超音波洗浄機とは?仕組みや種類、選び方を分かりやすく解説

製造現場において、部品の精密な洗浄は製品の品質を左右する重要な工程です。特に、複雑な形状の部品や微細な汚れの除去は、手作業や従来の洗浄方法では限界があります。超音波洗浄機は、こうした課題を解決する先進的な洗浄技術として、多くの産業で活用されています。

本記事では、超音波洗浄機の導入を検討されている製造業のご担当者様に向けて、その基本原理から種類、具体的な用途、そして自社に最適な一台を選ぶためのポイントまで、幅広く分かりやすく解説します。

超音波洗浄機とは?

手の届かない汚れを落とす洗浄技術

超音波洗浄機とは、人の耳には聞こえない高い周波数の音波(超音波)を液体中で発生させ、その力で物体の表面に付着した汚れを洗浄する装置です。

最大の特徴は、ブラシやスプレーが届かないような微細な隙間や穴の内部、複雑な構造物の隅々まで洗浄できる点にあります。この特性から、半導体部品や医療機器、自動車部品など、高い清浄度が求められる分野で不可欠な技術となっています 3。

他の洗浄方法との違い

産業分野で用いられる洗浄方法には、超音波洗浄の他にも高圧スプレー洗浄や浸漬洗浄などがあります。それぞれに得意な用途があり、洗浄対象や汚れの種類によって使い分けられます。超音波洗浄は、特に複雑な形状の部品に対して、物理的なダメージを抑えつつ均一で高い洗浄力を発揮する点で優れています。

洗浄方法

原理

得意な形状

洗浄力

課題

超音波洗浄

液中で発生させた微細な泡の破裂力(キャビテーション)で汚れを剥離

複雑な形状、微細な穴や隙間があるもの

柔らかい素材は超音波を吸収しやすく、効果が落ちる場合がある 8

高圧・スプレー洗浄

液体をノズルから高圧で噴射し、その物理的な力で汚れを洗い流す

比較的単純な形状、平面的な汚れ

内部や奥まった箇所の洗浄は困難。水圧によるダメージの可能性

浸漬洗浄

洗浄液に洗浄対象を浸し、化学的な作用で汚れを溶解・分解

形状を問わないが、洗浄液が触れる範囲に限られる

頑固な固着汚れには時間がかかる。洗浄ムラが発生しやすい 6

超音波洗浄の仕組みと原理

超音波洗浄機がなぜ強力な洗浄力を発揮するのか、その背景には「キャビテーション」と呼ばれる物理現象が深く関わっています。

汚れを剥がす「キャビテーション」効果

キャビテーションとは、液体に強力な超音波を照射した際に、無数の目に見えない微細な真空の泡が発生と消滅を繰り返す現象のことです 10。洗浄プロセスは以下のステップで進行します。

  1. 洗浄槽内の液体に超音波が伝わると、音の圧力によって液体中に圧力の高い部分と低い部分が交互に生まれます。

  2. 圧力の低い部分で、液体が引き裂かれるようにして真空に近い微小な泡(気泡)が発生します。

  3. 次に圧力の高い部分が来ると、この泡は一瞬で押し潰されて消滅します。

  4. この泡が潰れる瞬間、数千℃の温度と数百気圧の圧力に達するともいわれる衝撃波が発生します。

この衝撃波が、洗浄対象物の表面に付着した汚れを物理的に引き剥がし、洗浄液中に分散させることで洗浄が行われます。この力は非常に強力で、洗浄槽に入れたアルミ箔が短時間で穴だらけになるほどです。この現象は、洗浄機の性能を手軽に確認する方法としても利用されています。

その他の物理的作用(振動加速度・直進流)

超音波洗浄の効果は、キャビテーションだけではありません。

振動加速度(粒子加速度)

超音波によって液体分子そのものが高速で振動します。この振動の加速度が、特に高周波になるほど大きくなり、微細な粒子状の汚れを引き剥がすのに有効です 。

直進流(音響流)

強力な超音波を照射すると、振動面から液面に向かって穏やかな液体の流れ(直進流)が発生します。この流れが、キャビテーションによって剥がされた汚れを洗浄対象物の表面から効率的に運び去り、再付着を防ぐ役割を果たします。

洗浄ムラの原因となる「定在波」とは

超音波洗浄を導入する上で知っておきたいのが「定在波」の存在です。定在波とは、超音波が洗浄槽の壁や液面で反射し、波同士が干渉することで生まれる、超音波が特に強い場所と弱い場所が縞模様のように発生する現象です。

この定在波が発生すると、超音波の強い場所はよく洗浄されますが、弱い場所は洗浄が不十分になり、「洗浄ムラ」の原因となります。この対策として、多くの産業用洗浄機では、周波数をわずかに変動させて定在波の発生を防ぐ「スイープ発振機能」や、複数の周波数を組み合わせる機能が搭載されています。

産業用超音波洗浄機を導入するメリット

複雑な形状でも細部まで均一に洗浄

超音波洗浄の最大のメリットは、その浸透力にあります。キャビテーションは液体が触れるすべての面で発生するため、ネジ穴の奥やパイプの内部、入り組んだ部品の隙間など、手作業やスプレー洗浄では物理的に届かない場所でも、汚れを効果的に除去できます。

洗浄品質の安定化と作業時間の短縮

手作業による洗浄は、作業者の熟練度や集中力によって品質にばらつきが生じがちです。超音波洗浄機を導入することで、洗浄プロセスが標準化され、常に安定した洗浄品質を維持できます。また、これまで長時間かかっていた洗浄作業を数分で完了できるため、生産性の向上にも大きく貢献します。

人件費の削減と作業環境の改善

洗浄工程を自動化することで、手作業にかけていた人件費を削減し、より付加価値の高い業務へ人材を再配置することが可能になります。また、作業者が有機溶剤などの化学薬品に直接触れる機会を減らせるため、より安全な作業環境の構築にもつながります。

超音波洗浄機の種類

超音波洗浄機は、その「周波数」と「形状・構造」によって、いくつかの種類に分類されます。

周波数による分類

周波数は、洗浄機の特性を決定づける最も重要な要素です。周波数が低いほど強力で大きな汚れに、高いほど微細な汚れに適しています。

  • 低周波(20~50kHz)
    キャビテーションの衝撃力が最も強く、頑固な油汚れや研磨剤、切削粉などの除去に適しています。金属部品や金型などのタフな洗浄に用いられますが、その強力さゆえにアルミニウムなどの柔らかい素材には表面を傷つける「エロージョン」というダメージを与える可能性があるため注意が必要です 。

  • 中周波(60~120kHz)
    低周波に比べて衝撃力は穏やかになりますが、より細かなキャビテーションが多数発生するため、精密部品の洗浄に適しています。電子基板や光学レンズ、医療器具など、ダメージを避けつつ微細な汚れを除去したい場合に選ばれます。

  • 高周波/メガヘルツ波(400kHz~3MHz)
    メガソニック洗浄とも呼ばれ、キャビテーションの衝撃力はさらに穏やかになります。振動加速度の効果が主となり、サブミクロン単位の超微粒子を除去するのに用いられます。半導体ウェーハやハードディスクのヘッドなど、最先端の超精密洗浄分野で活躍しています。

形状・構造による分類

設置方法や生産規模に応じて、最適な形状の洗浄機を選びます。

  • 卓上型
    発振器と洗浄槽が一体となったコンパクトなタイプです。研究室での実験や、少量・小型部品の洗浄に適しており、手軽に導入できるのが特徴です。

  • セパレート型
    超音波を発生させる「発振器」と、振動を起こす「振動子ユニット」が分離しているタイプです。既存の洗浄槽に振動子ユニットを投入して使用する「投込式」や、製造ラインの装置に組み込む「振動板式」などがあり、柔軟な設備設計が可能です。

  • 多槽式
    「超音波洗浄」「すすぎ」「乾燥」といった複数の工程を一つの装置で行えるよう、洗浄槽が連なった大型のシステムです。大量生産を行う自動化ラインなどに組み込まれ、効率的な連続処理を実現します。

超音波洗浄機の主な用途例

金属加工部品・金型の脱脂洗浄

切削加工やプレス加工後の金属部品に付着した切削油、防錆油、研磨剤(バフ粉)、金属粉(切粉)などを除去する目的で広く利用されています。強力な洗浄力が求められるため、28kHzなどの低周波タイプの洗浄機が選ばれることが多いです。

電子部品・半導体ウェーハの精密洗浄

プリント基板(PCB)実装後のはんだフラックスの除去や、半導体ウェーハ、液晶ガラス基板、ハードディスク部品などに付着した微細なパーティクル(異物)の除去に不可欠です。製品の品質に直結するため、ダメージの少ない高周波(メガソニック)洗浄機が用いられます。

医療機器や食品製造ラインの衛生管理

手術器具や内視鏡、歯科用器具など、複雑な形状を持つ医療機器の洗浄・除菌に活用されています。キャビテーション効果は、細菌の細胞膜を破壊する作用もあり、衛生管理に貢献します。食品業界では、充填ノズルやバルブ、配管部品などの分解洗浄に用いられ、製品の安全性を高めています。

超音波洗浄機 選定のポイント

自社の目的に合った超音波洗浄機を導入するためには、いくつかのポイントを総合的に検討する必要があります。洗浄機の選定は、単に装置を選ぶだけでなく、最適な「洗浄システム」を構築するプロセスと捉えることが成功の鍵です。

洗浄対象物と汚れの種類

まず、「何を(洗浄対象物)」、「何から(汚れの種類)」洗浄したいのかを明確に定義することが全ての出発点です 18。洗浄対象の材質(金属、樹脂、ガラスなど)、大きさ、形状の複雑さ、壊れやすさを把握します。同時に、除去したい汚れが油性なのか、固形の粒子なのか、あるいはその両方なのかを特定します。

周波数の選定

洗浄対象と汚れの種類が明確になれば、最適な周波数を絞り込むことができます。前述の通り、周波数の選定は「洗浄力」と「ワークへのダメージ」のトレードオフを考慮する、リスク管理の側面を持ちます。下の表を目安に、自社の用途に最も適した周波数帯を検討しましょう。

周波数

主な用途

汚れの種類

ワークへのダメージ

28kHz

金属部品、金型、機械部品の強力洗浄

頑固な油、グリス、切削粉、研磨剤

40kHz

精密金属部品、ガラス、樹脂部品の洗浄

比較的軽度な油汚れ、ホコリ、指紋

75~120kHz

電子基板、光学部品、ハードディスク部品

微細なパーティクル、フラックス

400kHz~1MHz以上

半導体ウェーハ、ガラスマスクの超精密洗浄

サブミクロン単位の超微粒子

極小

洗浄槽のサイズと形状

洗浄槽は、洗浄したい部品が完全に浸漬できる十分な大きさが必要です。部品をバスケットに入れて洗浄する場合は、そのバスケットが余裕をもって収まるサイズを選定します。生産量や設置スペース、既存ラインとの連携などを考慮し、卓上型、セパレート型、多槽式といった形状を選びます。

洗浄液の選定

超音波洗浄の効果は、洗浄液との組み合わせで決まります。超音波の物理的な作用と、洗浄液の化学的な作用が相乗効果を生むことで、初めて高い洗浄品質が実現します。汚れの種類(油性、水溶性など)と洗浄対象の材質(腐食させないかなど)に応じて、水、アルカリ性洗浄剤、中性洗浄剤、有機溶剤などから最適なものを選択します。

付加機能の有無(ヒーター、減圧機能など)

より高い洗浄効果を得るための付加機能も検討します。

  • ヒーター機能: 洗浄液を温めることで、特に油汚れに対する洗浄剤の効果を高めます。

  • 脱気(ディガス)機能: 洗浄液に溶け込んでいる気体を事前に除去し、超音波の伝わりを良くして洗浄効果を安定させます 。

  • 減圧機能: 洗浄槽内を減圧することで、袋穴や止まり穴の内部に入り込んだ空気を抜き、奥まで洗浄液と超音波を浸透させることができます。

  • 防爆仕様: 炭化水素系などの引火性溶剤を使用する場合は、安全のために防爆仕様の装置が必須となります 。

超音波洗浄機 導入までの流れ

 産業用の超音波洗浄機を導入する際は、メーカーや専門の販売代理店と相談しながら進めるのが一般的です。

要件定義とヒアリング

まずは洗浄の目的、対象物、汚れ、処理量、設置環境などの要求事項をメーカーの担当者に伝えます 26。ここで詳細な情報を共有することが、後のミスマッチを防ぐ上で重要です。

洗浄テストの実施

導入を検討する上で最も重要なステップが、実際の洗浄対象物を使ったテストです 26。サンプルをメーカーに送り、最適な周波数、洗浄液、洗浄時間などの条件を見つけ出すための洗浄実験を依頼します。このテスト結果をもとに、導入の可否や具体的な仕様を判断することで、投資のリスクを大幅に低減できます。

仕様決定・設計・見積もり

洗浄テストで良好な結果が得られたら、その結果に基づいて最終的な装置の仕様を決定し、メーカーから正式な設計提案と見積もりを受け取ります 26。

製造・納品・設置

発注後、装置が製造され、指定の場所に納品・設置されます。通常は、メーカーの技術者による設置作業や試運転、操作方法のトレーニングなども行われます。

超音波洗浄機導入時の注意点

洗浄物へのダメージ(エロージョン)

特に低周波の強力な超音波は、アルミニウムや亜鉛といった柔らかい金属の表面に、微細な凹凸や浸食(エロージョン)を発生させることがあります。デリケートな部品を洗浄する際は、より高い周波数を選定したり、洗浄時間を必要最小限に留めたりするなどの配慮が必要です。

騒音への対策

超音波洗浄機は、その動作原理上、「キーン」という特有の高周波音を発生させます。特に低周波で高出力のモデルは騒音が大きくなる傾向があり、作業環境によっては対策が必要になります。対策としては、装置全体を覆う防音ボックスの設置や、吸音材の活用などが有効です。

安全な取り扱いとメンテナンス

安全かつ長期的に装置を使用するため、基本的なルールを守ることが大切です。

  • 洗浄液が入っていない状態での「空焚き」は、振動子を破損させる原因となるため絶対に行わないでください。

  • 洗浄物は、振動子を保護するため、洗浄槽の底に直接置かず、必ず専用のバスケットやすのこを使用しましょう。

  • 感電防止のため、アース接続は確実に行ってください。

  • 振動子は消耗品です。長期間の使用によりエロージョンで劣化するため、定期的な点検や交換が必要になります。

本多電子の高周波超音波洗浄機のご紹介

幅広いラインナップと特注対応で、メガソニック洗浄のニーズに対応

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本多電子は、自社開発の圧電セラミックス素子を活用した高周波超音波洗浄機を通じて、半導体製造現場の多様なニーズに応えます。

流水式、石英振動体型、バッチ式の3方式をラインナップし、MHz帯の高周波洗浄でウェーハやフォトマスクの微細な汚れを除去。装置サイズや材質、周波数のカスタマイズにも柔軟に対応し、大手メーカーからも高い信頼を得ています。

本多電子の高周波超音波洗浄機

 

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