基板印字とは?その目的や種類、選び方を分かりやすく解説

電子機器の頭脳ともいえるプリント基板(PCB)。その製造工程において「基板印字」は、生産効率と品質を左右する重要な役割を担っています。かつては部品実装を補助する目的が主でしたが、近年では品質管理やトレーサビリティの要としても不可欠な技術となりました。

本記事では、基板印字の導入や見直しを検討されている製造業のご担当者様に向けて、その基本的な役割から主な印字方式の種類と特徴、用途に応じた選定ポイント、そして導入の流れまで、分かりやすくご紹介します。

基板印字とは?電子機器製造における基本的な役割

基板印字とは、その名の通り、プリント基板の表面に文字や記号、コードなどを印字する工程のことです。この印字には、大きく分けて2つの重要な役割があります。一つは製造工程をスムーズに進めるためのガイドとしての役割、もう一つは製品の品質と信頼性を保証するためのデータキャリアとしての役割です。

部品実装を円滑にするための「シルク印刷」

基板印字の最も基本的な役割は、電子部品を基板上の正しい位置に実装するための目印(=レジェンド)を示すことです 1。部品番号や実装位置、極性(プラス・マイナス)などをあらかじめ印字しておくことで、手作業による実装はもちろん、自動実装機での作業においても、ミスを防ぎ、生産効率を高めることができます。

この目的で使われる印字は、伝統的にスクリーン印刷(シルクスクリーン)という手法が用いられてきたことから、業界では一般的に「シルク印刷」や「シルク」と呼ばれています。

品質管理と信頼性を支える「トレーサビリティ」の実現

近年の製造業において、基板印字はより高度な役割を担うようになりました。それが、トレーサビリティの実現です。トレーサビリティとは、製品が「いつ、どこで、誰によって作られたのか」を追跡可能にする仕組みのことです。

基板一枚一枚にシリアルナンバーやロット番号、二次元コードなどを印字することで、その基板がどの工場のどのラインで、いつ製造され、どの部品が使われたかといった生産履歴をデータとして紐づけることが可能になります。

これにより、万が一市場で製品に不具合が発生した場合でも、印字されたコードを読み取るだけで、影響範囲を迅速に特定し、効率的な回収や原因究明が行えます。特に、高い安全性が求められる航空宇宙産業や医療機器、自動車業界では、トレーサビリティの確保は規制要件の一部となっており、製品の信頼性を担保する上で不可欠です。

このように、基板印字は単なる「目印」から、製品の品質を保証し、企業の信頼を守るための重要な「デジタルパスポート」へとその役割を進化させているのです。

基板印字の主な種類と特徴

基板印字を実現する技術には、いくつかの方式が存在します。ここでは、現在主流となっている3つの方式について、その基本的な特徴をご紹介します。

スクリーン印刷

スクリーン印刷は、インクを通過させる微細な穴が開いた版(スクリーンマスク)を基板の上に重ね、インクを押し出すことで文字や図形を転写する、版画に近い原理の印刷方式です。古くからシルク印刷(レジェンド印刷)や、はんだを塗布するクリームはんだ印刷などで広く用いられてきました。

インクジェット方式

インクジェット方式は、家庭用プリンターと同様に、微細なインクの粒をプリントヘッドのノズルから基板に直接噴射して印字する非接触の方式です。スクリーン印刷と違い、物理的な版を必要としないため、データから直接印刷できる手軽さが特徴です。

レーザーマーキング

レーザーマーキングは、インクを使わず、レーザー光を対象物に照射して印字する方式です。レーザーの熱エネルギーによって基板の表面を削ったり、変色させたり、あるいは表面の塗装層を除去したりすることでマーキングを行います 12。インクなどの消耗品が不要な非接触の加工方法です。

基板印字の主要3方式 徹底比較

スクリーン印刷、インクジェット、レーザーマーキングは、それぞれに得意なこと、不得意なことがあります。どの方式が最適かは、生産する製品の種類や量、求められる品質によって大きく異なります。ここでは、それぞれの方式を様々な角度から比較し、その違いを明らかにします。

自社の目的や条件に最も合った方式を選ぶために、以下の比較表をご活用ください。

比較項目

スクリーン印刷

インクジェット

レーザーマーキング

印字原理

版(マスク)を通してインクを転写 

微細なインク滴を非接触で噴射

レーザー光で素材表面を改質・除去 

メリット

大量生産時の速度が速い、単位コストが安い

版が不要で多品種少量生産向き、可変データ対応、非接触

印字が半永久的で消えない、高精度、消耗品不要

デメリット

版の作成が必要、細かいパターンは不向き、多品種少量生産にはコスト高 15

大量生産では速度が遅い、インクの耐性(熱・薬品)に注意が必要 11

初期投資が高い、印字の修正が不可能、安全対策が必要 16

初期コスト

ランニングコスト

低(インク代のみ)

中(インク、ヘッド交換)

ほぼゼロ(電気代のみ)

印字精度

耐久性

◯(インクによる)

△(インクによる)

多品種少量生産

×

大量生産

基板印字の主な用途例

基板印字技術は、私たちの身の回りにある様々な電子機器に活用されています。ここでは、具体的な製品分野を例に、どのような印字方式が選ばれているのかをご紹介します。

スマートフォン・ウェアラブル端末

スマートフォンやウェアラブル端末のように、小型・薄型化が進む製品では、部品が高密度に実装された基板や、曲げられるフレキシブルプリント基板(FPC)が多用されます。限られたスペースに微細な文字やコードを印字する必要があるため、版が不要で高精細な印字が可能なインクジェット方式やレーザーマーキングが適しています。

自動車(電装部品)

自動車に搭載される電子部品は、エンジンルームの高温や走行中の振動など、非常に過酷な環境下で長期間にわたって正常に機能し続ける必要があります。そのため、印字にも高い耐久性が求められます。特に、エアバッグやブレーキ制御といった安全に関わる重要部品のトレーサビリティ情報には、熱や薬品、摩耗に強く、半永久的に消えることのないレーザーマーキングが採用されるのが一般的です。

産業機器・医療機器

工場の生産設備などの産業機器や、ペースメーカーといった医療機器の分野では、法律や業界標準によって厳格な品質管理とトレーサビリティが義務付けられています。これらの製品では、長期間にわたるメンテナンスや修理、万が一の際の原因追跡のために、絶対に消えない確実な個体識別情報が不可欠です。そのため、自動車部品と同様に、信頼性の高いレーザーマーキングが広く活用されています。

これらの例から分かるように、印字方式の選定は、単なる製造コストや効率だけの問題ではありません。その製品が使用される環境や、印字が消えた場合にどのようなリスクが生じるかを考慮することが、極めて重要になります。

基板印字の方法・装置の選定ポイント

自社の製品や生産ラインに最適な基板印字装置を選定するためには、いくつかの重要なポイントを多角的に検討する必要があります。ここでは、具体的な5つの選定ポイントを解説します。

印字対象となる基板の材質と形状

まず、どのような基板に印字するかを確認します。基板の材質によって、最適なレーザーの種類(例:樹脂基板にはCO2レーザー、金属にはファイバーレーザー)や、インクの密着性が異なります。また、すでに電子部品が実装された基板に後から印字する場合は、部品に接触してダメージを与えることのない、インクジェットやレーザーといった非接触方式が必須となります。

求められる印字の精度と永続性

印字にどの程度の細かさと耐久性が求められるかも重要な判断基準です。製造後の洗浄工程で使われる薬品や、製品使用時の高温環境に耐える必要がある場合は、基板自体を加工するため永続性に優れるレーザーマーキングが最適です。そこまでの耐久性が不要な場合は、インクジェットでも耐薬品性や耐熱性に優れた特殊インクを選ぶことで対応可能な場合があります。

生産量とタクトタイム

生産量や1枚あたりの許容作業時間(タクトタイム)も、方式選定を大きく左右します。同じ製品を大量に、かつ高速で生産する場合は、版さえ作ってしまえば高速印刷が可能なスクリーン印刷に分があります 。一方、多品種少量生産で、製品ごとに印字内容が変わる場合は、版が不要で段取り替えが容易なインクジェット方式が適しています。

イニシャルコストとランニングコスト

装置導入にかかる初期費用(イニシャルコスト)と、運用していく上での維持費用(ランニングコスト)のバランスを考える必要があります。一般的に、インクジェット装置は初期費用が比較的安いですが、インクやヘッド交換などの消耗品コストが継続的に発生します。対してレーザーマーカーは初期費用が高額になりがちですが、消耗品がほとんどなく、電気代のみで運用できるためランニングコストを低く抑えられます 。装置の購入価格だけでなく、長期的な視点で総所有コスト(TCO)を比較検討することが重要です。

トレーサビリティシステムとの連携

トレーサビリティを目的として印字装置を導入する場合、既存の生産管理システム(MESなど)と円滑に連携できるかが成功の鍵となります。上位システムからシリアル番号などの印字データを受け取り、印字結果をフィードバックできる通信機能やソフトウェアの互換性を事前に確認しましょう。また、印字したコードを後工程の画像検査機やコードリーダーで確実に読み取れるか、という点も検証が不可欠です。

基板印字装置の導入から運用までの流れ

基板印字装置の導入は、いくつかのステップに沿って計画的に進めることが大切です。ここでは、一般的な導入プロセスを4つの段階に分けて解説します。

要件定義と情報収集

最初のステップは、導入の目的を明確にすることです。「何を、何に、どのくらいの速さで、どのような品質で印字したいのか」といった要求仕様を具体的に定義します。この要件定義が、その後の装置選定のぶれない軸となります。

装置の選定とテスト印字

定義した要件をもとに、対応可能なメーカーや装置の候補を絞り込みます。候補が決まったら、必ず自社で実際に使用している基板サンプルを使ってテスト印字を依頼しましょう。カタログスペックだけでは分からない印字品質や速度、耐久性を実物で評価することが、導入後の失敗を防ぐ上で非常に重要です。万が一に備え、第一候補だけでなく、第二、第三候補まで検討しておくことが望ましいです。

生産ラインへの組み込みと設定

導入する装置が決まったら、既存の生産ラインに物理的に設置し、システムを連携させます。コンベア上に印字ヘッドを設置したり、工場のネットワークに接続して生産管理システムと通信設定を行ったりします 。レーザーの出力やインクジェットの解像度など、最適な印字品質が得られるようにパラメータを細かく調整する作業もこの段階で行います。

運用とメンテナンス

装置が本稼働を始めたら、日常的に操作する作業者への教育を行い、誰でも正しく安全に使える体制を整えます。また、装置の性能を長期的に維持するためには、定期的なメンテナンスが欠かせません。インクジェットのノズル清掃やレーザーの安全装置の点検など、メーカーが推奨する保守計画を立て、着実に実行していくことが安定稼働につながります。

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