に波長への依存性が少ないため、一つのデバイスで幅広い種類のレーザーに対応できる点です。ただし、入射するビームの位置や角度がわずかにずれると、出力されるビーム形状が崩れやすいという、アライメントに対する感度の高さが考慮点となります。

回折光学素子(DOE)

回折光学素子(Diffractive Optical Element, DOE)は、基板の表面にコンピュータで設計された微細な凹凸パターンを形成した光学素子です。この微細構造を光が通過する際に生じる「回折」という現象を利用して、光を任意の形状に再配分します。

DOEは、非常にシャープなエッジを持つビーム形状や、複数のスポットにビームを分岐させるような複雑なパターンを生成することを得意とします。また、素子自体が薄くコンパクトであるため、装置の小型化にも貢献します。一方で、特定の波長に合わせて設計されるため汎用性は低く、不要な方向に光が回折してしまうことで、屈折式に比べて効率が若干低下する場合があります。

空間光変調器(SLM)

空間光変調器(Spatial Light Modulator, SLM)は、ビーム形状を電気的に、かつリアルタイムで制御できる最も柔軟性の高いデバイスです。代表的なLCOS-SLM(Liquid Crystal on Silicon-SLM)は、高解像度の液晶ディスプレイのようなもので、画素ごとに光の位相(進み・遅れ)を電子的に制御できます。

コンピュータで生成したパターン(ホログラム)をSLMに表示することで、レーザー光をほぼ任意の形状に自在に変形させることが可能です。これにより、加工内容に応じてビーム形状を瞬時に切り替えるといった、動的なプロセス制御が実現します。研究開発や多品種少量生産には最適ですが、コストが高くシステムが複雑になる点や、高出力レーザーへの対応には制限がある点が考慮点です。

各方式の比較

これら3つの方式の特徴を、以下の表にまとめます。

方式

原理

主な利点

考慮点

適した用途

屈折式

レンズによる光の屈折

・高い透過効率 ・波長依存性が低い

・アライメントに敏感 ・複雑な形状は困難

高出力の溶接・切断など、固定されたトップハット形状が必要な量産工程

回折式 (DOE)

微細構造による光の回折

・コンパクト ・シャープなエッジ形状 ・複雑なパターンも可能

・特定の波長専用 ・効率がやや低い場合がある

微細加工、パターン照射、複数ビームへの分岐

空間光変調器 (SLM)

液晶による光の位相変調

・形状を動的に変更可能 ・非常に高い柔軟性

・高コスト ・システムが複雑 ・耐光パワーに制限

研究開発、試作、1台で複数の加工を行うシステム

ビームシェーピングの主な用途例

ビームシェーピング技術は、すでに様々な製造分野でその効果を発揮しています。

レーザー溶接

自動車の車体や電池部品の製造において、スパッタの少ない高品質な溶接を実現するために活用されています。これにより、後工程の削減と製品の信頼性向上に貢献しています。

レーザー切断

厚板鋼板の切断品質を向上させたり、切断速度を上げたりするために用いられます。特にファイバーレーザーとの組み合わせで、その能力を最大限に引き出します。

レーザー焼入れ

自動車部品や金型などの表面硬化処理に応用されています。必要な部分だけを均一に、かつ低歪みで焼入れできるため、従来の「高周波焼入れ」からの置き換えが進んでいます。後処理が不要で、消費電力が少ない点も大きなメリットです。

レーザー乾燥

リチウムイオン電池の電極や機能性フィルムの製造工程で、従来の熱風乾燥に代わる革新的な技術として注目されています。熱ダメージを抑えながら、高速かつ省エネルギーな乾燥を実現します。

3Dプリンティング(金属AM)

金属積層造形(Additive Manufacturing)において、ビーム形状を最適化することで溶融池を安定させ、造形速度の向上と造形物の品質向上(内部欠陥の低減など)に貢献します。

半導体リソグラフィ

現代の電子機器に不可欠な半導体チップの製造において、回路パターンをシリコンウェーハ上に焼き付ける「リソグラフィ」工程で、均一な光を照射するためにビームシェーピング技術が用いられています。これは、微細化を支える基盤技術の一つです。

ビームシェーピング技術の選定ポイント

自社の課題解決のためにビームシェーピング技術を導入する際には、いくつかの重要なポイントを検討する必要があります。

目的とする加工とビーム形状

まず最も重要なのは、「何のために、どのようなビーム形状が必要か」を明確にすることです。クリーンな溶接が目的ならトップハット形状、特定の表面パターンを硬化させたいならライン形状や矩形といったように、目的によって最適なビーム形状は異なります。

レーザー光源の特性(波長・ビーム品質)

使用するレーザー光源の特性と、ビームシェーピング光学系との相性を確認する必要があります。特にDOEは特定の波長専用で設計されるため、レーザーの波長は重要な選定基準です。また、レーザーのビーム品質(M²値で表される)も重要で、高品質なシングルモードレーザー(M²が1.5未満など)でないと、意図した形状に成形できない光学系もあります。

システムの複雑性とコスト

初期投資と運用面のバランスを考えることも大切です。特定の製品を大量生産する専用ラインであれば、比較的安価でシンプルな屈折式やDOEが適しているかもしれません。一方で、研究開発部門のように加工対象や要求仕様が頻繁に変わる場合は、高価でも柔軟性の高いSLMを導入する方が、長期的にはコスト効率が良くなる可能性があります。

動的制御の要否

加工プロセス中にビーム形状を変更する必要があるかどうかも、大きな判断基準です。常に同じ形状で加工するのであれば、屈折式やDOEのような静的な光学系で十分です。しかし、例えば一つのワークに対して複数の異なる加工(マーキングと溶接など)を連続して行いたい場合には、形状を動的に変更できるSLMが唯一の選択肢となります。

株式会社プロフィテットのビームシェーピング技術

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光学部品単体からレーザー加工装置までトータルで提案可能

ビームシェーパーは、レーザーの光の強度分布を、加工用途に合わせて理想的な形に整えるための光学部品です。レーザー加工における熱影響の抑制や溶接品質の向上、省エネルギー化に貢献します。

株式会社プロフィテットは、ビームシェーピングに関する長年の経験と豊富な製品ラインアップで、お客様の課題に最適な提案をいたします。周辺機器やレーザー加工システム装置までトータルで提案可能です。

株式会社プロフィテットのビームシェーピング技術について

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