絶縁金属基板(IMS)とは?種類や用途、FR-4との違いを解説

近年、電子機器の高性能化・小型化が進むにつれて、部品から発生する熱の管理がますます重要な課題となっています。特にLED照明や車載機器、電源モジュールといった高出力の部品は多くの熱を発生させ、従来の回路基板ではその熱を十分に逃がせず、性能低下や故障の原因となることがあります 。このような熱問題に対する効果的な解決策として注目されているのが、「絶縁金属基板(IMS)」です。

本記事では、電子機器の信頼性を支える絶縁金属基板(IMS)について、その基本的な構造から種類、メリット、主な用途、そして選定時のポイントまで、幅広くご紹介します。

絶縁金属基板(IMS)とは?

絶縁金属基板(IMS:Insulated Metal Substrate)とは、その名の通り、基板のベース部分にアルミニウムや銅などの金属材料を用いたプリント配線基板の一種です。金属が持つ高い熱伝導性を利用して、電子部品から発生する熱を効率的に拡散・放熱させることを主な目的としています。その構造から「金属ベース基板」や「メタルコアPCB(MCPCB)」とも呼ばれます。

絶縁金属基板(IMS)の基本構造

IMSは、一般的に「回路層」「絶縁層」「金属ベース」という3つの層を重ね合わせたシンプルなサンドイッチ構造をしています 1。これらの層が一体となって、電気的な接続と効率的な熱伝導経路の両方を実現します。

  • 回路層(銅箔層)
    一般的なプリント配線基板と同様に、表面には銅箔で形成された回路パターンがあります。この層が電子部品を実装する土台となり、電気信号を伝える役割を担います。同時に、部品から発生した熱を最初に受け止める窓口にもなります。

  • 絶縁層
    回路層と金属ベースの間に位置する、IMSの性能を決定づける最も重要な層です。回路層と金属ベースが電気的にショートするのを防ぐ「絶縁」の役割と、回路層から受け取った熱を金属ベースへ効率的に伝える「熱伝導」という、相反する二つの機能を両立させています。この層の性能は、熱伝導率の高いセラミック粒子などを配合した特殊な樹脂材料によって実現されており、熱を伝えやすくするために極力薄く設計されつつも、高い絶縁信頼性が確保されています。

  • 金属ベース
    基板の最も下に位置し、構造全体を支える土台となる金属の板です。通常、アルミニウムや銅が使用されます。絶縁層から伝わってきた熱を素早く基板全体に拡散させ、外部へ放熱するヒートシンク(放熱板)としての役割を果たします。また、金属ならではの剛性により、基板全体の機械的強度を高める効果もあります。

一般的なFR-4基板との違い

電子回路で最も広く使われている基板材料に「FR-4」があります。FR-4はガラス繊維を布状に編んだものにエポキシ樹脂を染み込ませて固めた複合材料で、優れた電気絶縁性と加工性、そしてコストのバランスの良さから、多種多様な電子機器で標準的に採用されています。

IMSとFR-4の最大の違いは、その基本構造と主目的です。FR-4が複雑な回路を形成するための「電気的機能」を最優先に設計されているのに対し、IMSは熱を効率的に逃がすための「熱対策機能」を最優先に設計されています。以下の表に、両者の主な性能の違いをまとめました。

特徴

絶縁金属基板 (IMS)

FR-4基板

基本構造

金属ベース + 絶縁層 + 回路層

ガラス繊維強化エポキシ樹脂 + 回路層

熱伝導率

高い(絶縁層で$1~8 W/(m·K)$程度。FR-4の8~12倍。

低い(約$0.3 W/(m·K)$)。

放熱メカニズム

基板全体がヒートシンクとして機能

熱は空気や外部ヒートシンクに依存

機械的強度

高い(金属ベースによる)

比較的低い 

多層化・設計自由度

限定的(主に片面・両面)

非常に高い(10層以上も可能)

重量

重い

軽い

コスト

高い

安価

主な用途

LED照明、車載機器、電源モジュール

一般的な家電、PCマザーボード

絶縁金属基板(IMS)の主なメリット

IMSを採用することには、熱対策以外にも多くのメリットがあります。ここでは、その代表的な3つのメリットをご紹介します。

優れた放熱性による高い信頼性

IMSの最大のメリットは、その優れた放熱性です。金属ベースの高い熱伝導率により、発熱部品の熱が基板全体へ素早く拡散され、効率的に放熱されます。これにより、部品の動作温度を大幅に下げることが可能です。

電子部品は、一般的に温度が高くなるほど性能が不安定になったり、寿命が短くなったりする性質があります。IMSは部品を低温で安定して動作させることで、熱による性能劣化や故障のリスクを低減し、製品全体の信頼性と長寿命化に大きく貢献します。

高い機械的強度と寸法安定性

ベースに剛性の高い金属材料を使用しているため、FR-4などの樹脂系基板に比べて機械的な強度や耐久性に優れています。これにより、製品の製造工程や使用中の振動・衝撃に対する耐性が向上します。

また、熱による膨張・収縮の度合いを示す熱膨張係数(CTE)が樹脂系基板に比べて小さいため、温度変化が激しい環境下でも基板の反りや変形が起こりにくく、寸法安定性が高いという特長も持っています。

製品の小型化・軽量化への貢献

一見すると、金属を使用するIMSはFR-4基板よりも重くなります。しかし、製品全体(システムレベル)で考えると、小型化や軽量化に貢献するケースが多くあります。

IMSが持つ高い放熱性能により、これまで必要だった大型のヒートシンクや冷却ファンといった外部の冷却部品を削減、あるいは完全に不要にできる場合があります。これにより、製品内部のスペース効率が向上し、部品点数の削減による組み立て工程の簡素化も実現できます。結果として、よりコンパクトでシンプルな設計が可能になり、製品全体の小型化・軽量化につながるのです。

絶縁金属基板(IMS)の種類と特徴

IMSは、主に使用される金属ベースの材質によっていくつかの種類に分類されます。それぞれに異なる特性があり、用途や要求性能に応じて最適なものが選択されます。

金属ベースの材質による分類

金属ベースの選択は、基板の放熱性能、コスト、重量を決定づける重要な要素です。

材質

熱伝導率

特徴

主な用途

アルミニウム (Al)

良好 (約$200~236 W/(m·K)$) 

軽量で加工性に優れ、性能とコストのバランスが良い。最も広く使用されている。

LED照明、車載用電子機器、電源回路など、幅広い分野で使用される 。

銅 (Cu)

非常に高い (約$398~400 W/(m·K)$) 

金属ベースの中で最高の放熱性を持つが、アルミニウムに比べて重く、高価 。

高出力・高密度のパワーモジュールなど、極めて高い放熱性能が求められるハイエンドな用途 。

鉄・ステンレス鋼 (Fe)

低い

機械的強度が非常に高く、筐体との一体化などに適するが、放熱性は劣る。

放熱性よりも高い剛性や耐衝撃性が重視される特殊な産業機器など 。

性能を左右する絶縁層の役割

前述の通り、絶縁層はIMSの性能を支える心臓部です。この層の熱伝導率が、基板全体の熱抵抗、つまり熱の伝わりやすさを大きく左右します。

絶縁層には、エポキシ樹脂やポリイミド樹脂に、アルミナなどの熱伝導性に優れた無機フィラー(セラミック粒子)を高密度に充填した材料が用いられます。近年、パワー半導体の高性能化に伴い、より高い熱伝導率を持つ絶縁層材料の開発が活発に進められており、次世代のパワーエレクトロニクス製品の進化を支える重要な技術となっています。

絶縁金属基板(IMS)の主な用途例

その優れた特性から、IMSは特に大きな熱が発生する分野で不可欠な部品となっています。

LED照明

家庭用の電球から自動車のヘッドライト、街路灯、スタジアムの照明まで、高輝度・高出力のLEDが使われるあらゆる場面でIMSが活躍しています。LEDは熱に弱く、高温になると発光効率が低下したり、寿命が著しく短くなったりします。IMSはLEDチップから発生する熱を効率的に逃がすことで、LEDが持つ本来の性能と長寿命を最大限に引き出す役割を担っています。

車載関連機器

電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)のモーターを制御するインバーターや、各種センサー、ECU(電子制御ユニット)など、自動車に搭載される多くの電子機器でIMSが採用されています。エンジンルーム内などの高温環境や、走行中の激しい振動に耐える必要がある車載機器にとって、高い放熱性と機械的強度を両立するIMSは、高い信頼性を確保するために欠かせない存在です。

パワーエレクトロニクス

工場のモーターを制御する産業機器、電力変換を行う電源モジュール、サーバーの電源ユニットなど、大きな電力を扱うパワーエレクトロニクス分野でもIMSは広く利用されています。IGBTやMOSFETといったパワー半導体は、動作時に大量の熱を発生させます。IMSはこれらの半導体を安定して動作させるための基盤となり、機器の安定稼働と高密度実装を可能にしています。

絶縁金属基板(IMS)を選定する際のポイント

IMSを導入する際には、いくつかの技術的なポイントを考慮して、用途に合った最適な基板を選定することが重要です。

要求される放熱性能の確認

まず、搭載する電子部品がどの程度の熱を発生し、どのくらいの温度以下に保つ必要があるのかを明確にします。その上で、基板の放熱性能を示す指標を確認します。

  • 熱伝導率 ($k$): 材料の熱の伝えやすさを示す値です。単位は$W/(m·K)$で、数値が大きいほど熱を伝えやすいことを意味します。

  • 熱抵抗 ($R_{\theta}$): 熱の伝わりにくさを示す値です。単位は$℃/W$で、数値が小さいほど熱が伝わりやすく、放熱性が高いことを示します。

  • ガラス転移温度 ($T_g$): 絶縁層の樹脂が、高温になった際に硬いガラス状態から柔らかいゴム状態へと変化し始める温度です。この温度が高いほど、高温環境下での基板の信頼性が高まります。

機械的強度とコストのバランス

前述の通り、金属ベースの材質によって機械的強度やコストが大きく異なります。製品に求められる耐振動性や耐衝撃性、軽量化の要求、そしてターゲットとなるコストを総合的に判断し、アルミニウム、銅、鉄の中から最適な材質を選定します。

また、設計時には、回路層の銅と金属ベースのアルミニウムのように異なる金属を組み合わせることで生じる熱膨張率の差にも注意が必要です。この差が大きいと、温度サイクル(高温と低温を繰り返す環境)によって基板に反りが発生したり、はんだ付け部分に微小な亀裂(クラック)が生じたりする可能性があるため、信頼性を考慮した設計が求められます。

多層化や高周波対応の要否

IMSは、その構造上、回路を多層化することが難しく、主に片面基板として使用されます 6。もし回路が非常に複雑で多層配線が必須となる場合は、多層のFR-4基板と他の放熱部品を組み合わせるなど、別の解決策を検討する必要があります。

また、非常に高い周波数の信号を扱うRF(無線)回路などでは、信号の損失を抑えるために誘電率(Dk)の低い特殊な基板材料が求められます。このような用途では、標準的なIMSではなく、高周波特性に特化した基板材料を選択することが一般的です。

IMH製 高放熱金属絶縁基板(IMS)

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パワーエレクトロニクス産業向けの高放熱金属絶縁基板(IMS)を提供しています。この基板は、金属ベース基板の金属板を加工し、ヒートシンクを一体化した回路基板です。接着剤を使用しないフィン構造によって熱伝導性の低下を防ぎ、効率的に熱を逃がします。ヒートシンク以外にもヒートパイプや熱交換器を一体化した製品もご用意しています。

旭日産業株式会社は、日本におけるIMH製品の販売窓口です。半導体・電子部品関連の材料・部品・設備を幅広く取り扱っており、お客様の多様なニーズにお応えします。

IMH製 高放熱金属絶縁基板(IMS)

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