自動化された製造プロセスの場面でよく使われるスカラロボット。電子産業や自動車産業といった精密な動きが要求される分野だけでなく、段ボールの包装といった工程でも使用されています。
今回は、スカラロボットのメリット・デメリットから実際の用途まで紹介していきます。
スカラロボットとは、水平多関節ロボットとも呼ばれ、名前の通り、水平に動く関節軸を複数もつロボットのことを指します。
水平の動きに特化しているため、他の産業用ロボットよりも省スペースで汎用性が高いことが特徴です。
製造分野で必要な動作やプロセスに対応しているため、一般的には工場の生産ラインなどで活用されています。
スカラロボットの特徴は、水平の動きに特化したアームをもっている点です。アーム先端部分のみが垂直に動作するため、動きが二次元的であり構造が単純です。
ただし、垂直的な動作を多用するプロセスには対応できないため、人間の三次元的で複雑な動作を、スカラロボットだけで再現することが難しいといったデメリットも存在しています。
この水平に特化した特徴によって、スカラロボット独特の強みを発揮できるのです。以下にスカラロボットの強みを紹介します。
スカラロボットは、水平に動く複数の回転軸と垂直に動くアーム先端部から構成されているため、水平方向への可動領域は広くなっています。
この構造により、上下方向への剛性を確保しています。
このことから、比較的重量のある部品などにも対応でき、さらに連続動作の耐久性といった観点でも優れています。
構造が比較的単純であるため、他の産業用ロボットと比べると安価です。
さらに、メンテナンスしやすく、耐久性もあることから、導入後のコストも抑えられます。
スカラロボットは、可動範囲に比べて設置面積が小さいという特徴があります。
構造がシンプルなため、1台あたりの設置面積を減らすことができ、工場内のレイアウトに自由度を与え、限られた空間を有効に活用できます。
スカラロボットは製造分野や生産ラインとの相性が良く、食品や半導体関連でよく使われています。一般的に、生産工程の自動化・効率化の目的で使用されることがほとんどです。
スカラロボットは組み立て工程を自動化する目的で開発されたという経緯があるため、組み立て工程と相性がとても良い傾向があります。
部品をピッキングし、位置を補正しながら部品を正確に組み立てることができ、人間の手で組み立てを行うよりも短時間で大量の工程を行えるため、効率化を大いに期待できます。
スカラロボットは、アームにさまざまなロボットハンドを取り付けることで、あらゆる工程に対応することができます。
例えば、先端部に電動ドライバを取り付けることで、ねじ締め工程も自動化と効率化ができます。
ねじ締め工程を人間の手で行う場合はゆるみやバラつきなどが発生しやすく、慣れた作業者を確保する必要などがありますが、スカラロボットは正確に同じ精度でねじ締めを行えるため、より短時間で大量にねじ締めが可能です。
スカラロボットは部品や製品を取り出して、所定の位置へ運ぶ、整列させるといった単純作業を連続して行うことができます。
コンベアで運ばれてくる製品をセンサーやカメラなどで正確に位置を把握し、正しい部品のみを別のコンベアに載せ替えるといった作業も可能です。
短時間に大量に流れてくる食品をトレイに詰めていくなどといった作業は、単純作業の繰り返しでありながら正確さと丁寧さが求められるため、作業者にとって非常に過酷な工程でした。
スカラロボットは正確さを維持しながら自動化することできるため、工場の作業者の負担や、人員の削減が可能になります。
スカラロボットは先端にディスペンサーといったツールを取り付けることによって、接着剤やシール材を正確な位置に、短時間で繰り返し注入・塗布することができます。
電子部品にはんだ付けするといった作業も可能です。
はんだ付けはムラがあると動作不良などの原因になってしまい、不良品が発生してしまう場合があります。また、人の手で行うと余分なはんだのふき取りが必要となり、工程が増えてしまうこともあります。
このようなはんだ付け作業をスカラロボットが自動で行うことで、大量に品質の良い製品の製造を可能にします。
圧入とは、所定の位置に部品や製品を押し込む作業のことを指します。搬送に近い工程ですが、押し込む際に一定のトルクが求められます。
スカラロボットは正確で一定のトルクで圧入できることから、他の製品などを傷つけたり、破損させることなく繰り返し圧入することを可能にします。
スカラロボットは、大まかに3つの水平方向に回転する回転軸と、垂直に動く先端部分で構成されています。
スカラロボットの原理を解説してから構造について詳しく説明していきます。
スカラロボットは、水平方向の3つの回転軸の回転によってアーム先端部を柔軟に水平移動させ、先端部の垂直に動く軸によって作業を行います。
正確にアームを動かすためにカメラやセンサーで対象の位置を把握し、その位置に対して予め入力されたプログラム通りにアームを動かし作業を行います。
以前はコンピュータで動作をスカラロボットに教える必要がありましたが、最近は複雑な知識を必要としないダイレクトティーチングといった方法が使えるものも登場しています。
ベースとはスカラロボットを固定するための基礎のような部品で、床とアーム部分をつなぐ役割があります。アームが動作した際に発生する振動などを最小限にするための設計がされています。
回転軸は、アームを回転させるために必要な関節部分のことです。ベースやアームに取り付けられています。
回転軸はアームの動作によって力が加わるため、耐久性が求められる部分でもあり、堅固なつくりになっているものが多いです。
先端部を正確に動かすための部分で、2本のアームが平行に取り付けられており、これらのアームが回転軸の制御されることによって動作します。
短時間で同じ動作を行えるようにするため、軽くて丈夫な素材でできているのが特徴です。
リフトメカニズムとは、アームの先端部に取り付けられた垂直に動く軸のことを言います。回転軸とリフトメカニズムが動作することで、スカラロボットは作業を行います。
エンドエフェクタとは、アーム先端のツールを取り付けるための部分のことです。エンドエフェクタに電動ドライバや吸着パッドなどのツールを取り付けることで、各種の作業に対応させることができます。
スカラロボットには作業を行うための機能だけでなく、より安全で高精度かつ効率化を可能にするための機能がついていることもあります。
協調機能は、複数のスカラロボットを互いに衝突させることなく、同時に動かすことができる機能のことです。
同じ生産ラインでより省スペースの設置が可能になるなど、作業量の多い工程などで活用できる機能です。
スカラロボットには、人間が接触した際に即座に停止するための安全機能がついています。
国の法令で、80W以上の定格出力があるロボットを導入する際には、安全柵を設置するなどの安全措置を取るよう定められています。しかし、人間との接触を感知するような安全カバーが取り付けられている場合は、安全柵の省略が可能なためスカラロボットを導入することで省スペース化が期待できます。
一部の機能を高性能化することで、より特殊な作業に特化したスカラロボットも存在しています。
回転軸モーターの出力を上げ、より高速な動きに対応させたものもあります。
より大量の製品を扱うことができるようになるため、生産ラインの能力向上に役立ちます。
カメラによる位置補正を行うことでより正確な作業を行えるようにしたスカラロボットも存在します。特に、ねじ締めといった精密な位置情報が求められる工程で必要になります。
構造がシンプルでありながら生産ラインの自動化や効率化に欠かせないスカラロボットは、現在も高機能化を続けています。
スカラロボットを導入する際は、用途や設置面積、導入コストなどを他の産業用ロボットを導入した場合とスカラロボットを導入した場合で比較し、検討すると良いでしょう。