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X線検査装置とは?食品製造業の品質管理における応用例や選定ポイント

食品製造業において、異物混入は企業の信頼と存続を脅かす深刻なリスクです。その対策のひとつとして注目されているのが、X線検査装置です。X線検査装置は、製品を壊さずに内部を検査できる技術であり、目視や他の検査方法では見つけにくい異物も高精度で検出可能です。金属、ガラス、石、骨片など、さまざまな異物に対応し、食品の「安全」と「安心」を守るうえで欠かせない存在となっています。本記事では、食品製造業におけるX線検査装置の基礎知識から応用例、装置選定の際のポイントをご紹介します。

X線検査装置とは?

X線透過の基本原理

X線検査装置は、電磁波の一種であるX線の特性を最大限に活用した非破壊検査技術です。X線には、物質を透過する性質があり、その透過度は物質の密度や原子番号によって異なります。具体的には、密度や原子番号が大きい物質(例:金属や石)はX線を透過しにくく、密度が低い物質(例:食品やプラスチック)はX線を透過しやすいという性質があります。

X線検査装置は、製品にX線を照射し、その透過したX線を検出器で受け取ることで検査を行います。異物が混入していると、その部分がX線を遮るため、検出器に届くX線の量が減少します。その結果、X線画像には異物が暗い影として映し出され、食品本体とは異なるコントラストで明確に識別できます。この陰影の濃淡を分析することで、異物の有無だけでなく、製品内部の構造まで正確に把握することが可能です。

X線検査装置の基本的な動作フロー

X線検査装置の検査は、主に以下のステップで自動的に行われます。

搬入とX線照射 検査対象の製品がコンベアによって装置の開口部から内部に搬送されます。装置内で製品にX線が照射されます。
画像撮影 製品を透過したX線が検出器で受けられ、2次元のX線画像として撮影されます。
自動判定 撮影された画像は、高性能な画像処理ソフトウェアによって解析されます。あらかじめ設定された基準(例:特定の形状や密度)に基づいて、異物や不良の有無が自動で判定されます。
選別・除去 不良品と判定された製品は、エアジェットやフリッパーアームなどの選別機構によって生産ラインから自動で排除されます。

検出能力を向上させるデュアルエナジー技術

従来のX線検査装置は、製品と異物の密度差が大きい場合に高い検出精度を発揮してきました。しかし、ゴムやプラスチック、一部の骨片のように密度差が小さい異物は、検出が難しいという課題がありました。

この課題を解決するのが、デュアルエナジーセンサーを搭載した最新型のX線検査装置です。

デュアルエナジー技術では、異なる2種類のエネルギーを持つX線を同時または交互に照射・測定し、物質の組成(原子番号)によるX線の透過率の違いを捉えます。これにより、たとえ製品と異物の密度が似ていても、材質の違いがあれば、より鮮明な画像と高精度な検出が可能になります。

この進化により、これまで見落とされがちだったゴム片やプラスチック片、微細な骨などの異物も、より高精度に検出できるようになりました。

金属検出機との比較

食品製造の現場で異物混入対策として長年活用されてきた機器に「金属検出機」があります。X線検査装置と金属検出機は、いずれも異物混入を防ぐための機器ですが、その検出原理と得意とする分野が大きく異なります。

金属検出機の原理と特性

金属検出機は、電磁誘導の原理を利用して金属異物を検出します。装置内のコイルから発生する磁界が、通過する製品内の金属によって乱されることを感知し、異物として判定します。この原理により、鉄、ステンレス、アルミといった金属全般を高感度で検出することができます。しかし、その検出能力は金属に特化しており、ガラス、石、骨、硬質プラスチック、ゴムなどの非金属異物は検出できません。

X線検査装置の優位性

X線検査装置の最大の強みは、検出対象の幅広さにあります。鉄・ステンレス・アルミといった金属はもちろん、ガラス、石、セラミック、骨、硬質ゴムなどの非金属異物まで、高密度な異物を多岐にわたって検出可能です。これにより、金属検出機では見逃されがちな異物にも対応でき、製品の安全性をより包括的に確保できます。

さらに、X線検査装置は製品の包装形態に左右されないという利点も持ちます。金属検出機は、アルミ蒸着包装や金属クリップなど、包装自体が磁界に影響を与える場合、正確な検査が困難になることがあります。一方、X線検査装置はX線の透過性に基づくため、アルミ包装の内部であっても、異物を確実に検査できます。この特性は、多様な包装形態の製品を扱う製造ラインにおいて、特に大きなメリットとなります。

X線検査装置の苦手分野を補う金属検出機

X線検査装置が非金属異物の検出に優れる一方で、非常に薄い金属片(例:金属錆やごく薄いアルミホイル)や、食品と密度がほとんど変わらない異物(例:空気、木片)の検出が苦手な場合があります。X線画像上では、これらの異物はコントラストが弱く、見逃されるリスクもあります。

一方、金属検出機は金属に特化しているため、たとえ微細な金属片であっても高感度に検出する強みを持っています。

X線検査装置と金属検出機は「どちらが優れているか」という単純な比較対象ではなく、互いの技術的な限界を補完し合う関係にあります。

食品製造業におけるX線検査装置の応用事例

単に異物を検出する能力にとどまらず、異物検査の過程で取得した高品質な画像データを活用し、複数の品質検査を同時に実行できる多機能性を備えたX線検査装置もあります。これにより、生産ラインの効率化と品質保証の精度を同時に向上させることが可能になります。

異物検出の幅広い対応範囲

X線検査装置は、製品の内部に潜むさまざまな異物を高精度に検出します。

  • 金属異物: 鉄、ステンレス、アルミなどの金属片

  • 硬質異物: ガラス、石、骨、セラミックスなど

  • 低密度異物: デュアルエナジー技術を搭載したモデルでは、従来のX線装置では検出が困難だった硬質ゴムや一部のプラスチックなどにも対応

異物検出以外の多機能検査

X線装置は、以下の複数の検査を同時に行うことで、品質管理を包括的にサポートします。

  • 形状・欠損検査: クッキーの割れや欠け、パンの中身の抜け、製品の変形などをチェック

  • 噛み込み検査: パッケージのシール部分に内容物が挟まっていないかを検査

  • 員数・質量検査: 包装された製品の個数や内容量が不足していないかを検査

多様な製品形態に対応する柔軟性

X線検査装置は、様々な製品形態に合わせて設計されたモデルが提供されています。

  • ボトル・瓶・缶製品向け: 横方向からX線を照射する「横照射型」の装置は、直立したボトルや瓶、缶の底に沈殿した異物の検査に特化

  • バラ流し食品向け: 食肉や調味料など、コンベアに乗せられないバラ状の製品をそのまま検査する専用装置も存在

  • マルチレーン対応: ベルト幅が広い装置は、複数の生産レーンを同時に検査できるため、生産能力を維持したまま検査効率を高めることが可能

最適なX線検査装置の選定ポイント

X線検査装置の導入を成功させるためには、単に高スペックな装置を選ぶだけでなく、自社の製品や生産ラインの特性に合わせたモデルを選定することが不可欠です。

製品特性と検出要件の確認

検査対象物 製品の包装形態(アルミ、ラミネートなど)、サイズ、材質(冷凍品、水分量、塩分量)によって、最適なX線出力や感度設定が異なります。
検出したい異物 どのような種類の異物(金属、ガラス、骨など)を、どの程度の最小サイズで検出したいのかを具体的に明確にする必要があります。

技術的仕様の評価

スループット 生産ラインの速度に合わせて、1分間あたりに検査できる製品の個数や、コンベアの速度(m/min)を確認します。
分解能 より微細な異物や欠陥を検出するには、装置の分解能が重要になります。特にX線CT装置の場合、3Dピクセルの大きさを示すボクセルサイズや、X線源の焦点サイズ(小さいほど鮮明な画像が得られる)が重要な指標となります。

導入・運用環境の確認

設置スペース 装置の大きさ、重量、設置場所の耐荷重、および温度管理の要件を確認します。
ランニングコスト 装置の消費電力に加えて、X線管球や検出器といった高額な消耗品の交換頻度と費用を事前に確認することが重要です。

メーカー・ベンダーの評価

技術サポートとメンテナンス体制 装置の長期的な性能維持には、定期的なメンテナンスと迅速なサポートが不可欠です。メンテナンスサービスが充実しているか、トラブル発生時の対応体制が整っているかを確認します。
トライアルの実施 導入を決定する前に、自社の実際の製品サンプルを用いた試験撮影(トライアル)を行います。これにより、カタログスペックだけではわからない実際の検出能力や画像品質を直接確認できます。

まとめ

  1. X線検査装置は、食品製造業の品質管理において異物混入対策に不可欠な技術であり、金属、ガラス、石、骨片など多岐にわたる異物を非破壊で検出できます。

  2. 最新の装置は、デュアルエナジー技術により低密度の異物も高精度に検出し、異物検出だけでなく、形状や欠品、噛み込み検査などの多機能性を備えています。

  3. 導入を成功させるには、初期費用だけでなく、製品特性、検出要件、長期的な運用コスト、そして充実したメーカーサポート体制を総合的に評価することが重要です。

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