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食品異物検査装置の選び方|種類や原理、導入ポイントを解説

食品メーカーにとって、製品の安全性確保は最も重要な責務の一つです。中でも異物混入は、消費者の健康被害に直結するだけでなく、企業のブランドイメージや信頼を大きく損なう重大なリスクとなります。このリスクを最小限に抑えるために不可欠なのが「食品異物検査装置」です。

本記事では、食品製造業で品質管理を担当されている方や、これから検査装置の導入を検討されている方に向けて、食品異物検査装置の重要性から、その種類と原理、具体的な選定ポイント、導入の流れまで、幅広く解説します。

食品異物検査装置とは

製造工程において、原材料の受け入れから調理、包装に至るまで、異物混入を防ぐための様々な対策が講じられています。しかし、どれだけ厳格な管理体制を敷いても、人為的なミスや設備の摩耗などにより、異物混入のリスクをゼロにすることは困難です。

食品異物検査装置は、目視では発見が難しい硬質異物を、製品が出荷される直前の最終工程で検出する「最後の砦」として機能します。消費者の安全を守ると同時に、企業のブランドイメージを保護する上で極めて重要な役割を担っています。

HACCPのCCP(重要管理点)としての役割

HACCP(ハサップ)は、食品の製造工程で起こりうる危害(ハザード)を分析し、管理するための国際的な衛生管理手法です。その中でも特に注意が必要な工程は「重要管理点(CCP:Critical Control Point)」として設定されます。

CCPは、例えば食中毒菌の殺菌工程のように、その管理が不十分だと製品の安全性に重大な影響を及ぼす工程です。物理的な異物、たとえば金属片やガラス片の混入も、まさにこうした重大なハザードに該当します。

そのため、金属検出機やX線検査装置は製造ラインの最終関門としてCCPに指定されることが多く、製品の安全性を守る「ゴールキーパー」のような役割を果たします。

食品異物検査装置の主な種類と原理

食品異物検査装置にはいくつかの種類があり、それぞれ検出原理や得意とする異物が異なります。代表的な装置について、その仕組みを解説します。

金属検出機

金属検出機は、その名の通り、製品に混入した金属異物を検出することに特化した装置です。製造ラインに設置された検出ヘッド(トンネル状の部分)が磁界を発生させ、その中を製品が通過する際に磁界の変化を捉えることで金属を検知します。金属検出機には、主に2つの方式があります。

交流磁界式 最も広く利用されている方式です。鉄などの磁石に付く金属(磁性金属)が通過すると磁力線が変化し、ステンレスやアルミニウムといった磁石に付かない金属(非磁性金属)が通過すると内部に渦電流が発生して新たな磁界を生み出します。この2種類の磁界の変化を検知することで、様々な金属を見つけ出します。一般的に、鉄が最も検出しやすく、ステンレスは検出しにくい傾向があります。
直流磁界式 永久磁石を用いて、鉄などの磁性金属を磁化させることで検出する方式です。この方式の大きな特徴は、アルミ箔で包装された製品の検査に適している点です。交流磁界式ではアルミ箔自体に反応してしまいますが、直流磁界式では非磁性体であるアルミ箔は磁化されないため、包装内部にある鉄系の異物のみを正確に検出することが可能です。

X線検査装置

X線検査装置は、医療用のレントゲン撮影と同じ原理を利用して、製品の内部を透過して検査する装置です。装置から製品にX線を照射し、製品を通り抜けてきたX線の量をセンサーで測定します。

異物が混入していると、その部分だけX線が透過しにくくなります。特に、製品本体よりも密度が高い金属、ガラス、石、骨、硬質プラスチックなどはX線を遮るため、センサーで受け取るX線量が少なくなり、画像上で濃い影として映し出されます。この画像の濃淡差をソフトウェアが解析することで、異物を自動的に判別します。

また、X線検査装置は異物検出だけでなく、その画像解析能力を活かして、製品の個数不足(欠品)や形状不良(割れ・欠け)、包装シールの噛み込みといった品質検査も同時に行える多機能な装置です。

色彩選別機

色彩選別機は、高解像度のCCDカメラなどを用いて、製品を色や形で選別する装置です。主に米や豆、ナッツ、冷凍野菜などのバラものの選別に使われます。

カメラが高速で流れる製品を一つひとつ撮影し、あらかじめ設定された基準(良品の色や形)と異なるものを瞬時に識別します。例えば、米の中に混入した着色米(カメムシ被害米など)や小石、ガラス片、あるいは規格外の形状のものを不良品として検出し、圧縮空気(エアー)を吹き付けてラインから弾き飛ばします。

目視による選別作業を自動化できるため、品質の安定化や人件費の削減、ヒューマンエラーの防止に大きく貢献します。一方で、導入コストが高いことや、設定によっては良品も一部除去されてしまう可能性があること、定期的なメンテナンスが必要といった側面もあります。

磁力選別機(マグネット)

磁力選別機は、強力な永久磁石を利用して、原材料から鉄系の金属異物を除去する装置です。粉体や液体などの原材料が流れるホッパーや配管の途中に、棒状(マグネットバー)や板状の磁石を設置するシンプルな構造です。

原材料が磁石の近くを通過する際に、釘やボルト、機械の摩耗によって生じた鉄粉などが磁力によって吸着されます。比較的安価で、電力を必要とせず、設置も容易な点がメリットです。ただし、検出できるのは磁石に付く金属に限られ、ステンレスやアルミ、非金属異物は除去できません。また、吸着した金属を定期的に清掃・除去しないと、異物が再度脱落して二次汚染の原因となるため、適切なメンテナンスが不可欠です。

その他の検査装置

上記のほかにも、特定の用途に特化した検査装置が存在します。

かみこみ検査機 袋詰め製品のシール(熱圧着)部分に、製品のかけらや異物が挟まっていないかを検査する装置です。シールの密封不良は、製品の品質劣化や酸化の原因となるため、特に賞味期限の長い製品で重要となります。
赤外線検査装置 製品に赤外線を照射し、その透過や反射の特性の違いを利用して異物を検出します。特定の種類のプラスチック片など、X線では検出しにくい異物を見つけるのに有効な場合があります。

食品異物検査装置の選定ポイント

自社に最適な検査装置を導入するためには、いくつかの重要なポイントを多角的に検討する必要があります。

検出したい異物の特定

選定の第一歩は、自社の製造工程においてどのような異物が混入するリスクが最も高いかを明確にすることです。例えば、原材料に由来する小石やガラス片のリスクがあるか、製造機械の摩耗による金属片の発生が懸念されるか、作業員由来の物品(絆創膏など)が考えられるか、といった点を洗い出します。このリスク評価の結果によって、金属だけで十分なのか、それともガラスや石も検出できるX線検査装置が必要なのか、といった装置の種類が自ずと絞り込まれます。

製品特性との相性

次に、検査対象となる製品の特性を考慮します。前述の通り、塩分や水分が多い製品であれば、製品影響を受けにくいX線検査装置が適しているかもしれません。アルミ箔包装の製品であれば、直流磁界式の金属検出機かX線検査装置が選択肢となります。


また、製品の形状も重要です。クッキーのように形状が均一な製品と、ナッツが混ざったシリアルのように形状や密度が不均一な製品とでは、最適な検査条件が異なります。自社の主力製品との相性をしっかり見極めることが大切です。

設置環境とラインの仕様

検査装置を設置する現場の環境も重要な選定ポイントです。

設置スペース X線検査装置は金属検出機よりも大型になる傾向があるため、生産ライン上に十分なスペースを確保できるか確認が必要です。
周辺環境 水を多く使う湿度の高い環境であれば、防水・防塵性能の高い装置を選定する必要があります。また、金属検出機は、近くにある大型モーターやインバーターから発生する電気的なノイズや、コンベアの振動によって誤作動を起こす可能性があるため、設置場所には注意が必要です。
ライン仕様 コンベアの幅や流速(スピード)に対応できる能力があるか、既存の生産ラインとスムーズに連携できるかを確認しましょう。

求める検出感度と精度

どのくらいの大きさの異物まで検出したいか、という「検出感度」の基準を定めます。この基準は、自社の品質基準だけでなく、納入先である取引先からの要求によって決まることもあります。

ただし、カタログスペック上の感度だけで判断するのは早計です。検出感度は、異物の材質(鉄かステンレスか)、形状(球状か針金状か)、向き、そして検出ヘッド内の通過位置によって変動します。特に、検出ヘッドの中央部は感度が最も低くなる傾向があるため、この最も厳しい条件で要求感度をクリアできるかどうかが重要です。

操作性とメンテナンスの容易さ

日常的に装置を操作する現場の作業員にとって、使いやすいかどうかも見逃せないポイントです。製品品種の切り替えや設定変更が直感的に行えるか、表示は見やすいかなどを確認しましょう。

また、食品工場では衛生管理が最優先されるため、清掃のしやすさは極めて重要です。コンベアベルトなどの部品を工具なしで簡単に取り外して洗浄できる構造か、汚れが溜まりにくい設計になっているかなど、メンテナンス性も必ずチェックしましょう。

食品異物検査装置の導入プロセス

最適な装置を選定した後は、計画的に導入を進めることが安定稼働の鍵となります。ここでは、一般的な導入プロセスを4つのステップで解説します。

要件定義と機種の絞り込み

食品異物検査装置の導入は、まずリスク評価に基づき検出すべき異物や製品特性、ライン仕様を整理し、メーカーと仕様を詰めて要件を定義することから始まります。その際、異物の種類やサイズが明確で、設置スペースや環境条件が適しており、予算内で仕様を満たせることが確認されます。

次に、候補となる装置に実際の製品やテストピースを通して検出感度を確認し、生産条件下で性能を発揮できるか、製品特性を損なわず操作性が現場に合っているかを評価します。導入にあたっては、生産ラインに装置を設置し、電源や周辺機器と接続したうえで製品を流しながら初期設定を行い、周辺環境の影響がないかや基準値が適切に設定できているかを確認します。さらに、運用段階では日常点検や感度確認の手順、異物検出時の対応フロー、管理方法を明確にし、オペレーターや管理者に教育を行うことで、誰がいつ何を確認するのかを明確化し、HACCP対応を含めた正しい運用を実現します。

実機によるテスト

候補機種が絞れたら、必ず実機によるテストを行いましょう。メーカーのデモルームなどに自社の製品と、検出したい異物を模したテストピースを持ち込み、実際の生産環境に近い条件(製品の温度、コンベアのスピードなど)で性能を評価します。

カタログスペックだけでは分からない、製品との相性や誤検出の頻度などを自分の目で確認することが、導入後の失敗を防ぐ上で最も重要です。

設置と初期設定

導入する機種が決定したら、生産計画に合わせて設置工事を行います。設置の際は、前後のコンベアとの干渉や、振動・ノイズ源からの距離に注意します。

設置後は、実際に製品を流して初期設定(キャリブレーション)を行います。これは、装置に正常な製品の状態を「学習」させ、異物を検知するための基準値(しきい値)を設定する重要な作業です。

運用ルールの策定と教育

装置は導入して終わりではありません。その性能を維持し、HACCPの要求事項を満たすためには、明確な運用ルールが必要です。始業前の日常点検の方法、テストピースを用いた定期的な感度確認の手順、そして最も重要な、異物が検出された際の対応フロー(排除品の隔離、原因調査、記録など)を文書化します。

そして、これらのルールを全ての関係者が遵守できるよう、十分な教育とトレーニングを実施することが不可欠です。

安定稼働のための運用と保守

検査装置の性能を長期間にわたって維持し、その役割を確実に果たさせるためには、日々の地道な運用と保守が欠かせません。

日常的な点検と清掃の重要性

毎日の始業前点検は、装置の安定稼働の基本です。コンベアベルトに傷やほつれがないか、安全カバーやカーテンが正しく機能するかといった外観の確認を行います。

また、清掃は単なる衛生目的だけではありません。特にX線検査装置では、コンベアベルトに付着して固まった製品カスが異物として誤検出される原因となります。定期的にベルトを取り外して裏側まで洗浄するなど、マニュアルに沿った適切な清掃を徹底することが、不要なライン停止を防ぎ、生産性の維持に繋がります。

テストピースを用いた定期的な感度確認

装置が定められた検出感度を維持しているかを確認するために、テストピースを用いた定期的な検証作業が必須です。テストピースとは、鉄(Fe)やステンレス(SUS)などの材質とサイズが保証された金属球を、樹脂製のカードやスティックに埋め込んだものです。

このテストピースを、検査する製品の上に置き、コンベアに流して正しく検出・排除されるかを確認します。この際、最も感度が低くなる検出ヘッドの中央部を通過させるのがポイントです。X線検査装置の場合は、製品の様々な位置にテストピースを置いて確認することが推奨されます。

この感度確認は、始業時や品種切り替え時、および一定時間ごと(例:2時間おき)に実施し、その結果を記録することがHACCPの運用上、求められます。

誤検出の原因と対策

「異物がないのに装置が反応してしまう」誤検出は、生産効率を低下させる大きな要因です。誤検出が頻発すると、オペレーターが安易に感度を下げてしまい、本来の目的である安全確保がおろそかになる危険性もあります。誤検出の原因を正しく理解し、対策を講じることが重要です。

まとめ

  1. 食品異物検査装置は、消費者の安全と企業の信頼を守るための重要な設備であり、HACCPにおけるCCP(重要管理点)として機能します。

  2. 主な種類には金属検出機やX線検査装置があり、それぞれ検出原理や得意な異物、製品との相性が異なるため、自社のリスク評価に基づいた選定が不可欠です。

  3. 装置の性能を最大限に活かすには、導入時の実機テストに加え、日常的な点検や清掃、テストピースを用いた定期的な感度確認といった、地道な運用と保守が極めて重要です。

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